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時を超えて10


 +++

(―――遅いな)

 胸ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。ジャンの眉間に皺が寄る。

『仕方ない』

 学園の敷地へと繋がる通路を歩き始めた。


『失礼』

『あ、はい。いかがなされました?』

『王女様は、おられるか?』

『いいえ。まだこちらにお越しになっておられませんが。侍女様は控室にてお待ちでございます』

『わかった。通らせてもらう』

『畏まりました』

 寮母に入室の確認を取り、控室に向かった。寮母が常駐するすぐ脇にある王族専用の控室。灯りがついたその部屋の扉を開けた。

『なっ!?』

 ソファーからずり落ちそうになりながら気を失っているエミリーがそこにいたのだ。ジャンの目は、別の場所へ動く。

 テーブルに置かれた封書。すぐさま開封し――ジャンの表情が険しくなった。

 事情を聴くために、気絶しているエミリーの体を抱え起こし、背中から刺激を与え目を覚まさせた。首元に赤みがある。

『うっ……』

『しっかりしろ!何があった!』

『う、あ、ジャン……様……』

 痛みがあるのだろう。首元を押さえながらエミリーが必死の表情で顔を上げた。

『た、大変でございますっ。偽のメイドが押し入り、きっと王女様に危害を!』

『まだ、ここに来られていなかったんだな?』

『はいっ。ここに到着したら直ぐに賊が押し入りっ』

『ならば、僅かな間の犯行か!』

 テーブルの封書を手に取り、ジャンが立ち上がる。

『エミリー嬢。これを持って至急王宮へ戻れ。俺は念のため学園内の状況を探る』

『承知しました』

 二人は、それぞれ女子寮から駆け出した。

 学園内で王族が襲われた前代未聞な事態に、二人は蒼褪めている。

 ジャンは、正門へと急いだ。と、彼と鉢合わせした。

 +++



「ジャン殿」

 物々しい雰囲気でこちらに向かってきていた護衛騎士ジャン殿を呼び止めた。彼の表情から、異常事態だと感じ取った。

「(王女に何かあったのだな?)」

「(ああ。お姿が見えない。侍女が控室で気絶させられていた。封書を置いてだ)』

「(中身は何と?)」

「(――国家転覆、王族の処刑)」

 !?

「(約束していた時間前のほんの僅かな間の犯行のようだ。何か心当たりはないだろうか?)」

「(すぐには思いつかない。この時間になら学園から出たか、若しくはまだか。魔法で誘拐したなら教師たちが動くはず。だが、その形跡はない)」

「(正門を押さえる――)」

 互いに頷き合い走り出した。

 確かに教師たちが動いている気配はない。犯行が行われたのなら、食堂と寮の間の出来事。犯行が行われてまだ三十分も経っていない。だが、これくらいの時間があれば学園から脱出することも可能。間に合えばよいが――――。



 +++

『陛下』

『ん?公爵、何かあったのか?』

 公務も終わり、今から食堂へと向かおうとしていたところだった。

『つい先程、密偵からきな臭い動きがあると報せが来た』

『――何処だ?』

『ブルゴーニ国――』

『我が国に歯向かう国力があるとは思えぬが?』

『そこだな。報せには、王太子が攻め込むと言っているらしい。が、どうにも様子がおかしいのだ。国内でも混乱が生じているようで、国王の暗殺未遂が起こっている』

 こつこつと指で机を鳴らす音が執務室に響く。

『間諜が入り込んでいる様子は』

『掴んでいない。それらしき人間の入国も掴んでいない』

『どんな手段か見当もつかぬな』

『ああ。一番厄介なのは、転移だが――』

『裏をかかれ、入り込まれてしまっていては手の打ちようがないな。国民が人質に取られる』

『――混乱に乗じて、刺客を送るか』

『王太子を潰せば、か』

『ああ』

 その時、執務室に王妃が駆け込んできた。

『あなた!』

『どうした。何事だ』

『マリーが誘拐されらしいの!』

『何!?』『まさか!!』

『こんなものが!』

 王妃から手渡された紙切れに目を走らせる。陛下と公爵の目が剣呑に紙片を睨みつける。

『私のマリーを狙うとは――ただで済むと思うな――』

『まだ確証がない。早まるな』


 父親の誕生日祝いが準備されている食堂へ向かっていたクリフォードが踵を返して陛下の執務室に向かった。その表情は険しい。

 陛下の執務室に召集されたのは、側近たち。

 宰相となったルーデンドルフ侯爵、ハインツ公爵、グランデル近衛騎団長、宰相補佐。


『陛下。護衛騎士がお目通りを願っております』

 陛下の促しがあると、息の荒いジャンが入室した。

『ご報告申し上げます。王女様は既に学園外に連れ去られている模様――ルーデンドルフ侯爵家のメイドと名乗るものが正門を出た後、馬車での逃走の可能性が高いとみられます。門番が申すには、そのメイドはカートを引いていたと』

『くっ!我が侯爵家の名で謀ったか!』

『――そのカートに乗せてマリーを連れ出したか』

『学園内での王女誘拐など前代未聞ですね、父上』

『我が国の学園の名さえも陥れるか――』

 陛下の口元がぎりっと歪んだ。

 また、来訪が告げられた。ハインツ公爵に目通りだった。扉から出れば、侍従が紙片を手渡す。それに目を通した公爵の表情がさらに険しくなった。

 執務室内に戻ると、公爵の様子に皆の視線が集まる。

『やはり、犯行はブルゴーニ国の王太子に間違いないようだ』

『ブルゴーニ国だと?そんな国力がどこにあるというのだ』

 クリフォードの意見は尤もだが。

『王太子と数名が姿を消したらしい。国王は暗殺未遂により傷を負った故動けないようだ。何がきっかけでこんなに早急に動き出したかは不明と書かれている』

『――マリーの誘拐と関係があるのだろうな』

『これほどの動きとなれば、転移でしょうな……』

『鼠が入り込んでいたか、反逆者がいるかだ』

『しかし、相手が動きを見せなければ手の打ちようがありませんな……』

『後手後手は痛い―――』

 +++



 侯爵家の名を使うとはな――。

 明日、学園は休日。それに乗じて外出する者は多い。前日の今日から外出をする者もいる。学園のセキュリティ上、必ず外出届の許可証がなければ学園外には出れない。セキュリティカードに外出許可の付与をつけていなければ危険人物と見做すからだ。その付与の機器には、おいそれとは近づけない。二十四時間体制で警備が張り付いている。王族が出入りする学園のセキュリティだ。そう甘いものではない。

 内通者がいるとしか思えないこの犯行。マリーの身辺に怪しい者はいたか?マリーは何か言っていたか。いや、記憶にない。

 門番はメイド一人で出ていったと言っていた。犯人がまだ学園に残っているとは考えにくい。犯行が成功したなら、学園に留まる理由がない。国の要は王宮。学園にいても何の情報も入らないからな。


「ルーデンドルフ様。何かございましたか?」

「門限間近にすまない」

「構いませんわ」

「王女の身辺で何か怪しいと思われるような人物はいなかっただろうか?」

「何かございましたのね――あ、一人おりますわ」

「何?」

「ルーデンドルフ様がいらっしゃらない時ばかりを狙ったように、犯罪分析科の生徒が近寄ってきていましたの」

「どんな話を?」

「何かと商会の品を進めていましたわ」

「商会――その商会の名は?」

「……いいえ。わかりませんの。我が商会としか言っていませんでしたので」

「助かった。これで失礼する」

「はい――箝口令を?」

「そうなるだろう」

 こくりと頷くキャロル嬢。

 女子寮を後にし、その足で職員棟を目指す。手掛かりが掴めればよいが――。


「ラナンスキー先生」

「どうした、レオン君。もうすぐ門限だぞ」

「(緊急事態です。ご協力願いたい)」

 ここは担任の権限を使うしか手がない。秘密裏に動くならば。

「(何があった)」

「(王女誘拐が起きました)」

 事の大きさに顔を顰めている。

「(それで、外出者のリストを洗いたいのです)」

「(わかった。目星がついているのか?)」

「(確証はありませんが、商家出身の生徒の可能性が高く)」

「(ならば、生徒リストと照合が必要だな)」

「(はい。お力添えを。今、王宮でも動いているはず。手掛かりを集めたい)」

「(承知した。行こう)」

 速やかに警備員室を目指していく。

 やはり睨んだ通り、外出者が多い。この中から絞り込むしかない。

 そして――二名の疑わしき名が挙がった。

 ラングドン商会とボルデ商会。

 外出許可を貰い、馬を駆って学園を後にした。



 ボルデ商会――王都の西地区並木通りに店を構える商会。

 商業区はまだ人通りも多く、繁華街は煌々と灯りがともされ賑わっている。商会の近くの裏路地から回り込み、≪風≫を展開。前世マリーが使っていた、盗み聞きだったか。

 中からは、家族団欒の会話が聞こえてきた。一階の店舗部分からも怪しい会話は聞こえない。

 ――空振りか。ならば。


 馬を走らせ、南商業区を目指す。ラングドン商会に到着した。が、周りは灯りがまだともされ営業しているが、この商会だけ静まり返っている。

 怪しい臭いががプンプンするが。

 暗がりを利用し人目を盗み、裏から回り込んで探りを入れる。中から人の会話は何一つ聞こえない。宙に浮いて、二階の窓から中を探った。暗闇で人が動く気配もない。

 早々に店仕舞いし、自宅は別のところなのか?

「すまない。あの商会と約束していたんだが、ここはこんなに早く店を閉めるのか?」

「お隣ですかい?いいや、いつもだったら開けてますぜ?そういやぁ、今日は早く上がれるとか言って従業員は喜んでたみたいでしたが」

「店の主人はここに住んでいるのか?」

「へい、そうですぜ。ん、灯りついてないな。出掛けているんでしょう」

「助かった」

「へい」

 ――今日だけとは怪しいとしか言えぬな。根城がここでなければ厄介だ。手掛かりが途絶えたか。


 王立公園に馬を走らせ桜の樹を探し回り、都合のいい樹を見つけた。陽が落ち、人通りが途切れた辺りを覗いながら、あの場所へと願う――。


 ――その場所に繋がると、夜かと思われたが、ここはまだ日が暮れる前だった。

 通いなれた道を進む。目的の者たちがいる場所へと。

「ジル殿」

「――レオン殿、お嬢に何かあったのですね?」

「ああ。今日の夕刻攫われた」

「承知した。約束を果たそう」

「お願いする」





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