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「あ、希㐴…。え、誰あの男の人?」


予想外の人物に思わず素っ頓狂な声が漏れていた。

急な私の変化に心底疑問そうな顔の鐘醴さんが首を傾げている。

私は少し遠くに居る希㐴を小さく指差して伝えた。


「あそこで知り合いの希㐴が誰かと一緒に歩いてるなぁ…と思って。」


鐘醴さんから再び希㐴に目を戻して気付いた。

今の希㐴はかなりお洒落していて、隣の男性も兵臚(へいろ)省の重役と思われる体格でそれを長丈の服で覆っていた。

男性はスラックスを履いていて一見フォーマルだが、綿生地のおかげでカジュアルな雰囲気も纏っている。

僅かに着崩しを感じる小洒落た格好からは如何にもな異性との面会を感じさせていた。


「彼は…。」

「兵臚省の人に見えますね。お知り合いですか?」


少し不愉快そうに驚く鐘醴さんの様子を窺ってみる。

ついでに、私の推測があっているかを確かめてみた。


「えぇ、彼は兵臚省の請裂(せいれつ)部門の黄級です。元々は彼が柳の護衛を務めるはずだったんですよ。」

「しかし、当時の釉柳様への性的発言を試みたことを私が摘発しまして…。それで私が護衛をすることになってしまいましたし、彼は大幅な降格をさせられました。」


鐘醴さんとしては兵臚省の会計処理をやっていたかったようだ。

しかし、相手は望んでいた釉柳妃への護衛を奪われた挙げ句、窓際部門の最低級まで降格させられたとなると、鐘醴さんが恨まれてしまうだろう。


「それで、少し気まずいんです…。向こうも此方を見かけたら必ず突っ掛かってきますし。」

「鐘醴さんにも気まずいって感情あるんだ…。」

「は?失礼なことを言いますね、全く。無かったら護衛の仕事も蹴ってましたよ。」


鐘醴さんは顔を歪めていたが、それと同時に何処か活き活きしている様子が見て取れた。

きっと、自分が悪だと思っている存在が身から出た錆で苦しめられている様子を見るのが満更悪くないと思っているのだろう。

こう考えてみると、少し意地の悪く人間味に溢れた悪戯心が表情に見えてきた。


「こっわ…。割とねちっこいんだ…。」

「はぁ、別に毎回突っ掛かってくるのがうざったいだけです。」


私の小さな声を目ざとく聞きつけて弁解する鐘醴さんの声音は少し優しくて驚いた。

彼の様子に鐘醴さんの良心がなにか刺激されているのだろうか…。


「鐘醴さんってちゃんと釉柳様のこと好きですよね。」

「当たり前でしょう?仕えているのですから。」


鐘醴さんの忠誠に対して思わず気が張る。


「いや、そうじゃなくて……こう、物理的な柳の護衛だけでなく、釉柳様自体への強い保護の執着を感じるというか…。」

「ほら、肉体はもちろん精神的にも傷つけた人間を許さないんだろうなー…って。む、無自覚だったとしても徹底機的に潰してきそう、かもー?」


なんとなく居た堪れなくなりしどろもどろに説明する。


「そうですか?それは護衛としての役割ではないのですか?仮に貴方だったとしても誰でもそうします。」


そう言われて1つ、気付いた。

そういえば、彼が性的発言を試みたと言った。

言われた本人が槍玉に上げることが無いのに、試みた程度なのにどうして本人は気付いたのだろう。


「あ、でもー…釉柳様が気付いてなくても絶対先に気づいて行動してそう。」

「あ、性的発言ですか?それは私に対して自慢してきたんですよ。釉柳様の身体を性的だと仄めかす手紙を送ったと。」


あまりにも的確に言い当てられてびっくりした。

私はまた心の声が漏れていたのだろうか。

思わず焦って喉から空気漏れを起こす。


「う?え、あ……」

「貴方は過去の発言から詮索して発言しますから、摘発した情報の信用性を疑ったんだと思ったんです。あと表情に出すぎですよ…。」


またも疑問を見透かされた返事をされる。

全てが筒抜けな恥ずかしさに顔を赤くする私と対称的に、鐘醴さんは呆れていた。


「あなたは心の声が漏れることはないと思いますが、その表情豊かなのは直さないと捜査になりませんね。」


あまりの正論に何も言えない。


「ご尤もです…。」

「…貴方が居ないと調べるの時間がかかったんですから。」


鐘醴さんの小さく零された言葉に耳を疑った。

鐘醴さんは失念していたという顔をしている。


「え!?鐘醴さんが褒めた!?」


思わずびっくりして声が出た。

鐘醴さんがその横で不快そうに顔を歪める。

しかし、不可抗力だ。

その不可抗力で周りの人間の注目が此方に向く。

その注目する人の中に希㐴とそれに連れ立っていた男も居た。

それなのに、鐘醴さんも私も気付かず、私は数秒後にようやく気付いた。

希㐴はもちろん、そこに居た別の知り合いにも驚く。


「え、あ…っと。」


思わず苦笑に近い精気の無い笑いを漏らしてしまう。

妙な居た堪れなさから目を逸らしてもう一度見る。

ふと思い至った、こちら側から突撃してやろうと。

面倒事は嫌だが、どうせ見られたなら同じである。

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