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ブラッディ・クリスマス  作者: くろ飛行機
7/8

その⑦


「だから君はブラッディ・クリスマスを利用して、2人を殺す計画を立てたと」


 真紀はビルの鉄格子に寄りかかって空を仰いだ。

 風が、冷たく肌に当たる。何もかもきれいさっぱり消してしまいたい。そんな気分だった。


「なぜ未華子を殺したんだ? その動機ならば、殺すのは彼女と恋人だけでいいはずだろう? 君はなぜ、もう一度殺人を犯したんだ?」


 アイサの問いは、先ほどまでの淡々とした物言いではなく、いくらかの感情が籠っていた。

 アイサの透き通った青い視線が、真紀を突き刺す。真紀は少し笑って、天を仰ぎながら答える。


「……なんでだろうね。私は人間じゃないからかな」


 その嘲笑めいた答えに、アイサは何も言い返さなかった。

 人間ではない。その言葉に、アイサは「そうか」とだけつぶやくと、真紀の目を冷たく見据えて淡々とした口調に戻る。


「すまないが、君には2つの選択肢がある。我々に消されるか……」

「わかってる。自分で消えるかのどちらか、でしょ?」


 真紀はわかっていると言わんばかりにアイサの言葉を遮ると、精一杯笑った。

 アイサは、何とも清々しい顔だと思った。

 これでようやく、すべてから解放される。そう言いたいように。


 白は、まっすぐにアメシストのような輝きを真紀に向ける。その目に、憐れみなどという澱みは、微塵にもない。真紀の罪をすべて受け入れて、少年は告げる。


「おれから見たら、あんたは人間だけどな。孤独がどれだけ辛いのか、それは痛いほどわかるから」


 美しい、と真紀が息を飲むほどにその少年は眩しかった。真紀はそんな白の言葉が、この上なく嬉しかった。人間ではないと自分を否定してきた真紀にとって、これほどの喜びはない。

だからこそ――――――真紀は罪を償わなければならない。この世から消えねばならない。


「ありがとう。私にはもったいなさすぎる言葉」


 真紀はゆっくりと、ビルの端に立った。眠らない街からは、色々な人間が放つ幸せそうな音が聞こえてくる。

 真紀は、思い出していた。未華子と過ごした短いながらも幸せなひと時を。


 ずっと、このままが良かった。ずっと一緒にいたかった。ずっと、笑っていたかった。


 だけど、また孤独になることに耐えられなかった。


 真紀の体がふわりと揺れる。まるで雪のように軽く手すりを乗り越え、ビルの端に立つ。


 ――――――未華子。ごめんね。最初から、こうしていればよかった。私なんて存在しなければよかったのよ。でも、私は人間になることを望んだ。私が人間になれないのなら、また男に取られてしまうのならば、そう思うと、怖くて仕方がなかった。

どうか、最低な私を許してね。


「待って」


 飛び降りようとした瞬間、白の声が真紀を止める。


「これ、さっき拾ったんだけど。あんたのもんだろ?」

「えっ?」


 白が持っていたのは、可愛らしいトナカイがデザインされたクリスマスカードだった。

それは、未華子が真紀に宛てたもので、開くと2人のプリクラの写真と共にメッセージが書いてあった。


『最高の親友、真紀へ。ずっと一緒だよ』


 真紀の目から、涙が零れ落ちた。


「ごめん……ごめんなさい!!!!! 未華子! ごめん!!」


 親友の命と引き換えに得たもの、それは真紀が最も欲しがった言葉だった。

 津波のように押し寄せる後悔に、真紀はたまらず嗚咽した。


 涙が、月明かりを反射して、煌めいた。

 真紀の涙は、月夜に照らされながら、この街の喧騒に紛れて消えていく。


 次第に真紀の体は薄らいでいき、光の粒となってこの世界から消えていった。


「……はあ」


 白は、ゆっくりと両手を合わせる。


 ――――――安らかに。


 彼女が今度は、人間として生まれてくるように。

 心から、そう祈った。



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