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彼女の物語  作者: ぬえさん
10/11

寝ころべる道路探し

夜の道路に寝そべってみたい。


その感触はどんなものなんだろう。



そう思って、夕方の外へと足を踏み出す。


夕日の優しい色を含んだ風が木々を揺らしていた。


夕方、まだ生きている音がたくさん聞こえる。



この時間だとまだみんな動いているか。



少し残念に思いながら、すぐにすっぽ抜けてしまいそうなクロックスで地面を踏む。



住宅街の道路に出る。


だいだい色が真っ黒なコンクリートを濡らしていた。


生きている音におびえながら、静かにクロックスをぬぐ。



「あちっ」



夏も終わりを迎えてくれと思う(つき)にさしかかったのにまだ夏はこの場にとどまりたいと思っているらしい。


思っているより熱かった道路を足の裏で感じながら、思った。



ジクジクと石のゴツゴツが痛みをあたえてくる。


痛いと思いながら、寝てもこんな風に痛いだけかなと想像をふくらませる。



——○○



心臓がまずいとひゅっと飛び上がったのか飛び上がっていないかよく分からない嫌な感じがした。


声のした方を向くとボール遊びか何かをしている人影が見える。


ばれてないよなと思いながらそそくさとクロックスをはき直す。


足に付いた小さな石がクロックスの中で少しだけ暴れた。



ちゃんと周りを見てみると、けっこう人が各々の家の近くで何かをしている。


あわよくばこのまま寝ころべるかもと思っていた自分がほんの少しのふふくと恥心(はじしん)を覚えていた。



どこか人の迷惑にならない寝ころべる道路はないものか。


そうして、誰かにあふれた外を歩き出す。



こういう何気ない外歩きには、いつもお兄さんを呼ぶはずだった。


だけど、今回は呼ばなかった。


呼べなかった。


呼ぶ気にならなかった。


呼んでもどうしたらいいか分からなかった。


呼んで、声が出せるか分からなかった。



声を出したくても、出そうとしても、声を出す前に喉元で引っかけてしまうと分かっていたから、呼べなかった、呼ばなかった。



本当は呼びたかったけど。



歩きながら、イマジナリーお兄さんと会話をする。



 今日はどうして道路に寝ころびたいと思ったの?


 寝ころびたいと思ったから

  それはそうなんだけど、違うじゃん


    頭を振る。


 それはそうなんだけど違くて、あの……



横を見れば、いつも通り変わらない微笑んだ姿で私の次の言葉を待つ姿のお兄さんがいるはずだ。


そう思って、実際に横を見てもお兄さんはいないのだけども。


リアルの風景をもやにして消してしまって、会話を続ける。



 自分の考えてることって思っていたよりも他の人と違っていて。僕って変なんだって再確認してしまったというか


 うん


 自分が変だっていうことは知っていたつもりなんだけど、思っていたより周りと違っていてショックを受けてしまったというか

 

 うん



心がきゅっとしてくる。


それが嫌かと言われると ? と思うが、嫌ではないかと言われるとそれも ? だった。


でも、きっと必要な心の動きだと思う。



 違っていたらダメなの?


 ダメとかそういうのはないんだけど……


 自分が思っていることと周りが思っていることが違くて、それで……周りを傷つけていた気が? 周りとぶつかってしまっている気がして……

  それもそうなんだけど、怖かったのはそれじゃなくて


 うん


 うーん……、そうじゃなくて……。怖かったのは……、違うオイラを見て「うわっ」って顔をする他の人で


 うん


 それで、違っていたらダメなんてそんなことないはずなのに、違ったらダメなんだって思っちゃって


    チラリとお兄さんを見る。


    金色の瞳におれんじの夕日が反射していてきれいだった。


 だから、その違っていてもダメじゃないって考えも、他のすべての私がこれを大事にして生きていきたいと思ったことすべてが他の人と違うんじゃないかって思ってしまって


 うん


 怖かった、辛かった、痛かった、


    一度深く息を吸ってはく。



心のどこかがじんわりとした。


周りをキョロキョロと気にしながら、もう一度クロックスをぬぐ。


道路の熱さと痛さを感じながら、家の間を歩き始める。


得意げな? 子どもの頃のいたずら心みたいなもの? なにかは分からないけど、どこか心が浮くか上がっているかしている気がした。



 だから、たぶん、なんて言うんだろう。それに反抗して? それになんかもやもやして、どうにかしたくて、かな? 誰もいない……夜なら車にも轢かれないようにできるし、誰もいない、だろうし……そんな道路で寝ころがって堂々と変な、周りから見たら「うわっ」って思われるようなことをしたくて


 うん


 それで、まあ、ほんとにできるかもするかも分からないから、寝ころがった感触を想像するために道路をはだしで歩こうと外に出てきたの


    お兄さんはうなずくようにゆっくりとまぶたを閉じて


 そっか


    といった。


    この人は瞳だけでなく、所作までも綺麗だな。

    と、そんな感想をいだきながら、喉からせり上がった言葉をこぼしてしまった。


 でもさ



そう心の中で一言つぶやいたのとどうじにガサッという音がどこからか聞こえる。


他の人には見えない体の中で心がはねた。


すぐさまなんともないようにクロックスをはく。


自分がフシンに思われてないか辺りを見回す。


幸いこっちを見ている人はいなかった。



いまだにぴょんぴょんと飛んでいる心を落ち着かせる。


しんこきゅうと気づかれないしんこきゅうをして、何事もなかったようにまた歩を進めるのだ。



結局は周りの目を気にしてばっか


    お兄さんは何も言わなかった。


 「僕は変です。」って堂々とする勇気を持てない人間だった



それならせめて、誰もいない場所で堂々と変でいさせてくれよ

間違っていてもなんにもならない世界にいさせてよ


クロックスをはいて、近所を散歩するただの人にまぎれて変人は変人であれる場所を探している。


それはきっと、この世に誰もいない場所。人が人である痕跡が大量にある、今見ている景色がそのままありながらも、人は誰もいない場所。



 それが、寝ころべる道路



クロックスをぬいで、手に持つ。


誰にもわかることのないオイラのささやかな反抗だった。


新しいコンクリートでそこまで痛くない一本道路を歩く。


真横を一台の車が通り過ぎて行った。



今、私が寝ころんでいたら。



夢見がちな馬鹿は大の字にのびたうでと足のちょっとだけタイヤの下になって、他は車の下を通り過ぎていくと考えていた。


現実では、轢かれる前に車が止まってどなられるか、轢かれて手と足がだいさんじになるんだろうな。



目の前にちょうどあらわれた曲がり角を曲がる。


見てるか分からない車さえも、僕は怖がっていた。



家が立ち並ぶ住宅街。


あちらもこちらもから誰かの目が見える。


それにおしだされるようにクロックスをはく。



 お兄さん、知ってる? オイラ、すごく弱いんだよ


 ……知ってるよ。だからお兄さんはここにいるんじゃないか



こことはどこだろう。


私の横のことをさしているのか、それとも私の頭の中のことをさしているのか。



    お兄さんはただただ、いつものように優しく笑っていた。



誰のどこに言われたわけでもない、寝ころべる道路探し。


変人たちの夢の場所を求めて、僕、僕たちは現実を歩く。


だけど、だけど。



 でもそんな場所(道路)なんてなかった



左を見れば、男の人が。


右を見れば、女の人が。


前を見れば、学生が。



声が、音が、聞こえる。


誰かが生きている音が聞こえる。



どこに行ったって、誰かが生きている。



心が折れたような音がした。



    お兄さんにも聞こえただろうか。


    気づかれないようにお兄さんの顔を見る。


    お兄さんはオイラの顔を見ていて、やれやれという言葉を顔にはって、手を差し出してくれた。


    私はなにも言わずその手をにぎった。



握ったように指をてのひらに丸めた。


家に帰る。


出て歩いてきたよりも、ずっと、ずっと早足で、軽い足で。



なんでなんだよ


心で僕がぼやいていた。


泣くとはいかなくても、少しは目になみだが出るくらいには泣きたかったけど、目の貯水タンクからはぴちょりともなみだの水は出なかった。



家の扉に着く。


ポケットに入れておいた鍵でとびらを開ける。


夕方のきれいな空気になごりおしさを感じながら、玄関とびらを閉めた。



さすがにこの足で家の中を歩くのはダメか。



玄関からドテドテと音を出して、膝で廊下を歩く。


傍からみたらずいぶんこっけいな姿なんだろうな。そう思うと、思ったよりもオイラは普通なんじゃないかと思った。


足に付いた汚れを取るため、風呂場に入る。


ペトペトと少し歩くと、浴槽の床に黒い足跡が付いた。


なんだかふふと笑えた。



水を出して、洗う。


コンクリの床が足つぼマッサージにでもなったのだろうか。


いつもとは少し違う触りここちを足のうらから感じた。


もっと子どものころに同じここちを感じたことがある気がする。


だからか、このここちが私は好きだった。



思っていたよりも、よりも、汚れていた足を洗って、ふいて、僕は自分の部屋に自分をこもらせる。


ふとんの上にごろんとして、心が地球からの圧力を感じなくなった気がした。



おきっぱにしていたスマホを手にとる。


なにをしようとしたのかは分からない。


なんとなく……であって、なにかをしようと、取ったわけではないからだ。



緑の連絡アプリが瞳の中に入る。


またしても、なんとなく、そのアプリをひらいて、お兄さんの欄をだした。



なんでなんだろうね。


たぶん、きっと、オイラの中で、いいと許せることがあったんだろうね。



私はその中の電話のマークをおしていた。



カクゴができたんだ。


他人としてのお兄さんが見えてしまってもいいと思えるような、そんなカクゴが。


見えてしまっても、お兄さんととうめいなみずのいきあいをしていたいと思える、そんなジシンがでてきたんだ。



つながるだろうか。


何かしているかもしれない。


大変なときにかけていてしまったらどうしよう。



そう頭の中で色んなもやもやがぐるぐるしていたけど、なんとなくでてくれる感じがしていた。



(あ、出た)



ちょっとのあと、お兄さんの声がした。



「もしもし?」



声のおくで、音が聞こえる。 誰かが生きている音が。


いそがしかったかな。



「いそがしかったかなぁ……」


「ふふ、バイトが終わって家に帰るところだよ」


「そっか。それなら……うん。よかったなって」


「うん、良かったんだよ」



そう、それならよかったんだ。


心の中の僕が心配そうにこちらを見ている気がした。


オイラ、きんちょうしているんだなぁ、とそれを見て思った。



「なんかね、なんかなんだけどね」


「うん」


「こんな、なんかっていう必要もないことなんだけどさ。なんか……」



って言っちゃうんよだよね。



「……うん」



少し笑い声が混じった声でお兄さんはそう言った。


それを聞いて、私もなんか笑っちゃったのだ。



「今日ね、さんぽに行ったんだ」


「そうなんだ」



お兄さんの声の後ろから、生きている音が聞こえる。


それを聞いて、なんとなくだけど、お兄さんが立ち止まって聞いてくれている気がした。



「それで、あの……それでさ……」


「うん」



これでよかったんだと思う。


こんな僕とお兄さんでよかったんだと思った。



「なんか、最近、オイラの考えと、他の人の考えが全く違うんじゃないかって思うことがあって……あって……うん。そのさ……、自分が何もかも間違っているんじゃないかって思っちゃって」



うん、お兄さんの相づちだった。



「私が今まで、いや、これもまた最近なんだけどね、大事にしたいというか、こうやって生きていきたいと思って、そうしようと思ったことすべてが、なにもかもが、ダメで、いけないことなんじゃないかって思っちゃって」



そうなんだね、お兄さんの言葉だった。



「そんなことないはずなんだけど、そう思っちゃったんだ……。自分のなにもかもがダメで、違っていて、やっと生きていけるかもしれないって生きていきたいって思った、そんな人生からはじきだされてしまうんじゃないかって、思っちゃったんだ」



息が詰まりそうだった。


このまま続けたい。


だけど、一回、少しだけ、息をすう、頭をちょっとひんやりさせる時間が欲しかった。



そんなことを考えている、少しの(あいだ)のあと、お兄さんの語りかけが聞こえた。



「……どんなだった?」


「……怖くて、痛くて、どうしたらいいか……分からなかったよ」


「そっか」



「そうだったんだね」



力をずるずると抜いているみたいな声だった。



「そうだったんだよ」



まねっこで僕も同じような声を出した。



「それでね、どうしたらいいか分からなくなって、なんでか分からないんだけど、寝ころべる道路を探そうとしたんだ」


「うん」


「本当は、お兄さんも呼ぼうと思ってたんだけど……怖くて呼べなかったんだ」


「……うん」


「なんでかって……これは今考えながら話すんだけど……。さっき、僕の考えと他の人の考えが違うんじゃないかって思ったって言ったんじゃん」


「そうだね」


「それで、たぶん、自分以外の人に会ったらまた同じように思ってしまうんじゃないかって怖くて……。


だからお兄さんに会いたくなかったんだと思う。


お兄さんも結局は……他人、だからさ。


オイラの思い通りに動いたり、私のほしい言葉を言ってくれるような、そんな人ではないからさ。


でも、でも、それでいいと思うんだよ。そうであってほしいって思ってるんだよ。


だけどさ、やっぱり怖くてね。


お兄さんと僕はやっぱりどっか違う他人なんだって思いながらも、それは無意識に置いて置きたかったから」



一呼吸。



「だから、お兄さんに会いたくなかったんだ」



お兄さんも一呼吸したのかな。


ちょっとのあと。



「そっか」



お兄さんは、そう言った。



「うん」



オイラはそう返した。



「……」



話したかったことを一気に話してしまったから、通話の中に静寂が流れ始める。


それにかける何かが思いつかない。


ちょっとだけ気まずいというドキドキを味わったあと、その静寂をお兄さんが止めてくれた。



「彼女ちゃん、あのさ」


「うん?」


「これって、特別っていうものかな……?」



心の読めない通話だからか、いつもより弱さのにじんだお兄さんがその言葉から見える。


珍しいことだった。


だからかな、誰に言うものでもないけれど、ちょっとだけふふん、という気持ちになった。


そのふふん、という気持ちを少しだけ次に出す言葉に乗っける。



「うん、たぶん、特別っていうものだよ」



お兄さんに、それは伝わっただろうか。




「そっか……。それはいいね」


「ね、いいよね」



お兄さんの返事がちょっと嬉しそうなものだったから、伝わらなくてもいいか、そんな風に思ったのは内緒だ。



生きている音に加えて、ごそごそとお兄さんの音が聞こえる。



「ごめんね、そろそろ行かないと」


「うん」



優しい声だった。


だからね、言わないといけないんだよ。



「お兄さん」


「うん?」


「ずっと、他人でいてね。私の思い通りに動かなくて、僕のほしいことばっか言わない、そんな、他人で。いや、そうであったらいいな、なんて思ってはいるんだけどね。でもね……」



怖いって、嫌だなって思っているけど、ちゃんと言うよ。



「お兄さんはお兄さんのままでいてね」



お兄さんはどんな風に思っているんだろう。



「……うん、お兄さんはお兄さんのままいるよ」



お兄さんの金色と黒色の瞳は今、どんな色を含んでいるんだろう。



「……それだけ言いたかったんだ。ありがとうね」


「うん、それじゃあまたね」


「うん」



分からない、分からなくて、怖いけど、見ようという勇気は今、あるよ。



通話が終わって、真っ黒な画面になにかが映っていた。


それはオイラの探していたものだった気がする。


私はなんだかそれを見て、すごくほっとした。



画面に映る  に言う。



よかった、見えてきた、  〇。



そのままでいていいんだよ



そう心の中の誰かが言った気がした。


読み方


ああああああああ。(リアル世界の描写)

 ああああああああ(イマジナリー世界でのセリフ)

  あああああああああ(イマジナリー世界の心の中のツッコミ)

    あああああああああ。(イマジナリー世界での描写)


たまにわざとリアル世界とイマジナリー世界の表現をごちゃっとさせている部分があるので探してみてください


ミスチェックは、後日、なんとなく勇気がでたらします

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