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彼女の物語  作者: ぬえさん
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+と-

 夏だ。色んなところで34度とか36度とか言って、色々大変なことをしてる夏だ。


外は暑かった。音楽も電子機械を通った話し声も、聞こえない。聞かせようとする音は何も聞こえなかった。何だか新鮮な気分を感じている。


そんな世界の外で一番に耳に入ってくるのは蝉の声だった。


ジィジィ、ミンミン。


うるさいなぁ、そう思いながらも嫌だとは思わなかった。うるさいなぁ、というより、耳につくなぁ、と言う方が合っているのかもしれない。ちょっと違う気もするけど。


 体から逃げてきた水のしずくが服の中にある体の表面をつつつっと伝って落ちていく。顔にはべとびたと汗が溢れ出ていた。


不快極まりないだろう。


だけど、その不快感をなくしたいという気持ちより、私は目の前にある枯れかけのヒマワリを見ていたいと思っていた。


 そろそろやめよう、そんなことを考える。


その時、太陽の光を直接感じないようになった。


 傘だ。


何となく、右にいると思った人物の服を手で掴む。



「何してるの、彼女ちゃん」



元気のない、ふにゃふにゃな声が聞こえてきた。



「呆れてる?」



なんか違うな。


「なんか違うな」


「うん、違う……」


「あー、暑いからか」


「そうだよ。暑いから」



言葉にした瞬間、急に暑さを感じて、うっと来る。


掴んでいたお兄さんの服をパッと離した。


なんで僕はこんな中、立っていられたのかな。



「暑い……」


「暑いね……。どうしたの、彼女ちゃん」



 どうしたの、その言葉を聞いて、オイラはまた、枯れかけのヒマワリを見る。



「さあ……、どうしたんでしょうか」



すっとぼけたことを言ってしまった。


違うんです、と心の中で言い訳をする。


お兄さんは心を読んでくれたのだろうか。分からないけど、頭にコンッと冷たいペットボトルをあてられた。



 パキャッ、カリャカリャカリャ……。


プラスチックの蓋とプラスチックの口が当たる音と飲み物が地面にぶつかる音がする。


 中身が半分になったアキュレリアスが差し出された。


それを受け取って、何口か飲む。中身が減っているはずなのに、ずっしりと重く感じた。


 お兄さんにアキュレリアスを返しながら、話し始める。



「人には良いところってあるじゃないですか」


「あるね」


「それと一緒に悪いところもあるじゃないですか」



 ここまで言って、自分の言いたいことが言葉に上手くできないことに気づいた。


言いたいことはある。だけど、それを伝えるための言葉を私が見つけられなかった。



「なんかなぁ、って思って」



結局、こんな曖昧な言葉を言ってしまう。


なんかなぁ、じゃないのに。



 蝉の合唱に木々の葉が風に揺れるザワザワという声が加わる。


お兄さんの日傘のおかげで、背の高いヒマワリを見ていても、まぶしくなかった。



「……。……どうして、このヒマワリを見てるの?」



命枯れ尽きた花弁がスッとヒマワリから消えていく。



「似てるから」



どうしようもなく、僕の心を締め付けていた。



「人の良いところが枯れていく。悪いところとして、どんどんと、どんどんと」



しわくちゃなヒマワリのみすぼらしい姿。何もしなくてもきっと、さらにみすぼらしくなっていく。



「そんなこと、あってほしくなかったのに」



 ああ、こんなはずではなかった。こんなものではなかった。こんなものではないのだよ。


心がそう嘆いている。



「その様がこのヒマワリと似ていたから、目を離せなかった。悲しくて、辛くて、苦しくて……」



紫外線に随分とやられてしまったのか、じんわりとした痛みを感じた目をしかめながら閉じて開ける。



「違うんだよって言いたかった」


「違うんだよって言いたいんだね」



自分以外の誰かに、そう言いたかった。本当は素晴らしいんだって。



 沈黙。夏の暑さをまた、感じる。


オイラはお兄さんの手にあるアキュレリアスを取って、自分の手にかけた。


同時に、自分の足元にある土がそれを吸って、じんわりと濃い茶色になっていく。



 そこで一つひらめいた。



「お兄さん、知ってる?」



親に学校でならったちしきを自慢する子どものようだと、自分の声を客観的に聞いてそう思う。



「ん~? 何を?」



それでもお兄さんは返してくれる。私も、そう信じていた。



「お兄さん、ヒマワリって、大事なものに顔を向けるんだよ」



そう言って、僕はヒマワリの顔を指差す。



「生がひときしり輝いている時は、太陽を」

「生が朽ちようとしている時は、地面を」



ちょっとおおげさに、だけどやっぱり恥ずかしくてひかえめに。オイラは身振り手振りをしながら語る。



「その地面には何があると思う?」



地面を見つめてしゃがんでみようかと思ったけど、そこまでは出来なかった。



お兄さんは、あごに手を添えて、ふむと考えを巡らせる。唸る。 頭を回す。


しばらくして、……と分からないな、というポーズを取った。


 それをふふっと笑いながら、私は答える。



「この地面には、種があるんだよ」



はんば、投げやりに、力なくヒマワリの根元に指先を向けて。



「この種は、このヒマワリにとって、とても大切なものなんだ」



目をつぶる。視界にはほのぐらい暗さが映っていた。それをたよりに自分をまっくらな思考の湖にしずめこむ。



「だけど種は、何もなしでは芽を出さない」



だけど口先は現実世界に置いておいて。



「栄養のある土、水、……ほかになんかいいこと。全部、全部必要なんだ」



心の中でほかになんかいいことってなんだとツッコミながら。


空気のかたまりを口に含んで、たいせつに、次のことばをつむぐ。



「じっと、じっと、待っている。僕は、その芽がもう一度咲くのを、待っているんだ」



夏の熱にすっかりうかされた手を握りしめて、確信を持って言う。



「きっと、それはとてもきれいだろうから」



目を開く。上を向く。そこには枯れかけたヒマワリが懸命に咲いていた。


 悲しい姿。だけど、やっぱり美しい。


紫外線から少し休ませた目が目を守ろうとうるんでいた。



「また、見に来よう」



お兄さんは言う。



「とてもきれいなヒマワリが咲いていることを願って」



いい笑顔だった。





「……暑いね」



お兄さんが首にかけているタオルで汗をぬぐう。



「そうだね……。どっかクーラーのある場所に 」



一瞬の浮遊感。


心臓がすくい上げられるような感覚とともに、右手はびっくりするはやさでお兄さんの服をつかんでいた。


これを分かっていたからか、オイラの体はここから動かなかったのかもしれない。私は自分の体と本能に感心した。



「……歩けないかも」



一歩踏み出して、立っていられる自信がなかった。



お兄さんの方を見ると、はああ? という気持ちと分かっていたよ、という気持ちが入り混じった表情をしている。


僕の心も、そんなお兄さんの顔への笑いと、自分の体への心配が入り混じっていた。

半ば


ずっとはんばって読んでました。

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