エピローグ
「お疲れ様、銀滝隊員」
「……隊員ってなんだよ」
一段落付き、最寄りの警察署のロビーで2人はくつろいでいた。
未華子の事件は、とりあえず自殺で処理されることとなった。世間的に傀異は認知されていない存在なので、傀異が犯人だといったところで誰も信じない上に、糾弾されるのでこれが最も良い決着方法だった。
白は、未華子が真紀に宛てたクリスマスカードをそっと開く。真紀が消えてこの世界に残ったこのカードは、真紀という存在が確かに存在したことを示すかけがえのないものである。
アイサは、白に缶コーヒーを渡した。仕事終わりによくアイサは白にコーヒーを渡す。それは決まって、クリーム入りの甘いカフェオレだった。
「じゃあ、銀滝巡査殿の方がいいかい?」
「どっちも無理」
白は、受け取ったコーヒーの詮を開け、ちびちびと飲んでいく。
「……今回の事件は少しやりきれない事件だったね」
「……」
アイサは捜査報告をメモするために、カタカタとノートパソコンで文字を打っている。
傀異が絡んだ不審死事件は、いずれも事故として処理される。
彼らはそんな現状を何度も見て、そのたびにやるせなさを感じていた。
慣れたとはいえ、今回のようにやりきれない結果となった事件では、その感情が膨らむのも仕方のないことだった。
「……おれは」
白は、無残に殺された未華子のことを考える。
拳を握りしめ、俯いたままはっきりと告げる。
「どういう理由があれ、人を救う。人に危害を加える“傀異”は、祓う」
白の力強い言葉にアイサは、ゆっくりと頷く。その言葉を待っていたと言わんばかりに口元を緩める。
白は、未華子とすれ違った雪が舞い散るあの日を思い出す。
「俺が、もう少し早く行けていれば……あの人は助かったかもしれない」
白はポケットから取り出した真っ赤な靴下を眺める。相変わらず不気味なほど真っ赤だった。
「おや。それ、処分しておくよ。貸してくれ」
アイサは手を出し、靴下を受け取ろうとするが、白はその手をサッと払いのける。
「いいよ。俺が、お祓いに持っていく」
アイサはキョトンと、不思議そうに白を見つめ、「そうか」と言って立ち上がる。
「では帰ろうか。捜査報告書をまとめるには、ここでは無理だ」
「……ああ」
白はポケットに靴下を戻すと、警察署から出て、止まっている車に乗り込んだ。
――――――クリスマスの陰に、不幸あり。
誰にも知られることのなかったこの悲しい事件の顛末を、少年は忘れることなく胸に刻むのだった。
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