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命狩人の仕事とは?一日目―昼

本日二話目の投稿です。よろしくお願いします。

挿絵(By みてみん)

2.命狩人の仕事とは?


1.一日目


1.一日目―昼


 気がつくと、僕はどこかの道路沿いに立っていた。お昼くらいだろうか。太陽が眩しい。周りを見渡してみる。隣には夜叉音さんが僕と同じ様に立っており、僕らの周りには昼下がりの街並みとそこにいる様々な人々、そして道路にはある程度の交通量の車が走っていた。夜叉音さんは僕に声を掛ける。


「着いたね。ここが現世だ。」


ここがそうなのか。一体ここはどこなのだろう。周りの人の容姿や書いてある看板などから日本であることは予想がつくが僕にはこの場所に見覚えは無かった。


「ここは日本のとある県にあるとある市の街中さ。まぁそこに関しては現時点ではあまり深く考えなくていい。とりあえずこの辺りに沙樹ちゃんが命を刈る人間がいるってことさ。」


夜叉音さんはそう言うと歩き出す。


「どこへ行くんです?」


僕が聞くと、夜叉音さんは当然とばかりに言葉を返す。


「それは決まってるでしょ。沙樹ちゃんの仕事場に行くんだよ。」


 その仕事場と言われる所に向かって僕らは道を進んでいく。だが、何故だろう。すごく違和感がある。・・・少し考えて僕は気づいた。それは僕らの姿だ。僕は水色の髪の毛だし、夜叉音さんなんて赤い髪どころか全身真っ赤なコ―ディネーションである。周りの人がそれを奇異な人として見てもおかしくない状況なのに誰も僕らを見る気配が無い。まるで僕らはそこに存在しない人間として扱われているようだ。


「夜叉音さん。」


と僕は声を掛ける。夜叉音さんは振り向かずに


「何?沙樹ちゃん。」


と歩きながら答える。僕は疑問を聞く。


「あの、僕らのこの姿って周りの人からはどう見えているんでしょうか?」


少なくともそのまま見えてはないと思う。コスプレってことにしたって誰もこちらを見ないってことは考えられない。何かあるのだろうか。すると、夜叉音さんは立ち止まり


「よく気づいたね。でもまぁ確かに当然だ。あたし達はこんなに目立つ姿をしているのに誰もそれを気にしてない。もはや認識してないとすら言える。」


そうだ。やはり誰も僕らの存在を認識していない。


「でもそれは、当然のことでもあるのさ。だってあたし達は命狩人だ。この場所、つまり現世に生きている人間じゃない。だから、あたし達がこの世界に与える影響は一切ないんだ。」


影響がない?ここに存在して、この世界の空気を吸い、この世界で歩いているのにそれはこの世界には何もないとされる。そういうことだろうか?


「じゃあ、分かりやすいように実践してあげよう。」


夜叉音さんはそう言うと、車道の方に身を乗り出す。何をしているのだろうと思った束の間、夜叉音さんは何と車道の真ん中へ―。


飛び出した!丁度そこにはトラックが向かってきている。結構なスピードだ。もう間に合わない。ぶつかってしまう。


「夜叉音さん!!」


声を上げたときには遅かった。夜叉音さんはトラックに轢かれて数十メートル先に吹っ飛んでしまった。僕は急いで夜叉音さんのもとへ駆け寄る。トラックの運転手もさぞ驚いただろう。いきなり人が飛び出してきたのだ。しかも、そのまま轢いてしまった。すぐに車を止めて119番をかけて救急車を呼ぶしかないだろう。運転手として過失も問われるのだろう。可愛そうに。夜叉音さんが飛び出さなければ事故も起きなかっただろうに。


だがそのトラック運転手の行動は僕の予想とは全く違った。そのトラックはそのまま運転をして過ぎ去ってしまったのである。考えられるだろうか。人を一人派手に轢いたのに何事も無くそのまま運転して行ってしまうだなんて。ひき逃げとして罪も重なるだろう。酷い人もいたもんだ。確かに急に飛び出した夜叉音さんも悪いが、それだってあんまりだ。


でもとりあえず今は夜叉音さんだ。トラックの運転手が何もしない以上、僕が夜叉音さんを助けないと!急いで夜叉音さんの下へ駆けつける。夜叉音さんの体はトラックにぶつかった後に転がりに転がって歩道にある街路樹にぶつかって横たわっていた。


どっどうしよう。こういう時はどうすればいいんだったか?とりあえず、まずは救急車を呼ぶか?あっ。でも、今の僕には連絡手段がないし・・・誰か他の人に頼むか?というか既に他の誰かが連絡しているのではと思って周囲を見渡した。


しかし、周りの人は誰も気にしている様子は無かった。おかしい。あんなに大きな事故が起こったっていうのに。周りの人に声を掛けようとしたが誰も僕らのことを見ずに通り過ぎてしまう。思い切って近くを通っている人に話しかけたが、無視されてしまい話にならない。


そうだった!僕らはこの世界の人には干渉できないんだった。じゃあどうすればいいんだ?僕が夜叉音さんを診るしかないのか?医学の知識なんて僕には無いぞ・・・


僕があたふたしているうちに横になっていた夜叉音さんが体を起こし始めた。よかった。無事とはいかないまでも動けるようだ。もしまだ夜叉音さんに意識があるのならどうすればいいか急いで聞かないと。そう思って恐る恐る夜叉音さんの顔を窺う。すると夜叉音さんは僕の方を見て開口一番


「痛った―。やっぱり車に轢かれるのは相当痛いね。ここまで痛みを感じたのは久しぶりだよ。でっ、どう沙樹ちゃん今ので分かった?」


等と僕に向かって告げる。いやいや分かったとかそんなこと言ってる場合じゃないだろう。今さっき、トラックに轢かれて数十メートルも吹き飛んだのだ。急いで身体を治さないと。そう言おうと思ったのだが、


「あたしの体は大丈夫。ピンピンしてるよ。怪我一つ無い。」


そう言って体を動かす。その様子からして怪我が無いというのは本当のようだ。もう痛がっている素振りさえ見せない。一体どうなっているんだ?


「さっき言ったでしょ。あたし達はこの世界に影響を与えることはない。それはどっちにも言えることさ。この世界もあたし達に影響を与えることはない。だから今あたしを引いたトラック運転手だってあたしを轢いた認識もないし、あたしの身体も轢かれても怪我すらすることはない。同じ命狩人である沙樹ちゃんが見たからあたしがトラックに轢かれた瞬間が見えただけで、この世界の人にはその一部始終が何も無かったこととして処理される。今の行動は全てこの世界において影響を与えることはない。そういうこと。」


確かに理解したが、いきなり車に轢かれることもないだろうに。夜叉音さんは怪我こそしていないが、痛いとも言っていたし痛みはあるのだろう。そこまでしなくても他に説明の仕方はあっただろうに。


「えーと、確かに僕達が置かれている状況は分かりました。でも夜叉音さんがそこまで体を張る必要は無かったんじゃないでしょうか。」


僕の問いに夜叉音さんは答える。まるでそれが当然だというように。


「まぁまぁ、インパクトある方が沙樹ちゃんもグッと来るでしょ。それにたまにはいいもんだよ。車に轢かれるっていうのもさ。現世に生きてる人間じゃなかなか体験できるもんじゃないし。」


そりゃあできないだろう。普通の人間なら車に轢かれるなんて生死に関わる問題だ。人生で一回あるかないかというレベルだろう。それでも僕はそんな体験を進んでやりたいとは思わない。この人はちょっと変わった人なのかもしれない。そんなことを考えていると、夜叉音さんは再び歩き始め


「さっ行くよ、沙樹ちゃん。この世界の事情も分かったことだし。」


急にこんな出来事があって忘れていたが、そういえば僕らは仕事場に行く途中だったのだ。その仕事場とはどんな場所なんだろう。現世にも命狩人の支部みたいなものがあるのだろうか?


そもそも僕らはこの世界に影響を与えられないのにどうやって人の命を刈るのだろう?


「夜叉音さん。僕らの仕事場って―」


僕がそう問うと、夜叉音さんはこちらを見て言葉を返す。


「今回のあたし等の仕事場はとある高校だ。そこであたし達は命狩人としての仕事をする。沙樹ちゃんにとっては命狩人の試験の場所ってことになるね。」


そこから数百メートル歩いた先にその仕事場と呼ばれる高校があった。県立の高校らしいその場所は特に他の場所とも変わること無い普通の高校に見えた。


「よし、仕事場に到着だ。張り切って命狩人としてのお仕事を始めよう。」


夜叉音さんはそう言うが、僕には全然分からなかった。この高校で一体何の仕事ができるというのだろう。それとも実はこの高校は見た目こそ普通の高校だが、中身はこの世のものではない。命狩人としての組織でできている高校なのだろうか。僕がどうしたらいいのか分からずその場で戸惑っていると夜叉音さんは僕に声を掛ける。


「ここに沙樹ちゃんが初めて命を刈ることになる予定の人間がいるわけ。あたし達はそのためにここに来た。」


命を刈る人間がここにいるのか。だったらここは普通の高校ということになる。でもまだ四日間あるはずだ。夜叉音さんは現世に来る前にそう言っていた。だったら僕はこれから四日間の間何をするのだろう。


「これから沙樹ちゃんには四日間の間、沙樹ちゃんが命を刈る人間について観察をしてもらう。そしてその人間が生きていた事実を日誌としてまとめてほしいんだ。それが命狩人としての仕


事の一つ。」


なるほど。それが命を刈るまでの四日間にする仕事というわけか。確かにこの姿のままなら誰にも認識されることは無いだろうし、観察もしやすい。そういうことならあとは誰を観察すればいいか聞ければ僕にでもできそうだ。


「それで僕は誰を観察すればいいのでしょうか?」


その問いに夜叉音さんは答える。僕が初めて命狩人として命を刈るその人物の名前を。


「その人間の名前は織田日向(オダヒナタ)、この学校に通う二年生の女の子だ。」




 僕は、その女の子のところに案内されてその様子を影ながら観察するものだと思っていた。影ながら女の子を観察するなんていうとストーカーみたいだが、まぁ僕の姿は見えてないし、それが仕事だというんだから仕方ない。とりあえず慣れるまでのんびりやっていこう。なんて。


なんてそんなことを考えていたのだが、僕のその考えは全然甘かった。そんな考えは原液のカルピスくらい甘すぎるということを思い知った。いやそれ以上か。僕は今、教室にいる。そして教壇の前に立っている。教室の皆の視線はこちらを向いており、隣にいる担任教師が僕のことを紹介する。


「今日からこの学校に転入することになった北条沙樹さんです。みんな仲良くしてあげてくださいね。」


さらに教師は僕の方を見て続ける。


「北条さん。挨拶を。」


僕はしどろもどろになりながら、言葉をつむぐ。


「北条沙樹っ。です。今日からこの学校に転入することになりました。えっと・・・よろしくお願いします!」


「はい。よろしい。では席は―」


教師が坦々と話を進めているが僕にはそれよりも今の状況が整理できなさすぎて困っていた。どうして。どうして僕は。こんな姿で。


セーラー服にミニスカート。その姿はどう見ても女の子そのものだった。何で僕はこんな姿でここにいるんだぁー!?




 事の発端は一時間前、夜叉音さんが僕が命を刈る人物を告げた辺りまで遡る。夜叉音さんは


僕に向かってこう告げた。


「さーて。沙樹ちゃん。楽しい、楽しい潜入タイムのお時間だよー。」


楽しいかどうかは分からないが、潜入ということは僕もなんとなく分かっていた。でも僕らの姿は認識されていないんだし、潜入といっても堂々と正面から入っていってその織田日向という女の子を見つけて観察していればそれで終わりなんじゃないか。そう思ったのだが、夜叉音さんは


「じゃあ沙樹ちゃん。この学校にいる自分の姿を思い浮かべて。」


なんて言ってくる。この学校にいる自分といわれても僕にはちっとも思い入れの無い学校だ。自分のいる姿なんて想像できない。と言うかこれ前にもやった気がするのだが。


「いいんだよ。大体で。学校に通ってるイメージでいいからさ。やってみて。」


夜叉音さんがしつこく言ってくるので、僕はしょうがなく目を瞑って学校に通っている姿をイメージする。うーん、でも僕は学校に通っていたんだろうか。その辺の記憶もないのだがそれでもなんとなく学校に通っていたようなイメ―ジを探り探りしてみる。すると、


「おぉ―、沙樹ちゃん。いいじゃない。その服。沙樹ちゃんにぴったりだ。」


と言う夜叉音さんの声が聞こえたので目を開けて自分の姿を確認する。


 そこで確認した僕の姿は、何とセーラー服にスカ―トを履いた女子生徒の姿だった。


「何ですか!?これは!?」


思わず夜叉音さんに声を掛ける。夜叉音さんのほうを見ると夜叉音さんも姿が変わっていた。赤いレザーのジャケットとパンツは黒いスーツになっており赤い革靴も黒いハイヒールになっていた。顔にも眼鏡を掛けていたが髪の色や瞳の色はそのままだった。


「何って、これがあたし達の今回潜入するためのコスチュ―ムだよ。あたしの姿は多分教師かな。沙樹ちゃんは分かりやすいね。女子生徒。」


いや、それはそうなのかもしれないがそもそも潜入っていったって認識されていないのなら変装する必要も無いだろう。ましてや僕は女生徒である。不満も出る。


「夜叉音さん。これって必要なことなんですか?僕には全く必要の無いものに感じるんですけど。雰囲気とかそんな感じで楽しんでません?」


僕がそう詰め寄ると夜叉音さんはと言い真剣な顔で反論する。


「いやいや。これは必要なことなの。命狩人は命を刈る人間をなるべく近くで観察しなければならない。」


「でも、それだったらそのままの格好でも良くないですか?僕らはここの人たちに認識されてないわけですし。」


僕の反論にも夜叉音さんは表情を変えずにすぐに返す。


「認識されてないまま観察しても意味が無いのよ。命狩人であるあたし達は、命を刈る人物に認識されてあたし達もその人物を認識して初めて観察と言う行為が成り立つの。」


「でもさっき夜叉音さんは命狩人はこの世界では認識されないって言いましたよね?」


「そうだね。だからその為に、あたし達は認識されるように姿を変えたわけ。それが今のあたし達の姿。」


「一応、あたし達の外見からして一番無理の無い格好が選ばれるんだけど、沙樹ちゃんはやっぱり女子生徒だったね。ごめん。そこだけは同情するわ。」


言葉では謝っているが、夜叉音さんの顔は笑っている。やっぱりって。僕は男だぞ。記憶が無いから一応だけど。それに―


「こんな格好してたっていつかはバレますよ。僕の身体は男なんですし、着替えとかそういう時に騒ぎになったらどうするんですか。」


僕だって健全な男である。そりゃあ着替えとか肌のふれあいとかになってしまっては隠せない自分が出てきてしまうかもしれない。そうなってしまったら観察どころの話ではなくなってしまう。


「あー・・・・それは大丈夫♪」


夜叉音さんはニタリと僕を見て言った。


「何がですか?」


僕はまだ分からない。


「ちゃんと自分の身体、確認してみよっか。」


そう言われてもう一度自分の姿を確認してみた。セーラー服にスカートそれ以外に変化なんてあるのか・・・んー、後は、まぁ一応中も確認してみるか下着とかどうなってるんだろうと思って手でまさぐりながら確認みた。


すると、自分の身体の異変に気付いた。あまりの変化に怖くなってバタバタと手を当ててき


っちりと確認する。そこで分かったことはさっきまであったモノが無くなっていたこと、そし


て無かったモノがあったことだ。


僕は脂汗を掻いていた。こんなことあり得るのか。だってさっきまで、さっきまで僕は男だったのに。不安な顔で夜叉音さんを見ると夜叉音さんはニコニコしながら僕の状態についての解答を述べる。


「そう。沙樹ちゃんは女の子になったの。身体も身分も全部女の子。まぁ頑張っていこうね。女子高校生の北条沙樹ちゃん。」


「なっ、なんですとぉーーー!!?」


僕は命狩人になってから一番声を張り上げた瞬間だった。いや、でもこれは当然のことだろう。男が女になるそんなことが起こってしまうだなんて、そんなの人間では考えられない現象なのだから。


 それからは事がトントン拍子に進んだ。この世界に認識された時点で僕らの居場所は既に出来ているらしく高校に入って時には出迎えの準備が整っており学校の人に案内されて校長室へと通された。中に入ると初老の男性がテーブルを挟んだソファの向こう側に座っており、その横に二十~三十代と思われる女性が立っていた。初老の男性は


「こんにちは。まずはそちらに腰掛けてください。」


と僕らに手前側のソファに座るよう促した。夜叉音さんと僕はそれぞれ挨拶をしてソファに座る。


「私は当学校の校長をしている品川と申します。隣にいるのが教師の佐藤です。」


と品川校長が述べる。


「佐藤です。よろしくお願いします。」


佐藤と呼ばれた彼女もそれに合わせて自己紹介してお辞儀をする。


品川校長先生と佐藤先生か短い期間とはいえ学校の先生だ。しっかり覚えておこう。僕が二人の顔キョロキョロ見ていると、校長先生が、僕らに向けて質問する。


「あなたが新任教師の鬼塚夜叉音さんでよろしいですか?」


と夜叉音さんに声を掛けた。夜叉音さんは


「そうです。今日からこちらの学校に赴任してきました。今日からよろしくお願いします。」


とスラスラ答える。よくもまぁこんなにスムーズに対応できた物だなぁ。やはりこの程度のことなら何回も経験しているからここまでできるのだろう。夜叉音さんの手際のよさに感心していると、


「隣にいるあなたは転入生の北条沙樹さんですね?」


校長先生が僕に質問してきた。咄嗟だったので


「えっえーと・・・」


返答に困ってしまった。夜叉音さんに肘でトントンと小突かれて


「はいっ・・・そ、うです。」


何とか返答できた。校長先生は


「分かりました。」


と頷いてくれた。とりあえずは乗り切れたようだ。


「あなた方二人は親戚だそうで。では鬼塚さんの赴任に併せて北条さんも転校してきたということでよろしいでしょうか?」


校長先生の問いに夜叉音さんがすぐさま返答する。


「はい。私達は従姉妹同士でして、隣にいる北条さんのご両親が仕事を海外へ出張しています。しかし、北条さんは日本を離れたくないとの希望で私が両親に代わり保護者として一緒に生活しています。校長先生の仰る通り今回の転校も私の転任に併せてとなります。」


よくもまぁこんなにリアリティのある嘘が吐けるものだ。


 でも、これも潜入の為には必要な術なのだろう。僕も命狩人になるにはこういうことにも慣れていかないと。校長先生はその答えに完全に納得したようで


「なるほど。皆それぞれいろいろな事情がありますからな。」


と指を組んで頷き


「では、北条さんはさっそく教室に向ってください。君の教室は二年二組です。ここにいる先生が担任だから一緒に行きなさい。」


と指示を出した。なるほど、それで佐藤先生はここにいたのか。佐藤先生はその言葉を聞くと僕のほうへ向き


「では、沙樹さん教室に行きましょう。」


と僕に促した。僕は促されるままに校長室を出る。教室に移動する途中、佐藤先生は僕に声をかけてきた。


「大変ですね。家庭の事情でこの時期に転入とは。私もなるべく北条さんが早くクラスに慣れるように気を配りますから何かあったら私に言ってくださいね。」


・・・言えない。まさかこの学校の生徒の命を刈るために転入したなど言えるわけも無く


「そうですね。その時があれば、頼りにさせて頂きます。」


と無難な答えを返しておいた。


「まぁ家庭のことまでは詳しくは聞きません。いろいろな事情があるでしょうから。」


佐藤先生は話を続ける。


「クラスの子達も珍しがっていろいろ質問してくるでしょう。もしその中で何か嫌なことがあ


ったりしたら私に言ってください。きちんと注意しますから。」


いい先生のようだ。確かに僕は不安が大きかったのでそういってもらえると助かる。何せ高校生として学校に通っていた記憶すらない。まぁそれに関しては相談しようが無いのだが、少しでも過ごしやすい環境だったらいいなと思う。少なくてもこれから四日間僕はここに通い続けるのだろうから。そんな話をしていたら教室に着いたらしく佐藤先生は僕の方を向いて


「ここがあなたの教室です。入ったら自己紹介をしてもらいますのでよろしくお願いします。」


そう言って教室のドアを開けた。




ここで僕の回想は終わり、先ほどの自己紹介のくだりへと戻る。


「では、席はそうですね。織田さんの後ろが開いているのでそこにしましょう。北条さんそこ


に座ってください。」


佐藤先生の指示にぼくはぎこちない足取りで自分の席へと向かう。ふと、僕の前の席にいるという織田さんが気になったのでそちらを横目で覗く。織田日向は僕が命を刈る女性の名前だ。この人がそうなのかと見てみたが、織田さんは普通の女子高生だった。特に病気を患っているとかそういう感じもなく、元気な様子だ。ツインテールが似合う活発な女の子そんな印象を受けた。僕が席に着くと織田さんは僕の方に振り返って話しかけてきた。


「北条さんだよね。」


「そうです。北条沙樹です。」


「私は織田日向っていうんだ。日向でいいよ。北条さんのことも沙樹ちゃんって呼んでいいかな。」


「いいですよ。よろしくお願いします。日向さん。」


「うん。よろしくね。沙樹ちゃん。」


やはり、この人が織田日向か。満面の笑みで会話してくる。この人は、織田日向さんは人当たりのいいひとなのだろう。人懐っこいという感じか。見た目どおりの女の子のようだ。


「はい。私語はそこまで。午後の授業を始めます。」


佐藤先生が言葉を発し、織田さんもそれを聞いて前に向き直る。みんなが授業を受けているので僕もそれに習って授業を受けていると、ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。


―どう?クラスにはうまく入れた?―


周りを見渡す。だが、僕の周りには声をかけてきている人はいなかった。空耳かなと思って再び授業を受けようと机に向かうと


―あたしだよ。あたし。夜叉音だよ。―


と再び声が聞こえてきた。夜叉音さん?夜叉音さんがどこか近くにいるのだろうか。そう思ってもう一回周りを見渡す。だが、そこに夜叉音さんの姿は無い。僕が辺りをきょろきょろして


いると再び声が聞こえてきた。


―あー。近くにはあたしはいないよ。あたしは今沙樹ちゃんの脳内に直接話しかけてるから―


脳内に?直接?そんなことができるのか。何ていうか何でもありだな。命狩人って。


―沙樹ちゃんもあたしに語りかけてみてそうすればあたしに言葉が伝わるはずだから。―


と言われた。とりあえず、言われるがままに念じてみる。夜叉音さん。夜叉音さん。夜叉音さん。夜叉音さん。すると言葉が返ってきた。


―そんなにあたしの名前を連呼しなくても聞こえてるよ。それともそんなにあたしのこと


が好きなのかな?―


僕は、びっくりして言葉を返す。危うく口から言葉が出そうになった。


―いや、すいません。本当に語りかけられるのか心配で。―


夜叉音さんは笑って続ける。


―冗談だよ。どう?とりあえずクラスには入り込めたの?―


―はい。とりあえずは。ところで夜叉音さんひとつ聞きたいことがあるのですが。―


―何?あたしが何してるか、とか?あたしは今教師として今職員室で説明を受けている最中。因みにあたしの専門は体育ね。あたしは体育教師になって入り込んだってわけさ。―


説明を受けながら別の会話をするなんて器用なんだなぁ。まぁそこは置いといて。


―いやっ。たしかにそれも気になってはいましたけど、その前にどうしても聞きたい質問


がありまして。あの、そのですね。僕らの姿って浮いてませんか?―


どう考えても浮いているのだ。例え女子高生の格好をしていたとしても体育教師になったとしてもどうやっても隠せないその部分。


―まぁそりゃあ浮いてるだろうね。急にこの学校に入ってきたわけだし。でも大丈夫だよ。その点に関してはそういうものとしてこの世界では認識されるんだから。―


―いや。そこじゃないんですけど。―


―ん?―


僕は根本的な疑問をぶつけた。


―僕たちの髪の毛の色や瞳の色って他の人からはどう見えているんですか?―


確かに僕らの姿はそれなりの姿に変わってはいるし、受け入れもスムーズにいっている。そこは確かに問題ないのだろう。問題ない。だからこそ気になった。僕と夜叉音さんの髪と瞳は赤と水色のままなのだ。なぜ、誰もそこに関して気にならないのだろか。


―あーそういうこと。あたしはもう慣れっこだから気にしてなかったわ。沙樹ちゃんには言ってなかったけど、それもこの世界では普通として認識されてるんだよ。―


普通。この姿が。どう見たって変わっているのに。


―まぁその辺の認識を曖昧にするような作用が発生しているんだよ。だから、あたし達はこの姿が他の人と同じような姿だと認識される。―


―じゃあ僕のこの水色の髪も?―


―そう、それが沙樹ちゃんの髪の色として普通に認識される。誰一人疑問に思わずそういうものだとして処理される。だから気にしなくても大丈夫だよ。―


なるほど。じゃあその辺は気にしなくてもいいのか。


―分かりました。それで僕はこれからどうすればいいんでしょうか?―


―近くに織田日向がいるだろ?とりあえず沙気ちゃんは女子高生として潜入しながらその人物を観察していればいい。それが当面の沙樹ちゃんのお仕事だ。―


観察。観察か。とりあえず目の前にいる織田さんを観察してればそれが仕事になるらしい。


―じゃあ沙樹ちゃん。一旦お話は終わりだ。あたしの方もちょっと忙しくなってきたし、また後で。―


―はい。分かりました。夜叉音さんもお気をつけて。―


何に気をつけるのかは分からないが何となくそう言って会話を終わらせる。


さて、当面は女子高生としてこの学校でこの織田さんという人物を観察するのが僕の仕事らしい。とりあえず前の女子生徒、織田さんについて何か無いか様子を見てみる。特にこれといって変わったところは見当たらない。真面目に授業を受けているし、素行に問題はなさそうだ。


 そうこうしている間に授業は終わり、休み時間に入った。僕の周りには他の生徒が集まり、転入生として入ってきた僕に対して興味があるのか、いろいろ質問してきた。


「北条さんはどこから来たの?」


いきなり困る質問だ。まさか、命狩人としてこの世界とは違う世界から現世に降臨してきました。などとは言えない。


「えーっと、遠いところからです。」


「へー。遠いところかぁ。北海道とか?それとも沖縄?」


「はい。北海道です。北海道から来ました。」


完全に嘘ついた。本当は北海道なんて行った記憶もないし、僕の持っている知識としては寒くて広い土地という小学生並みのそれだったが、仕方ない。何か深いことを聞かれたらどうしよう。とりあえず冬は寒くて大変です、とかジャガイモとかが名産なんですよ。とかそんな言葉しか浮かばない。


 だが、意外と周りの反応はあっさりしており、


「やっぱりそうかぁ。肌白いもんね―。色白美人みたいな。」


「あはは。そうなんです。まぁ美人ではないんですけどねー。」


「またまた。そんなー。」


よかった。とりあえずは乗り切れた。それにしても。色白美人か。この世界の他人から僕はそう見えるのか。その後も好きな食べ物は?とか好きなアイドルグル―プは?と聞かれたが適当に答えていった。そもそも自分が誰かも分かってないのでそんな質問をされても困る。というか僕が聞きたいぐらいだ。話をしている中で目の前にいた織田さんが急に僕に質問をしてきた。


「沙樹ちゃんはさー。」


「沙樹ちゃんはどうしてここに来たの?」


思わずビクッとしてしまった。まさか僕がここに来た意味をこの少女は知っているんじゃないか、僕に命を刈られると分かっているんじゃないか。と内心びくびくしながら問いに答える。


「えっと親の転勤です。」


「そっか―。大変だよねー。転勤族っていうんでしょ。そういうの。私の親はずっとここに住んでるから分からないけど沙樹ちゃんの苦労はすごいんだろうね。私は尊敬するよ。」


大丈夫だったようだ。どうやら普通の意味として聞いただけらしい。


いやいや、紛らわしすぎる。危うく変なことを口走りそうになってしまった。僕が内心ビビリすぎなのだろうけど、あまりにも的確すぎる質問で肝が冷えるどころか飛び出しそうになってしまった。


 思わず心の中で夜叉音さんに声を掛ける。


―夜叉音さん。僕らの仕事ってこの世界の人にはバレてないんですよね?―


―大丈夫だよ。この世界の人はあたし達が何しに来たかなんて分かってないよ。それに言ったとしても信じないと思うし。まぁ言ったこと無いけどさ。―


―分かりました。ありがとうございます。―


そう返事をして、僕は目の前の状況に意識を戻す。僕は逆に織田さんに質問をしてみた。織田さんの人となりがどんな人なのかを知るためにも必要だと思ったのだ。


「日向さんは、地元の人なんですね。」


「そうだよ。あたしはここで生まれてここで育ったの。地元の中の地元人。ふふん♪何か分からないことがあったら私に聞いてくれれば何でも答えるよ。」


と答えた。周りの人があっずるいー。私も北条さんと仲良くなりたいのにー。とか言っていたのだが、それは置いといてだ。どうやら、この織田日向と言う少女はここに住んでいる地元の子らしい。他にも何か情報が無いか探ってみることにした。


「何か病気にかかったりしたことは?」


「ないよ。健康だけが取り柄みたいなとこあるし。あっでも風邪は引くよ。さすがに私もロボットじゃないからね。」


と答える。病気にかかっているわけでもなさそうだ。家庭の状況はどうだろう。


「ご家族はどんな構成ですか?」


少し機械じみた質問になってしまったが仕方ない。一応集められる情報は集めておかねば。


「両親と妹が一人かな。まだ中学生だけどこれが生意気でさ―。」


妹の愚痴が始まってしまったが、話を聞く限り虐待されているとか両親の仲が悪いという訳でもなさそうだ。特に家庭環境が悪いとも思えない。ならば。


 ならば何故彼女は四日後に死ぬことになるのだろう?



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