時を超えて4
知っている内容ばかりだから退屈で仕方ないが、神童と言われないように気をつけて大人しく講義を受ける日々を送っていた。人生のおさらいとでも思って勉強している。時代が変われば、身の回りの道具類も変わっていくもので、物珍しいものもあるのだ。
ただ、どうしても王女という立場もあるし、ジャンが四六時中いるし、あれからジルたちの所へ行くことができないでいる。
会えるとわかっていると会いたくなるのは仕方ないと思う。
あぁ、ままならないものだ……。
そんなこんなで年も変わり、桜の満開の時期も過ぎ、夏を迎える季節になっていた。
「マリー」
「はい、お母様」
「貴女も今年で5歳になりますからね。貴族の子たちと顔合わせよ」
「ああ、はい。お兄様たちが毎年やっているものですね」
「ええ。今年から貴女も参加するのよ」
「はい、お母様」
朝食の後に引き留められたのだが、ついでに聞いてみようとお母様に身を乗り出した。
「お母様」
「なあに?」
「私はもう、婚約の相手は決まっているのですか?」
そう問うと、横からわしっと体を掴まれて抱え上げられたのだ!
「うわっ!」
何事さ!
「マリーぃぃ!お前はまだ早い!そんなこと考えなくていいのだぞ!」
お父様の腕の中で……窒息しそうなほどにぎゅうっと抱きしめられている。
ぐえぇぇ……ぐるじい……だずげで……。
「あらあら、あなた。マリーが潰れてしまうわ」
潰れてます。
公務の時はきりっとしているお父様だが、プライベート空間になると、こんな溺愛パパに変身するのだ。もとより甘いマスクなのだが、よりでれっとなる……うむ。前世の父とのギャップが激しい。
ようやく解放され、さらに高く抱え上げられてお父様と視線が合う。
「いいな、マリー。お前はまだ早い。お前はその時が来たら自分で決めればいい。それまでは、父様がいるだろう?」
よし、言質はとったぞ。政略結婚はなさそうだな。
「はい、お父様。その時が来たら自分で決めます!」
「ああ。それまでは、父様の傍にいなさい」
「お父様、大好き!」
「父様も好きだぞぉぉ!」
ひじょーにあれだが……致し方ない……我慢だ。
「ほらほら、あなた。公務の時間でしてよ」
「マリー「行ってらっしゃいませ、お父様!」
いい笑顔で送り出せば、お父様は渋々食堂を出て行った……後の言葉を言わせると、何か面倒な予感がするのは否めないので言わせないが得策だ。
「マリー。おめかしの準備をしましょうね」
「はい!お母様」
顔合わせは三日後らしい。
――そういえば思い出す。前世の旦那様と初めて会ったのは、この顔合わせだった。あの時は、合わせる顔がなくて――あぁ、だめだだめだ。何をしんみりしている!決めただろう!もう、過去は振り返るな!
「マリー?どうしたの?」
「なんでもないです。あ、私これがいいです、お母様」
「あら、そうね。可愛らしいお色ですものね」
「はい!これにします!」
今生の母とは好みも合うから非常にいい!
当日の衣装も決まり、後はその日が来るのを待つだけとなっていた。
※ ※ ※
「レオン。お前も今年5歳になるからな」
「あぁ、もうそんな時期ですか、父上」
「分かっているなら話は早い。顔合わせは三日後だ」
「はい」
朝食が終われば、俺はさっさと自室に戻っていった。
+++
『……最近のレオンは、何かやる気がないというか……』
『お前もそう思うか……』
『はい、父上』
『講義はちゃんと受けているみたいだけど、我が子ながらどこか冷めているというか。そんな気がするわ……』
『剣の見込みはあると聞いたが、騎士になりたいとか何か言っていないのか?』
『いいえ。そんなことは一言も言わないのよ』
『セレステですからね。一度神殿に連れて行ってみてはどうですか?父上』
『魔法に興味を示すかしら?』
『何とも言えんがな。あの子が何をしたいか、それはあの子自信に任せようと思っている』
『兎に角、明々後日の顔合わせが済んだら考えましょう』
『ああ』
+++
前世の記憶が甦ってからは、何に対しても興味が湧かない。王族に生まれたからには王族の義務をと叩き込まれた前世の人生に比べれば、侯爵家の次男坊に生まれた俺は、天と地ほどの責任の重さが違って見えていた。次期宰相に目されている父だが、それが俺に跳ね返る責任は無いに等しい。侯爵家は四つ上の兄貴が継ぐのだし、貴族の次男坊は学園を卒業すれば自立するわけだが、その道は限られていると言えばそうだと言える。
学園に入るまでにどの道に進むか決めねばならぬが――兎に角やる気が起きないのだ。家庭教師から受けている講義にしろ、知っていることばかりでつまらない。だが、神童と言われるようなヘマをすれば後々面倒なことは分かる。
過去に跡目争いがあった家も少なくないと聞いたことがあったし、そんな面倒ごとを起こそうとも思わない。兄貴も優秀だから何の心配もない。貴族らしい貴族の嫡男だといえる。
マリーのようにセレステで生まれてきたわけだが、これといって魔法にそこまでの興味も湧かないのが本音だ。魔法具を作りたいでもなく、魔法研究に取り組みたいと意欲が湧くでもなく、兎に角――面倒だ。
「マリーがいない世界に生きている意味があるのか……?――神よ――何故、俺にこんな記憶を植え付けた――」




