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 観察を続けて早二年。そう、二年の間、私は家族たちを観察し続けた。それはもう、子どもという立場をフル活用して観察した。

 この二年で分かったことは、やはり『変』の一言だった。


 まず、思った通り夫婦の会話というものがほとんどない。だが、場合によっては夫婦を『演じる』時がある。我が家に客人を招いた時だ。子どもは部屋にいる時間帯に、大人たちはパーティーを催している。『夜会』というものだ。豪勢なドレスや宝石やらを身に纏った客人たちが集まり、ダンスを踊ったり会話を楽しんだり。

 何故知っているかって?そりゃあ、部屋を抜け出したに決まっているじゃないか。意外と気づかれなかったのだよ、これが。

 忍のように、抜き足差し足忍び足――。


 こんな夜は、両親もダンスをしたり会話をしていたのだ。そう、夫婦を演じているのだ。少なくともそうとしか見えなかった。


 また、母はある時期になると、やたらと家に商人を呼ぶのだ。そして、豪勢なドレスを何着も発注している。宝石類も然り。

 そんなに我が家は金持ちなのだろうか?


 それに加え、母はよく一人で外出している。昼は『お茶会』なるものに。夜は夜会に。お茶会は我が家でも何度か開いていて、その度に豪勢なデザートやら高価そうな漆器類を準備して客人を招いている。出掛ける度に、身に着けているドレスが違うのだ。やたらと商人を呼ぶのはこのためなのだろう。


 ちなみに、この茶会やらの言葉の意味は、こっそりオスカーの乳母さんに教えてもらったのだが。


 そしてなにより変なのは、母が一度も、ただの一度もオスカーを腕に抱いているところを見たことが無いことだ。オスカーは、我が家の長男で跡取りのはず。大切な跡取りの顔も見ない母親とは何事だろうか?

 その点、私には溺愛といっていいほどの接し方をするのだ。よく抱きしめられるし、一方的ではあるが会話もする。何でも買い与えようとする。

 なのに、オスカーも今年で2歳になったのに、身内の誕生日パーティーを一度もしなかったのだ……もちろん、私の誕生日パーティーに弟の姿は無い。父は仕事だからと家にいない。


 だったらと、私がオスカーのもとへ行こうとすると、例の能面メイドさんが目を光らせていて近づけないのだ。私が2歳の時は会話こそ無いが、両親と一緒に食堂で摂っていたのに、オスカーが食堂へ来たことは……未だに無い。乳母さんを通路で見かけているので、弟はきっとまだ部屋で食事を摂っているのだろう。

 そもそも、弟の部屋に行くなとはどういう訳なのか。

 そんなこんなでこの二年、オスカーとは言葉を交わしたことが無い――。


 姉弟なのに、これが普通なのか?これが、この世界の常識なのか?


 変なのは、家族の事だけではない。使用人と呼ばれる人たちの事もなのだ。能面メイドさん以外、やたらと人が入れ替わっているのだ。この二年、両手に収まり切れない程の人数のメイドさんが変わったのである。若い人が多いが、それなりの年季のメイドさんもだ。私のお世話をしてくれるメイドさんがころころと変わるのだ。何故変わったのかと聞くと、『暇乞い』をしたからという。


 暇乞いの意味を、これまた乳母さんにこっそり尋ねれば、退職願のことだったのだ。母の傍にいる能面メイドさん以外にも『侍女』という人がいるのだが、この侍女さんも何人か変わっていた。そして今はないくなっている。どの人も若かったが、その人たちも暇乞いをしたそうだ。


 侍女さんもメイドさんたちも年若いから、結婚のために暇乞いしているのかと思っていたのだが、どうやらそうではないと思う。そう思うのは、一度我が家を去るメイドさんをひっ捉まえて理由を聞いてみたことがあった。で、そのメイドさんは口を閉ざしたのだ。

 やっぱりどこかおかしいと思うも、これ以上どうしようもなかった。



 観察にも限界を感じていたとき、唐突に光が差し込んだ。


 4歳になる年を迎えたころ、私に家庭教師がついたのだ。この日から、自分の知識量が増えていくことに歓喜した。狭苦しかった世界が広がるのだから。

 母が言うには、一流の家庭教師を雇ったという。その師たちにつき、文字を覚え、歴史などの座学、淑女教育を受け始めた私の違和感は、殊更膨らんでいくばかりなのだ。


 ちなみに、私が住むこの国は『ローゼンベルク国』といい、王制が敷かれている。王族を頂点に公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、聖職貴族(大主教)、騎士爵という身分制度が存在している。我が家は、その内の伯爵位を賜っていたのだ。伯爵位以上を高位貴族というらしい。


 だからだ。母のあの傲慢さは……。


 文字を習い、言葉の意味を知れば知るほど、母の会話がいかに傲慢なものかが分かってきたのだ。このことは、また後ほど語ろう。


 今生の私のスペックが高かったお陰で、乾いた土が水を吸い込むが如く知識を吸収していった。だが、それを表立って示すことは避けた。能ある鷹は爪を隠すというだろう。出る杭は打たれるというだろう。この歳で目立つ行動は避けた方が得策だと、日頃の観察からそう判断し、この程度なら褒めそやされないだろうというラインを探りながら講義を受けていた。


 勿論、観察を怠ることはせずに。




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