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お姉さんと僕と、幹部さんと。

 くそ、散々男の事をえっちとか変態とか言ってるのに、下ネタになると男以上に下品でえげつない発想を醸し出すとんだ恥知らずさんめ!

「だ、だめだ……だめだよお姉さん……」

 子供の下着に問答無用でマジックで名前を書くなんて――そんなアホな悪魔のような組織に所属するなんて僕なら絶対にダメだ、そんなところにお姉さんを行かせるなんて、絶対許せない。

 だけど今か今かと油性ペンの蓋をキュポキュポ開け閉めを繰り返しちょんちょんとパンツのゴム部分に押し当てる幹部さんに、お姉さんは苦渋の表情を浮かべた。

 そのとき、僕はお姉さんが決しようとしているのか分ってしまった。

「……ダメ、絶対ダメだよ!」

「ほらほら、もうすぐこの子はママが居ないと何も出来ないボクちゃんになっちゃうわよ~?」

「そんなの構わない、全然構わないから――っ!」

 このままでは、ぼくが全身タイツとズダ袋に捕まったせいで、お姉さんが破壊活動も行う自己主張が強烈なおバカ集団の一員になってしまう、そんなの絶対嫌だ。

 お姉さんちょっと天然な所あるから、絶対シナジーがあるもん。そんなことになったら一瞬でギャグ担当に早変わりだ、そんなの絶対嫌だ。

 でもお姉さんは、僕の事を見て、

「…………わかったわ……」


 それは最悪の決断だった。

 お姉さんは瞼を閉じ、僕は眼を見開いて、幹部さんは嘲笑を浮かべる。

 片膝を、折る。

 まさかこんなことになってしまうなんて。

 お姉さんは粛々と両手を地面に着き、諦観に首を垂れる。そのうなじを掴み、幹部さんはお姉さんを振り回して僕の足元に投げ捨て転がした。

「ぐうっ?!」

「そうそう、もちろん『絶壁』も『お局様』も『名前ダサい』もフルセットで顔面に刻んであげるわ、ついでに将来を見越して『魔法少女十年選手!』『永遠に○○歳』もね、どうだい!?」

「……あなたに、従います……だからどうか、修くんだけは、助けて……」

 敗北の時が近付いている。

 埃と泥だらけになりながら、健気に、変わらず地面に顔を向けそれを告げたお姉さんを、幹部さんはあごを掴んで無理やり上に向かせた。

 哀しみと痛切に彩られたお姉さんのそれをみて。

 嗜虐に愉悦の表情を浮かべる。

「……ほおら、よく見るんだよ? 大好きなお姉さんが不様に負けちゃうところをさあ……!」

 じわじわお姉さんの顔の角度を変え、嗤いながら僕に視線を送る。

 幹部さんはお姉さんが穢される姿を僕に見せる為に――いや、わざと僕が見ていることをお姉さんに教える為にそうしているんだ。

 ちくしょう、ここぞとばかりに悪役ムーブをしやがって。

 顔にベタなコントみたいな事を書かれる理不尽と、それを僕に見られる恥辱にお姉さんは眼を閉じ、無力にも従順にその身を晒そうとしていた。

「……戦って、戦ってよお姉さん!」

「……ごめんなさい……」

 その目尻に、じわりと涙が浮かんでいた。

「――戦ってお姉さん!!」

 それでも僕の為に、立ち上がろうとしない。

 真っ黒な油性マジックの太い方を、キュポッと剥き出しに近付いてい行く。

 お姉さんは、それでも僕を見捨てず守ろうとしていた。ちっぽけな僕の平和を守ろうとして、自分の全てを投げ出そうとしていた。

「……ダメだ、ダメだダメだダメだダメだ、絶対ダメだ!」

 こんな奴にお姉さんに手を出させたくない! 僕は遮二無二に手枷を外そうとする。上下左右、手当たり次第に手首回して引き剥がそうとしそれでも外れない、金属の分厚い手枷は、十字架に縫い付けられた僕の手を容赦なく標本のように磔にし続ける。

 それでも、僕は頭を真っ白にして全力で全身を振り乱す。

 それでも揺らぐことのない手枷と勝利に、幹部さんはもう僕の事を無視していた。

「はは、これが終わったら首輪につないでご町内を一周、その後私の足の指でも舐めて貰おうかしら」

「そんなの許さない、絶対許さない! ――そんなことをしたらお前を絶対ぶっ飛ばしてやる!」

 手首が痛い、骨が軋む、血が流れているような気がした。

 だけど、何も出来ない。

 ぼくはまだお姉さんに何も出来てない――

 骨が軋んで、皮膚が焼けそうなほど痛いけどやけくそに暴れまわった。

「五月蠅いんだよクソガキ――ってやだ、血が出て!」

「――僕はお姉さんを守るんだ! 一緒に戦えないけど、せめてお姉さんの心は守るんだ! ――絶対に守らなくちゃいけないんだあぁあああああっ!!」

 僕は絶叫した。心臓が裂けるほど心の底から――魂の底から。

 その瞬間、ずるりと何かがズレた気がした。

 そして、

「――修くんっ!!」

「へっ?」

 光が爆発した。


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