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「おじちゃん。一個ちょうだい」

「あいよ」

 差し出されたホットドックを受け取り、ウィンドウショッピングで楽しみながら散策していた。

 今年で14歳になる私の最近の楽しみは王都散策である。商業区にも桜並木があり、今が満開のこの季節。

 かぷり。

 ふふ~ん。おいちぃ~!

 街の子たちで行列ができていたお店を発見し、並んで購入したものだ。

 実は、お小遣いをせしめ……もとい……合法的に頂いたのだ。今度は何をする気だ?と訝しみながらもお父様が渡してくれた。そして、メイドさんに袖の下を渡してこっそり街娘服一式を買って来てもらったのだ。

 ふふふ。所謂、買収というやつだ――子どものすることかと思うだろうが、そこは大目に見てほしい。

 こほん。

 そうやって服を手に入れた私は、邸をこっそり抜け出して街へと繰り出していた。街娘風に見えるように髪形はゆるく三つ編みにし、顔をカモフラージュするために黒縁眼鏡をかけている。芸能人のお忍気分だ。


「ああ!この、泥棒!!」


 お?と、叫び声が聞こえてきた方に視線を向ければ、鞄を抱えた男が通りを歩く人たちにぶつかりながら走っているのが見えた。裏路地に逃げ込もうとして。

「おわっ!」

 足を何かに取られたのか、その男は道端に見事にスライディングしていた。後方から、鞄をひったくられた被害者が一目散に追いかけてきている。

 男は立ち上がろうとして。

「ぅっ!」

 どうしたことか、ピクリとも動かないでそのまま道端に突っ伏している。私は、かぷりかぷりとホットドッグを頬張りながら、その光景を見ていた。

 被害者が追いつき、倒れた勢いで手から離れて転がっていた鞄を確保した。

 それでもなお、犯人の男はピクリとも動かない。

「すまん!誰か警備兵を呼んでくれ!」

 心意気よく若いお兄さんが警備兵を呼びに行く。都合よく巡回していた警備兵がいたようで、間もなくしてお兄さんが戻って来た。警備兵が男に手を伸ばすと。

「うわ!動いた!」

「何を言っている。行くぞ。現行犯だ」

「さっきまで、動かなかったんだよ!」

「訳の分からないこと言ってないで行くぞ」

 犯人はお縄となり、通りも通常運転に戻っていった。

 何があろうと、犯罪は駄目だよ、犯罪は。

 うむ。使い方によっては、なかなか魔法も使えるものだ。さっきの犯人が動けなかったと叫んでいた理由は、重力魔法で動きを封じていたからだ。犯人が倒れたのは、足元に土魔法で道を隆起させ、躓かせてみたのだ。


 食べ終わったホットドックの包み紙をポケットに収納し、再び散策へ意識を向けた。

 可愛い雑貨が並ぶお店を物色し、他にはどんなお店があるのかな?と、浮かれていたのは否めない。

「っ!?」

 ――いきなり背後から口を塞がれ、建物の影へ引き摺られていく。鼻息が荒いその男の手が触れる場所が気持ち悪い!!

 通りから死角になる路地裏に連れ込まれ、猶もどこかへ引き摺られていく!

 誰が思い通りにさせるか!!

「うわあぁぁっ!!」

「だりゃぁ!」

 私の体の周りから風がぶわりと起こると、私を羽交い絞めにしていた男の腕が外れ、体が後方に反り返った。その勢いのままぐるりと一本背負いの要領で男を投げ飛ばす。地面に背中から激突する男。

「この、女の敵が!!」

 はんっ!思い知れ!!

 呻き声を上げながら男が立ち上がろうとした時。


「そこを動くな」


 突然背後から聞こえた男性の声に振り向くと、私の気が逸れた内に変質者が走り出したようで、慌ててそちらへ向き直ってみれば、逃げ足の速い男の姿は壁の切れ目の向こうに消えてしまったのだ。

 なんだったのさ!!

「――怪我はないのか?」

「あ、はい。何かある前にぶちのめしましたので」

「ぶち…………」

 呆れ眼差しで見られようが知ったことではない。ふふん。武術と魔法を磨いた腕をなめんな!

 更に呆れ眼差しを寄越してくる見知らぬ男性。

「君が連れ去られるのを目撃したから来てみたのだ。あの男、突然仰け反ったように見えたが?」

「あ、少し魔法を使えますので」

「――――」

 ん?何故無言に?何か観察されてる?まあいい。

 お礼を言って帰ろうとしたら。

「私は、アレクという。君、名は?」

「あ、マリーと言います」

 仮の名を名乗ってみた。まさか、本名を名乗るわけにもいくまいよ。

 アレクと名乗った親切なお兄さん。ほほう。よく見れば随分整った顔をしていらっしゃる。明るい茶色の髪にアメジストの様な瞳。

「いろいろありがとうございました。では、これで」

 ぺこりと頭を下げると、盛大な溜息を吐かれた。

「マリー……危ない目に遭ったばかりで、また一人で歩くつもりか?」

「え、大丈夫ですよ?」

 街の子たちだって、一人で買い物に来ているではないか。何がいけない?

「――まったく。ここまでどうやって来た」

「家から歩いてきましたよ?」

 何故か、アレクさんは絶句してしまった。なんだ?

「…………兎に角、通りへ出よう」

「はい」

 二人で連れ立って元いた通りに戻ると。


 うげ!!鬼が来るっ、鬼が来るよ!!


「あ、あの、ちょっと所要があって急ぎますので、私はこれで――」

 そそそっとその場からフェードアウトしようとした、が……。

 むんずと頭頂部を手のひらで鷲掴みにされた。

「あだっ……い、痛いわよぅ……」

 ぎりぎりと指が食い込んでるよ!!

「ちょっと!お姉ちゃんの頭はトマトじゃないのよぅ!あたたた」

「姉さん!な・ん・か・い言えばその頭に理解するのさ!」

「ちゃんと行き先書いてたでしょう?いたっ、いたっ」

 オスカー!指!指!

「ああん?裏口から抜け出して行くってことは、悪いことしている自覚があるからだろう。ええ?」

 ガラが悪いよ?弟よ……。

「いいじゃない。貴方が過保護なのよぅ。お姉ちゃんは、情報収集するというちゃんとした目的があるのよ。事件は現場で起きてるのよ。事件現場に足を運ぶのが捜査の基本でしょう?」

「アホなこと言ってないで帰るよ」

 えぇ!もうちょっといいじゃない!

 お姉ちゃんの身長を追い越したからって、なによ、その上から目線!

 発育がいい弟は、11歳を迎えたころからすくすくと身長が伸び出したのだ。ぎしぎしと足が痛むらしいが。

 今度は、むんずと二の腕を掴まれた。問答無用でドナドナする気だ。

「君はさっき、危ない目に遭ったばかりだろう……」

 胡乱な目で見てくるその人。

 うっ。

 親切なお兄さんこと、アレクさんの存在を忘れていた――まずい。

「危ない目って何さ、姉さん」

「暴漢にあっていた」

「姉さん!」

「大丈夫だったわよ?お姉ちゃんの武術の腕、知ってるでしょう」

「それとこれとは話が違うっ。おばあ様に心配かけるなよ」

「うっ……はい……わかりました……」

 うむ。やはり知られればまずいだろうな。うん。

「あの、貴方は?」

 オスカーがアレクさんに問いかけると、ん?どした?弟よ。

 何やら、戸惑っているように見えるのは気のせいだろうか?

「アレクさんっていうのよ。助けに来てくださったの。その前にやっつけたけど」

「――――姉の危ないところを、ありがとうございました」

 私の腕を掴んだまま、オスカーがアレクさんに頭を下げる。

「ああ。君の方が兄のようだな。しっかりしている……君も少しは落ち着いたらどうだ」

 うむ。一理あるので反論できない。

「そうですね……」

 素直に反省しよう。

 再び頭を下げ、オスカーは私の腕を引いてその場を離れていく。アレクさんは、最後まで呆れ顔だったが。


「どうかした?」

「――いいや」

 振り返ってどこかを見ていたオスカーは、視線を進行方向に戻した。商業区の端に止めてあった馬車に乗り込んでいく。

「姉上。もう、一人での外出は駄目だ。真剣に言ってるんだよ」

「……ええ。わかったわ」

 学園に入学した後の話のネタにと思った情報収集の断念は残念だが、今回は免れたものの、危険な目に遭ったのだ。仕方ない。

 家族を泣かせたいわけじゃないし。

「姉上。何か気付かなかった?」

「ん?何が?」

「――いいや。何でもない」

「そう?」

 じっとこちらを窺っていたオスカーが、難しい顔で黙り込んでいる。まあ、何かあれば言ってくるだろうと、その時は簡単に考えていた。




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