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「さあさ、お入りくださいな。まさか今話題の恋人たちに会えるとは思わなかったよ。」

「こちらつまらない物ですが…。あと何度も言いますが、恋仲ではありません。」

「えぇそうかも知れないけど、最初にそのネタでワシを誘ったのは君だよ。」


鐘醴さんの手土産を受け取ると軽口を叩きあっている。


(なんでそんなバチバチしてるんだ…。)


それにしても、この噂の火付け役は鐘醴さん自身の可能性が出てきてしまった。

思わず軽蔑した視線を向けてしまう。


「お嬢ちゃんは噂で聞くよりも正直な性格なようだね。もっと強かなものかと思っていたよ。」

「噂はあくまで噂ですから。入って初日で宮貴妃に仕えてしまったら変な方向に有名になっても仕方ありません。」


全てが偶然だったのに、周りから見ると計略に見えるという経験はとても貴重だと思う。

あまり嬉しくはなかったが。


「何よりその君の不思議な目も大きいと思いますがね。」

「実際はなんの変哲もない目で、貴方とも皆さんとも変わらないんですが。それこそ貴方のような先を見据えれる目の方が幾分も価値があると思いますよ。」

「お世辞が上手で。」


少し褒めて返してみると、隣で鐘醴さんが驚いた顔をしていた。

そういえば、一度もお世辞を言ったことなかったかも知れない。

あまり覚えていないけど。


「お茶受け取ってくるから待っててな。」


店主さんがそう言って部屋の奥に向かった。

後ろ姿を眺めていると、壁に飾ってある宝石が目に付く。

周りも見てみると、絵画やブローチなどの華やかな装飾が施されている。


「お金持ってるなぁ…。」

「雁蘭さんって意外と目ざといですね。」

「綺麗な宝石だと思いません?」

「盗む気ですか。」

「そんなわけ。」


コソコソと話していると店主さんが戻ってくる。


「どうぞどうぞ、お座りください。これは最近遠くから仕入れたバウムクーヘンというお菓子です。」


お菓子と飲み物が人数分、机に並べられていく。


バウムクーヘンという物は、中心に穴の空いた円状のしっとりとした物珍しい見た目をしている。

紅茶とバニラの香りがして食欲が唆られる。


「食べていいですよ。」


感情が漏れていたのか店主さんに勧められる。

恥ずかしくなり断ったが、鐘醴に「食べたら良いのに…」と言われてしまい、結局食べた。


「それで、鐘醴さん。どんな情報がほしいのですか。」


鐘醴さんが話を切り出したので一度手を止めて耳を傾けた。


「四葩の紫陽妃と明秋(めいしゅう)という侍女についてです。」

「ほぉ、紫陽妃はいま皇帝の子を身籠っているらしい。あと明秋はそれなりに系図の正しかった秋、つまり芳来の血筋の人間だということみたいですよ。」

「あと一つ、明秋は汲徳商館(きゅうとくしょうかん)の人間みたいだ。」


知らない商館の名前が出てきた。


「その汲徳商館というのは?」

「慈善団体を謳って、都に出てきた世間知らずを騙してお金を得ているグループです。」


その情報に少し心当たりがあった。


「宇儂でも居たかも…協力して注射器を運んでくれれば1ヶ月後にお金が入りますみたいなの。」

「そう、それやってた…ってなんでそんな田舎にも?」

「幅広くやってるんじゃないですか?宇州(うしゅう)の中では1番発展してますし。」


そう言ってみて気づいたが、その推測が正しいと汲徳商館は非常に大きい団体だと分かる。


「雁蘭さん、注射器ってなんだったんですか?」

「私が調べた限りだと毒人参の毒性を抽出したようです。」


おそらくの手口と目的を説明して見ると、驚いていた鐘醴さんに止められる。


「えっと、どうして知ってるんですかね。」

「妙なものを信仰するようになった友人が怪しいから調べてほしいと言われたので、注射器をもらって調べました。」


私はあくまで潔白な人間だということを慌てて説明する。

確かに、この言い方だとまるで関係者のように見えてしまう。


「しかし汲徳商館は、なんというか、行動の謎が多いですね。」


鐘醴さんがお手上げだという様子で困惑している。

3人とも考え込んで沈黙が流れたところに、店主が「でも、」と口を挟んだ。


「紫陽妃は汚職があって、1度多額の現金を貰って外国の猛毒魚を輸入していたそうです。」

「紫陽妃が毒を仕入れようとしてるって言いたいんですか?」

「当たらずとも遠からずです。紫陽妃に渡した人間はこの国に毒を入れたいのでしょう。」


全員が納得した様子で頷いた。

鐘醴さんが立ち上がった。


「ありがとうございました。まとめてみます。」 


そう言って、私を連れて店を出た。


「ひとまずは、情報を整理して釉柳様に報告しましょう。」

「あ、そうですね。そういえば、あの人はなんであんなに情報を知っているんですか?」


ふと、疑問に思っていたことを聞いてみると、沈黙が流れる。

鐘醴さんは目を逸らし少しため息を付く。

周りに聞かれてはまずいことなのか、此方に近付いて小声で話し始めた。


「彼は皇帝のところに潜伏してる諜報員から情報を買っているんです。そのお金は外国との交易で貯めているそうです。」


諜報は何処にでもあると思っていたが、皇帝の身にも潜んでいると知ると少し怖かった。

やはり、情報を知っているのは只者ではない。

しかし、思った以上に黒い存在ばかりだ。


「なんか生きづらい…。」

「そうですよ。情報が安易に漏らさないようにしてくださいね。」

「用心します…。」

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