第3話 イラストレーターは楽じゃない
長い金髪にポニーテールの青眼の美少女吉岡アリスは、ハーフでありながら、才色兼備、更にはスポーツ万能なスーパー高校生である。そして何よりもすごいのが美術的センス。エロく可愛いイラストを描いてしまうその存在感からかネット上では、同人イラストレーターとして有名になった。
そう美少女でありながら、イラストレーターってなんか、最高ではないのか。
「ねえ、ねえ、ねえ、有島君さ、あたしのイラスト担当していたゲームやってくれている?」
「エロゲーか。ああやってるよ。まさか、吉岡がやっているとは思わなかったけどね。昨日もさ、第4章のエリサちゃんとのエピソードを1人で必死に頑張って終わらせたところだからさ。まあそれより、エリサちゃんって本当に、可愛いよな。俺のタイプ的にどストライクだったし、そんな絵描く人が、今度の新作の挿絵担当してくれるなんて光栄としかいいようがないよ。」
「有島君がまさか、エロゲーユーザーだったなんてね。驚きだよ。因みに私もやってるよ。ふふふ。もう全クリしちゃったけどね。」
そんなこんなで会議が始まった。会議の詳細は、編集者と出版社そしてイラストレータを担当するきらり先生こと吉岡アリス。そして原作者の有島悠之介こと、有村悠樹だ。
「それではこれより、有村先生の新作、エルフ嬢の剣聖記の出版に伴う会議を始めたいと思います。まず、今回の出版にあたり、有村先生が我が社に提供してくださった、原稿を元に、校閲作業をやらして頂きます。挿絵と表紙のイラストをきらり先生に描いていただくのですが、有村先生、要望はございますか。表紙のイラストの書き方なのですが、主役級の登場人物をメインに置く書き方。つまりは、最低3人の登場人物を等間隔に配置するというパターンか。メインの登場人物を中心に表紙に載せる書き方。そしてもうひとつが、主人公のエルフ嬢だけを中心に置くというパターンです。つまり表紙に載る人物は1人のみとなります。」
「僕は、エルフ嬢ともう1人のキャラクターを配置したいんです。」
「つまり、それは2人のキャラクターを置きたいという事ですね?」
「はい、そうです。しかも大きさ揃える感じで、結局あの小説は、エルフと主人公の旅の話なので。お願いします。」
編集者はメモを取る。そう、この大事な、会議ではある程度、キャラクターの配置図や、具体的なキャラの容姿の詳細、話の流れや、どのような文字数、ページ数にするかなどを具体的に話し合わなければならない。それだけでなく、発行部数の詳細や、印税の事など、より生々しい話も具体的になってくる。
「きらり先生に、イラストの時期ですが
一体どれくらいの期間を得て、描くことは可能になりますか。因みに発売日の予定ですが、9月の15日を予定か、10月の中旬を予定しています。それまで書き上げてくだされば構いません。まあお二人が、お知り合いだということがわかったので、お二人で話し合ってもらえれば構いませんが。」
「そっかぁ。でも表紙とイラストだけだったら、線画とか、色付けも全部合わせて、1ヶ月有れば十分間に合いますよ。なんて言ったって私は速さだけが取り柄なので。」
編集者に対して満面の笑顔をアリスは見せた。
吉岡アリスは、たくさんの量のイラストを一気に仕上げる。例えば、コミケに出す為のイラスト集なども2、3日で詰め込んで書き上げてしまう。それくらいのスピードにも関わらず、書く作品は殆どが壁サーに匹敵する。もちろん自分のイラストを壁サーに売るなんて事もあった。もちろん、始まって3時間で完売ということになるが。
それほどの人気があるので、きらり先生は、今ではオタク界では知る人もいないくらいの有名人である。
「かしこまりました。では締め切り時期ですが1ヶ月後を予定致します。またその時期になりましたらご連絡致しますので、よろしくお願い致しますね。」
会議が、40分程で終了すると、編集者は部屋を後にした。悠之介は、綾鷹にごりほのかの500mlを手に持ちペットボトルを口にする。
「吉岡流石だわ。ごめんな。俺のこんな変な小説の為にな。お前も忙しいのにさ。」
「いいよ。だってあたしも有村先生の小説好きだし。それに有島君だって知ってなんか嬉しい。すごい身近な人で良かった。そうだ。有島君、あたしね、葛飾ラノベ同好会、通称、葛同会に入っているんだー。うちの学校だけでなくほかの学校の人達も入って、ゆる〜くやっているサークルなんだけどさ。良かったら今度来ない??」
吉岡は、サークルチラシを見せてきた。そこには詳細な活動日程と中心には、恐らく吉岡が書いたであろうイラストが書かれていた。
「へえー、これってどういうサークルなの?」
「そうだなぁ。まあ、単純に自分達で書いた小説や、たまには同人誌をコミケとかで売ったりするサークル。でもね、二次創作にも力いれてるし、あたしもコミケに出れたのが、このサークルのおかげだったんだ。サークルで出したらあたしのイラストだけ、有名になっちゃってさあ。自慢じゃないけどさ。有島君有名じゃん。だから一緒にコミケ出ない??ねえ???」
「あーー、出たいっていうのもあるけどさ。俺、今、新作の方で忙しいんだ。だからさ!ちょっと考えるよ。」
そう悠之介には余裕が無かった。しかしコミケに出たいという願いを込めて、そして、吉岡と一緒に小説を書きたいという願いがあったからこそ、それでも今の優先順位は、新作小説である。
「さすが、有島君だね。決断早いね。でも強制はしないよ。それに今度、私と一緒に、やるんだもんね。」
吉岡は、強引という感じもなく勧誘を進めてきた。悠之介は決断を出せぬままだった。
「でもさー、壁サーに当選するの大変だっただろ。どれほど努力したの??。だって学業との両立も大変だろうなのにさ。」
「まあそれはね。でもあたし達、頑張ったんだよ。あたし、高2でこのサークル入って、その時は、壁サーなんか全然ダメなそれこそ、あたしが、同人誌の端くれの端の方で全然売れないブースでひたすら売り子続けるようなサークルだったのにさ。でもそれでもね、頑張ったの。ほかのサークルみたいに浸すら挿絵と表紙を書き続けてね。Twitterでもひたすら、勧誘して、だからあたしね。イラストレーターになったのは、このサークルが有名になってもっと売れて欲しいって思ったからね。」
吉岡は、席を立ち上がると、喋り始めた。
そして、自ら書いたという同人小説を出してきた。
「これがあたしの同人誌。是非読んでみてねー。まあでも、一般的に言われているエロ同人誌みたいに、過激なシーンとかは一切なしっていうか。それやったらサークルの名が穢れちゃうからね。」
「いやいや、何言ってるんだよ。吉岡、エロ同人誌こそオタクの境地だぞ。オタクが望んで、求めていた最高のエンターテイメントじゃないか。それを、考えちゃダメだよ。」
悠之介は少し、顔を赤らめながら、恥ずかしそうに言った。元々エロゲーが大好きな、悠之介からすれば、エロを極めるという事、それが、作家として重要すべき点だと考えてしまう事もあったが。
「有島君、なんか、すごいオタク熱だね。あたしからすれば、どうでも良いって思っちゃうけど。っていうか、場所変える、有島くん?
あたし行きつけのカフェがあるの。そこで色々話したいんだ。行こ。」