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時を超えて5


「うぎゅ……むぅ……何するんですか、グレンお兄様……」

 顔合わせがあるサロンで待っていると、グレンお兄様がいきなり頬を指でつついてきたのだ。

「お前がそんな顔をしているからだ」

「どんな顔ですか……?」

「目が吊り上がって怖い顔しているぞ?」

「してませんよそんな顔」

「くくっ。マリー、そんなに緊張せずともいいのだよ?気楽に話せばいいのだから」

「そうだぞ。私が緊張をほぐしてやったんだぞ?」

「むぅ……ってか、お兄様、指の力強すぎですよ……」

 歯が食い込んだよ……。

「ああ、悪い悪い。力加減を間違えた。あはは!」

「遊んでますよね?遊んでますよね?」

「ほら、二人とも、そろそろ来るぞ」

「はい、兄上」「は~い」


 貴族の子息たちの到着が知らされる。今日は、侯爵家子息、伯爵家子息と令嬢の三人らしい。私と同じ5歳になる子たちだから、後のクラスメイトだ。

 ちなみに、クリフお兄様は私より一つ上のハインツ公爵家令嬢との婚約が纏まる予定らしい。で、グレンお兄様の伴侶は、お兄様自身に選ばせるつもりらしいので、顔合わせで会うご令嬢たちはお見合いの様なものだろう。

 私はお父様のお墨付きがある。

 デヴュタントしたら、誰か誘ってもらえるだろうか。

 私は……旦那様……レオのように愛せるだろうか。

 いやいやいや。まだわからない未来を考えても仕方ない。目の前に集中!!

 いよいよ、子息たちが入室してきた。


 ――なんだ?

 突然、体がぶるっと震えたのだ。悪寒?武者震い?

 子息たちは目線を落として入室してくる。前世教わった礼儀作法だ。先頭だって入室してきた青髪の男の子はクリフお兄様の方に立ったので、その後について子息とご令嬢が順に並んでいく。

 青髪か。懐かしいな。

 そういえば、どこの家が来るのか聞いてなかった。ま、自己紹介するからいいか。

 クリフお兄様の促しで、自己紹介が始まった。

「初めまして。レオン・セス・ルーデンドルフと申します。お見知りおきを」

 その名を聞いた瞬間……私の胸が締め付けられた。

 レオン……レオ……レオっ……。

「初めまして。ウォルター・クレメンティと申します。お見知りおきを」

「お初にお目にかかります。キャロル・ウォルコットと申します。お見知りおきくださいませ」

「皆、よく来てくれた。顔を上げてくれ」

 お兄様の促しで顔を上げた面々。私も気を取り直して観察に励む。私の目の前にはウォルコット嬢。くりんとした瞳が特徴的なうさぎ系ご令嬢といったところか。

 おっし!今生は女の子のクラスメイトゲット!!

 それでぇ、お隣は、うん、可も不可もなくのご子息君だ。

 で、お次は――。

 何故か――メルヴィル様の子孫となる、レオンと名乗った青髪の男の子から目が離せなくなっていた。金と銀の瞳……まるで、前世の自分の様な容姿をした男の子。レオン君はクリフお兄様を見ているようで視線は合わない。

「私がクリフォードだ。それで、隣が弟のグレン。最後に妹のマリーだ。君たちとマリーはクラスメイトになるな。よろしく頼むよ」

 お兄様が私たちを紹介していくと、レオン君と視線がかち合った。


 えっと、気付いたら……レオン君が凝視しているのですが……いや、人の事言えないか。自分も目を離さないからな。ってか、目が離せない……えっと、どういう事かな。


「こほん」

 誰かの咳払いで、目が覚めたかのように私の視線は、お兄様たちの方を向いた。

 おや?お兄様方、苦笑いしてます?

 おや?伯爵家の子たちも苦笑いしてます?んん??

「好きな場所に座ってくれ」

 お兄様たちが歩き始めたので、私もその後をついていく。

 えっと……レオン君の視線が痛いのですが……何かな?

 私の真正面に座ったレオン君がですね、凝視してくるのですよ。あれぇ?なんかこんなこと前世であったなぁ……あぁ……あの時は、ミレーユちゃんが睨んでたなぁ。

「あー、ルーデンドルフ殿。それくらいにしてやってくれないかな。マリーが怯えてるみたいだから、ね」

 グレンお兄様の助け舟でレオン君の視線が外れたが、うん、ちょっと外れただけでまた戻ってくるのですよ。う~~、言いたいことがあるなら言えってんだ!!

「ルーデンドルフ様。何か顔についてますか?」

 ありきたりな質問を投げかければ。

「あ、いえ」

 なんともそっけない返事しか返ってこなかったのだ。なんだよ!!なんか文句あんのかこら!淑女の嗜みで表情を崩さないようにしているが!睨んだろかこの野郎!!

「マリー。まあまあ、落ち着け」

 頭を撫でてくるグレンお兄様だが、訳が分かんないのさ!!んん??何笑い堪えた目をしてんのさ!グレンお兄様!!

「う~~、なんですか、お兄様っ。何か言いたいんですかっ」

「いやいや。なんでもないよ?」

「嘘ですよね。嘘ですよね。その目、絶対嘘ですよね」

「こら、二人とも。クレメンティ殿たちが困ってるよ。いや、面白がってるかな?」

「いえいえ。そんなことないですが」

「ふふ。お可愛らしいですわ」

 何がだ!!

「ん~~。マリー。そんなに顔を赤らめてどうしたのかな?」

「へ?」

「ふふ。マリー王女様。お可愛らしく真っ赤ですよ?」

 は?なんだって?顔が真っ赤?――そりゃあ!怒りからだ!!

「な、な、何か言いたいことがあるなら言えばいいでしょう!ルーデンドルフ様!!」

 ついに我慢が利かなくて声を発していた。

 今度は何だ!目を逸らした!!

「落ち着け、マリー。男には大事なタイミングというものがあるんだよ」

「はぁ?」

 文句言うのにタイミングなんかあるか!!

 いやいやいや、落ち着け私!60歳近くまで生きた、いい歳こいた精神年齢だぞ!こんなちびっこに目くじら立ててどうする!大人の余裕でかわせ!お前は仮にも王妃だったんだぞ!!

 よし。もう大丈夫だ。スルーだスルー。うん。

 なのに……。

「マリー、ちょっと二人で庭園で話してくるといい」

「は?」

 クリフお兄様がそんなことを言い出した。

「ん?兄上、いいのですか?」

「ん~、だって、このままでは、ね」

「まあ、ね」

「わ、わかりましたわっ。決着をつけましょう!」

「「いやいや、決着じゃ~」」

 兄たちが何か言っていたが、私は我慢できずにレオン君を睨みつけて立ち上がった。鼻息荒く庭園を歩いて行く。

 この庭園は中二階になっていて、二階にあるサロンから踏み入れることができる粋な庭園だ。こうやって顔合わせに使用したり、雨の日のお茶会はここで開かれる。そんな場を楽しませてくれるのだ。

 背後の気配に怨念波を送りながら誘導していく。

 よし!ここでいいだろう!さしで勝負だ!いざ出陣!


「『桜の万年筆』を覚えているか?」


 意気込んで振り向こうとした瞬間、肩をびくっと震わせ硬直した。

 聞き間違い?聞き間違い?いやいやいや、そんな馬鹿な事……。

「マリー……マリーなんだな……マリーっ……俺だっ……レオだっ……」

 切羽詰まった泣きそうな声に引き寄せられるように、私は振り返った。さっきまで表情が少なかった将来結構なイケメン君になりそうな爽やかな顔が、本当に泣きそうな表情で、その目には溢れんばかりの愛情が込められた眼差しでこちらを見ていたのだ。

「レオ?……ほんとにレオ?」

「ああっ、俺だ……レオンハルトの記憶が甦ったのだ……マリー、ああ、マリーっ……お前も記憶があるんだな……?」

 答えようにも嗚咽がせり上がり、声が詰まってしまうので、まるで首振り人形のように頷いた。

「ああ、泣くなマリー。お前に泣かれたら俺はどうしていいかわからぬ」

 いつかも聞いたその言葉に、私の涙は決壊した。

「……寂しかったっ……寂しかったよぉ……レオぉ……」

「くっ!……煽るな、マリーっ……俺は今、最大限に我慢してるのだっ。今のお前は王女だっ。抱きしめたくても口づけたくても下手を打てば二度と会えなくなるのだぞっ」

 おおお!あのレオが!所構わずだったあのレオが!

「お前……今、失礼なこと考えているだろっ!」

 てへっ、と微笑めば。

「お見通しだっ!」

 レオが差し出してくれたハンカチで涙を拭うと、ぽんぽんと頭を撫でて慰めてくれる。

「でも、よくわかったね」

「お前の事が分からぬはずなかろう。お前の仕草、話し方そのままだ」

 お、おう。なんか、非常に、恥ずい。

「だから、煽るなっ。お前っ、そんな顔を他に見せるな、馬鹿者!」

 ば、馬鹿者となにさ!

「落ち着け。あまり長居すると怪しまれる。よく聞け。必ずお前をまた妻にするからな。お前も協力してくれ」

「え、あ、はい」

 頬が染まるのが分かる。

「くっ!お前は何度……兎に角、俺は父上に話を持ち掛けるから、待ってろマリー」

「あ、お父様が言ってたわ。私は私が決めていいって。言質はとってあるもの」

「はは!でかした。なら、後は抜かりなく進めるだけだ。次期王太子もやり手のようだし、兄弟間の派閥争いもないようだしな。こんな情勢なら、お前の政略結婚はなさそうだからな」

「おお。相変わらず凄いねレオ。もうそんなことまで読み取ってたの」

「俺を見くびるな。仮にも国王だったんだぞ」

「はい、そうですね。はい、レオは凄いです」

「だから!お前は何度言えばっ……くっ!……涙も引いたな。ほら、行くぞ」



 +++

『ひょっとしたら、私より早く婚約するかなぁ』

『な~んかあの二人、気が合いそうだよね~、兄上』

『うふふ。お互い一目惚れでしょうか』

『いえいえ。わかりやすいほど一目惚れでしょう』

『だな』『だよね~』

『だがなぁ。あの父上がなぁ』

『そうだな~。あの父上がな~』

『失礼ながら、王太子殿下はそれほど溺愛を?』

『はは。結構知れ渡ってるんだね』

『王太子妃様がお茶会で嘆いておられたと伺っておりますわ。王妃様もため息をついておられるとか』

『くくっ。さあ、父上の壁は高いよ。まあ、マリーがその壁を破壊しそうだけどね』

『あははは!』『くくくっ』『まあ、ふふふふ』

 +++



 サロンに戻ると、何とも知れない空気で迎え入れられた。レオは涼しい顔で着席しているが、うむ、お兄様たちの目が生温かいのが気になる。

「マリー。まあ、がんばれ」

「へ?」

「そうだね、がんばれ」

「何が?」

「壁は高いよ、ルーデンドルフ殿。身内に聳え立つ壁があるから」

「承知しています」

「うん。がんばれ、二人とも」

「兄は応援しているぞ」

「いや、だから、何がですの?」

「うん。そのうちわかるよ」

 ん?キャロルちゃん?扇の後ろで笑ってるだろう。

 ん?ウォルター君、何かなその視線は。

「楽しくなりそうだ」

「くくくっ」「くくっ」「くふっ」「ぷふふふ」

「かっちーん!だから何ですの!」

 レオの方を見れば、若干呆れた眼差しで見てるし!何さ!皆して!!




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