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六月の目玉行事である、各学年の華冑科、魔法科、騎士科の合同演習が行われた。特別講師に、近衛騎士様、魔法士様、神官様を迎えての講義だった。
それぞれの特別講師たちが、デモンストレーションを披露してくれたのだ。
近衛騎士様は、あのもーちゃん4号との手合わせで見事勝利していた。さすが現役の騎士様だ。あれから私も、もーちゃん4号に挑むが、どうしても勝率が上がらない。攻略法を盗もうと、それはそれは食い入るように見ていた。自分に何が足りないのか要研究だ。
魔法士様は、魔法陣を使ったデモや的当を披露され、クラスメイトたちも目を輝かせていた。徐々に同じグループの子たちも、魔力コントロールに慣れてきている。
デモが終わると、各々希望の特別講師から講義を受けていた。
神官様は、具体的な症例を上げて問答形式での講義をされていた。私は、魔法士様につき、魔法省ではどんな仕事があるのかという解説を聞いていた。
時は流れ、いよいよ長期休暇前の七月を迎えていた。初夏のこの季節、学園内に設えてある植物園では薔薇が見ごろだとミラから聞いたので、偶にはと足を延ばしていた。
ガラス張りの屋根で覆われたこの植物園は、雨に降られることもないので、恋人たちの憩いの場に利用されることが多いらしい。
おお。さすが異世界ファンタジー。見たこともないチョコレート色の薔薇や青薔薇も存在している。花ガラなど見当たらず、とても丁寧に手入れがされていた。庭師の誇りなのだろう。
ある一角に来たとき、自分の名と同じ花が植えられている花壇を見つけた。淡い青色や桃色の花が咲き誇っている。その場へ足を向けると。
「あの、どうかなさったの?」
生垣の影になって気付かなかったが、作業着を着た庭師のおじちゃんが花壇の隅で蹲っていたのだ。声をかけてみれば、腰を痛めたようだと言う。
「ここって、魔法を使えるかしら?」
「……可能、ですよ……」
声を出すのも辛いのだろう……痛そうだ。
「これで、どうかしら?」
「……ああ。痛みが、薄れきました」
「ゆっくりと背を伸ばしてみてくださいな」
「ああ。大丈夫ですよ。おお、これで作業もできます」
「耕していましたの?」
「ああ、はい。鍬を振り上げたら、グキっときましてね」
「徐々に動かした方がいいけれど、無理は禁物ですわ。土なら――」
土の基本魔法で花壇の土を隆起させたり混ぜ込んだりと耕してみた。本当に魔法って便利だ。土がふっかふかになったところで、庭師のおじちゃんも喜んでくれていた。
その場を離れ、気持ちのよい植物園をしばらく散策していた。
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『おや?学園長、今日も花いじりですか?』
『ああ。今の時期に種植えのものがあってね』
『いいお歳なんだから、ほどほどになさってくださいね』
『いやはや。実は腰を痛めてしまってね』
『え?医務室に行かれました?』
『その場に居合わせた生徒さんが治してくれてね。おまけに耕してくれたのだよ』
『ああ、そうでしたか』
『なかなかよいご令嬢だな』
『ん?貴族の子だったので?』
『ああ。一学年の華冑科の子だったね』
『それはまた……』
『ふぉっほっほ。珍しいかい?』
『ええ……何せ今までが今まででしたから』
『そうだね。だが、これから変わるかもしれないね』
『そうだとよろしいですね』
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