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作者: 梅暦

 雪が降った。ほろほろと横に流れ,ふんわりと落ちていくような柔らかい降雪であった。


 紅葉まっただ中だったはずの木々はいつの間にか葉を落とし,まがまがしく鋭利で硬質な枝が露出している。四方八方に伸び,「枝分かれ」の親分にふさわしい佇まいである。


 景色は白い。雪だけではない。雲が一面に広がる。裸の枝が,白色を透過する。濁りのある色ではあるが,不純なものは混ざらない。白,灰色,こげ茶色で構成された,ゆったりとした世界である。極彩色が散りばめられた画面に辟易した目をいたわり,見ていて心が安らぐ。


 飾らない木の枝の,なんと美しいことか。彼らは形容を超えて訴えかける。不思議と気持ちがそちらへ向く。豊穣の証を散らしてなお,鈍色に空間を貫き,その質量を等身大に主張する。支えられる葉や花は,さぞかし安心して生まれることであろう。洗練された美しさがそこにはある。キュッと引き締まった人間の身体と同じようなものである。


 「コルオートン・ホールのレノルズ卿の記念碑 (John Constable, 1833-1836)」という作品がある。林も,石碑も,鹿の角も,すべてが硬質の響きを帯びている。そこには確固とした自他の境界線がある。葉が枯れ落ちた手前の木はとても力強い。鹿の肉は締まっていて,それでいてしなやかななめらかさもある。ロンドンナショナルギャラリー展で絵画に向かないことを確信した私であるが,この作品だけは食い入るように見つめていた。


 冬は輪郭を明瞭に浮上させるようだ。肌を刺すような冷たい風によって,空間との境界をはっきりと感じることができる。空気は澄み,建物がひとつひとつ独立する。木々は硬質な枝を用いて空間を貫通する。情報は整理され,見るものを心地よい秩序の海にひたしてくれるのだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の、冬は輪郭を〜の部分は好き
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