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彼女の物語  作者: ぬえさん
8/11

壊れたバケツからの水の流し方

 夢の中で夢だと気づく夢を明晰夢というらしい。私は今、明晰夢を見ているんだと思う。


夢の中で、僕は絵の具のバケツを持っていた。一度壊れてしまったのを無理やり直したようなバケツ。その中にはほんの少しだけ濁った水が入っていた。


夢と気づいたとしても、どうやら自由に動けるわけではないらしい。オイラは何故かそのバケツを持ったまま立ち尽くしていた。


少しだけ濁った水を流したいのに、どうやって流せばいいのか分からない。そんなことが分からないのかと思われるかもしれないけど、何故か分からなかった。


バケツの中に入っている水を流したい。そう聞くと、洗面台か何かに流すのかと思うだろうが、そのバケツと、このバケツは少し違う感じがする。見た目的にはそうすればいいんだろうけど、根本的な何かが違う気がした。


結局どうすればいいか分からないまま、時間が過ぎていく。バケツの中の水はどんどんと、どす黒くなっていって、たまに沸騰したり、氷が張ったりした。黒くなっていくごとに早く流さないと、という気持ちが積もっていく。下手に扱ったら、自滅するのだけは何故かわかっていた。だけど、どうすれば、いいのか分からない。八方塞がりだった。ただただ、焦るばかり。


 そんな時、後ろからヒョッと手が伸びてきた。


誰だろう。


後ろを向くと、そこにはお兄さんがいた。お兄さんは何も言わずに私の手に自分の手を添えて、バケツを傾ける。


ジャバジャバーと水があっさりと流れ落ちていった。


「またなったら、今度は早めに教えてね」


その言葉を残してお兄さんはいなくなってしまった。


急に現れていなくなるのはいつものことだ。ただ、またねぐらいは言わせてくれてもいいと思う。そんなことを思ってもこれは夢なのだ。仕方がない。文句を言うなら、現実で言おう。


うんうん、と自分が頷いているような気がした。


 新しい水を入れよう。何となくそう思ったので、水を入れることにした。新しい水の入れ方は分かっていたおかげで、特に何も困ることはなく、新しい水を入れられる。どす黒い水を見ていたせいか、新しい水がやけに透明に見えた。


 バケツに入った透明な水の光景を最後に夢から覚める。変な夢だったなと一番始めに思った。夢が変なのは当たり前かもしれない。その変なものの中に出たことを真に受けるのもおかしいかもしれないけど、お兄さんの言葉は素直に聞いておこうと思った。


 あの水は流さないとどうなっていたんだろう。僕はお兄さんのおかげで流すことが出来た。だけど、オイラと同じように流し方が分からなくて、お兄さんみたいに流すのを手伝ってくれる人がいない子は、どうしたらいいんだろう。もし、私にお兄さんがいなかったら、どうしたらよかったんだろう。


 答えは出なかった。そうならない限り、答えを見つけれる立場に立てないのかもしれない。


 お兄さんと出会った僕にはもう一生無理かもしれない。そんな自分が情けなく感じた。

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