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 部屋に戻って――――盛大な溜息を吐く……。

 政略結婚ねぇ。

 確かにそんな結婚なら、愛情が湧かないことは否めない。だが、仮にも二人の子どもを授かった夫婦なのだ。家族の情なんてものも湧かないのだろうか?

 それとも、どちらかが本当に不承不承した結婚なのだろうか?子を産んだのは、跡継ぎの為。第一子が女の私だったので、仕方なく第二子を作った――と、考えるが妥当だろう。

 だから、母は息子に無関心なのだと結論付けられる。嫡男を産んだから勝手にしてくれといったところか……。


 ならば、溺愛と無関心の差は何だ?姉弟なのに会う事さえ禁止するほど遠ざけるのは何のため?着せ替え人形ができる娘は可愛くて、男の子だから無関心?

 そんな馬鹿げた理由があるだろうか?

「王妃王妃ってしつこいくらい連呼するのは、何か関係するのかしら……?」

 口を開けば王妃という単語を口にする母。私が将来王妃になるのだと信じ切っている口ぶりなのである。

 だが、記憶持ちの私にとって、王妃なんてものは恐怖でしかない。

 誰が好き好んで、あんな窮屈な生活を望もうというか!侍女やメイドが四六時中張りついて、やれ作法だの礼儀だの社交だの外交だの。

 考えただけでもぞっとする……。


 まあ、そんなに簡単になれるものでもなかろうと思考をぶった切り、オスカーの事に思考を巡らせる。

 地球での常識が通じると分かった今、母が言うように弟を避ける必要性が全く見いだせない。母が息子に対してネグレクトであることは事実。だからといって、私まで真似る必要などないはずだ。

 あの時気になった、乳母さんの悲し気な表情の意味がなんとなく分かった。無関心な母の態度に、弟が不憫なのだ。

 私に対する態度と全く違うから。

 我が母ながら嫌悪感を感じるのは悪くないよね?

 だったら。

「今度からは、遠慮する必要はないよね」

 言うことを聞かなければ自分が咎められると言ったあの能面メイドだが、今まで観察してきておかしな点があるのだ。何故、あの名を名乗らないメイドだけ居続けているのか。他はあんなにころころ変わっているのにだ。


 母の命令を忠実に守るメイド。まあ、使用人だから命令に逆らえないと言えばそれまでだが、人として考えれば、それがどれだけ非人道的なことかわかるはずだ。それを、自分が叱られるからと、我が身を守るための自分本位なことまで口にして私を言い含めていった。どう考えても、あのメイドも普通ではないと思うのだ。

 悲し気な表情の乳母さんと、我が身可愛さの能面メイド――。

 誰だって、乳母さんの方がまともだと思うはずだ。常識で考えれば。


「よし。決めた。誰が何と言おうと、私は私のやり方を貫く!」


 思い立ったら即行動とばかりに、オスカーのところへ行こうとした時だった。母が喜色満面でメイドさんたちを引き連れて訪れたのだ。

「ローズ!明日、いよいよ王子殿下と顔あわせなのですってね!ローズ、今からお目かしの準備をいたしますわよ!」

 でたよ……。

「王子殿下に気に入ってもらえるように、可愛くしましょうね。大丈夫。母に任せておきなさい。きっと貴女の魅力に気付いていただけるわ。ローズは、どんな殿方でも虜にしてしまうほど可愛らしいのですから!」

 心の中はどんなに白けていても、頑張って笑顔を張り付ける。

 母が仕立てた私用のドレスは、どれもこれもが私好みではないのだ。本当に自分に似合うのかという色ばかりである。私から言わせれば、派手すぎるのだ……。

 ただでさえ奇抜な髪色をしているのに、どピンクやら真っ黄色やらと、やたらと蛍光色強い色ばかりである。とても嫌気がさしたので、子ども演技で自分で選んだ色のドレスがある。子どもにしては地味かもしれないが、グリーンを基調とした淡いパステル色のドレスだ。

 で、母が選ぶドレスは、やはり蛍光色ばかりを持ち出してきた。

「お母様、私これがいいです!」

 子ども演技を繰り広げる。ここは妥協してなるものか!

「まあ……ローズ。そんな地味なドレスでは、王子殿下の目に留まらなくてよ?」

「いやぁ、これがいいぃ、おか~さま~」

 駄々っ子演技は、何かをとてつもなく削られていくが、ここは我慢だ!

「ローズ。明日はとても大切な日なの。こちらにしなさいな」

「いやぁっ。こっちがいいぃ。お母様の意地悪ぅぅ」

 くっ!辛いが我慢だ!!

「そうなの?母はこちらがいいと思うのだけど。なら、ローズの好きな方になさい」

「はい!お母様!」

「でしたら、首飾りはこれがいいかしら?それともこちらかしら?」

 またまた、大粒の宝石がついた、ごてごてしい首飾りを選び始める母。そんなセンスにうんざりしながら、比較的自分好みの首飾りを手に取った。

「首飾りは、これがいいです。お母様」

「まあ……ローズ。伯爵家の娘がそんな安っぽく見える物では笑われましてよ」

「これがいいもん!」

 これ以上勘弁してほしい……そろそろ心の限界が近づいてきている。絶対譲るものかと頬を膨らませて抗議していると、ようやく折れてくれたのだ。


 母たちが退室して行った後、ベッドにぐったりと倒れこんでいた……。

「駄目だ……全然合わない……もうどうしたってあの母とは反りが合わない……」

 あの異常なまでの『王妃』への執着は何なのか?さっきだって、やたらと王子殿下の気を引けと言っているようなものだ。


 ――――王妃にならなければならない理由でもあるのだろうか?セバスも口を噤んだのだ。絶対何かあるのは間違いない。

「だからって、情報が少なすぎてわかるわけないよなぁ……」

 自分は、王子殿下の気を引くつもりなんて毛頭ない。明日の顔合わせだって恙なく終了させて、さっさと帰りたいのだ。王子がどうであれ、あの母の望み通りになるのはどうしても気が引けてならない。

「まあいいや。兎に角、オスカーに会うんだ。よし!」


 自分の弟に会いに行って何が悪いと、勢いよくベットから降り立った。




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