16
「ようやく食べ終わりましたか、行きますよ。」
「はい、分かりました。」
食べ終わり、鐘醴さんが食器を片付けてくれる。
部屋を出て歩いている。
「紕伶緖に行くので外出着に着替えてきてもらっていいですか。」
「なんですか、それ。」
一瞬、沈黙が広がる。
「はぁあ、外に出掛けるときに着る少しお洒落着っぽい服ってありますか。」
服なんて何を持ってきたか覚えてない。
必死に頭を回転させたが、初日用の盛装と部屋用の服しか持ってきていない。
そういえば、初日に着せられた服もあったが、あれも少し豪勢な気がしている。
「雁蘭さん…?」
「多分…ですけど、持ってきてないです。」
「確認していいですか、信じられないんですけど。」
鐘醴さんは深いそうに顔を歪めながらズカズカと私の部屋に入ろうとしてくる。
「多分ですって…!あぁ、なんかシアーシャツ持ってた気が…?」
シアーシャツはショート丈を夏用に持ってきていたのを思い出した。
「とりあえず部屋に入ります。流石に作業用の服は駄目ですので。」
「鐘醴さんは?」
「私は…、護衛とわかったほうが好都合ですので。」
少し悩んでいた状況から後付けだと明確に分かった。
しかし理由にも一理あったので納得することにした。
その間、鐘醴さんは勝手に人のクローゼットを漁っていたようだ。
「あの、0か100かしか無いんですか服の格式。宇儂ってけっこう発展してた気がしたんですけど…。」
「服は大体のもの、置いてきたんです。」
鐘醴さんが困惑した様子で溜め息を吐いた。
それを横目で眺めながら手遊びしてしていると、ふと鐘醴さんの手が止まったのが見えた。
「…とりあえず、女性服ですし釉柳様と壮さんに相談してきます。」
そう言って無言で立つと、そのまま部屋を出ていった。
なんとなくクローゼットに寄って服に目を落とした。
ブラが1つポツンと落ちていた。
これは確かに男性が確認するべきじゃないと納得がいった。
(でも、未成年だし気にしなくてもいいのでは…)
ふと、部屋着のアームレット袖トップスと持ってきていたストレートパンツが、シアーシャツと合わせれるのではと思った。
待っていると、ようやく扉が開いて、釉柳妃が入ってきた。
「逢瀬用の服が必要ですか?鐘醴殿に服を選んでほしいと言われたのですが。」
「逢瀬じゃないです。私も考えたんですが、これでいいと思いませんか。」
買い物を密会と勘違いされたので訂正しながら、さっきの着合わせを見せる。
「良いと思いますよ。鐘醴さんは少し嫌がると思いますけど。」
何故かと質問すると、鐘醴さんは誰かと恋仲だと勘違いされるのが嫌なようだった。
「なるほど、鐘醴さんって意外と乙女なんですね?」
「とりあえず着替えて部屋を出てくださいね。鐘醴さんが待ってますので。」
そう言って、釉柳妃が出ていったので、私も着替えた。
着替えてみて、宮中の人のするには近代的な服装だと気付いた。
しかし、釉柳妃のお墨付きはもう貰ってしまったので、その格好で鐘醴さんの場所に向かう。
自分の部屋を出て、交流室を通って鐘醴さんの部屋の前に着く。
「ようやく来ましたか……え。」
鐘醴さんはこっちに体を向けてそのまま固まった。
(あ、やっぱり意外と乙女なんだ。)
「なんというか…かなり前衛的な露出度の服装のようですね。未成年でしたよね?」
「はい、そうですけど?」
鐘醴さんはしばらく悩む素振りを見せたあと、部屋に戻っていった。
少し困惑しながら待っていると、数分経って鐘醴さんは出てきた。
「雁蘭さん、これを着てください。」
そう言って、ジップパーカーを掛けてきた。
「露出しすぎてると変な人間に絡まれます。柳の人間が絡まれたとなると大騒ぎになるに決まってます。」
「特に、今見た目で話題になっている人間ならば。」
「間抜けな貴方でもわかるように説明すると、柳を背負っている今、軽率な行動は控えるように。」
内心からかっていたので、少し申し訳ない気持ちになる。
相変わらず間抜けと言われるのは遺憾だが。
「分かりました。この格好も駄目なんですか…。」
「は…?当たり前でしょう!」
そう言われて、パーカーのジップを思い切り閉められた。
「ちょ、まだ袖を通していません!」
慌ててそう言うと、ジップを下ろされて開放される。
袖に腕を通して、パーカーの位置を整える。
鐘醴さんの物だからか少し大きくて着づらい。
「だいぶ大きいんだけど…。」
「うるさいですね。貴方が何も持ってこなかったのが悪いんじゃないんですか。」
「そもそもここで働くなんて予測できないんだし仕方無くないですか。」
「だったとしても…!出掛ける用の服は必要でしょう!」
「遊びじゃなくて、最低限の仕事だけしにきたんですけど。」
しばらく言い合っていたが、私の消極的さに鐘醴さんはようやく黙った。
1つため息をついたのが降参の合図だと分かり、誇らしげに頷いた。
「ジップは下げたままでいいですよね。」
「なんかもう、反論する気すら失せます。好きにしてください…。」
そう言って、鐘醴さんは玄関に向かっていったので、敢えてジップを下げてそれに慌てて付いていった。




