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二日目―昼

本日二話目です。

2.二日目―昼


授業はその後も淡々と進み、四時限目が終わって昼休みの時間になった。もうお昼か。今のところ特には(全校集会を除いてだが)観察において特筆すべき変化は織田さんには起きていない。


さて、お昼休みはどうだろうか?昨日は午後からの登校だったのでこの辺は観察できていない。織田さんはどう過ごすのだろうか?そう思って、前の織田さんを観察しようとしていた所で急に織田さんがこちらを向き、僕を見て


「沙樹ちゃん。昼休みだよ。やっとだね。どうする?何する?」


めちゃくちゃ元気に話しかけてきた。いやはや、元気が有り余っているんだなこの人は、まぁ全校集会の時には寝ていたし、ONとOFFをうまく使い分けているのかもしれない。昼休みの時に全力出すってのは学生として正解かと言われると微妙なところだが、


「そうですね。とりあえずお昼ご飯にしましょうか。」


とちょっと引いて返す。あれ?でも僕は今日弁当を持ってきてないぞ。どうしようか。この高校には購買部とか食堂はあっただろうか。すぐに夜叉音さんに確認する。


―夜叉音さん。お昼ご飯はどうしたら?―


夜叉音さんから返信が来る。


―あー、そうだね。今日はお弁当作るの忘れちゃったわ。とりあえず、沙樹ちゃんのカバンの中に財布があるからそれで購買部か食堂で済ませちゃって。あっそうそうなるべく織田日向の行動に合わせること。これ重要ね。よろしくー。―


よかった。とりあえず、何も食べないで過ごすという周りから奇異な目で見られる事態にはならずに済みそうだ。食事の手段を確認して織田さんにお昼はどうするか聞いてみる。


「織田さんはお昼は―」


「そう。大事だよ。沙樹ちゃん。」


肩をグッと握られ僕の言葉は遮られた。


「お昼ご飯ってのはここから頑張るぞ。っていう力の源なの。ここから競争を求めて購買部へ殴り込みに行くか、ちょっとお値段高目でのんびりとしたいなと思って食堂へ行くか。そこは私も今迷っている所、いや迷わずにいられるだろうか。これこそ、高校生の究極の悩みの一つ。つまり青春の一ページなのよ。」


すごい語りに入ってるな。っていうかお弁当持ってくるって案は端からないのか。いやいや。これは面倒くさくなりそうだ。


「購買部へ殴り込みに行くっていうのは例えじゃないの。つまり真実。あの場所は、いやあの戦地はまさにさながら戦国時代の形相と呈しているというわけよ。つまり沙樹ちゃんもそこへ行くというのなら何らかの戦国武将の魂を心に宿して。あっちなみに私は武田信玄ね。風林火山。その魂を私は宿しているの風のように素早く前列に位置取り、そしてずっとそこにいたかの如く林のように静かにそして―って、あいたっ!」


僕が延々とその熱弁を聞かされると思ったその時思わぬ横やりが入ってきた。横やりという表現もそのままで丸めたノートで織田さんの頭はぶたれていた。まぁその横やりは僕にとっては助け船となったのだが。


その横やりの主は、黒髪のロングで眼鏡を掛けた何というか織田さんとは対照的な女生徒だ。その女生徒は織田さんに向かって


「何やってんの。転入生の子困ってるじゃない。まったくあんたはいつも他の人の気も考えないで自分のことばっかで。」


とガミガミお説教を始めた。織田さんは織田さんで


「いやいや、ユッキーこれは沙樹ちゃんに必要な教育で―。」


と全然物怖じてない。僕がどうしたものかとオロオロしているとその様子に気づいた織田さんからユッキーさん(仮称)に対する説明を頂いた。


「あっ紹介がまだだったね。この子は。あたしの親友なの。ユッキーって呼んであげて。ってあいた!なんでまたぶつの?」


「当然でしょ。全くあんたは勝手なことばっかりベラベラ喋って。ほぼ初対面の人に他人を愛称で呼ばせるとかおかしいでしょ普通。それとあんたと私は腐れ縁でしょ。小学校からずっと一緒だったから面倒見てあげてるだけ。」


「またまたーツンデレなんだからユッキーは。沙樹ちゃんこう見えてユッキーは優しいから大丈夫だよ。暴力魔じゃないからね。って痛い。またぶった。」


「ツンデレじゃない。あんたにはツンだけよ。ツン。それにこう見えてとかは余計なのよ。ぶつのはあんただけだからね。」


ワーワーやっている所を見ると微笑ましく見える。やっぱり友達っていうのはいいものだなぁ。


そう思って


「お二人は仲がいいんですね。」


と言ったら、


「そうだよ。」「なんでそう見えるのかしら。」


と二人の反応は全く別のものだった。まぁこれはこれで。そういう人間関係もあるのだろうと理解した。とりあえず織田さんとやりあっている彼女の名前は影沼幸奈(カゲヌマユキナ)という名前らしい。


あっそういえば、


「ところで、結局お昼はどうするんですか?」


もともとはお昼をどうするかで話していたのだ。だいぶ脱線してしまったが・・・


それを聞いた織田さんは衝撃の事実を突きつけられたかのように


「あーっ。もうユッキーが余計なお節介するから時間過ぎちゃったじゃない。もう購買部はあきらめるか。でも食堂かー。私今月ちょっとお小遣いピンチなのよね。トホホ。」


と落ち込んでいた。別に僕としてはどちらでもよかったのだが、ここまで落ち込むと何か僕も悪いことをしてしまった気になってくる。そんな僕を見て影沼さんは


「北条さんは気にしなくていいのよ。どうせあのまま言っても日向の昼食談議で購買部に行く所じゃなかっただろうし自業自得よ。」


と気遣ってくれた。まぁ確かにあのまま織田さんの話を聞いてても結構な時間のロスになっていただろう。それは間違いない。


 だが織田さんはそれを聞いて更に落ち込んだらしい。


「ひどいよー。ユッキー。そこまで言うことないじゃんー。確かに私もちょっとだけ話に熱が


入ってたけどさぁ。」


ちょっとじゃないと思うが、まぁ同情しなくもない。僕がいなければそんな話もすることなく購買部で昼食を買えたはずだ。そんな様子を見かねて影沼さんが織田さんに言う。


「しょうがないでしょ。今日は食堂にしなさい。安いうどんとか蕎麦にすればいいでしょ。私お弁当だから何ならおかず分けてあげてもいいし、お金無いなら貸してあげるから。」


「うぅーーー。ありがとうー。ユッキぃーー。」


「あーもう分かったから抱きつくなって暑いんだから。」


何だかホッとしてしまった。影沼さんやっぱり優しい人なんだなぁ。織田さんは友達にも恵まれているようだ。




 食堂に移動し、三人で昼食をとる。織田さんと影沼さんが隣同士に座り僕がその向かいに座るという形だ。僕はA定食、織田さんは蕎麦、影沼さんはお弁当をそれぞれ食べている。食事の最中も前の二人は


「ユッキーそのおかずもらってもいい?」


「いいけど、半分よ。」


「ありがとっ。」


「あっ半分って言ったじゃない。3分の2も取るんじゃない。」


「えー、私的にはこれが半分っていうかー。」


「嘘つけ。自分だったら絶対文句言ってるくせに。」


「言わないしー。私そんなに器小さくありませんー。」


「じゃあ、もうおかずは要らないのね?」


「あーすみません。すみません。神様仏様幸奈様―、何卒私にご慈悲をー。」


と和やかに?会話している。影沼さん。織田さんのお母さんみたいだな。でも実際にどんな人なんだろう?気になったので影沼さんに少し自己紹介してもらうことにした。


「えっと、影沼幸奈さんですよね。北条沙樹です。改めましてよろしくお願いします。」


「えぇよろしく。北条さん。敬語は要らないわ。私達同級生でしょ。まぁその方が話しやすいっていうのなら強要はしないけど。私のことはそうね。好きに呼んでくれて構わないわ。まぁこの馬鹿と違っていきなり愛称で呼んでくれなんて言わないわ。」


「誰が馬鹿よ。」


織田さんが反応する。


「あなたしかいないじゃない。」


影沼さんバッサリいくなぁ。


「影沼さんは何か部活はやってらっしゃるんですか?」


「私は文芸部よ。運動はあまり得意じゃないし、本を読むのが好きなの。」


淡々と話す。織田さんと比べると同じ年なのに何かすごく落ち着いているなぁ。


「ユッキーは頭良いんだよ。この前の中間テストでも学年4位になったくらいなんだから。」


「何であんたが偉そうなのよ。自分のテスト順位言ってみなさい。」


「あー私は過ぎたことは振り返らないタイプなのでもう忘れましたー。てへっ」


「てへっ。じゃないわよ。課題忘れたーとか言っていつも泣きついてくる癖に。ちゃんと自分でやらないから身に付かないのよ。」


「ユッキー。勉強だけがこの世のすべてじゃないんだぜ。」


「じゃあもう課題見せてって言っても見せなくていいのね?」


「えっいやぁそれはそれ。これはこれってやつでね・・・」


「へぇー。」


影沼さんすっごいニヤニヤしてる。Sっ気があるのかもしれないなぁ。でも、それにしてもこの二人は仲が良いなぁ。こんなに対照的な二人がよくここまで仲良くなったものだ。ちょっとその辺も聞いてみよう。


「あの、お二人はどういった経緯で仲良くなられたんですか?」


「えーとね・・・」


ここまで淡々と話していた影沼さんが言い淀む。何か不味いことを聞いてしまっただろうか。


 しかし、織田さんは変わらない調子でその話をしてくれる。


「ユッキーはね。小学生の時にここに転校してきたの。それを私がズバッとスカウトしたのよ。」


「スカウトですか。」


「そう。スカウト。この子は私のいい相棒になれるって思ってね。」


「相棒。」


「そうだよー。相棒。ユッキーはあたしの相棒なの。昔から変わらないあたしの親友。」


ここまで黙っていた影沼さんが言葉を発する。


「その発言はちょっと語弊があるわね。」


また、親友じゃないとかそんな感じの発言かと思ったがそうではないようだ。影沼さんは真剣な様子で話を続ける。


「スカウトっていうけど日向は私を選んだんじゃない。救ってくれた。」


救ってくれた?


「私は小学生の頃にここに転校してきたの。それで私あんまり明るい性格でもなかったからク


ラスにうまくなじめなかったの。それを日向が強引に繋ぎ合わせてくれた。私をみんなと一緒の空間に引き合わせてくれたの。」


良い話だった。僕の中の織田さんのイメージが少し変わった。織田さんは元気なだけの人じゃない。周りも元気にさせる人なんだ。


「ユッキー。」


織田さんが影沼さんに笑顔を向ける。影沼さんもその笑顔に笑顔で返す。いい関係だ。親友っていうのはきっとこういう人たちにふさわしい関係なのだろう。


「そのおかずちょうだい。」


「いや、それさっき半分あげたでしょ。」


「もうちょっと欲しいなって。」


「ダメ。」


「なんでー。私が救ってあげたんじゃないのー。救世主でしょー。」


「さっき自分で言ってたよね。それはそれ。これはこれって。」


「ユッキぃー・・・」


さっきと変わらないやり取りに戻る。まぁ、これも親友の間の一幕なのだろう。僕はその後、この微笑ましい情景を一通り堪能して昼休みを終えた。




午後の授業が始まった。特に変わらない日常が流れる。織田さんは授業中は一応真面目そうに授業を受けているし、休み時間も周りの友達や影沼さんと楽しく会話をしている。何事もなく観察を終える。難しいこともない。このまま今日の日は終わるんじゃないか。


そう思って迎えた放課後、前の席の織田さんが僕を振り返り一言こう言った。


「沙樹ちゃん。部活どうする?行く?」


「えっ?」


急なことで言葉が出なかった。そういえば昨日織田さんの部活を見学に行ったのだった。


どうしよう。観察の仕事を考えれば行った方がいいのだが、チアダンスなんてやったことないぞ。増してあんな女子の花園みたいな中に入って僕は正常に織田さんを観察できるのか?でもここで断ってしまうと放課後の観察ができなくなってしまう。


「えーっとですね・・・」


言葉を濁す。どうする?このままでは断る形になってしまう。迷った末、僕は


「ちょっと待ってください。一分でいいんで。」


と言った。一分ってなんで?って普通の人なら思うところだが仕方ない。こちらの問題の解決にはその一分が重要なのだ。織田さんは僕のその意味不明な発言にも特に変な顔することなく


「いいよー。沙樹ちゃんがそれで納得できるなら待つよ。」


快く了承してくれた。織田さんがその辺を深く考える人でなくてよかった。ならば、この限られた時間で僕は僕にできることをしよう。


僕が時間を欲しいと言った理由。一分あれば解決できるその行動。僕は相談をすることにした。相談する相手はもちろん僕のこの世界での唯一頼れる人。夜叉音さんだ。


―夜叉音さん。ちょっとご相談が。―


―おぉ、どしたの?何かあった?―


―実は織田さんにチアリーディング部に誘われまして。―


―ふーん。いいじゃん。入っちゃえば。―


軽っ。あっさり言われてしまった。


―いやっでもですね。僕チアダンスの経験なんてないですし。―


―そりゃそうでしょ。沙樹ちゃん記憶ないんだし。当たり前じゃん。―


―だからですね。ちょっと僕には向かないんじゃないかなぁと。観察の作業としてはやったほうがいいとは思うんですけど。―


―そこまで分かってるなら答えは出てるでしょ。入部する。はい解決。―


―あっでも僕心の準備が―。―


―じゃあよろしくー。通信終了!―


切られてしまった。うぅ。やっぱり入るしかないのか・・・僕は。織田さんの方に向き直り弱弱しく言った。


「じゃあ、体験入部ということで。」


織田さんの顔を見ると、彼女は満面の笑みで


「オッケー。じゃあ行こう。とりあえず、顧問の先生のところに行ってー。それからみんなにも紹介しないと。あとはー」


「あの、でも僕チアダンスやったことないですし・・・」


「ダイジョブ、ダイジョブ。沙樹ちゃんならできる。それに何事も挑戦でしょ。」


「はぁ。」


確かにそう言われればそうなのだが、果たしてうまくいくのだろうか。不安だ。


「よし、行こー。」


そんな僕の不安など関係ないと言わんばかりに織田さんは僕の手を取りグイグイと歩を進める。僕はその力強い足取りに引かれてトボトボ歩く。そして、織田さんは勢いそのままに職員室へと乗り込む。その隣には覚悟が決まらず不安度丸出しの僕。織田さんは顧問の先生のもとに向かう。本当にこの選択でよかったのだろうか。この時点になっても未だに僕の覚悟はつかずにいた。そんな僕の気持ちなど知らずに織田さんは行動を進める。


「先生―。」


話し相手はチアリーディング部の顧問の先生だ。昨日見たから僕も知っている。当然相手も。


「あら、織田じゃない。とそこにいるのは昨日来た―」


「ほ―」


「北条沙樹ちゃんです。」


僕を遮って織田さんが答える。


「そう。じゃああなたが昨日転入してきた子なのね。」


「はい。そうです。そして我が部の期待のホープです」


僕が一言も発せないまま織田さんが話を進める。


「我が部の?じゃあその子うちの部に入部希望ってことなの?」


顧問の先生がこちらを見る。


「だよね?沙樹ちゃん。」


織田さんもこちらを見る。その目の輝きが今は眩しいどころか痛いくらいだ。


「はい。・・・・一応ですけど」


ボソッと付け加える。自分で言うのもなんだがこんな人間は普通に考えたら他の誰かを応援する部活に入るべきじゃないと思う。


「そうなのね。じゃあこの入部届に名前を書いてもらえるかしら。」


あれ?この流れは。僕は体験入部する予定だったのだが。


「よし。沙樹ちゃん。ドンと書いちゃおう。沙樹ちゃんのチアダンスの歴史のスタートはここからだよ。」


あの。体験入部って件は・・・


「いやーよくやったわね。織田。昨日来た子にもう我が部の勧誘を済ませておくなんて。さすがだわ。」


体験入部は・・・


「任せてくださいよ。私の勧誘力にかかればこんなこと当然の結果ですよ。素晴らしいのはこの沙樹ちゃんの可愛さです。きっとうちのいいマスコット的存在になってくれるはずです。」


体験・・・もういいや。こうなったら何も言えない。やるしかない、か。やれやれどうもこの観察って仕事は一筋縄では終わらない仕事らしい。一応何か救いはないかと周りを見渡すと夜叉音さんの姿があった。どうやら夜叉音さんはこちらの様子を見ていたらしい。


そんな感じで僕と目が合う。ウインクされた。たぶんよくやったってことなんだろう。もういいや。夜叉音さんと会話しても何の解決にもならないだろう。そうして僕は転入二日目にして人生で一回もやったことのない(おそらく)チアダンスの部活に入部することになったのだった。



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