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数日前には日記を読んで芳来の地元に行く必要が出た。

その割には侍女のことはよく分かっていない。

あげく頼まれた侍女の情報について、宮に来たばかりで友達も少なく、誰に聞けばいいのかわからない。

そしていつもの仕事もある。

どうすればいいのか悩んで、ひとまず鐘醴さんに聞くことにした。


「知り合いを広げていけば宮内の話も入ってきますか。情報収集のやり方分からなくて…。」

「外を歩いてれば自然に情報は入ってくると思いますけど。あと、私に友達はいない。」


そう吐き捨てる鐘醴さんから目を逸らした。

鐘醴さんは作業を進めたがなんとなく気まずくかった。


「普段ここで仕事するんですよね?」

「種が必要であれば、紕伶緖に買いに行くこともありますね。」


鐘醴さんは手を動かしながら答える。

手慣れてるなぁ、と思いつつ、私は庭の花の次の配置を考えてメモしていた。


「進捗はどうですか?書き終えたら手伝ってもらうんですけど。」

「いやいや、年間の6回分書いてるんですよ。鐘醴さんは庭のデザインも上手いんでしょうが、私には到底まだ終わらせられませんね。」


デザインを考える上ですぐに即決するというのは悪手だと考える私の美学に刃を向けて来られたので、嫌味ったらしく文句をつけた。


「それが雁蘭さんの仕事なのであれば、早急に終わらせられる技量があるんじゃないですか。」

「剪定するともう取り戻せないのに、そんな乱雑な方法を取ってるんですか。」


嫌味を言い合いながら作業していると案外早く時間が経っている。

12時は越えたように思える。


「ふぅ、おわったぁ…!」


何故か、げんなりとした顔の鐘醴さんが立っていた。


「雁蘭さん、貴方結局最後まで呼び掛けてたことに気付きませんでしたね……。」


そう言ってため息をつくと、私を引っ張って、屋敷の中に連れて行った。


「えぇ…?ちょ、ちょっと!何がですか。」


慌てて質問するが、終始無視をされていた。

屋敷の知らない部屋に連れていかれる。


「私だけ食事しに戻ったら、雁蘭さんも連れてくるようにと釉柳様に怒られたので、戻って何度も呼び掛けたんですけどね。」


「貴方…ほんっと、何度呼んでも気付かないんですから!終始無視される人の気持ちわかりますか。」


(この人ずっと怒ってんな…。)


「なんですか、まだなにか作業してましたか。返事が聞こえないんですけど。」

「…すみませんでした。気をつけます。」


気付かなかったのは私が悪いので謝った、のに何故か更に怒られた。


「はぁ!?貴方、わざと無視してたんですか!」

「私、雁蘭さんになにかしましたっけ…?」


されたにはされたと思うが、それは置いておいて無視していたと勘違いされてしまった。

誤解を解こうと、口を開きかけたところで扉が開いた。


「鐘醴殿、独り言は抑えるように何度も…」


釉柳妃がそう言いかけて、こちらに気付いた。


「まぁ、鐘醴殿?女性である雁蘭殿を1人だけで招くとは…」


釉柳妃が少し楽しそうに咎めるのに従って、鐘醴さんの眉間に皺が寄った。


「何か勘違いしてらっしゃるようですが、連れ帰ってこいと仰られたので連れて帰ってきた限りです。」

「第一に、食事部屋も交流室も使えないなら自室しか無いでしょう。だから、わざわざ自室に雁蘭さん用の食事もとってきて保存してたのです。」


「分かってくれますか、釉柳様。」


鐘醴さんが説明し終わると、釉柳妃は少し『しまった』という顔をして去っていった。


「くれぐれもお静かに。声は抑えるように。」


扉が完全に閉まるのを確認すると、鐘醴さんは露骨に疲れた顔をしていた。


「鐘醴さん、態々取っててくれてありがとうございました。」

「早く食べてください。買い物に行きますよ。」


そう言われて、料理を差し出された。


なすの揚げ浸し、砂糖醤油はんぺん、胡瓜魚の揚げ物の3品が置いてある。

やはり、家にいた頃に比べると少し品数は少ない。

しかし、一品あたりは多いみたいだった。


「あ…はい。ありがとうございます。」


慌てて返事をして食事に手を付けた。

冷めているので胡瓜魚があまり美味しくないが、私のせいである。

はんぺんは砂糖醤油の味付けなので冷めても美味しい。


しかし、先程から鐘醴さんにずっと此方を凄まれているので食べづらい。

確かに、私が悪かったとはいえ見られると余計に時間がかかると思った。


居た堪れなさに、早々に食べ終わろうと考え、一気に食べ物を口に突っ込んだ。


「…ぐっ、ゔぅ…。」


盛大に噎せて、ゴホゴホと咳き込むことになった。

情けないことに、痛さで涙が出てくる。


(これも私が悪いです、ハイ。)


今日はもしかしたら運が悪いのかもしれない。


「大丈夫です?水持ってきましたけど。」


(鐘醴さん良い人すぎる!今まで心の中で悪態をついていてすみません。)


思ったより良い人なのかも知れないと感動していると、また咳き込む。


「…飲みます、飲みます。」


コップを受け取って、水を飲もうとすると、コップを取り上げられた。


「間抜け…待ちなさい、学んでくれます?一気に飲むとまた同じ轍を踏みますよ。」

「すみませ、…ゲホッ」

「…分かりました!早く飲んでください!全く…」


呆れられていることを不服に思いつつも、水を飲んで息を整えると随分治ってきた。


「思った何倍も落ち着きがないですね…。」

「失礼な。」


ずっと小馬鹿にされているので文句を言ってやろうと声を上げるとカスカスに掠れた声しか出てこなかった。


「買い物行けるんですかね…?」


鐘醴さんにボソッと呟かれたのが癪に障ったので必死に抵抗する。


「行けます!まだ行けます!」

「無理に声を出さないでください。…行きますから。」


そう言われたので、急がば回れという言葉に従ってゆっくりと着実に、ご飯を食べ進めた。




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