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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

星紛いのうた

作者: ハッカ

 それはずっと遠くのまえのいつかからかそこにありました。ひかりも弱く、星々の間に隠れていたので、いつからそこにいたのか、星たちさえ知りませんでした。気付いたらそこにいて、広大な銀河の中心から逸れた片隅のような場所に位置していました。ただ太陽の影になるときだけ、剥きたての葡萄のような色でちろちろとひかっていたのでしたが、それはそのことも知らずにいました。


 それは惑星でも何かの衛星でもなく、ただただぼんやりとしながらそこにいました。それは、ひるまのひかりをためて夜に放つ、衛星もいない紛いものの星紛いでしかありませんでした。誰にも見つからないし、誰も見ようともしません。(知らない見えないものは知ろうとすることさえできません。)天の川のもやに隠れ、銀河の隙間に落っこちた、孤独で孤独な名前もない星紛いでしかありません。そして、それはほんとうに星といえるのでしょうか。この世でひとりきりの、どこにも分類されない、体系の外側の、塵芥にしては手の余る図々しく図体のでかい、存在するだけで手に余る何かです。それはいつからか存在し、その役目を終えるまで、そこにいるしかないのでした。


 それは孤独に対してどれだけ怒りを溜めても、爆発するほどのエネルギーは持ち合わせていませんでした。やり場もなく行き場もなく、堂々巡りで遣る瀬無く、立つ背もなかったのでした。かすかな唄をうたいましたが、それは誰にも届かず、闇を通して自分に返ってくるばかりでした。


 いったいぼくはどうなるんだろう?ここで誰にも届かずうたって、何になるというんだろう。そのうち闇が迫ってきて、吸い寄せられて、そっくり呑み込まれてしまうんだろうか。それを誰が知るというのだろう。僕はこのまま誰にも知られずに消えるのだろうか。


 それにはそれでいいのか悪いのかすらわかりませんでした。自分で爆発も出来ず、唄もうたえず、何もやりようがないことをわかっていたのでした。だた、宇宙には星のかけらの収集家がいるのは知っていたので、自分がもし砕けて塵になったときに、そのコレクションにはなりたくないなと感じていました。星は目が良かったので、そういうことは星を渡り歩く小さな生物、動体がいたのをときどき見かけて知っていたのでした。つるはしで星を砕き、ときには星ごと壊してしまうのを見ていたのでした。


 星は何も持たず孤独を救われてこなかったので、せめてこの星のからだは闇に落ちてもずっと自分が持っていたいと願いました。この空間を解明するサンプルにはなりたくなかったのです。


(僕は僕のものとも言えないのに、誰かのものになるのは嫌だなあ。でも、いっそ僕も砕かれてしまえば、もう何も考えなくて済むのだろうか?僕のかけらは果たして僕だろうか。かけらになっても考え続けなければならないんだろうか。それはほんとうに僕なのだろうか。僕が僕でなくなるのは、一体どんなときだろう。)


 それはいくつもの闇をくぐり凍えた朝方を迎えていたので、だんだんみんなとちがっていくのがわかりました。





 そうしてそれが生まれて100年や1000年が過ぎたころ、迷子の宇宙船が間違えてそれに上陸しました。そこには食べ物は何もありませんでしたが、小さな泉があったので、ひとりいた乗組員は久しぶりに喉を潤し、そして水を汲んで去っていきました。そこが何かも知らないまま。それが生まれて起こったことはそれくらいでした。そしてそれは長い長い気が遠くなるような年月をこれからも過ごしていくのでした。この先のことは誰も知りません、知り得ようもないことでした。



(あの水はあの生き物を生かしたのだろうか。また湧くかわからない水をたくさん持っていかれてさみしいけど、それがあの生き物を生かすなら、仕方がないのかなあ。ああ、あの生き物は僕の地表に触れて、いい土だなと言ったっけ。そんなことは言われたことがなかったな。どうせなら、石のひとつでも持っていってほしかったな。あの生き物になら、小石のひとつぐらい持っていかれてもよかったかなぁ。)



 そして星が滅びたころ、小さな生き物はその星を探してあたりをぐるりと通過しましたが、もう星がいた痕跡もなにも、残っていないのでした。


 生き物は地質学者で、いきるのに必死で見逃していましたが、それが他で見たことない土だったので調べにきたのでした。


 しかしそれだったものは、全く別の星のようになり、その星のようなものもも以前のようではくなっていました。唄うことも無くなっていました。長い長い悩みが積もって、少しずつできてきた火山の小さな噴火に呑み込まれて消えていました。


「おかしいなあこのあたりのはずだったのに。よくわからない、上陸できる物体があるだけだ。」


 星になりたくて星になれなかったそれはもう黒い物体になってしまったのでした。


 生き物はその溶岩をすこし砕いて持ち帰りました。


 それだったものは唄うことも無くなっていました。それだったものは小さな生物の存在にかろうじて気付きましたが、もう自分がかつてのようないい土を持った何かではないと知っていたので、何も合図を送らず唄うこともせず、そのうちに意識を手放してしまいました。そうして、それは夜にすら光らなくなってしまいました。



 そしてその後再びやってきたときにはそれには隕石がぶつかっており、こなごなに砕け散っていたので、小さな生き物はそのあたりにあった砕けた星のかけらをみて、なんだかあのときの星紛いみたいな土だなぁと思いながら持ち帰ったのでした。

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