春を愛する人
神戸といえば、イチローだ。オリックスだ。加奈は、野球を観に行こうと、言う。そうだな。イチローを観てみたい。俺達はラブホテルの精算を済ませ、グリーンスタジアム神戸へと向かった。今度は俺が運転だ。でも、何か俺の中で、不甲斐ないものを感じていたんだ。こんなに幸せなのに、すべて、失うような気がして。何、言ってる。旅が終われば、また、ギタリスト、ヴォーカリスト、コンビニの仕事だろう。そりゃ、加奈と結婚したいよ。イイ女だし、わがままジュリエットだ。AB型のきれいな六つ年上の銀行員。俺は、いきなり、加奈にキスをした。
「ありがとう」
と加奈は煙草に火を点けた。野球場か。オリックス対ロッテ。球場の駐車場に車を停める。加奈は嬉しそうに売店でビールとポップコーンを買った。イチローだ。凄い人なんだな。野球に詳しくない俺でも知ってる。外野席に座る。関西だねぇ。如何にも。試合開始。外野に目をやる。イチローと目が合った。こんなこと、よくあることだ。そして、イチローのレーザービームで三塁ランナーアウト。良かった良かった。加奈は嬉しそうだ。でも、いきなり、言った。
「琢磨さ、ちょっと気分悪いから、ごめん、帰ろうか。ホテルへ」
「ああ、大丈夫か」
「ちょっと横になれば、すぐ治ると思うから。ごめんね」
俺は加奈を支えて、車に戻った。どうしたんだろう。加奈。俺は助手席に加奈を乗せて、大阪へと戻る。加奈は眠ってしまった。波乱はやはり、波乱か。俺は、大阪場近くの夜間救急センターへと車を飛ばした。加奈に何かあったら。シャレにならん。加奈の保険証を見せて、加奈は四人の看護師に運ばれる。血圧、検温。聴診器。加奈は、医者に、「大丈夫ですから」と告げる。医者は、俺に言った。
「ちょっと疲れたんやね。それで、お腹壊しただけ。心配ないわ。ホテルでゆっくり休んでな」
良かった。加奈の疲れか。そりゃなぁ。大人になるってどういうこと。加奈とキスをして、俺達はゆっくりと、ホテルへと帰った。
「琢磨。もう、言うよ」
「何を」
「ごめんなさい。私、嘘吐いてた。私ね、銀行員じゃないんだ」
「え、それで」
「私、AV女優なの。ほんと、嘘吐いてて、ごめんなさい。こんな女、嫌でしょ。そりゃ、私だって知らない男や女同士でSEXなんてしたくないよ。でも、私、食っていかなきゃ駄目だから、この業界に入ったの。琢磨。色々、言われるよ。仲間とかお父さん、お母さんに。ほんと、ごめんね。こんな私で」
AV女優。でもいいよ。こんな、俺のことを理解してくれる、いい女、他にはいない。
「いいよ。AV女優でも。俺は加奈が好きなんだから。加奈の事が好きなんだから。今までと何も変わらないよ。素直に言ってくれて、ありがとう」
「いいの」
「いいよ。この旅が終わったら、籍入れよう。俺には加奈が必要なんだ。一生大事にする。約束する」
「ありがとう。琢磨」
加奈も俺も涙を流した。この人と結婚出来るだなんて。俺達は抱き合いながら、眠った。加奈だけはなくさない。なくしたくないんだ。




