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悪の組織のスカウト。

 次の日の朝――


 寝起きのゆるい頭でついお姉さんを『おねえちゃん』と呼んでしまい、抱き着かれながらのもう一度(リクエスト)に五回くらい答えたあたりで、完全に目が醒めた。

 お姉さんにスマホの撮影機能を使う機知が働かなくて本当によかったよ、それと腕力が意外にガチで、このままだとお気に入りのぬいぐるみとして一生抱えられそうな気がした。本気で嫌いになるよ? の一言で離れて貰ったけど。

 それから僕はまたお姉さんに甲斐甲斐しくお世話され一緒にご飯を食べた。その恥も外聞も無くあ~んをする様子に、桃香さんが、

「新婚さんみたいね?」

「じゃあキスした方がいい?」

「――ふふ、していいのならするわよ?」

 上段の流暢なパス回しの中、お姉さんに余裕で一蹴された。冗談だからそれでいいんだけど、全く相手にされてないのも不服で、

「……本当に?」

 僕は負けじと純情ぶって、本気っぽくじっと見つめる。と、お姉さんは、

「……まずは恋人になってからね?」

 小声で、その、ちょっと本気っぽい言い方、すごくドキドキしちゃうよ――って、クスクス笑わないでよ。

 負けた。ドキドキさせられなかった。

「逃げられちゃったわね?」

「……大丈夫だよ、必ず追い付いて、追い越すから」

「――もう、冗談はここでおしまい」

 微笑まし気に笑うけど、ちょっと耳が赤くなっている、これは一本取り返したのかな?

 そんな中、朝のニュースがなんだか騒がしかった。

『えー、昨夜行われた緊急閣議の結果、これより通称・魔法少女と呼ばれる特殊能力者の治安維持、及び自警活動を国として容認し、彼もしくは彼女らの、個人情報並びに生活の保護、そしてこれらを犯す者への法的罰則が義務付けられることを明言し――」

 テレビの中から溢れるほどのフラッシュを連続で記者にバシャバシャ焚かれながら、どこぞの議員さんが脂汗塗れで語っている。

「……あら、昨日の夕方からのニュースで言っていたこととは全然逆ね」

『――その詳細な内容についてはまだ議論中ですが、まずはマスコミに限らず一般人も対象への撮影行為を禁止する予定であり、』

 それから、映像、画像等の単純所持も禁止、本人からの許可が出ている場合は可、後日魔法少女側から取り下げの要請が出た場合は速やかにそれを優先する。

 などなど、現時点で検討されている内容が発表される。

 この人は以前から魔法少女の危険分子扱いを一貫していた人物だった。昨日もニュースに生出演して大声で自身の方針を発信していたそれが何故、このような手の平返しをするのか。

「……いったい何があったのかしら」

「さあ? 政治家さんの二枚舌はいつものことでしょ?」

「あら修くん、悪い言葉を知ってるのね?」

「ええ? 映画とかドラマを見てればそういうの色々出て来るよ?」

 僕はテレビを見ずそう答えるけど、当の魔法少女であるお姉さんは、突然、国に自分の活動が保障されるなんて不思議でしょうがないんだろう、

「……」

「……どうしたの、お姉さん」

「ううん――なんでもないわ?」

 それから、僕の事を見ていたかと思えば、すぐにテレビを眺めて世間の様子を窺っていた。

 朝食を終え一旦家に帰り、AIにお詫びとお礼を言ってから今日の学校の準備を鞄に詰め込み、昨日の報告をスマホでさっと確認してから家を出てすぐにお姉さんと合流する。

 そして、高校と小学校との岐路でさよならをしたその十秒後――


 黒塗りの高級車に僕は確保された。


「……ええ~、昨日の今日で?」

「ごめんねぼく? 上からの命令でね? これも仕事なの、逆らえないの」

 ふかふかのシートの座り心地をふよんふよんと確かめる僕の隣には――そんな僕にしっかりシートベルトをさせるスーツ姿の幹部さんが居た。

 そういう社会のルールはしっかり守るんだね? でも、

「悪の組織も縦社会なんだね?」

「そうなのよぉー、ともかく、大首領様からなんか君にお話があるから、とりあえず聞くだけ聞いてくれる?」

「この怪我の謝罪なら受け入れるけど放っておいてくれた方が助かるかな?」

「それは君があんな無茶するとは思わなかったから――でも、ごめんなさいね?」

「それはどういう意味で?」

「怪我の事もあるけど、当然話を聞くまで帰さないって意味。――ハイついた、降りて降りて」

「着いたってどこに?」

 車のドアを開け、車道から歩道に降りる。

 その前から分かっていたけど、僕らが住む街のラーメン屋、リサイクルショップ、スーパー、居酒屋に楽器屋、靴屋に眼鏡屋……。

 大きめの通りにある、雑多な、いつもと変わらない景色だよ。

 悪の組織が強引に人を確保して向かう先としてはいささか疑問が残っちゃうかな? お侘びにこれから好きな物を買っていいとか言われるなら納得できるけど、本当に一体何の用なのかなと思っていたら、

「秘密基地よ秘密基地――」

「へえ、ここが――」

 その中の一つ、幹部さんは漫画喫茶『メイドINじゃぱん』と看板が掲げられたお店に足を向ける。

「スマホの普及で廃れがちなネットカフェを、大正ロマン風の漫画&執事&メイド喫茶に改造をした、組織自慢の慰安設備の一部よ?」

「……ふうん」

「なによその渇いた返事は」

「ううん、中に居るのは自分を悪の組織と信じる可哀想な人達なのかなって……」

「――い・い・え! あと、客層は割と主婦が多いのよ? それとフリーターに定年退職したおっさん……平日やることなくて暇なのね」

「何よりの贅沢だね」

 幹部さんに連れられとりあえず自動ドアを潜った。それから意外に可愛いキャラクターものの財布から会員カードを取り出し、受付に差し出し、

「VIP席、カップルシート空いてる?」

「えー、カップル? 僕他にちゃんと好きな人いるよ?」

「はいはい、今だけだから」

「……二番が空いております――こちらの鍵をどうぞ」

 悪の組織のスタッフ(?)から幹部さんがそれを受け取り、連れられて奥に行く。

 初めて漫画喫茶に来たけど、中は意外に明るかった

 テレビで見ると薄暗い個室が並んでいるけど、学校の図書室みたいに大きなテーブルに、各席軽いしきりがあるだけのお一人様仕様で窮屈さは感じない、風呂に入っていないオタクの異臭や閉鎖環境独特の臭さもない――

 そこを通って、さらに奥、完全な個室が並ぶ区画へ行った。

 対応する数字の部屋をカギで開け、中に入ると幅広な革張りのリクライニングシート、机にパソコンと古いVRゲーム機があった。

 幹部さんはそのHMDヘッドマウントディスプレイを僕に渡してくる。

「……ええ? ゲームするの?」

「違うわよ、これで首領と話すの」

「えー、本棚が開いて奥に通路とか移動用のワープ装置とか怪しい研究設備とかは?」

「そんなの無いわよ、ていうかいきなり本拠地に案内するわけないでしょ? 首領の正体とか含めてその辺機密情報なんだからね?」

「へえー、そうなんだー」

「首領様は寛大な方だけど、子供なりにでいいから礼儀正しくしてね?」

「は~い」

 それぞれ機械の電源を入れ、ゲームのコントローラーを持ち仮想世界に入ると、殺風景な黒の宇宙を蛍光色のグリッド線が仕切るレトロな亜空間が広がっていた。

 幹部さんは本人そのまま、スーツ姿じゃなくエッチな軍服姿でそこにいて、僕はどうやら古いポリゴンで作られた三頭身のアバター姿だった。

 現実の頭を動かすと、二頭身の頭と視界が動く、けど、足での移動やアクションは手に持つコントローラーでするみたいだ。

 本当に大分昔の機械だ、今時完全没入型でないなんて珍しい。

 そこに、

「――首領様」

 一連の出来事の、首魁が入室した。

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