第五話 「冒険への序章」
エンキ師の引き締まった表情を眺めているうちに、俺は次第に緊張感が高まってきて、唾をごくりと飲み込む。
ランプが煌々と輝いている。暖かい光だった。
「少し座るか」
と師が言った。
そうして、俺たちは腰を下ろした。
柔らかさを含んだ、骨董品のイスだった。
師が、本棚に向かって手をかざすと、一冊のアルバムが飛んできた。それは、俺が昔いた世界の記録のアルバムだった。
「これは、お前が、昔いた世界の記録だ。ここには、ハルヒトの家族と過ごした日常が写し出されている」
彼はページをめくる。そこには、俺の姿、姉の姿、さらには両親の姿や、家の間取りまで、鮮やかに写し出されている。
母親の笑顔、父親の働く姿、姉の柔らかに微笑む表情まで、ハッキリと見える。
俺が昔いた世界を、こうも鮮明に思い出せるのは、このアルバムがあるお陰だ。
「思い出せるか」
と師は言う。
「あの時、ソキはお前の中に、赤い珠のようなものを入れた。と」
「ええ。確かにそれは赤く発光していて、ものすごい熱を秘めていたんです」
僕は答える。
「詰まるところ、これだろう」
師が、俺の胸に手をかざす。すると驚く事に、俺の心臓の部分が、光だしたのだ。
「えっ」
俺はいささか驚いた。
エンキ師は、俺の心臓部にある赤い珠の正体を、知っているのか、と思い、
「先生は、ご存じなんですか、俺の身に巻き起こった事の正体について」
エンキ師は、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「…………ソキは、悪いやつではないのだよ。しかし、お前の胸にあるそれは、おそらく勇者の石だろう」
「勇者? の石?」
いまいちピンと来なかったが、ネーミングセンス的にはあまり悪いようなものではなさそうだった。
それよりも、師がソキについて何か情報を知っているような素振りだったから、その事にも興味があった。
「俺が勇者になるのですか?」
興味半分で聞いてみた。そういう事ならちょっと面白いと思った。
「違うな。厳密には」
と師は言う。
「勇者を集める石だ」
困惑している俺を見て、師は続ける。
「仮に、お前が本当にこの腐った魔法学校を変えたい、というのなら、旅に出ればいい。いや、むしろ旅に出て根本的な原因を見つけ解消しなければ、ならないのだよ」
「はい」
と俺は答える。
「その時、お前の回りに集まる同士たちは、お前のその胸の光に導かれやってくるのだよ。ソキは、その為に石を与えた」
「あの先生」
と俺は問いかける。
「ソキを知っているんですか」
「まあ、昔の話だ」
彼はうつむき、少し笑った。