第1話 朝の登校
パソコン越しにサイトを見返す夜。アクセス数と、ランキングをチェックする毎日。高校生活の裏で常にそんな毎日を送っている。
部屋には無数に置かれたラノベと漫画の数々。壁にはラブライブのポスター。クローゼットには、DVDとゲームソフトの山。
そして彼は今パソコン越しに新しい話を考えている。明日までに提出しなければならない原稿。しかし明日は、英語の朝テストもある。
どちらが大事かって。それは小説である。
なぜなら彼は超人気作家、有村勇輝なのである。
(新しい話は、ここまでっと、はぁーー!。眠い。そういやー、今日まだなんも食って無かったなー。夕飯でも食うかー。)
悠之介は、机から立つと部屋を出た。
「悠之介。ご飯もうできてるよ。」
「うん。サンキュー。あー今日はあれかドリアか。母ちゃん。好きだね。昨日はミントソースだったし。」
ミートソースは、悠之介の母親の定番料理である。ミートドリアも。カルボナーラも。
ハンバーグも。とにかく美味しい料理をいつも作ってくれる。ありがたいことに。
「ミートドリアだし。お母さんも、作るの、好きだからね。悠ちゃんは美味しいって言ってくれんだけどね。パパは、全然言ってくれないんだもん。悲しいよねー。」
悠之介の親父は、最近出張が多く全然帰ってこない。まあ転勤も多く、色々大変なのはあれだけど。
そして夜は、悠之介にとって至高な時間だ。まずギャルゲーをやりまくる。そうハイトーンボイスの主人公の女の子の声がたまらなく好きなのである。
ただ勘違いしてはならない。彼はいわゆる眼鏡オタクではない。パッと見はオタクに見えない隠れオタクなのである。
そう1人で自分の部屋で、ギャルゲー「萌え萌えラブラブエンド」をやりまくる。
「あー、エルサちゃん。好きだよ。愛してるよ。可愛い声を聞かせてよ。来たー、来たー!!来たー!!!!。」
悠之介は、俗に言う、声フェチ、スタイルフェチ、顔フェチなのである。
『先輩、今日このあと一緒にお家へ行きませんか??』
ゲームの選択画面にはいといいえが出てきている。いやーこれはテンション爆上げである。
いわゆる十八禁のエロゲーとかだとこの後、あれがあるのだが。そのシーンばかり見たくなるのは、男の本能である。
(ダメだー、この後あのシーンを見ると、俺の中の何かが駄目な気がして来てしまうようなーー!!!ダメだー、俺のエルサちゃんがあんな声であんなことを言うのはやっぱり耐えられないわ。)
そうこのゲームの後ろには、スタッフロールが乗っているのだがそこに乗っているのがきらりという名前。超有名同人作家であり、イラストレーターである。彼女は、きっと凄い人なのだろう。殆どの作品が18禁のエロ漫画ばっかり。
そう冴えカノのエリリみたいなー。
でも彼女みたいに、ツインテールでしかも金髪で、性格悪かったらあれだけど。
いつも夜帰ってきてこのゲームをやって気づいたら、もう夜中になっている事もある。
それくらい三度の飯よりエロゲーが好きなのである。
『いや、先輩見つめないでください!!』
エリサ、とてもすごい嫌らしい声を出している。
気づいたら、もう、こんな時間だ。夜中の一時。寝なきゃならない時間である。
明日の英語テストなんか知らねえ。。
そして電気を消して寝た。
朝7時半。6時間半の睡眠時間はやはり眠さが残る。朝何気なく起きて支度をする。そう歯磨きなどをして普通に身支度をする。これがいつものスタイル。
ところが携帯を見ると何かメールが入っている。
出版社の編集者からだった。
『今度の有村先生の新作のイラストにきらり先生を起用しようと思っているのですが、いかがですか??』
(えっ、嘘??きらり先生、マジかよ。)
そりゃあ、確実にOKをするだろう。今度の新作のイラストレーターも誰にしようか迷っていた所だ。
「あーきらり先生と遂に会えるのか。」
ポツリと独り言を言ってしまった。通学路、いつもと変わらぬ川の土手なのに、なんかとても新鮮に見えた。そうこれが楽しみという感情を湧き起こすからなのか。
「おはよう。有島君!!」
そう挨拶をしてきたのは、青山妃乃。清楚系な黒髪ショート、制服がよく似合う女の子である。彼女は、とても可愛い。いやー、でも顔が、タイプだからといってそれ以上の感情はない。普通に喋って普通に帰って、一緒に学校行って、それだけで済ませれてしまう関係。
「おはよう、青山。」
彼女は成績もまあまあだけど。とにかくいい子だ。まああれである。いわゆる、学園ラブコメで主人公が一目惚れするヒロインのテンプレみたいな女の子である。
なんで悠之介と彼女がこんなに仲良くなったかって。それはまあ、そういう子が悠之介が好きだからである。
「ねえ、勉強してきた??英語の朝テストの勉強。やばくない、あたしね全然やってなくて、今日もね、朝早起きしてやろうと思ったんだけど、起きれなくてね。どうしよう。再テストとかやだよねー。」
「あー、俺もやってないんだよね。昨日ゲームばっかりやってたのよ。一緒に放課後再テスト受ける?」
まさか、エロゲーをやっていたとは言えない。
夜中の1時までやっていた事が彼女にバレたら、多分ドン引きされるのが目に見えてる。
そうこの荒明高校一のオタクが、結構清楚系の美少女と仲良いってこと自体が、凄い奇跡なのだが。
「で、お前の新作はどうなんだ?もう原稿書き上がったのか??」
話しかけてきたのは、片山龍平、悠之介が、ラノベ作家であることを知っている数少ない友達の1人。
「ああ、一応ね。エルフ嬢と出会い、人生のK点を迎えた話ってタイトルにするつもりなんだけどなー。」
龍平は、またいつものお得意の褒めで、悠之介を褒める。そう褒め上手である。
「やっぱりなろう系で攻めるのか。面白いねえ。流石50万部以上人気のラノベ作家。で何?いつ発売されんのよ?」
「いや、まだ2ヶ月位先だけどな。校閲とか、イラストレーターとの打ち合わせもあるし、出版社ともまだちゃんと契約してないからな。、それよりさ、きらり先生が今度の新作のイラストレーターになる事が決定したのよね。俺の憧れのきらり先生が。」
「誰それ??」
龍平が質問してくる。
「えっ知らんの。バリバリコミケにも出てる超人気イラストレーターよ。俺の好きなエロゲーのイラストも担当しているというね。この後、学校終わったら編集者と三人で打ち合わせって言うね。どんな人かなーって楽しみなんだよね。」
悠之介は、学校に内緒で持ってきている、ゲームの裏のスタッフロールを見せた。
そこには平仮名できらりと書かれている。
「なあ美人だったらどうするよ??案外多いんだぞ。同人作家だけど凄い美人な人。」
「何がなんにしろ、楽しみだよな。俺の新作のキャラを書いてくれる人が遂に現れてんだからな。」
悠之介は、放課後に会えるという事を胸に、仕舞いながら、英語の朝テストに臨んだ。