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妹…、濃い黒髪なので5番目だろうか。

オドオドしているのが視界の端でチラつく。

集中が切れるな、と思い直し荷物に目を戻す。


「あの…おねーちゃん?」

その声にようやく呼ばれていることに気付く。

晩御飯の時間の通達に来たのだろう。


妹は雁蘭の手元を覗き込んできた。

何も伝えられていないのだろう。

荷造りの様子を見て驚いていた。


「え、どこか行くの?」


素っ頓狂な声に私は顔を向けた。


「あ、うん。そう、宮に行く」

「え〜!良いなぁ、私も!」


脳天気に興奮している妹に羨望の眼差しを向けられる。

案の定、という感じ。私じゃないほうがお互いに良いんじゃ。


「だーめ、私は売られただけだから人を変えちゃ詐欺」

「えー、皇帝さま美しいんでしょう?一目見たいな…」


以前の皇帝は2世代とも醜貌であったとされるが、今の皇帝になって大変美しいと噂されている。

皇帝は、天からの使いとも言われた美女との間に生まれた子供なので、この世の人間じゃないものの血も入っていると噂されている。

老若男女を虜にし、性別の垣根を超えて恋されるその美貌も勿論だが、その噂の大きな原因がある。


瞳の色が2色であるということだ。

上の方が青、下の方が桃色になっている。

あまりの美貌に見た者がたちまち周りに話を触れ回ってしまい、見たこともないのに恋をする人達が後を立たない。

声音も楽器を奏でるように美しく、文武両道、そしげ芸の才にも秀でた非の打ち所がないお方…という噂がある。


実情は誰にも分からない。

何故なら、皇帝と謁見できる人間など一握りだからだ。

賢帝と言われているが、その一方で子供はまだ一人も居らず、実は男色家なのではとも密かに噂されていた。


例に漏れず、妹もその皇帝に魅了される一人なのだ。

食い下がる妹を諌めて、ご飯を食べに居間に向かった。


この子達と居れなくなるのは少し落ち着かないかもしれない。



「明後日からこの子は宮へ行きます。」


相変わらずこの女は人の名前を覚えない。

他の家族もそう思ってるようでだんまりした微妙な空気が流れた。


「あの…雁蘭(からん)です」


私が沈黙を破るように申し出ると、女はまた喋りだす。


「そうだった、雁蘭を見送るために今日は豪華な夕餉になってます。」

「私の大好物のローズマリーティーもあります。」


塩胡椒で味付けされた肉、珍味である魚の卵、そして刺し身。

私達にはそれが置かれた。


これだけでも十分豪華だと思うが、榎禾の元には更に肉料理があと二品ほど置かれている。

そしてさっきこの女も言った、この前買ったのであろうローズマリーティーが置かれている。

味が合うのかも微妙で、何よりあまりにも高級品が多すぎる。


まさかと思い、料理から女に目をやると、服も新しい物に変わっていた。

質のいい瑞雲生地の絹がふんだんに使われており、所々金属装飾が施してある色留袖だった。シフォン生地の領巾(りょうびん)を掛けている。

高い和服で一式まるごと新調してるこの女は危機感というのがないのか。


嫌な予感がしてフンと鼻を鳴らしてみると、予想通り匂いが鼻を掠めた。

上品なシナモン系の香の匂いがした。

以前なかったものの匂いなので、これもまた新調したのだろう。


思わずため息をついて手元の料理に手を付けていく。


肉もしっかりと柔らかくなるように揉んであって美味しい。

魚卵も濃厚でしっかりと甘みがあるので、しっかりと塩抜きされ熟成されてることが分かる。

そして刺し身は生憎食べれないので、匂いを嗅いだ。

昆布の香りがふわっとして少し粘りを感じた。


相当お金がかかっている…。

服も含めて今の収入の2倍位はあると考えられる。


刺し身を隣にいる長男に押し付け、ローズマリーティーを飲んだ。


(やはり、合わない…)


というか…、ローズマリーってこんな感じだっけ?

…いや、コンラディナだ。

これって騙されて買ったってことか。


ごくん、と飲み干して部屋に戻った。

袋から日記を出してさっきのことをメモしていく。


(にしてもあいつ、今日も私の名前を覚えていなかった。)

味が合わないのも気にせず高級品を買っている。

しかし、ローズマリーは実物じゃなく安価な代用品を使っている。

わざわざローズマリーと騙って。

まぁ、間違えただけだとしたらよくある話だ。

この女は召し物も香も新調していた。

香の中身まで日記に書き連ねる。


まさか、ここまで変化があるとは思わなかった。

いつも悪い出来事には悪い出来事が続きがちだ。


こうなるとだいぶ憂鬱になってくる。


でも心配した時に限って杞憂だ。


(私は宮に行くし関係ない)


正義と面倒臭さが心にあり、なんとか面倒臭さが勝った。

対策を考えて最悪の事態に備えれても、今の私には他人を動かし状況を変える力はない。


私は私でできることをやって1人分なんとかしよう。


それに、


(まぁ、おやっさんがなんとかしてくれるだろ。)


でも、おやっさんに言わなければ意味がないとか考えずに眠ることにした。


日記をまた袋に入れた。


手紙を出すなら…と思い出し、買っていた紙も袋にしまった。


こんだけしたら明日なんとかなるだろう。


ならなくても、宮に暇が無い可能性だってある。

色々あったせいで今日は怠惰が強く現れている。


(残りの準備は、朝でいいか…)


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