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時を超えて3


「おや?マリー、どこへ行くんだい?」

「あ、クリフお兄様。ちょっと墓地へ行くの」

 ジャンを引き連れて王宮の通路を歩いていると、剣術の稽古の帰りなのか、腰に帯剣した一番上の兄から呼び止められた。次期王太子となるクリフお兄様。前世の家族は弟だったので、上の兄弟とはこんな感じなのかと感慨深い。クリフお兄様は、銀髪に紫紺の瞳。ちなみにもう一人の兄、グレンお兄様は、青紫の髪に金の瞳だ。父は、金髪に茜色の瞳。母は、クリフお兄様と同じ色。もう一人の母は濃紺の髪に翡翠の瞳をしている。実母は、ロックウェル侯爵家から嫁いできた元侯爵令嬢だ。

 長兄は王太子として必要な講義が始まっているのでなかなか遊んでもらうことができなくなった。また、次兄も再び血筋が途絶えてしまったマルケス公爵家の後継ぎとしての講義が始まっている。貴族としての嗜みも必要なため、なかなか大変らしい。

 そう考えれば、私が一番のんびりしているだろう。将来臣籍降嫁するのだから淑女教育は必須だろうが。

 それはさておき。

「墓地とはまた珍しいところに行くんだね、マリー」

「うん。歴史で習ったご先祖様たちに会いに行ってみようと思って」

「そうか。外は冷えるぞ。長居するなよ」

「はい。お兄様」


 兄と別れると、ジャンが先導するように歩き出す。記憶が甦った今は場所を知っているのだが、初めて訪れる体裁をとっているためジャンに案内してもらっている。

 ――記憶があるのは便利そうで不便もあるものだ。

 記憶が甦った後、子どもの特権を生かして勝手知ったる王宮を改めて散策していた。お父様の執務室を訪れた時は、当時の家財道具が残っていたことに感慨深かった。大切に使用され磨き上げられ、脈々と受け継がれている。歴代の国王たちが使用している執務室に行ってみれば、懐かしさがこみ上げてきた。お母様が暮らす王太子妃の間も、おばあ様が暮らす王妃の間も――何もかもの記憶が鮮明で……。

「王女様。墓地につきましたよ」

「ありがとう、ジャン」

「はい。こちらでお待ちしていますからね」

「ええ」

 近衛騎士たちは付かず離れずの距離で護衛してくれる。今も、墓地の入り口に待機している。私は、ジャンを置いて墓地に踏み入れた。目的の場所は――。

 今は亡き、前世の家族たちの墓。

 まさか、こんな記憶を持って自分の墓の前に立つとは思いもしなかった。墓石に刻まれた墓の主の名を指でなぞってみる。前世の旦那様と前世の私は同じ墓に埋葬されている。歴代の国王たちの墓は手入れが行き届いている。墓守が丁寧に管理してくれているからだ。

 旦那様――レオ――今もまだ……こんなに愛おしい……。

 愛する息子たちもまた、隣の墓に安置されている。


 顔を上げて、歴代の王たちに挨拶をしていく。そこで一番古い墓石に目が留まった。

 んん?

 この墓の記憶はない。初めて見たかもしれない。

 墓石に刻まれた名を目にしたとき、ドクンと心臓が跳ね上がった。


 ――『ローゼンベルク国の礎を築いた者達が眠る――フローラ 娘マリー』――。


 ファミリーネームは刻まれていない。

 だが、これが誰の事か、今の私ならばわかるっ……。

 大好きだった母と共に埋葬してくれていたのだ……その隣には、初代国王エドワード陛下夫妻の墓石が安置されている。

 ずっと、ずっと待って待って待ち焦がれていたエドお兄ちゃん。


 だが……だが!!今は誰もいない!誰も!旦那様も!息子たちも!おかあさまも!エドお兄ちゃんも!お父さんお母さん!お姉ちゃん!お父様!おじい様!おばあ様!オスカー!!


 大声で叫び出したくても必死で堪える。

 こんなに鮮明な記憶があるのに……誰一人傍にいない……。

 ふと、親友だった彼女の名を思い出す――ミーナ――。

 そうか……前世の私は自分の事を全く覚えていなかった。だが、彼女は大半を覚えていたと言っていた。前世の事を聞いたことはなかったが、きっと彼女にも家族がいて、愛する人がいたはずだ。

「ミーナは……こんな思いをしてたのね……」

 たとえ傍に誰もいなくても、私は今の人生を生きるしかないのだ……。


「王女様。お体が冷えますよ。そろそろ帰りましょう」

 墓地の入り口に戻ると、ジャンが声をかけてきた。

「ジャン。離宮に連れて行って欲しいの」

「はい?離宮ですか?しかし、今は誰も使用していないので中には入れませんよ?」

「いいの。ちょっと見るだけだから」

「了解です。行きましょう」

「ええ」

 ジャンの先導で見慣れた道筋を辿っていく。そうだな。離宮を最後にしよう。昔を懐かしむのはそれでやめるんだ。過去に縛られていても何も進まないから。

 そうしよう……。


 前世晩年を過ごした離宮が見えてきた。

 何も変わらない佇まいがそこにある。そこで暮らす私たちのもとに沢山の人が訪れてくれた。あの時と何も変わらない。

「王女様。ここが離宮ですよ」

「ありがとう。ちょっと見て回ってくるわ」

「はい」

 生垣で仕切られた入り口近くに待機したジャンを置いて、懐かしい庭園に踏み入れていく。ここから裏手に回り込めば、もっと広い庭園が広がっている。誰も使用していなくても、庭師たちの手が入っているようだ。

 建物を回り込み――いつも二人で寛いでいたテラスが視界に飛び込んできた。

 涙がジワリと滲んでくる。

 今は片づけられているのか、ウッドチェアは見当たらない。そのテラスに立ち、春になればいつまでも魅入っていた桜の樹を眺めてみる。今は冬を迎えようとしている季節。前世も今も好きな桜の季節にはまだ遠い。

 さくさくと芝生を踏みしめて、その桜の樹のもとへ歩み寄ってみた。


 ――そういえば、ジルたちの大陸に繋がったのも桜の樹だった。

 ふと立ち止まり、前世生まれた『ランドール伯爵家』の邸や庭を思い出す。懐かしい我が家。懐かしい顔ぶれ。懐かしい思い出が次々に押し寄せてくる。いろんな出来事が、いろんな感情が……。

 桜の樹に凭れ掛かり、空を仰ぐ。

 ジルの背に乗り、この大空を駆け巡ったよなぁ。ジルたち竜人族は長命らしい。ならば、まだジルやヨギさんは、まだあの場所にいるのだろうか?


「ジル、ヨギさん……会いたいなぁ……」



 あ?




 +++

『あ、見つけた!ジャン様。王女様はこちらですのね』

『ああ。アリーシャ嬢。王女様は離宮の庭を散策されている』

『よかったわ、すれ違いにならなくて。こっちに向かっている姿が見えたのよね。遅いから、上着を持ってきたの』

『そうだな。これ以上あの姿では、風邪を召されてしまう』

『ええ』


『王女様ぁ~、どちらですかぁ~。王女様ぁ~』

『あれぇ?なんで返事がないんだ?』

 一拍の後――――『『またかぁぁぁ!!』』

 離宮の庭園に、二人の怒号が響き渡る!

『なんでだぁぁ!!最近は大人しくなられていたのにぃぃ!!』

『王女様ぁぁ!!どこですかぁぁ!!王女様ぁぁ!!』

 +++




 おお?んん?おおう?

 きょろきょろと見渡してみれば、記憶にある光景が広がっているのだがぁ……?

「ええ?そんなに都合よくいくもんかぁ?でもさぁ、ここってどう見ても、だよねぇ。そうだよねぇ?」

 ぶつぶつ独り言を言いながらも、記憶を辿りながらその足は駆け出している。通いなれた道筋。きっとその先には!

 私は、叫ばずにはいられなかった。

「ジル!ヨギさん!ジル!!」

 桜の樹がある雑木林を抜け、いろんなことを教えてもらったあの海岸に出てみれば。

 ああ!いた!!


「ジル……ヨギさんっ……!」


 涙が止まらなかった……懐かしい懐かしいその姿っ!涙で歪んで二人の表情がしっかりと分からない。

「……まさか……お嬢……?」

「ローズ……なのか……?」

 二人の声が鼓膜を震わす。

 しゃくりあがる呼吸で答えることができず、何度も頷いた。涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔でジルの胸に飛び込んでいった。

 二人は、私が泣き止むまで見守ってくれていた。背中を撫でてくれるジルの手が温かい。


 落ち着いた私は、この身に起きた出来事を語り始めた。

「また、記憶が甦ったの」

「そうか。お前にまた会えて嬉しいぞ、ローズ」

「ええ、そうですね」

「あ、今の名前はマリーって言うの。今度は王女で生まれてきたの」

 その瞬間、二人の呼吸が止まったように見えた。

「どうかしたの?」

「いいや。なんでもない」

「それでね、王宮にあった桜の樹でここに繋がったんだよ。吃驚したよ」

「そうでしたか」

「マリー。実は、この場所に繋がる樹は限定されているわけではない。その者の運命が繋がるのだ」

「運命?」

「ああ。お前がまたこの場所に来たということは、運命が繋がっているということだ。我々とな」

「んん?でも、前みたいにセレステじゃないから魔法が使えるかわからないよ?」

「お嬢。何も魔法だけが関係しているわけではありませんよ。前にも来たあの子がそうでしたでしょう?」

「あ、そうか。ミレーユちゃんは別の理由だったね」

「ふふ。懐かしいですね、その名も」

「ミレーユちゃんは、その……」

「ああ。人間の寿命を終えて眠っている」

「……そっか……」

「お前が気に病むことではない。我ら竜人族と人間とでは歴然とした命の長さがあるのは変えられぬ事実。我々は、その事実を受け止めていくのが宿命だ」

「……だったら……私は、何でこう何度も記憶が甦るんだろう……?」

「分からぬな。我ら竜人族や人間がどのようにして生まれてきたかを知ることができないのと同じように分からぬものだ」

「だよね……考えても無駄だよね……神のみぞ知る、か」

「ああ。起こったことは変えられぬ。だが、未来はまだ決まっていない。お前がどう生きるかはお前次第だ」

「うん」

 二人は、とても優しい笑顔を返してくれた。

「そうだ。ジルって、どれくらい生きてるの?軽く二百年以上は越えてるよね?」

 前と変わらぬ姿で目の前にいるもんな。ヨギさんは、ちょっとダンディになってる?

「ふふ。ジル様は我々の中でも一番永い時を生きているんですよ」

「二千年以上過ぎたところで、数えるのをやめたからな」

 はがっ!えええぇぇぇ!なんですと!!

「す、凄いね……あぁ、うん、あ、いや、なんというか……」

 ――ということは……どれだけ別れを経験してきたんだろう……?

「マリー」

 ぽんぽんと、ジルが頭を撫でてくる。

「別れは寂しいものだが、新しい出会いもある。お前ともこうやって再び会えた」

「うん」

「お前も寂しいのだろう?」

「……うん」

「お嬢。別れた者たちはいませんが、貴女の周りには新しい者たちがいますよね?」

「うん。そうだね。今度の家族は皆仲良しだよ」

「よかったな」

「うん」

「それとね。まだ他に記憶があって――」

 リオお兄ちゃんの事を聞いてみようとしたとき、離れた場所でどさりと何かが落ちる音が聞こえてきた。そこには、見慣れぬ人物が佇んでいた。

 その表情は驚愕に満ちている。

 はて?

 そして突然、その女性はふらりとその場にしゃがみ込んだのだ。

「え、あの、だいじょ」

「イア。どうしたのだ」

 あの人、イアさんっていうんだ。ふむふむ。

「お嬢。あの子はジル様の番ですよ」

「あ、はい。伴侶の方ですね」

 ジルがイアさんの様子を見に行っている。顔色が悪そうだが大丈夫だろうか?仲睦まじく、ジルがイアさんの腰に手を添えて連れてきた。なんか新鮮な光景だ。

 んん?顔色が悪いというか、んん?なんか、私に驚いている??

 何度も私とジルを見つめては視線を外し、また見ては視線を外しの繰り返しだ。

 どした?

「イア。様子がおかしいがどうしたのだ」

「……ジル……」

 動揺しているように見えるが。すると、イアさんは、私にしっかりと視線を合わせてきた。


「――――タカシナ・ヨウ」


 その瞬間、私はイアさんを凝視した。だって、その名は。

「これが、人の名だと分かるのね?」

「え、あ、はい。え、どういう……」

「もしかして、また記憶が甦った?」

「はい、そうですが」

 黙って遣り取りを見ていた二人も、イアさんを注視している。

 両手でごしごしと顔をこすって顔を上げたイアさんの瞳は、何か決意したような、悟ったような目に変わっていた。

「驚いたわ。私にも、前世の記憶とやらがまた甦ったようなの――ん~~……今度は女性ですか……そうですか……」

 イアさんが、ぶつぶつと呟き始めた。おおう……。


 頭の整理がついたのか――今度は驚愕の事実を話し始めた――。

「貴女はまた、マリーと名付けられたのね」

「はい。そうですね。その前はローズマリーだけど、チキュウではマリノでしたね。で、その前が」

「え!その前もあるの?」

 イアさんが驚いた声を上げたものだから、三人の視線が集中する。

「あ、はい。その時もマリー王女って呼ばれてましたよ」

 今度は、ジルとヨギさんの目が見開かれた。イアさんも口元を掌で覆って顔を伏せている。んん?何事??

「その記憶は、今回初めて甦ったというか。前世では、チキュウの時の自分の事とかはさっぱりでしたけど、今回は綺麗に覚えていました。驚きですけど」

「――地球での家族の名前を憶えているのね?姉の名は?」

「リナでしたね、はい」

「高階陽は」

 おおう。さっきから日本語が流暢ですねぇ。私はうまく喋れないが。

「リナネエの恋人の方でしたが」

「――前世は、その男性だったの、よね」

「えええ!?」

 驚愕の事実に、目の玉が飛び出しそうになったさ!!

「――イア。また記憶が甦ったと言っていたが、その世界でもという意味か?」

「ええ、その通りよジル。そして、その時も今のように魂の色を見ることができたの。おまけに、未来視も」

 ジルとヨギさんが目を見開いた。

「でも、ジルみたいに現世の未来じゃなく、来世の未来だった」

「来世?」

「ええ――だから、茉璃乃ちゃんがローズマリーとして転生することが分かったの」

「へ?」

 なんだって?ああ?んん?思考が追い付かない。え?どゆこと?

「高階陽として生を受けたとき、10歳でリオだった時の記憶が甦ったの。そして、貴女の姉だった里奈は――貴女がマリー王女だった時代の腹違いの姉」

「まさかっ、アリゼお姉様……」

「そう。里奈もその記憶が甦っていた。そして二人は出逢ったの。大学の入学式でね」

「まさか……まさか……じゃあ、あのゲームはっ」

「ええ。あのゲームは、娘の恵梨香の為に作ったの」

 二重三重の衝撃の事実に、私の頭はショート寸前だ……。

「え、え、だったら……エリカちゃんは、私の姪……だった」

「ええ、そうね――気付いたかと思うけど、恵梨香は生きたままこちらに召喚されたから、陽の未来視は通用しない。あのゲームは、全て貴女の未来を参考にさせてもらったのよ。それと、ネット小説だけど、あれは貴女が地球の記憶を取り戻したときに戸惑わないようにって里奈から伝えてもらったの。彼女が作ったのもあったのよ。そして、あのゲームのシナリオを考えたのも里奈」

「そ、そう、な、え、あう……え、なんで……」

「……マリー……貴女の傍にいたリオお兄ちゃん……」

「え?」

 ジルとヨギさんが目を伏せた。え?何?

「……あの時、守ると約束したのに、貴女を死に追いやってしまった竜は……私の前世なの……」

 悔いるように唇を噛み締め、俯くイアさん。

 でも、でも、それはあくまでも前世であって。

「イアさんが悪いんじゃないし、リオお兄ちゃんは苦しがってた……前世王族になった時に教えてもらったの。学園でも歴史の授業で建国の事は習うんだけど、王族にだけ伝えられる詳しい歴史。今のローゼンベルク国を建国できたのは、あの時の赤い竜のお陰だったって。誰一人望まない大規模な戦を回避できて、多くの民が救われたって。だから敬意を込めて、ローゼンベルク国の象徴色は『カーマイン・レッド』になったんだって。それにね、その戦が回避されていなければ、ヴァリエール国との同盟もなかっただろうって。今みたいな平和な時代が来たかも怪しいって」

 イアさんの頬に幾筋もの涙が零れていく。ジルの指が、優しく涙を拭っている。

 ヨギさんが優しく私の頭を撫でてくれる。

「ありがとう、マリー……ネット小説もゲームもあの小説も、二人で罪滅ぼしにと思って作り上げたの……」

「そのお陰でみんなと記憶を分かち合えたよ。エリカちゃんもミレーユちゃんもミーナもリリちゃんも。それに、記憶の事がばれても、誰も嫌な顔しなかったよ」

 こくりこくりと頷くイアさん。

「貴女がローズマリーとして転生した後も、陽はずっと見守っていたわ」

「うん」

「あ、でも、勘違いしないでね。あのストーリーはあくまでも全部フィクションよ。恵梨香が王太子妃を断るか断らないかで貴女の未来が決まっていなかったから、全部、里奈の創造物だったの」

「おお?じゃあ、リリちゃんが華冑科に来るとかは?」

「ええ。二作目は、登場人物こそ名前を使っているけど、あんな未来は一つも視えていなかったのよ。私たちも驚いたわ。それは偶然としか言えないわね」

 そっかぁ。

「あぁ。あのゲームの所為でも、王太子妃を避けていたものね。申し訳なかったわ」

「しかし、歩んだ道は、お前が導いたものだ、マリー」

「うん。いろいろあったけど、皆のお陰で幸せだったよ」

 満面の笑みでそう答えれば、三人もとびっきり優しい笑顔を返してくれたのだ。

「里奈が言っていたわ。物事には意味があるんだって。無意味なことは起こらないと確かに前世で実感したわ。二作を纏めた小説があんなことになるとは思わなかったし、なにより甦った記憶が役に立ったし、何故あるのか分からない来世の未来視もそうだったしね」

 そっか。そうだね。うん、そうだ。

「じゃあ、私の記憶がまた甦ったのも、皆と再会するためだったんだね!」

「ああ。そうだな」

 ぽんぽんと優しく頭を撫でるジル。

「ところで、マリー。これほど長居していいのか?」

 瞬間、ざぁぁ~~っと血の気が引いた……。

「やばぁぁぁいいぃぃ!!ジャンを置きっぱなしにしてきたぁぁ!!」

 がばりと立ち上がり、スカート部分をたくし上げて脱兎の如く走りだす!!

「またねぇぇ!!」

 奇声とも取れる声を張り上げながら、ジルのもとを後にした。



「ふふふ。お嬢はいつでも元気ですねぇ」

「ああ。そうだな」

「あの子は、いつでも真っ直ぐだわ」

「……ジル様。あの子に記憶が甦ったのは、それだけではなのではないですか?」

「そうだな……」

「あの魂を持つ子に――二日前に会ったわ、ジル」

「え?此処に来たと?」

「はい、ヨギ様――今思えば、彼も記憶が甦っていたのではないかと思います。此処を竜人族の住処と勘付き、口外しないと自ら去っていきました。年恰好は、あの子と変わらないほどでした」

「外見は?」

「あの子の前世のまんま。青髪に金と銀のセレステよ――その子は……前世、あの国の始祖王でもあるわ」

「なんと!」

「そうか――あの二人はまた出逢う運命なのだな。だが……」

「もしや……?」

「――可能性は高い――また、あの二人に襲い掛かる試練がある……」

「詳しくわかるの?」

「前々からあの子の未来は視にくい。何故か分からぬがな――何か因縁めいたものがあるとしか言えぬ」

「あの子の”真珠の様な光沢をもつ乳白色”の魂を見て記憶を思い出したわ――きっと何らかの繋がりがあるとしか思えない。だから私が傍にいれば、その魂の色を持つ者を退けられるかもしれない」

「それも一つの手ではある――その時が来れば、運命が動き出す」

「ええ」「そうですね」




 考えなしに勢いで帰還した後に、はっと気づいたが結果オーライだった。桜の樹の前に帰還したが、誰の人影もなかった。

 ほっと一息。って、ちがぁぁぁうぅぅぅ!!

 お母様に怒られるぅぅぅ!!

 急いで離宮を後にして王宮の方へと戻っていくと。

 すまぬ……ジャン……アリーシャ……。

 私を見つけた二人が、涙目の血走った目で向かってくる。あは。怖っ!!

 まだまだ身長が低い私が二人から見下ろされれば、それはそれは迫力満点で……。

「「王女様ぁぁぁ!!」」

「ご、ごめんなさい……心配かけるつもりはなかったんだけど……」

「では!どういうつもりだったのですかぁぁぁ!!」

 うぎゃぁぁ!本気モードだこれ!すまぬ!うっかり忘れてたんだよぉぉ!!

 ぎゅっと二人の服を握りしめて、怖いのを我慢して涙目で見上げた。

「ごめんなさあぁぁい!もうしませぇぇぇん!」


 あの後、ジャンもアリーシャも本気で見失ったかと思い必死で探していたんですよと、怒りモード炸裂で言われてしまい、カオス状態になりつつも何とか怒りを鎮めてもらった。結局、お母様にもばれてこっぴどく叱られたのは言うまでもない。なんせ、居住区中をジャンたちが大声で探し回っていたらしい……ばればれだった。

 クリフお兄様とグレンお兄様が意地悪く笑っていたけどね。面白がってたけどね。

 で、娘に甘々なお父様が止めてくれて、お説教から解放された。

 今回は私が悪かったので素直にお説教を聞いていた。前世60歳のおばあちゃんらしからぬ所業だし。前々世合わせたら軽く80歳は越えてるけどね。前々々世……やめておこう……。

 と、言うわけで、この事件をきっかけに、私ことマリー王女は成長された!と印象付けていくことにした。逆に子ども演技はつらい。前世でそれは身に染みたし、早めに手を打っておこうというわけだ。


 ジルたちと再会したことで私の心は軽くなっていた。過去ばかり振り返ってはいられない。新しい人生を歩まなければ。




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