僕は悪の大幹部。
大受けしていた。
うーん、嫌われたくて大人をコケにしたけど逆に気に入られちゃった?
「ますます君が欲しくなったよ――君は今の我が組織に、絶対必要な人材だ!」
……一体この人達は何を目的にしているのかな?
僕はばれない様にアバター越しこの人達の様子を窺う。
「ちょ、首領様! まさか本当にその小学生を首領様直属の監査官にするおつもりですか?!」
「何を言っているのだ、その情報・電子工学技術だけでなく精神面でもうってつけの人材じゃないか!」
「えー、ちゃんと人の話聞いてた首領さん、そんなの嫌だよ」
「ははは! そう言わないでくれ、そのかわり待遇はいいぞ? それに君の憧れのお姉さんにとっても有益な話になる!」
「――魔法少女のお姉さんに?」
プリンセス・ナデシコ、とは呼ばない、正体ばれるから。
問題はそこじゃなく、
「気になるかね?」
「ちょっとだけね?」
お姉さんの為ならえんやこら。うわ、この子チョロ、とか幹部さんが言ってるけどそれは褒め言葉だよ?
「掻い摘んだ話、うちは結構な大所帯でね? 古くからの歴史もあるんだけどその創業理念の曲解とか経費の使い込みとか、ここに来るまでの経緯から自分のやりたい事なら何してもいいみたいな子がいつの間にか増えててねー? そういうところ綱紀粛正したくてその人材に君を充てたいんだが」
「それのどこがお姉さんの為になるのさ」
「無駄な戦闘が減るだろうね、組織の改革中は業務内容から人員整理まで順次見直すことになるから活動は緩慢になるし、しばらくの間はお姉さん大助かり」
ある意味でお姉さんと共闘することになるのかもしれない。
お姉さんは外から、僕は内から。
あれだね、主人公のライバル的な立ち位置で、敵だけど主人公の志の高さに共鳴、自分以外に倒されるのは気に食わない、とか言って、最後に背中から刺されるか首領を道連れに必殺技を喰らうやつだ。
ちょっと燃えるかも! それは妄想として、大ざっぱに悪の組織の中でルールを逸脱した更なる悪を懲らしめるってことか。
悪の中で悪を裁く、みたいな?
「……それならいいかな? 最近お姉さんホント忙しそうだし」
「いいのかい? 話しが早くて助かるが、本当にいいのかい?」
「いいよ? 学校終った後、大体三時四時過ぎくらいからのバイトになっちゃうけどそれでいいなら――あ、あと働けない歳だから給料は現物支給で組織にある欲しいもの貰える?」
「あ、ああ、それくらいお安い御用だ、出来れば高い備品は持って行かないで欲しいが」
「そういうのは使わせて貰うだけにするよ」
きっとすごい技術が目白押しなんだろうな、パクれるものはパクらせて貰うよ、きっと特許なんて取ってないだろうし。
「いやあ助かるよ、上も下もその間も結構今の組織に染まっちゃっててね? 中々公正な判断が下せなくて思い通りに改革が進まなくてさあ……組織に染まっていない常識と能力のある君みたいな人を探してたんだよ~、これで組織も健全になる!」
「――それで僕の組織内での具体的な立場と肩書は?」
「そうだな、立場上は私直属の、監査部長官兼技術士官だが、その仕事の性質上、各部署とその代表に命令を下せる権限と権威が必要になるし……となると四天王より上、私に次いで二番目くらいの――うん、大幹部でどうかね?」
「いいね、なんかカッコイイ」
けど首領さん、この仕事、僕へのメリットは説明しているけど、致命的なデメリットは話してないよね?
それってお姉さんにとってただのマイナスだと思うんだけど。まあ、お姉さんの味方っていう僕の立ち位置を鑑みたら当然なんだけどさ。
そういう不誠実さは、いずれ自分の足元をすくうよ?
ふふふ、ふふふふふふふ――
高級車の後部座席で相向かいに座りながら、僕は外の景色を眺める。
僕は今日から悪の組織の大幹部か……。
うん、ちょっとわくわくする。
「――とりあえず、学校へ送るわよ?」
「ありがとう幹部さん」
「それにしてもあんたほんとバカよねえ、まさか本当に組織に入るだなんて信じられないわ」
「そう言わないでよ、こっちだってのっぴきならない事情があるんだからさ」
お姉さんの平和っていうね、ついでに僕の秘密を知ってるわけだし、それで直接脅そうしてはいなかったけど実質それだけで脅さなくても脅しているようなものだ。
まあ、悪としての礼節は弁えてるんじゃないかな? 利用価値がある内は飴玉をふんだんにくれそうだ。
「それで、コードネームはどうするつもり?」
「え? なにそれ」
「あんた人生捨てるつもり? こっちはただでさえ法を逸脱しているのに実名で悪さするなんて即警察に御用だからね? 魔法少女だって本名でやってるわけじゃないでしょ? 私だって黄金の蒲公英って源氏名があるのよ?」
ほぼほぼ実名でやってる人もいるけど。
幹部さんそんな名前だったんだ……一般人の僕に怪我をさせたってことでさっそくペナルティーで僕の部下として扱き使われることになったけど。
僕もそんなコッテコテの芸名を付けられてしまうのかな?
「そうなんだー、ていうか、それって自分でつけるの?」
「特に無ければ首領が適当に付けるけど、希望があれば申請して? 被ってなければ通るけど三つくらい用意しておくといいわよ?」
「ううん、特に思いつかないからいいよ」
「それから今度の休み、組織が保有している各施設を案内するから予定はあけておいてね?」
「うん、わかった」
……、それにしても。
この人若干口が悪いけど、
「なによ、」
「ううん、意外に面倒見のいいお姉さんなのかなって」
業務連絡の端々に、心配やら忠告やらアドバイスやらが混じっているんだよね、本当に面倒を見る気が無い人はそういうことはしないから。
「ふんっ、褒めたって何も出ないんだからね?」
弱ツンデレ、頂きました。
多分、この人本当はちゃんとした人なんだ。
ただ運命的に廻り合わせが悪いのか何かで、そう見えてしまうだけなんだろうな。
「――あ、ねえ、これからは何て呼べばいいの? ライオンさん? ゴールデンさん? コードネームも年上の部下も初めてだからよく分らないんだけど」
「――はぁ、……ライアでいいわよ年下のぼく?」
「うん、じゃあライアお姉ちゃんで」
「やめなさい気色悪い」
「ええー、年下扱いしたんだからお姉さん扱いしないとダメだよ~」
「このクソガキ……」
気苦労が堪えない中間管理職、大変だね、ライアお姉ちゃん。
これで一章部分終わりです。
二章以降はこれから下書きなので、しばらく間が空きます。
あと閑話が一つ、内容は、おねショタお風呂回。