二日目 二日目―朝
遅くなって申し訳ありません。今日は二話投稿します。
2.二日目
1.二日目―朝
「沙樹ちゃん。起きてー。起きないと学校遅刻するぞー。」
僕の命狩人の二日目はそんな夜叉音さんの声から始まった。僕が瞼を擦りながら目を覚まして上半身を起こすとすでに夜叉音さんはスーツ姿に着替えており、その上にエプロンを付けて部屋の中を歩き回っていた。ベッド脇においてある時計を確認する。
現在の時刻は朝七時前のようだった。僕が起きたことを確認した夜叉音さんは
「ほら、早く着替えてご飯食べちゃって、女の子の朝は早いんだから。」
と僕を促す。僕は言われるがままに寝室のクローゼットを開け、とりあえずパジャマからセーラー服へと着替えをする。昨日服を脱ぐときにも手こずったのだがやはり着るのにも慣れない。僕がグダグダしながら着替えと格闘していると
「ダラダラしないでさっさとやる。」
と怒られてしまった。別にダラダラやってるわけではないのだが、
「あたしは教師の仕事があるから先に出てっちゃうね。沙樹ちゃんは着替えてご飯を食べて遅刻しないように学校に来ること。始業時刻は八時半だから遅れないようにね。」
と言い残し玄関から出ていく。と思ったら、玄関のドアを開けてこちらに向けて
「食べ終わった食器は水に漬けておくこと!」
と言い残し、すぐにドアを閉めて行ってしまった。朝から元気な人だ。僕はとりあえず着替えを終わらせて、朝食のあるテーブルに座る。テーブルにはトーストやスクランブルエッグ、サラダなどが並んでいた。立派な朝食だ。一体夜叉音さんは何時から起きていたのだろう?
そんなことを寝ぼけた頭でぼんやり考えながら朝食を食べる。食事をしながらさっき言われたことを思い出す。始業時刻は八時半だったか。ここからなら十五分もあれば間に合うだろう。
朝食を終えて夜叉音さんに言われた通り食器を水に浸し洗面所に向かう。洗面台の鏡で改めて確認するが僕の姿は女子高生そのものだった。やはり、昨日のことは夢ではないと感じながら身だしなみを整える。命狩人であるせいかどうかはわからないが特に寝ぐせとか目の隈が酷いこともなく簡単に済んだ。現在時刻は八時前。よし。学校へ向かおう。
家を出て学校へ向かう道を歩きながら今日の観察について考えを巡らせる。今日は何があるんだろう。織田さんはまだ元気にしているだろうか?あと三日で死んでしまうということであれば急病にかかって今日は学校に来ない。なんてことも考えられる。
だが、夜叉音さんが学校に向かえというのであればそれはまだなのかもしれない。何にして
も心の準備をしておく必要はありそうだ。あって困ることはない。昨日だってあんなにいろいろあったのだ。何があっても驚かないそう鋼のメンタルが必要だ。
そんな風に身構えながら学校までの道のりを歩んでいたが、特に何事もなく学校にたどり着き教室まで来た。教室にはそこそこの生徒が既に登校を終えており、各々自分の机に座って持ち物の確認をしたり友達と話したりしていた。僕は
「おはようございます。」
と挨拶しながら教室に入り僕もそれらの中に紛れ自分の机へ座る。肝心の僕の前の席は空席であり、織田さんはまだ不在のようだった。
まさか、さっきの僕の予想が当たってしまったのか?
もしかして今日からもう織田さんは学校に登校してこないんじゃないか?
そんな気持ちを抱きながらドキドキして教室で待っていた。時刻は八時半前になり、佐藤先生が教室に入ってくる。織田さんはまだ来ない。やっぱりそうなのか?もしかしたら、この後に朝のホームルームで先生から何か話があるんじゃないか?僕がそう身構えたその時、
バーンッ‼
と教室の前のドアが開き、一人の少女が勢いよく教室に入ってきた。
「おはようございまーす!」
その少女は元気な声で挨拶をする。佐藤先生はそれに慣れているのか
「おはようございます。織田さん。」
と挨拶を返す。そう。この元気な少女こそ僕の待ち望んだ人物、織田日向その人だった。僕が安堵していると、佐藤先生と織田さんが教室の前で話をしていた。
「織田さん、いつも元気なのはいいですけど遅刻ギリギリですよ。もう少し早く登校するようにしてみては?」
「まぁまぁまぁまぁ。先生間に合ったからいーじゃないですか。それにこのギリギリのスリルってのもなかなか慣れるといいものですよ。」
「そんなスリルは必要ありません。早く席について。」
「はーい。」
いつも通りの会話らしい。織田さんはその会話を終えて自分の席に来ると僕のほうに向いてまた大きな声で挨拶する。
「おっはよーう。沙樹ちゃん。今日もよろしくね!」
「おはようございます。」
元気な人だ。僕の先ほどまでの予想は杞憂だったらしい。織田さんが席に着くと時刻は八時半になったようで佐藤先生がホームルームを始める。
「皆さん。おはようございます。では出席確認をします。」
そう言って一人一人の名前を呼びその度に生徒が返事するといった流れで進んでいく。当然、織田さんと僕の名前も呼ばれる。
「はーい。」「はい。」
とそれぞれ返事を返す。全員の確認が終わると先生が話を始める。
「今日は全校集会があります。皆さんはこの後、体育館に向かってください。」
全校集会か。何かあるのだろうか。
「新人の先生の挨拶がありますので皆さん顔を覚えておくようにしてください。」
あー、そういうことか。夜叉音さんの挨拶ってことだな。確かに僕はクラスでの挨拶をしたが夜叉音さんは職員だけの挨拶では終われないだろう。
でも昨日には学校にいたわけだし、知っている生徒もいるのだろうけど。それでも全体への挨拶というのは形式上必要なものなのだろう。
「今日の連絡事項は以上です。では体育館に行きましょう。」
そう言って佐藤先生は出席簿を閉じ僕らに教室を出るよう促す。僕らは体育館への移動を開始する。移動の最中前にいた織田さんが僕に振り向いて声を掛けてきた。
「新しい先生ってどんな人かな。沙樹ちゃん知ってる?」
知っている。何なら同居もしているのだが、それは言えない。もし、知っていると言うにしても夜叉音さんのことをどう表せばいい?赤い人?料理がうまい人?ヘビースモーカー?どう言うにしてもうまく表現できない。
「いや、僕も知らないです。どんな人なんでしょうね。」
結局、嘘をついた。
「そっかー。面白い先生だといいなー。授業楽しくなりそうな感じの。」
まぁ面白い先生ではあるのかもしれない。授業が楽しくなりそうかどうかは別だが。特に僕は一緒に授業をするとなると疲れそうなのでお断りしたいところだ。ところで夜叉音さんはどんな挨拶をするんだろう?僕なら全校集会の時に壇上で話すなんて緊張してうまく言葉が出てこなくなってしまいそうだが、夜叉音さんの性格や今までの接し方を見る感じそんなことはないだろう。だったら逆に目立つ感じの挨拶か?
でも僕たち命狩人はこの世界には干渉しない存在だ。そんなことする必要もないだろう。けれども、夜叉音さんが普通に挨拶する感じもあんまり想像できないな。どうするんだろうか?
そうこうしている内に体育館に到着した。僕らは二年生の列に並び全校集会が始まるのを待つ。他の生徒や先生たちが続々と体育館に集まる中でひときわ目立つ人間を見つけた。
見間違えようがない。あの赤い髪と瞳。夜叉音さんだ。その姿は人ごみのなかでも見失うことなく、むしろ周りの人たちが夜叉音さんを際立たせているように見える。僕も周囲から見る
とそう見えるのだろうか?
だが、僕の周りを見渡す限り僕に視線が集中しているようには感じない。やはり髪の色や瞳の色は特に他の人と変わりないものとして認識されているようだ。ということはあれでも夜叉音さんは普通の教師として見えているのだろう。
僕の周囲からは夜叉音さんに対するであろうコメントが聞こえてきた。
「あれが、新しい先生か?女の人だな。」
「若い先生だねー。」
「なんか綺麗だけどかわいいっていうよりかっこいいって感じ。」
「クールビューティーみたいな。」
いろいろな意見が聴こえているが、大体の意見はあっている気がする。まぁクールビューティーを除いて・・・そんな僕の考えが分かったのか夜叉音さんはこちらの方を一瞬向き
―沙樹ちゃん、余計な事考えてないだろうね?―
鋭く言葉を飛ばす。
ズバリ合ってた。自分の心中を見透かされたことと尚且つ急に脳内に会話が入ってきたことで驚いてしまったが、とりあえずしどろもどろで返事を返す。
―まっまさか、何も考えてませんよ。ホントです。―
―まぁいいや。ちゃんと先生の話は聞くんだよ。沙樹ちゃんは今この高校の生徒なんだからその辺しっかりね。―
―はい。気を付けます。―
気が抜けない。お互い目立つから嫌でも存在が分かってしまうのだ。夜叉音さんと一緒の空間にいる時は気を付けなくては。
「では、皆さん揃ったようなので全校集会を始めます。」
司会進行と思われる先生がマイクから言葉を発する。
「最初に校長先生から一言頂きます。」
校長先生が壇上に上がってきて話を始める。
「えー。皆さん。おはようございます。最近は日差しも暑くなってきて健康管理も重要な季節になってきました。ところで最近の―。」
一言と言っていたが、話が長くなりそうだ。
なぜ、校長の話というのはいつも長いのだろう?そんなに話す内容でもあるのだろうか。話さなければならない理由とかがあったり。もしかして、長く話した方が偉いみたいな。いやいや、それは考えすぎか・・・にしても長いな。もう十五分以上は話しているだろう。ここが外じゃなくてよかった。日差しも暑くなってきてなんて言っておいてこれで熱中症で倒れる人が出てきてしまっては本末転倒だ。熱中症じゃなくても気分が悪くなって倒れる人は出てきそうだけども。ずっと立ちっぱなしはやっぱりきついものがあるなぁ。
そうだ。何か違うことでも考えよう。うーん。そうだなぁ。そういえば僕は何歳で死んだのだろう?女子高校生になってるってことは高校生だったのか?そもそも見た目と実年齢が合ってない命狩人の世界において見た目はどうやって選ばれるのだろう?
死んだ時の外見?もしくはその人の全盛期とか?だとしたら部長の全盛期は子供のころということになる。いやいやいや。それはそれで面白いがなしだろう。子供のころからあんなオーラだったらみんな引いてしまうな。ふふ。でもそんな子供もちょっと見てみたいな。
―沙樹ちゃん。顔がにやけてるよ。何か変なこと考えてない?―
夜叉音さんの言葉で現実に帰る。見ると夜叉音さんが流し目でこちらを見ていた。
まずい、まずい。意識を目の前に戻して真面目に聞いている風にする。壇上を見ると校長先生はまだ話をしている。僕が意識を逸らしていた間もずっと話を続けていたようだ。長すぎだろうに。周囲を見渡してみると他の生徒もかなり疲れたような表情をしていた。
織田さんが前にいるのでどうしてるかと思ってちょっと覗いてみると、織田さんはきちんと前を向き真面目に聞いているように見えた。すごいな。こんなに長く話しているのに形だけかもしれないとはいえ真面目に聞けるとは。僕も見習わなくてはと思い織田さんの表情をよく見てみると、なんと織田さんは
立ったまま寝ていた。これはこれですごい人だ。立ったまま寝るのもすごいのだが、更にすごいのはその直立不動さだ。体幹が全くぶれていない。チアダンスしてるし体が鍛えられているからできる技なのかもしれない。それにしても、こんなに堂々と寝るか。しかも、立ったままで。その神経の図太さも是非見習いたいものだ。
まぁここでそんなことをしたら夜叉音さんに即刻怒られる未来が見えるので出来ないが・・・そんなことを考えていたら、校長先生の話が終わったらしく、先生が壇上を降りていく。司会進行役の先生が話を進める。
「校長先生。ありがとうございました。では、続きまして昨日付けで本高校に赴任された新任教師の鬼塚さんに挨拶をして頂きます。鬼塚先生、壇上にどうぞ。」
いよいよ夜叉音さんの挨拶だ。どんな挨拶をするのだろう。あんまり目立つようなことはしないと思うが、あの夜叉音さんだ。大人しくしているようにも思えない。どうするんだろうか?
夜叉音さんが壇上に上がっていく。その見た目は真っ赤な髪の毛ということもあり、とても目立つ。まぁこれは他の人の認識としては普通として認識されているため目立っていると感じているのは僕だけなのだろう。にしても綺麗な顔ではあるし、スタイルもいい。身長も女性としては結構高い方だし、その辺は結構目立つのだろう。
夜叉音さんは壇上の中央に立ち、マイクを取る。そして、開口一番
「おはようございまーす!」
と挨拶をした。その声の大きさたるや体育館の中なのに山彦が起きるんじゃないかと思われるくらいの声量だった。織田さんもさすがに体をビクッとさせて、目を覚ましたようだ。これで起きなかったら逆にすごかったが、当然起きるだろう。これで起きない人なんてのは錘が指に刺さって眠ってしまった眠り姫か毒リンゴを食べて昏睡状態に陥った白雪姫ぐらいだろう。
それくらいの目覚まし効果のあるシャウトだったと言える。他の生徒たちも意識散漫だったのが夜叉音さんの方に釘付けになったのが見て分かる。体育館内の注目が夜叉音さんに集まったところで彼女は話を続ける。
「昨日付けで本高校に赴任することになりました。鬼塚夜叉音と言います。担当教科は体育です。よろしくお願いします。」
丁寧なあいさつだ。夜叉音さんだから何かしら搦め手を合わせてくるのかなと考えていたのだが、僕の偏見だったようだ。やはり、ちゃんとした大人の人だ。時と場所はわきまえているらしい。
「あっ愛称は何でも歓迎でーす。鬼塚先生から夜叉音ちゃんぐらいまでは許容しているのでいろいろ考えてくださいねー。」
前言撤回。やっぱり、夜叉音さんだった。全校集会の場で自分の愛称の話をするなんて搦め手どころか禁じ手だろう。しかも夜叉音ちゃんて。僕だったら絶対に呼ぶ気にない。
「私からは以上です。皆さんこれからよろしくお願いします。」
と言い切って颯爽と壇上から降りていく。その姿に周りの人たちが呆気に取られて惚けていた。そんな中、司会進行の先生がいち早く気を取り直して進行を進める。
「鬼塚先生。ありがとうございました。皆さんも早く鬼塚先と仲良くなれるようにいろいろ話をして親睦を深めて下さい。」
その後は諸々の連絡事項などを諸先生方が伝えて全校集会は終わった。
教室へ戻ってくると、早速生徒たちが夜叉音さんについての感想を話し合い始めた。
「すげーな。あの先生。めっちゃ声でかい。」
「背も高いしスタイルもいいよね。」
「愛称何にする?夜叉音ちゃんとか?」
「さすがに夜叉音ちゃんは軽すぎじゃね?そうえばあの先生何歳なんだ?」
「そういえば言ってなかったね。でも見た感じ二十代前半ってとこじゃない?」
様々な会話が飛び交う。まぁ僕は何も言うまい。年齢は二百歳越えてます。とか言っても誰も信じないだろうし。とかいう感じで回りを眺めていたら前の織田さんから声を掛けられた。
「沙樹ちゃん。すごかったねー。あの先生。私もびっくりしちゃった。」
そりゃそうだろう。寝てた所をいきなり起こされたんだし。
「沙樹ちゃんは愛称何がいいと思う?夜叉音ちゃん?それとも夜叉音たんとか?」
いやいやそんな恐れ多い。夜叉音たんなんて呼んだら後でどんなしっぺ返しが来るか分かったものではない。
「いや、僕は鬼塚先生でいいかと思います。」
「面白みがないなー。沙樹ちゃん。ああやって愛称決めて欲しいって言ってるってことは私達と早く仲良くなりたいってことじゃない。だから私たちもあの先生とフランクに会話した方がいいと思うんだよ。」
そのフランクに会話しようとしている人物は僕の上司にあたる人物なのだが・・・まぁ、そこまで言うのなら少しは考えておくか。学校の時だけでもみんなになるべく合わせていった方がいい気もするし。だけど、夜叉音たんは無理だな。うん。100%無理。それ以外で何か考えておこう。そこに初老くらいの先生が入ってきて
「さぁ私語はそこまで。二時限目の授業を始めるぞ。」
と言って授業を開始したのでそこでその話は終わりとなった。