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彼女の物語  作者: ぬえさん
9/11

アニメの話

幅広い世代に使われるようになった動画サイトを見ながら、雨宿りをしていた。


おもしろそうだなと思うものもなく、画面をスクロールするだけ。


なんとなく、アニメの動画が多い気がする。


「へえ、何のアニメ?」


顔を上げると、ビニール傘をさしているお兄さんが目の前にいた。


「最近、人気のアニメ」


「ふーん、彼女ちゃんもアニメ見るんだね」


「見るよ。お兄さんは?」


「お兄さんも見るよ」


そんな風に話しながら、お兄さんは傘を閉じ、私の隣に来て、スマホの画面をのぞく。


「今季のアニメはおもしろいのが多いよね」


「そうだね……」


お兄さんのその言葉を聞いて、画面に出ているアニメを少し見る。


「……あんまりこういう話好きじゃない?」


さっき、感情のない返事をしたせいだろうか。お兄さんはちょっと申し訳なさそうな顔をしていた。


「いや、そういうわけじゃないんだけど……」


僕はその後の言葉を濁す。


何て言ったらいいのか分からない。


そういうわけではなかった。


言って、それを否定されるのが怖いだけだ。



お兄さんの顔を見る。



特に何も考えてなさそうな顔だった。


「まあ、お兄さんには言ってもいいか……」


「何も考えてなさそうだから?」


そうと答えると、当たりとお兄さんは笑った。


「最近の有名なアニメって怖い……というか、人が簡単に死ぬから……」


「感情移入しちゃって辛くなっちゃう?」


「うん。……ん-? ちょっと違うかも」


何も考えずに"うん"と言ってしまったけど、よく思考を巡らせてみると、違う気がする。


確かに辛いものは辛いんだけど、オイラが見たくない理由は辛いからではないと思った。


「なんて言うんだろう……。うーん、死って辛いもので、自分の友達とか、家族とかが死んじゃったら、悲しいもので……」


「うん」


「一生離れてくれない悲しみで、何だろう……」


上手く言葉がでてこない。



しばらくの間があった。


お兄さんは何も言わなかった。


私が言う準備をするのを待ってくれてるのだ。


物語の流れのように現実の世界にも言葉の話す流れがある。


僕が今から言おうとしていることにはしばらくの間が必要だった。



雨の音だけが静かに響く。


灰色の雲に覆われた空、世界はいつもより少し薄暗かった。



「人が簡単に死んでしまうのを見て、死ってそんなに軽いものだっけって思っちゃって」


深呼吸でゆっくりと息を吐くように、自分の思いをゆっくりと吐き出す。


「生きていて、その人が生きていた人生は確実にあったものなのに、死んだ瞬間なにもかもなくなってしまっているようなのが怖い」


屋根から雨の雫が落ちて、一瞬でなくなってしまう。

あったはずなのに、すぐになくなってしまう。


「人が死ぬのを見て、その死の軽さに慣れてしまうのが怖い」


肩がストンと落ちる。


お兄さんは何も言わずに聞いていてくれた。


「だから、ちょっとだけ、見ていると不安になるんだよね」


お兄さんの顔を見る。


「それだけ」


お兄さんは微笑んで、たった一言、こう言った。


「そっか」



空を見上げる。


雨は止みそうになかった。



お兄さんが持っていたビニール傘を広げる。


「帰ろうか」


「うん」


お兄さんの傘はオイラが入っても平気なくらい、大きかった。








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