始まりの章~魔法学校「エルビス」での生活 ユーカ杖をもらう
ここ、アンフィスワールドでの優花は、
魔法学校「エルビス」の生徒だった。
一応、どこかからの転校生ということになっている。
以前の学校が魔法学校だったのか、普通の学校だったのか、
など詳しいことは、ふわっとぼやかしてある。
ここで優花は、
学校と同じ敷地内にある学生寮に住み、そこから登校している。
寮から学校までは歩いても5分。
優花はいつも遅刻ぎりぎりに駆け込んでくる。
教室までの長い廊下を、走っている姿はとてもうれしそうだった。
「あの子、ニコニコ笑いながら走ってて、なんで焦ってないんだろう。遅刻3回で懲罰なのに。
次で3回目だよね」
と周囲は心配しているが、その笑顔の理由をしっているニキアは
タッチの差で間に合わなかった日でも、大目に見てくれていた。
登校初日、つまりここにきて初めての日に、
魔力の測定をしたところ、優花はCランクと判定されていた。
これは初心者にしてはかなり優秀な方らしい。
そして、魔力がCランクになると杖を持てるのだ。
その日の放課後、優花と魔力がAランクと判定されたエヴァに杖の授与が行われることになった。
ニキアが優花とエヴァを杖の店に連れていってくれた。
「さ、この中から好きなのえらんでいいよ。ここにあるのなら、学校からもらえるけど
オプション付けるのと追加料金いるから」
エヴァの前には、身長より高い杖が何本も並べられていた。
ニキアが持っているのもこんな長い杖だ。
一方、優花の前にあったのは、2,30㎝くらいの短い杖だった。
「なんかお箸みたい」
優花は思った。
エヴァが選んでいる長い杖の方がよっぽど立派だ。
「どれにするか、決まった?」
短い杖を眺めていると、ニキアが話しかけてきた。
選ぶも選ばないも、どれも一緒に見える。
「何が違うのかわからない」
優花はすこしだけ不満そうに言った。
「そっか、優花にはまだわからによね」
そう言うと、ニキアは杖を代わる代わる持ってみて、そのうちの1本を優花に渡した。
「これが一番ぴったりだよ」
一応、「ありがとう」と言って受け取り、
疑問に思っていたエヴァの杖の事を聞いてみた。
「なんで、エヴァは長い杖を選んでるの?」
ニキアは他の人に聞かれないように小さな声で、
「魔力がAランクになると、長い杖が持てるんだよ。長い杖の方が扱いが難しいから。
そもそも、魔法使いが杖を使うには、ある程度の魔力が必要。
だから魔力がCランクからしか杖が持てないんだよ」
と教えてくれた。
「あ、そんなことはここの魔法使い、いや普通の人にとっても常識だから」
と付け加えた。
エヴァは長い杖に色々なオプションを付けていた。
杖の先にリボンを付けたり、持ち手を付けたり。
エヴァの両親が長い杖を持てるようになったことに大喜びで
これくらいの追加料金は出してくれるそうだ。
二人が杖を選ぶと、校長室に移動した。
ここで、校長先生から杖を渡してもらえるのだ。
校長室は、優花が最初に連れてこられた応接室の様な部屋に似ていた。
そこに、セイレーン校長がいた。
とても美しい人だった。
いや、あの耳の形、ニキアと同じエルフだった。
二人の生徒と、ニキア、他の先生たちが校長室に入ると、
杖の授与式が始まった。
まずはエヴァ
オプションを施された綺麗な杖だ。
「エヴァ、おめでとう。これからも精進して素晴らしい魔法使いおなりなさい」
そして、魔力Aランクと他の評価を照らし合わせ、
Cランク魔法使いの試験を受けてよい、という判断が下された。
エヴァは眼に涙をためて喜んでいた。
優花になにがこんなに嬉しいんだかわからなかったが、
あとでニキアに聞いてみようと、その場ではすごいね、という顔をしておいた。
そして、優花の番。
エヴァの豪華な杖に比べると、短くて質素な杖が優花に渡された。
セイレーン校長は
「あなたがユーカね。ここにきて間もないのに、もう杖を持てるなんてすばらしいわ」
とほめてくれた。
そして、優花の耳元で
「あなたを選んだのは正解だった」
とつぶやいた。
杖の授与が終わり、校長室を出ようとした時、
セイレーン校長が、
「ユーカの杖はニキアが選んだの?さすがだわ」
とつぶやいた。
その日の夜、ニキアと二人になった時、
「この杖、すごいの?」
と聞いてみた。
「そりゃ、最強だよ。私の眼にくるいはない」
そういうニキア。
「ふーん」と言いながら杖を眺めてみたが、優花にはやはりだたの菜箸にしか見えなかった。
「明日から、杖の出し入れの練習、しようね」
とニキアが言った。
そして自分の杖を、魔法で出して、そしてしまって見せた。
「それにしても、エヴァの杖はゴージャスだったね」
と優花。
「あの子の家、お金持ちだもん」
ニキアが答える。
そこで、優花がまた聞く、
「あの、ここで私が生活するためのお金ってどうなってるの?」
ここに来た時、お小遣いまでもらっているのだ。
「あ、そうだよね、疑問だよね」
ニキアはそう言って、お金について教えてくれた。
ここには今までに何人もの親善交流大使が来ている、
任期をおえると、ここでの記憶は一応、さっくり忘れるような魔法をかけられるのだが、
楽しかった思い出は残っているようで、
そんな思い出をゲームにしたり、小説にしたりする者が多いという。
「優花の世界にはロールプレイングゲームってあるでしょ、魔王を倒したり、
姫を救ったり、魔法使いが活躍したりするやつ」
そんなゲームは元親善交流大使のここでの生活が基になり作られたのだそうだ。
そのゲームや小説の収益の一部が、親善交流大使の生活費に充てられているのだ。
「だから、優花はお金のことはきにしなくていいの。でもエヴァみたいな贅沢はだめだからね」
とニキアは笑っていた。
お金については一安心したが、
任期を終えたら、記憶が消される、それが引っかかった。
ニキアの事も忘れてしまうのだろうか。
優花はそれは嫌だ、と強く思った。
いままで、そんな感情になったことはなかった。
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