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第6話

「…な、何を、言って……?」


「セーモ、貴方の事業に対する才能と技量は凡人と言えます。それはつまり、何も問題がないのです。貴方に仕事を任せる事に不安なんて感じた事などなかった。」


 怒り狂っていたセーモだが、ダリアの思わぬ言葉に勢いを失う。「凡人」と言われたが、セーモを馬鹿にしているのではなく評価しているように聞こえたからだ。ダリアはそんなセーモを、相変わらず冷静な表情で見る。


「前に貴方は、私に愛想がないと言いましたよね。ええ、その通りです。私は社交場での振る舞い、立ち回りは身に付けました。けれど、愛らしさや華やかさは持てなかった……もし私に事業をこなす才能がなければ、私にメデリア公爵家を継がせなかったでしょう。」


 ダリアの容姿は美しい部類に入る。しかし、特別秀でている訳ではない。ダリアは良くも悪くも冷静な性格で、表情は乏しい方だ。ダリアが社交場で注目されるのは、公女という地位と事業を担う才能によるものだ。ちなみにゼーリア・モアはダリアとは真逆で、人目を引きつける秀でた容姿と愛らしさがあったが、立ち振る舞いや常識はあり得ないものであった…。


「セーモ、貴方には私にはない華やかさがあった。人目を引き付ける容姿…それは事業における貴重な武器です。私がどんなに努力しても、貴方に及ぶ事は今後もないでしょう。」


 容姿を褒められる事なんて、セーモにとっては当たり前の事であった。セーモ自身も己の容姿の良さは自覚している。でも、それをキュリテ伯爵達が評価した事はなく、今まで生きてきた中で役に立つものだと思えた事はなかった。


「人を魅了するというのは、商売においてもとても重要なのは知ってますわよね。薬品でいえば美容効果のある物への宣伝としての効果があります。貴方は事業に対する能力も備わっていて、私にはない華やかさを持っていた。だから、私は貴方をパートナーとして求めました。つまり、貴方という個人を愛していた訳ではありません。」


 ダリアにとって、セーモは理想的なパートナー…政略的な結婚相手だった。そして、キュリテ伯爵家で兄と比較されて辛い思いをしていたセーモにとっても同じだった。自分よりも遥かに上の地位を持つ公爵家の一員になれるダリアとの結婚に、迷う事などなかった。お互いに欲しかった者を得られたのだから上手くいくと思っていた。けれど…


「暫くして、貴方は自分の業務を私に押し付けるようになりましたね。」


「っ………。」


 セーモは自分の計画よりも、より良い物を考えて行動するダリアに嫉妬した。ダリアの意図を知らなかったセーモは、自分の事を好きなクセに構おうとしないダリアに腹が立った。段々と自分が惨めに思えて、ダリアを憎いと思うようになった……そんなある日、ゼーリアと出逢った。


「何も言わない貴方に腹も立ちましたが、それも適材適所という考えとして悪くないと思ったのです。業務に関しては私が、社交界での売込みやアピールは貴方が主体となるのも悪くない。貴方の容姿と社交性は、それだけの価値があったのです…私にとっては。」


「…ダ、ダリア「ですが、」」


 セーモは無意識に、ダリアに手を伸ばそうとした。しかし、ダリアの低い声にピタッと動きを止めた。


「貴方はモア令嬢と関係を持った…薬品を扱うにはクリーンな、清楚なイメージがとても重要であると言うのに……愛人を作るなんて、ね。」


 貴族の中で愛人を持つ者は珍しくはないが、褒められることでは無い。そして、医療や薬品を取り扱う者達が愛人を持ったり不倫などしようものならば…その評判は一気に下がるだろう。メデリア公爵家の取り扱う薬品は幅広く、拷問や媚薬のような公には出せない物はいいとしても、公の場に出せる物の売上に影響が出るのは当然の事だ。そして、公爵家の評判も落とす事になる。


「…愛する人が出来てしまうのは仕方がないかもしれません。ですが貴方は離婚に応じず、私に面倒事を押し付けて利用しようとしましたね………どこまで私を、メデリア公爵家を馬鹿にするつもりだクソ男がっ…!」


「っ…、」

 

 ダリアから殺気にも近い、怒りの声が発せられてセーモは後ずさる。


「……貴方は、公爵の地位を手に出来れば、キュリテ伯爵家より上の立場を手に入れられれば満足だったのでは? 貴方だって、私を愛していた訳では無いでしょうに。」


「…そ、それは……。」


「貴方の行動は全て、メデリア公爵家の事業を陥れる行為でしか無かった。貴方が私に対して何を思っているかなんてどうでもいい。今の私が貴方に見出している価値は、“被験体である事”だけです。私生活を通して、間近でその様子を観察できる被験体なんてとても貴重ですからね。」

 

 セーモの顔は血の気を失って青くなっていく…。


「…最後にもう一度お伝えします。離婚しないのであれば、今後も被験体になって頂きます。業務が覚えられない、モア令嬢との関係…貴方の個人的な理由に気遣うつもりはありません。あぁ…でも、」


 ダリアはセーモに近づき、怯えた様子のセーモを見上げた。


「私を軽んじて、利用しようとした貴方がモア令嬢に振られたのが本当ならば…良い気味だと思いますわ。」


 ダリアは悪意に満ちた薄ら笑いを浮かべた。










 

 

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