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ゆらぎ  作者: T龍
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最期の依頼

ゆらぎのいる村には時折依頼がくる。それをこなすことでお金を稼いでいる。そして今日もまた依頼が何件か来ていた。化物が三体彷徨いていて危ないから処理して欲しいとのことだった。その依頼を受け、行こうとすると秋奈が私もついて行くと言い出した。危険な上に足でまといにしかならない。何故付いてきたいのか理由を聞くと私にも何か出来ることをしたいんですとのことだった。


「今君にできることは何もない、大人しく待っていろ」


そう言ってゆらぎは依頼された場所へと向かった。数十分かけて辿り着くとそこには情報通り三体の真っ白な化物がいた。いわゆるポーン、知性のない雑魚だ。ゆらぎを視認するとポーン達は奇声を上げて襲いかかってきた。ゆらぎは身動き一つ取らず何も無い空間から剣を射出し、三体を串刺しにする。化物が死んだのを確認すると剣を抜いて謎の空間に仕舞った。依頼もこなし、帰宅しようとしたその時、突然拍手が聞こえてきた。音の方を見るとそこには全身が真っ白で何処からか盗ってきた服を着た人型の化物がいた。おそらくなりたてのナイトと呼ばれるもの。ポーンが進化したものだ。


「いやぁ凄いなその力。回収してる所を見るに無限ではないみたいだが?」


ゆらぎは何も答えない。ただ黙って敵の方へ向く。


「おいおい少しくらい会話を楽しもうぜ?」


そう言いながら化物は走り出した。ゆらぎは化物に向けて剣を射出するが、すべて躱される。ゆらぎを中心に円を描くように化物は走り、ゆらぎとの距離を少しづつ詰めていく。化物はゆらぎの弾切れを狙っているのだ。そして、その時がきた。ゆらぎが剣を射出するのを止めたのだ。今だと確信した化物は一気に距離を詰め、爪を振り下ろそうとする。しかし、それはゆらぎの目の前で止まる。化物は何も無い空間から飛び出た剣によって至る所を刺され動きが止まっていた。身動き一つ取れない化物をゴミを見るような目で見ながらゆらぎは静かに語った。


「誰が近くじゃないと回収できないと言った?射出した物を再び回収するのは容易なことだ。一本づつしか射出出来ないと勘違いしていたのは笑えるよ」


そう言うゆらぎの顔は何一つ笑っていなかった。ゆらぎが広げた手を握りしめると刺さっていた剣が一気に化物を串刺しにした。剣が空間に引っ込むと絶命した化物の体は力なく地面に落ちた。


「もう少し武器を補充しておかないとな・・・いくつか欠けてしまった」


ゆらぎはそう呟きながら村へと帰還した。すると、嬉しそうな表情の秋奈が寄ってきておかえりなさいと告げた。・・・彼女ではないと分かっていながらも秋奈には優しくなってしまう。


「・・・ただいま」


「怪我はありませんか?大丈夫ですか?」


心配そうにしている秋奈にゆらぎは笑顔で返す。ゆらぎの笑顔を見て、秋奈は胸を撫で下ろす。今日は早めに依頼が終わったのでもう一つやることにしたゆらぎが依頼板に目を通すと、私のところに来てとだけ書かれ、地図が同封されていた依頼を見つけた。・・・妙な胸騒ぎがする。その依頼書を手にゆらぎが出掛けようとするとまた秋奈が言った。


「私も連れて行ってください!何も出来ないのは嫌なんです!」


罠の可能性もある、だが、一度どんなものか経験させるのもいいかも知れない。そう思い、秋奈の同行を許可した。ゆらぎは秋奈を連れて地図の通りに向かうとそこには古びた一軒家が建っていた。ドアノブに手をかけ回すと鍵はかかっておらず簡単に開いた。


「すまない!依頼を受けて来たんだが!」


声に反応する者はいない。とりあえず奥の部屋に入ってみるとそこには生きているのか死んでいるのか分からないくらいやせ細った女性が椅子に座っていた。


「・・・来てくれたのね」


その女性はゆらぎを見るとゆっくりと立ち上がり、フラフラとした足つきでゆらぎへ近付いていった。


「私を・・・殺して」


「それは、無理だ」


「お願い、もう私には生きる意味が無いの・・・私の大切な人は化物に殺された・・・もうどう生きていいか分からないの・・・」


「その人の分まで生きるということはーーー」


「無理よ、無理なのよ・・・ねぇ、お願い。私を殺して。自殺したらあの人に会えない気がするの、だから、お願い・・・お願いよ・・・」


力なくゆらぎにしがみつく女性は掠れた声で何度も懇願した。・・・思うところはある、自分も死のうと思った時があったから。だが、自分の場合は周りに優しくしてくれる人達がいた。でもこの女性は独りだ。独りになってしまった。自分もこうなっていたかもしれないと思うと彼女の願いを叶えてあげたいという気持ちがある。ゆらぎは秋奈の方に顔を向け、外に出ていろと言った。秋奈は心配そうにしながらも外へと出ていった。


「・・・・・・分かった。どうすればいい?」


「・・・抱きしめて、強く、強く。私が壊れるくらい」


ゆらぎは黙ったまま彼女を強く抱き締めた。骨が折れる音がする。彼女は血を吐いているが、苦しそうにはしていない。それどころか虚空を見つめ、独り言を呟いている。


「あぁ・・・やっと、やっと会える。和幸さん・・・」


その言葉を最後に彼女は逝った。ゆらぎは彼女をベッドに運び寝かせた。・・・本当にこれでよかったのだろうかとそういった気持ちが拭いきない。ゆらぎが家の外に出ると秋奈が心配そうに聞いてきた。


「あの女性の方は・・・どうなったんでしょうか?」


「・・・稀にこういう依頼が来る時がある。大抵はくだらない理由だから断るが、彼女は・・・彼女の願いだけは叶えてやりたいと思った。俺は間違っているかもしれない・・・けど、本人が幸せならそれでいいのかもしれない。」


秋奈は何も言わなかった。村への帰路でさえ会話はなかった。ただ、秋奈はずっと泣きそうになりながらゆらぎの後を付いていった。

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