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ブラッディ・クリスマス  作者: くろ飛行機
6/8

その⑥


 ずっと、家族は、私を見なかった。見てくれたのは姉だけだった。

 姉の部屋で私は確かに存在していた。

 他の人間とは違って、食べることも寝ることも必要はなかったが、それでも自分は生きていると、思えた。姉というかけがえのない存在がいたから――――――

 だが、それは姉の成長と共に崩れ去った。

 姉は男を作った。部屋に男を連れ込んで、私が存在していないかのように2人は話す。

 私の存在は徐々に忘れ去られていく。話しかけても、無視されることが増えていた。


 それは、まぎれもなくあの男のせいだと気づいた時、私は耐えられなくなった。


「どうして私を見捨てるの!?」


 姉は家を出ていくと言った。男と一緒に暮らすのだと。ついていくと言ったら、姉は冷たい顔をして、


「ねえ真紀。今まで黙っていたけど、あなたは私の想像で生み出されたただの幻影なんだよ? だからこれ以上、私の頭に入ってこないで。正直、私から生まれたくせに私の邪魔をするとか、キショイんですけど」


 その言葉によって、私の中のこれまで抱えていたものが弾けた。

 自分を否定したのが、自分を生み出した本人だったなんて、そんなこと許せない。


 許せない。許せない。麻衣が私の前から消えるなら、その前に私が――――――


 気付けば、私は鬼になっていた。今思えば、愛と憎しみは表裏一体、とでも言うのだろうか。


 首を、絞めた。

 力を徐々にかけた。

 その腕の感覚が、今でも忘れられない。

 姉は必死に私に助けを請うた。目には大粒の涙を流し、口から唾液を垂れ流していた。


 私は、初めて姉のことを醜いと思ってしまった。

 自分と全く同じ姿形をした、姉のことを。


「……あれ?」


 どうして、私は――――――


 私は姉の体を引き裂いて、食べた。

 少しだけ力が出るような気がした。

 でも私の心は満たされないままだった。


 姉を殺して気が付いたこと、それはあまりにも残酷な現実。醜い私の本性。


「あの人のことが……私は……あれ……?」


 私はあの男の背中をずっと見ていた。私から姉を奪ったあの男。私の存在も知らないあの男。あいつは、別の女を作って――――――


 許せなかった。「僕には君しかいない」などとベッドの上で語っていたくせに。

 それを、向けるべき相手は姉じゃなかった。

 今はもう、別の女に同じことを言っていた。


「――――――」


 あの男の断末魔は何ともあっけなかった。

 トイレで一人になったところを襲った。日付は姉の命日、クリスマス・イブ。

 姉と同じように食べてやった。四肢をもぎ取って、苦しませながら殺した。


「どうして!! どうして姉だったの……私だって」


 虚しい。

 心底虚しい。


 そんなことに気づいたのは、それからすぐだった。


 もう消えよう。この世界に存在する理由など、もはやないのだから。


 消えようと彷徨っていた私は、大学という場所で、静かに講義を聞いていた。

 ただの気まぐれだった。その講義の内容が心理学だったので、自分がなぜ人を殺したのかわかるかもしれないと、安易に考えただけのことだった。


 そんな時、未華子が私の横に座った。そして微笑みながらこう言った。


「ねえ。この先生の講義、眠くない?」

「……えっ?」


 生まれて初めて、姉以外の人間から話しかけられた。


 未華子はごく普通の人間として私に接してくれた。

 何度も遊びに行ったし、ご飯も食べた。


 未華子といれば、私は人間に成れた。


 それが、どれだけ幸せなことで、どれだけ私を苦しめていたのか、未華子は知る余地もなかっただろう。

 だって――――――


 未華子が、男を作ったから。


 怖くて、怖くてたまらなかった。

 また捨てられる恐怖。

 そしてまた、相手のことを自分が好きになってしまう恐怖。

 次第に募った醜い感情は、私を次の凶行に掻き立ててしまった。




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