時を超えて1
ゾンネ歴21☓☓年。
「またかよ……」
思わずそう呟いてしまったのは、ぴらぴらの可愛いドレスを着た幼子の私こと、名をマリー・フォン・ローゼンベルクと申します――。
目の前の肖像画に描かれている人物だったころの記憶が甦ったのだが……。
なんなのさ!なんなのさ!なんでまたなのさ!!
ちょっと落ち着こう。
記憶を辿ってみると、今回はどうもそれ以上の記憶が甦っている気がしてならないのだが……。
ああ??かな~り酷い記憶なんだが??王女として生まれたにもかかわらず、大好きだった母に先立たれ、王妃にいじめられ、結婚を約束してた人と結ばれずに亡くなったとか……酷すぎる……。
で、次が、この世界じゃない勇者ことエリカちゃんが住んでいた地球に生まれ……病気で若くして儚くなった……。
おお?あれぇ?前世の時は、地球での自分の事を覚えていなかったはずだって記憶が言っている。
で、その次が目の前の肖像画、ローズマリー妃だった時の記憶だ。この人生もなかなかの波乱万丈だったと記憶が自負している。
つらつらと記憶を辿ってみたが、だからって、なんで今生でこの記憶たちが甦る必要があるのさ!?
呪われてるの?呪われてるのか!?
4歳の幼子らしさの欠片もなく、よろけたはずみで壁に手をつき、深ーいため息をつく私は悪くないはずだ……その仕草が王女らしくないと言われても……。
気力を振り絞り、再び顔を上げて肖像画に視線を移した。
ローズマリー妃の隣に描かれている人物。レオンハルト陛下の姿を見て、幼子の私の胸がきゅっと絞られた。心から愛してくれ、そして愛した人。ごく自然な流れで年齢順に旦那様に先立たれ、その後を追うようにその生涯を終えた記憶が胸を締め付ける。
その肖像画の隣には、慈しんだ我が子が立派に成長した姿、フィリス陛下夫妻の肖像画が飾られている。そしてその隣には孫のヴァージル陛下夫妻の肖像画。可愛い孫が立派に成長した姿が飾られている。
前世のローズマリー妃が没して、今は約二百年が経った世界に転生したようだ。しかも、今度はローゼンベルク国第一王女として。あの世界で言う、平民が台頭する革命などは起きなかったらしい。それだけ、平和な時代が続いたという事だ。その点はよかったというべきだろう。そして、あの竜の伝説は、伊達ではなかったということだ。
ちなみに、私には二人の兄がいる。2歳上のクリフォードお兄様と側妃の子に1歳上のグレンお兄様。私は末娘ということになる。当然、今生の両親は次期国王陛下と次期王妃となるわけだが、前世とは違って、地球時代と同様家族仲は良好だ。普通にね。
だが――私は再度問う――何故、記憶が甦ったのさ……。
ってか、普通に記憶を受け入れる私も私だけど……4歳分の人格とさほど変わらなかったことは否めないが。
だがねぇ……まさかまた、乙女ゲームなるものの舞台になったわけじゃないよね?
そうじゃないことを祈りたい……魔族なんかが復活したりしないよね?
やめてほしい……今度は魔族に攫われる立場なんて御免被る……。
今生の私はセレステではないが、キルテの容姿ではある。サラサラストレートの金髪碧眼。まあ、自分で言うのもなんだが、可愛い系だろう。前世の美的感覚で言えばの話だが。
そういえば、リリちゃん可愛かったねぇ。壮年になっても可愛らしい童顔で年齢不詳だったねぇ。オスカーが愛してやまなかったねぇ。弟があんなに独占欲が強い子だとは思わなくて驚いたこともあったねぇ。
懐かしいねぇと、とりとめもなく思いっきり感慨に耽っていると、ばぁぁんっと、王宮での音らしからぬ怪音が室内に響き渡った。びくぅぅっと肩が跳ね上がった。
「王女様ぁぁ!!探しましたよぉぉ!!」
やべぇ……そういえばそうだった……。
「王女様!何度申し上げればよろしいのですかぁ!護衛を撒かないでくださいよぉ!」
「そ、そうね……悪かったわ……もうしないと約束するわ……」
子どもだったから許してくれ……いやぁ、前世60歳近くまで生きた記憶が甦った私としては、今更子どもらしくは無理なわけだよ……とほほ……。
「お、王女様がご成長なされたぁぁ!!」
王族の前でみっともなく泣くな!お前は仮にも近衛騎士だろう!!
私の護衛騎士である、ジャン。某子爵家の次男坊の彼だが、少々貴族らしさに欠けるのではなかろうか?まあいい。格式ばった頭でっかちよりやり易いし。
「あ!そうだった。王女様、もうすぐ講義の時間だと侍女が探していましたよ。急いでくださいっ」
「そう、わかったわ」
「ああぁぁ!!だからって、走らないでくださいよぉ!また怒られるのは王女様ですからねぇ!!」
おおう、やってしまった。どうやら身についた癖が出たようだ。歩きにくいドレスの裾をたくし上げ、脱兎のごとく走り出していた。急ブレーキをかけて静かに歩き出す。
「わかったから、貴方も王宮で大声出すのをおやめなさい」
「はっ!王女様が更に成長なされた!」
「失礼よ、ジャン。子どもとは成長するものよ」
「なんと!子どもが子どもらしくない尤もなことを仰る!」
おいこら。さっきから、どこぞの誰かたちを彷彿とさせる物言いだよね!!まさか、お前さんも誰かの生まれ変わりじゃないだろうね!?
まあいい。ジャンはもともとこんなだったし。ってか、いつの時代もこんな人たちに囲まれていると思うのは気のせいではないだろうが。気安い態度でいてくれるのは正直有り難い。うん。
背後から何とも知れない視線を感じながら、王族居住区の自室へと戻っていった。
部屋に戻れば戻ったらで。
「王女様ぁ……どこに行ってらっしゃったんですかぁ……」
今にも泣きそうな私付きの侍女のアリーシャが、ずいっと顔を寄せて問い詰めてきた。
彼女も気安くしてくれていると思う。この部屋の中ではだ。記憶が甦る前の私も気安いのを好んだようで、なんというか、子どもという立場をフル活用して態度を改めさせていた。その怖いのいやいやっ!とか言いながら。自分でもなんて策士だと思わなくもない……マリー……恐しい子……自分の事だけど。
「ちょっと散歩に行ってただけよ。今度からちゃんと言っていくから」
「まあ!王女様がご成長なされました!」
いやだから……ジャンと同じようなことを言うし。
仕方ない……少しずつ浸透させていくか。
そんなやり取りをしていると、講義の先生の訪れが告げられた。今から礼儀作法の講義なのだ。だが、前世王族として生活した記憶が甦った今、端から端まで網羅している今、一から教えられることに、果たしてこの自分が耐えられるだろうか?
退屈としか思えないのだがぁ!
もう一度問う!!何故記憶が甦ったさぁぁぁ!!!




