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王都の図書館で貴族名鑑を見た。
エミリアと結婚した侯爵はさすがに亡くなっていた。
侯爵の3回目の結婚は無効となっていた。
エミリアは未婚になった
俺は消息不明となっていた。俺の両親も亡くなっていた。 長兄と次兄も亡くなっていたが、伯爵家を継いだのは次兄の息子だった。
長兄は何があったのだろう。
知りたい気持ちもあるが時間がない。
今日、聖女召喚があるからだ。
「防音の結界と、隠れ身の魔法をかける。魔法陣の上までこのままで行く」
「わかった。 手は繋いだままな。 また同じ場所に行きたい」
「・・・いいけど、前回は手を繋いでなかった」
「それでもだ」
「ん・・・わかった」
2人で手を繋ぎ王宮に入る。
誰も俺達に気付いていないようだ。王宮は50年前と何も変わってないな。前回、召喚が行われた場所へ向かう。
「・・・ここだな」
「うん、魔力を感じる。 サッと入るぞ、通り抜けは出来ないからな」
「ああ。 ・・・! ちょっと待て。後ろから人が来るからそれに合わせて入ろう」
「ん」
豪華なローブを着た偉そうな人と、普通のローブを着た2人が歩いて来る。 あれが今の大司教か。全く知らん奴だな。
「っ!」
「どうした?エミリア」
エミリアが俺の腕にしがみついてきた
「・・・たぶん竜人が近くに来てる」
「っ!、 姿を隠してても見つかるか?」
「目視出来なくても、私がいるのはわかるかも」
「相手に見えないならどうにかなりそうだ。手は離すなよ? とりあえず中に入ろう」
「・・・ん」
3人が中に入った時に合わせて中に入る
魔法陣の周りに王族っぽい人達から、大司教達がいる。
「っ!」
「今度はどうした?」
エミリアの視線の先に目をやると、ローブを着て杖をつき、腰が曲がった婆さんがいた。
「知り合いか?」
って聞いた時には、婆さんは俺達の目の前にいた
「わぁっ!」
「ヒッヒ、 久しぶりじゃの、エミリア。 他の奴は分からないかもしれんが、魔法使いには見破られるぞ? もっと精度を上げろ」
「師匠・・・」
この婆さんがエミリアのお師匠か・・・
「何故ここに来たのじゃ?」
「・・・50年後に転移してしまった。前回は聖女召喚の時だったから今回も聖女召喚に合わせれば元に戻れるかと思って」
「なるほどな。ならば横にいるのはぺぺロール伯爵家の者か?」
「っ! はい、ユリウス・ぺぺロールと申します」
「前回の聖女召喚の時に消えてしまって大騒ぎだったぞ! 聖女と入れ違いになったと皆思ってる。 だから今回は不手際がないようアタシまで呼ばれた。 何もできんのにな、ヒッヒ」
「何故か巻き込まれましたね・・・はは」
「お前の家は長男が両親を殺そうとしたぞ。動機を聞こうとしても言わないから、自白剤をアタシが作らされた。 お前さんを呪ったと言ったが・・・形跡はないな」
「エミリアに解いてもらいました。 兄は両親をなぜ?」
「お前がいなくなって、必死に探したのが気に入らなかったらしい」
「・・・そうでしたか」
「次男が長男を始末した。長男の嫁や子供は実家に帰されたが・・・受け入れてもらえなかったらしいぞ。お前さんの両親はその時は死ななかったが、それが原因で衰弱してしまったな・・・」
「・・・そうですか、ありがとうございます。 家に行く時間はなかったので貴族名鑑で家の事を調べました。 次兄の子が伯爵家を継いでいたので何かあったのだろうと思っていましたが・・・理由を聞けて良かったです」
エミリアがぎゅっと手を握ってくる
心配してくれてるのか?
「はは、大丈夫だ」
空いてる方の手でエミリアの頭をなでる。
「ん。
師匠、 転移先はマーチンだった。そこでギャッツに会った」
「ヒッヒ、 サミュと呼んでやればいい。 元気だったか?」
「うん。 奥さんは亡くなってたけど、クレープ屋をやっていた」
「なんだいそれは。お前の事だから食べ物か?」
「うん、 モチモチしてておいしい」
「ヒッヒ、 何も伝わってこないな、相変わらずだな」
「む・・・あ、それより召喚はいつ? ドアの手前で竜人の気配がした」
「もうすぐだ。 ほれ、魔法陣が光りだした。 お前は竜人から逃げる為に転移したのか」
バッタン!!
ドアが勢いよく開く
「エミリアいるんだろ!!」
記憶にある竜人より年をとった男が現れたが、警備の者に取り押さえられる
「 あっ! おばば! エミリアはどこだ?」
師匠が行けと手で合図する。
「ヒッヒ。止めてやる。これを持っていきな。 説明してる時間はない、自分で調べろ。行け」
「行こう、エミリア」
「うん、師匠ありがとう」
「ヒッヒ、またな」
ぺぺと手を繋いだまま、魔法陣の上で転移する
光りに包まれ、2人は消えた