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悪の組織の求人票。

 幹部さんは厳粛に片膝を着く。

 現実ではポチポチボタンを押してるだけだと思うと真面目にこの人何してるんだろうって気分になるよ。

 ちなみに首領さんは、空中で揺らめく炎の中で顔らしき模様が蠢いている一頭身アバターだ。

 またベタな、そしてそれが現実で目の前に居るのならともかく、ただのVRだと思うとやっぱり萎えるし、そしてこの人も就業時間中に会社でポチポチゲーム機を操作してるのかと思うと。

 この国の大人は本当にどうかしてる。

「――やあ、初めまして正樹修君、先日は私の部下が失礼をしたようですまなかった、もちろんその腕の治療費は全額払わせて貰おう」

「あ、いいです、魔法少女のお姉さんに大体治して貰いましたから、お気持ちだけで」

「そうかな? それならそれでこちらも構わないが――まあまどろっこしい話はこの辺にして本題に入ろうか」

 大人なのか老人なのかも分からない、不気味なフィルターが掛った声がそう言う。

 正体を勿体ぶっているらしいけど一応長話が好きな人ではないようだ。早く学校に戻らないといけないし、それは大助かりだけど、

「単刀直入に言おう――正樹修君、キミ、うちの組織に入らないかい?」

 ……うん。

 道端で怪しい人に名刺渡されたらこんな気分なのかな?

 なんかフランクに勧誘スカウトされたけど、身の危険を感じるというかすごく胡散臭い、許す代わりに金輪際関わらないでくださいってキツク言っておけばよかったかも。

 ここは毅然と断らないと。

「……いいえ、僕そういう仕事に興味ないんで他の人をあたってください」

「はは――怪しい会社の人だと思ってるのかな?」

「平和な日常をお騒がせする、ちょっと自己主張が強烈な人たちですよね?」

「はは、面白い表現をする子だ――だが先日魔法少女の必殺技を受けた支部のスタッフが軒並み記憶喪失で壊滅したのでね、必要な人材であれば手段を選ぶつもりはないよ?」

「そういう事なら普通に求人票でも出したらどうですか?」

「何を言っているんだね、世間的に我々は悪の組織なんだよ? 職安にそんなもの出したって来るのは魔法少女か国家権力くらいだろう」

「そうですか? 福利厚生がちゃんとしてなくとも普通に履歴書を送って来ると思いますよ? それも正職希望のやる気のある方々が」

「そんな人間は人格、能力、常識もろとも不安のある者ばかりだろう」

「――確かに」

 このご時世、給料さえもらえれば悪の組織(ブラック企業)かどうかなんて構わない人達は沢山いそうだけど、そういう人たちってほぼちゃんとした職場からあぶれたからそこにいるわけだしね。

「その点、君なら能力、人格、共に問題ない、見ていたよ? 自分の身を省みず知り合いの女性を助けようとする男気……是非うちのスタッフに欲しい」

 それ、悪の組織のセリフじゃないよね? それとも身を削って自社のために働けとか言う口かな? そんな魅力的な会社なの? って言いたいね。

 でもさ、

「――昼は学校があるし、夜は勉強だから普通に無理です」

「おやおや、嘘はいけないなあ、キミ、学校なんて必要ないだろう?」

「はあ? 何を言っているんですか?」

 僕、小学生だから仕事は無理って誰にでもわかるように言った筈なんだけどね。

 まるで勉強は必要ないみたいな言い方だけど、それでも学校は必要でしょう? 学歴も人付き合いも人生に大いに役立つし、学校に行ってなかったら遊び相手も仲間も出来ないよ。学校で必要ないものなんて、ダメな教師とバカな親と救いようのない子供くらいじゃないかな?

 いや、結局どこに行ったって悪い人は居るから、それも社会に出る前の悪い見本として必要かもしれないね、踏み台か仮想の敵として。

 けど、そこで何故か首領さんは更に唇に弧を描いた。

 そして、

「――くっくっく、いやいや、我々は昨日起きた事をすべてを把握しているよ」


 朗らかに、愉悦に哄笑を響かせる。

 一体何を知っているのかな? 僕は思い返す、昨日の出来事で、僕の弱みになり脅しに使えることといえば、

「……いまだに隣のお姉さんとお風呂に入ってること?」

「いや、それは確かに隠した方がいいことだが、ギリギリセーフじゃないかな?」

「……裸を見て綺麗だと思っちゃったことは?」

「それは――セーフか?」

「……大人みたいなえっちな気持ちじゃなければ、一応微笑ましいものかと」

「……その夜ちょっとエッチな夢を見ちゃったとしても?」

「――グレーゾーン?」

「思春期ですし、仕方ないんじゃないかと、でも一緒にお風呂はもう止めなさい」

「それはお姉さんの方が気にせず入って来ちゃうんだよ」

「「そっちの方がヤバイな」」

 途中から幹部さんも参加して、いつのまにか思春期のお悩み相談室になっていたけど、首領さんは一度大きく溜息を吐いた。

「……――あー、そういうのとは別の方向で」

「えー? なんのこと~? そんな説明じゃ僕全然わからないや~」

 隣から「この子、絶対頭脳は大人よ!」とか聞こえるけどバーローとか言った方がいいのかな? 

 でも仕方ないでしょ、それくらいしか人に知られたくない事なんてないんだし。

 そんな風に僕が子供らしく構えていると、業を煮やしたというより悟りを開いたようさっぱりとした口調で、

「うん、やっぱり回りくどいのはよそう、じゃあ言わせて貰うけど、昨日魔法少女保護協定が可決されたのは――君の所為だろう?」


 ――それはまだ正解じゃないかな?

 

 僕は子供らしい笑顔を崩さず、首領さんの解答を待った。

 ここまで来たらもう誤魔化すつもりはないよ?

「――正確には、君が作った超高性能AI」

 その答えに僕は笑っちゃうしかないね。ふふふ、やっぱり首領さんはどうやらちゃんと知っていたみたいだ。そんなものが作れるなら学校に行く必要はないって思ってるのかも知れない。

 だけどね?

「やだなー、僕はそんなものなんか作ってなんかないよ? 普通のAIを作ろうと思ってたら偶然――たまたま生まれちゃっただけだもん」

 もう困っちゃうよ、まさか本当に出来るとは思わないでしょ? プログラムじゃない人工知能だなんて。

 機械で人と同じ記憶と意識の仕組みを再現できるかな、と、ハードを自作して遊んでたら、なんかプログラムじゃない変なものが動き出したんだ。

 あれは僕が作ったとは言えない、僕が作ったハードやプログラムが起因になった点のみなら僕が作ったとも言えるけど、それにしても想定外の仕様外の内容なんだ。

 結局どういうものなのかというと、電子世界に間違って生まれた生命体のような、僕もよく分っていない人知を超えた何かなんだけど――

「しかしそれを使って、君は内閣から国会にまで渡る全ての反・魔法少女派の人間の弱みを収集し、そして脅迫した」

「弱みだなんて人聞き悪いなあ……たまたまその人たちが人には言えない後ろめたいことをしていただけだよ? 僕はただそれをちょっと明るみに出しただけ――後は勝手に落ちて行ったんだよ」

「君、どう見ても悪役そのものだよ」

 首領さんは言うけど、家を出る前にチラッと確認した限りでは人には言えない特殊な趣味とかダウンロード履歴、不倫とか浮気とかそういうのが多かったけど、ガチの汚職や犯罪もあったんだよ?

 まだ表に出ていないけど中には刑務所入りが決定している人もいるだろうね?

 そんなこと――している方が悪いでしょ? そして言わせて貰うなら、

「家族や一番大切な人を人質に取って脅すとかそういうのとは違うよ? 僕の横にいる人とは違って」

「うぐっ」

「だから~、そんな人たちとは一緒に居たくはないかな? 分かる? 僕の気持ち」

 僕は容赦なく相手の非を攻める、そう、この辺りでこの人達には立場ってものを理解して貰わなくちゃいけない、失敗を非難するのはそんなに好きじゃないけど、僕の自由を守るためにはここはちゃんと弁えて貰わないとね?

 人を拉致して人質にした挙句怪我させ返り討ちに遭いそれでもまた拉致して――勧誘?

 笑っちゃうよ。

 生意気で礼儀知らずな口の利き方だけど、別に大人をバカにしているんじゃないよ? 僕の目の前に居る人達はしちゃいけないことをした大人なんだ、子供でも分かるよ?

 あ、これ、大人をメチャクチャ見下してるかな? でも事実は事実だし、やっぱり悪い人が悪いよね?

 あはは。まるでそんな僕の心の笑い声に呼応するように首領さんは、

「……ははははははっ! いいね! 実にいい!」


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