表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/73

始まりの章~南病棟、702号室

ニキアと優花は、優花の世界、シャロームにいた。

とある大きな病院の南病棟、702号室。

ここで優花はほとんどの時を過ごす。


あちらの世界での経験はこちらでの生活に影響などでないことにはなっているけど、

このところ優花の体調がいい。


それでも、毎日ほんの数分の散歩がやっとで、

あとはベッドの上でじっとしていた。


体調が安定しているからと、医師たちは一時帰宅の許可を出した。

優花が家に帰れるのは数か月ぶりだ。


お昼から帰宅して、翌日の昼過ぎには戻ってくる。

そういう一時帰宅を何度も繰り返している。


その準備をニキアが手伝った。

「家に帰れてよかったね」

そういうと、優花はあまり表情も変えず、

「明日にはまた戻ってくるし。家にいても寝てるだけだから」

とそっけなく答えた。


それでも、迎えに来た両親と笑顔で車に乗って、家路についた。


優花がいなくなった病室をニキアが掃除のために訪れた。

ベッドサイドのワゴンの引き出しから、ノートがはみ出していた。

そこには、長い髪に笑顔の優花の絵が描かれていた。


魔法学校エルビスで過ごしているときの姿だった。


ニキアの不安がよみがえってきた。

ここでの生活とのギャップ。

優花にとっては酷ではないのか。


この世界で優花の置かれた状況があまりにつらく厳しいものであるか、

ニキアには十分察することができた。


優花が一時帰宅を終え、戻ってきた。

相変わらずあまり表情は変えないけど、すこしだけ安心しているようだった。

帰宅出来てのものなのか、病院に戻ったからなのか、どちらかはわからないけど。


その数日後、優花の体調が悪化した。

前回、そうローカル・テアに交流大使に選ばれた時の様な重篤な状態ではなかったが、

両親が呼ばれた。


処置を受けている間、待合室にいた両親だったが、

ニキアが通りかかった時、何やら言い争いをしていた。


「子供はあの子だけじゃない」

「他の子の事も気にかけてあげないと」

「何度繰り返すの」

「いつまで続くの」


そんなことを優花の母が言い、父がなだめているようだった。


その日の夜、面会時間は終わるころ、

優花の状態はまだ回復していなかったけど、両親は帰っていった。


医師が認めた場合、面会時間が過ぎても親が付き添うことができるのに。


体調が落ち着いてきた優花がニキアに言う。

「お父さんもお母さんも、もううんざりしてるの」


何度も繰り返されているこの状況。


「私には弟と妹がいるの。

今日は二人が通う小学校の発表会の日だったのに。

私のせいで、お父さんとお母さんが見に行けなかった」


「いつもそう。

弟のサッカーの試合も、妹の卒園式も、私のせいで、親が行けなかった」


そういうと優花は手を握りしめた。


「病気の姉のせいで、弟も妹もほったらかしにされてるの。

いつも、いつも。

お母さんたちだって、弟たちのことが可哀想だと思ってる。

私ばかり手間がかかって。

弟たちだって、こんなお姉ちゃん、いらないよね」


ニキアには返す言葉がなかった。

待合室での優花の両親の言い合いを聞いた以上、

「そんなことないよ」

とは言えなかった。


「病気なのは仕方ないって思ってる。

でも家族に迷惑をかけてるのは耐えられない。

どうせあと1年だけど」

と優花。


「あと1年?」

ニキアが聞く。


「私の病気、今まで14歳まで生存した事例がないの。

私この前13歳になったから、あと1年もたたずに死ぬってことだよ」

そういうことか、ニキアは思った。


「あなたの世界で過ごせて、とても楽しいけどなんだか気が引けるな。

弟たちに寂しくて悲しい思いさせてるのに、自分だけ楽しくすごして。」


ニキアはここでの優花とあちらの世界でのユーカとの差が

本人には辛いのではないか、と危惧したけど、

優花の想いは違っていた。


自分だけが楽しんで申し訳ない、そう思っている。


ニキアは優花の病気を根本的に治す術をさぐった。

あっちは魔法が当たり前に使われている世界だ。

病気やけがは魔法で治すのが普通だ。


それをこの世界では使えないことはよくわかっていたけど、

なんとかしたい。


ニキアはこの世界の優花を救いたい。

それだけを考えていた。




応援していただけると感激します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ