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『聖なる夜の贈り物 ~前編~』

原作「英雄になる条件、教えてあげましょうか?」の番外編として、

2018年12月25日に掲載をしたXmas特別編です。


本編が読みづらくなるので、別で掲載しております。

 粉雪がゆっくりと、白い妖精のように舞い降りる頃。


 五歳くらいの少女が、真っ赤な生地の裾に白い帯を巻いたような角帽子と上着とスカートに着替えていた。


 そして、身の丈以上はある大きな鏡に向かい、ホーリーリーフという魔界に生息するギザギザとした葉が特徴的で、丸くて赤い果実を実らせる植物をモチーフに、母親が手作りをしてくれた髪飾りを手に少女は、嬉しそうに満面の笑みで髪を止める。


「スフィア、準備は良いかい?」


 扉を開けて部屋の中に入って来たのは、スフィアと同じような色合いの男物の衣装を着た優しそうな顔をしている父親だった。


「お父様! どうですか? 似合っているかしら」


 少し照れくさそうにしながら、チラチラと父親の顔を見るスフィア。


「ああ、とてもよく似合っているよ。まるで、おとぎ話に出てくる妖精さんのように可愛いぞ」


 ちょっとだけ、おませな性格をしていたスフィアは、大好きな父親に褒められ、ご満悦の様子で、にっこりと微笑んだ。


 するとそこへ、


「きゃぁ! かわいい、かわいい!」


 スフィアの可愛い衣装姿を見て、興奮気味に一つ上の姉シェイネが部屋に飛び込み、有無も言わさずに、ひたすら溺愛する妹に頬ずりしたり、撫でまわしたり、あらゆる手段を用いて愛でまくる。


「あぅ~。シェイネお姉様も、すごく可愛いわ! まるで妖精さんみたい!」


「それ、お父様がスフィアに言っていたのと同じでしょ」


「てへっ。バレちゃった」


「可愛い妖精さんは、悪戯好きなんだぞぉー」


「きゃっ」


 幼い二人は、これからの予定のことなど、すっかり忘れて大はしゃぎで遊び回っている。


「こらこら、遊んでいる暇はないぞ」


 父親の言葉に、予定を思い出したシェイネは、逃げ回るスフィアを捕まえた。


「「幸せのおすそわけ!」」


 二人は顔を見合わせて、無邪気に笑いながら言った。


 幸せのおすそわけは、魔女の一族の長であるセーラム家が、日頃の感謝を込めて年に一度、プレゼントを配る恒例行事。


 魔界の頂点に君臨するサタン王に、献上する品物を包む際に用いられる特別製のクロスで、贈り物を包むことから、この日をサタンクロスというようになり、今では他の魔族の長たちも、セーラム家に習い、この日をサンタクロスの日と定め、感謝を込めた贈り物をするようになった。


「みんな、贈り物はソリに詰み終わったかい?」


 父親は色とりどりの飾り付けがされた大広間へ女王である妻と十三人の娘たちを集めると、家族を微笑ましそうに見つめながら訊いた。


「「「準備はバッチリ!」」」


 セーラム家の一大イベントというだけあって、家族全員やる気に満ち満ちている。


 去年、一昨年とタイミング悪く風邪で寝込んでしまっていたスフィアは、今回が初めての参加で、家族揃ってのサンタクロスはスフィアが生まれてから初めてのこと。


 ワクワクが止まらないスフィアは、鼻をぽっと丸くしながら興奮気味に落ち着かないスフィアと、それを愛おしそうに見ている両親と十二人の姉たち。


「さあ、感謝と笑顔を届けに行こう!」


 笑顔溢れる中、父親の気合の入った一声で、大盤振る舞いのサンタクロスが始まった。



 ◇◇◇



「はい、どうぞ!」


 スフィアが真っ白い綺麗なサンタクロスで梱包した贈り物を自分と同い年くらいの女の子に飛び切りの笑顔で贈り物を手渡した。


「わーい! ありがとう、スフィア様!」


 と、それに負けないくらいの笑顔を満開の花のように咲かせて喜んでいる。


 贈り物は貰えるだけでも嬉しいものだが、事前に何が欲しいのか一人一人に訊いて回り、準備したものだから、本当に欲しかったものが贈られている。


 感謝を込めた贈り物なら、欲しいものを贈った方が絶対に良い。


 これは、一番に喜んでもらえることを最優先に考えた、スフィアの父親の粋な計らいでもある。


 もちろん、それは多くの人たちに感謝の気持ちと喜びを届けることができた。


「本当に素晴らしい方たちだ」


「私たちも精一杯、お仕えしなければ」


 セーラム家が全員揃って、贈り物を配って回る姿を見ている者たちは皆、口々に言った。


 決して、魔女の一族の長だからと威張り散らすことはなく、常日頃から敬意と感謝の念を持って接するセーラム家が老若男女問わず、みんな大好きだ。


 一軒一軒、訪れる家にはセーラム家を出迎えするために色とりどりの魔石を使って飾り付けがされている。ここの魔力に反応して、輝き方を変える魔石は、セーラム家が訪れると、金と銀の二色に染まる。その二色は、魔女の一族で一、二番目に魔力の高いスフィアの父親と母親の魔力に反応が色濃く出ているものだ。


 その輝きが自らの家に近づけば近づくほどに、そこの住まう人々の緊張と興奮が抑えられなくなってしまう。


 ある者は、待ちきれずにセーラム一家の下へ駆け寄り、またある者は、その神々しさに失神してしまう程だった。


「あと、どれくらいだい?」


 スフィアの父親が訊いた。


「あと数十件は残っているわ」


 女王であるスフィアの母親が、魔女の一族の名前が記載されている名簿を片手に答えた。


「この調子で配っていては夜明けになってしまうな。ここは手分けして、贈り物を届けることにしよう」


「わかったわ。さあ、可愛い私の娘たち、贈り物を個別に分けて早く届けに行きましょう」


「「「はい! お母様!」」」


 一分、一秒でも早く贈り物を届けたいと、総勢十五名のセーラム家はソリに積んでいた贈り物を十五枚のサタンクロスに分けて、それぞれ指定された家へと向かう。


 もちろん、まだ幼いスフィアも生まれて初めて一人でお手伝いをすることになった。


「スフィア」


「はい、お母様!」


「ここに住まう民は、良い者たちばかりだから、困ったことがあれば恥ずかしがらないで頼るのよ?」


「はい!」


「それから、くれぐれも領土の外へ行ってはダメよ。知らない者について行ってもダメ」


「はい!」


「あとは――」


 末っ子ということもあり、スフィアのことが心配で仕方がない母親は、ついつい口うるさくなってしまう。


「こらこら、皆もいるのだから、あまり心配し過ぎるのも良くないぞ」


 家の敷地外へ出たことがないスフィアには、もっと外の世界を見て欲しいと思っていた父親は高速で開閉を続ける母親の口を両手で塞いで、無理矢理黙らせた。


「さあ、スフィア。君の可愛い笑顔と贈り物を届けておいで、皆が心待ちにしているよ」


「はい、お父様!」


 まだまだ言い足りない様子の心配性な母親をよそに、スフィアは父親の後押しを受けて、にこやかに小さなサタンクロスの包みをスフィア用の小さなソリに乗せ、贈り物を待つ皆の下へと浮遊魔法を使って飛んで行った。


「大丈夫かしら……」


「大丈夫さ。君と僕の子だからね」


 後ろを振り返らずに飛んで行くスフィアの背中を心配そうに見つめながらも、その背中には成長した姿も見えた。親として嬉しいような寂しいような、そんな心境だった。


「う、うわっと! あ、危なかったぁ……」


 まだ、魔女として一人前ではないスフィアは、浮遊魔法が唯一使える魔法。


 集中していないと、浮かせたソリの魔法が解けて落下しそうになったり、逆にソリを気にし過ぎて自分が落ちそうになったり、目的地に到着するまで魔法を維持することだけに神経をとがらせていた。


 そして、無事に目的地に到着すると、幼いながらも高い魔力を持つスフィアに反応して、魔石の色が白銀の雪のようにキラキラと輝き始める。


「えっと、ここの家から順序良く回れば良いのよね」


 スフィアは、最近読み書きできるようになった文字が書かれた名簿を見ながら、天使のような笑顔を振りまいて、一人一人に贈り物を手渡していく。


「ありがと!」


「ありがとうございます。スフィア様」


「お一人でこのようなところまで来て頂けるとは、なんとお礼を言ったら良いか。それに可愛らしい衣装もとてもよくお似合いで」


 とある三人家族に感謝とお褒めの言葉をもらったスフィアは、俄然やる気に満ち溢れ、次の家、さらに次の家と、休むことなくせっせと届けて回った。


「へへ、みんな可愛いって言ってくれたし、すごく喜んでくれたから、私も嬉しいなぁ」


 上機嫌のスフィアは、もっと多くの者に笑顔になってもらいたいと、次の届け先を確認しようとソリに置いてあった名簿に手を伸ばした。


「あ、もう贈り物がない」


 視界に入るサタンクロスの袋には、何一つ贈り物が残っていなかった。嬉しさで舞い上がっていたので、どれだけ配っていたのか気づいていなかったのだ。その時、ふと民家よりも山の方に小さな灯りが点々と光っている場所を見つけた。


「あ、あそこにも誰か住んでいるのね! もしかしたら、お姉様たちが居るかもしれない!」


 スフィアは、もっと贈り物を渡したいと思い、一目散にそこへと向かって行く。


 まさかそこが魔女の一族の領土外で、誰も知らない土地だとは気づかずに――。

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