外伝12
何ができるのかと考える日々が流れるも、なかなか思いつかない。大学の勉強もあるし、そればかりにかまけてもいられず、ままならないものだ。
――あの時も何かと邪魔が入り、あの二人はままならなかった。
思えば、過去の記憶はファンタジー小説を読んでいる気分がした時期もあった。事実は小説より奇なりというが、今自分が置かれた境遇はまさにそうだと思う。
(ん?――小説――)
パソコンで検索していると、ふと気になるサイトを見つけた。
陽は何かを思い出したように、再び未来視の中へとダイブした。一度視た者の未来は再び視ることができる。相変わらず膨大な時間が押し寄せてきた。順を追って慎重に目的のものを探していく。
(確か――確か何か引っかかったはずだ。誰かが何かを言っていた。確か、あの子の周りに同じような境遇の子がいたはずだ――)
ネット小説。
見つけた。陽は全身に鳥肌が立っていた。自分のこの記憶と能力はやはり無駄ではなかったと。里奈がやってみたいと言っていた夢。まさか繋がっていたのかと歓喜する。
これがあれば、これがあったからこそ出来ることがある!
赤嶺家のリビングのテレビを占領して、茉璃乃がゲーム機のコントローラーを握って、画面と睨めっこしている。
「あらあら、茉璃乃ちゃん。なあにそれは?」
「ん~。友達がね、面白くてカッコいいからやってみてって貸してくれたの」
「何をするゲームなの?」
「んっとね。いろいろ選択肢を選んで恋愛していくゲームなんだってさ。最近出てきたジャンルらしいんだ」
「あらあら。本当にイケメンさんたちね。綺麗な絵」
「う~。わかんねぇ!どっちなのさ!このキャラの好みは!」
「そうねぇ。お母さんはこっちだと思うわよ?だって、見るからに俺様タイプだもの」
「俺様って亭主関白でしょう?う~ん、このキャラ嫌かも」
「あらあら。そうとは限らないわよ?そうやって表は繕って、実は愛情深いかもしれないのよ?外見じゃわからないものよ」
「このゲーム、そんなに深いかなぁ?じゃあ、こっちになるよ?まあいいや。こっちにしてみっか。えい」
「あらあらあら」
「えぇ。なんでさぁ。バリバリの俺様じゃん」
「そうだったみたいね」
「面倒だ。外見はこっちのほうが好きかなぁ。ああ?説明書に基本性格が書いてある。何なにぃ?俺様、メガネ真面目、腹黒ツンデレ、タラシ、脳筋。極端過ぎてやだ……」
「あらあら。茉璃乃ちゃんの好きなタイプはどんな人?」
「う~ん。何だろうねぇ。よくわかんない」
「茉璃乃ちゃんの初恋の子は?」
「んん?――おおう?いつだったけ?――なんてこったい!初恋思い出せない!」
「……茉璃乃ちゃん……どうしてそんなに枯れちゃってるの……もう高校生なのよ?学校にいいなと思う子いないの?」
「――――いねぇ」
「……まあ、そのうち運命の男の子と出会うかもしれないわねぇ。こういうのって縁だもの。焦る必要はないのよ?」
「そだねぇ」
そんな会話を聞きながら、里奈は思う。自分たちのように魂レベルで惹かれ合う相手がいないからだと。陽が見る未来視というのは、来世の事だという。なら、茉璃乃は今生ではどんな相手と巡り合うのだろうか?
「ところで茉璃乃ちゃん。進路希望はどうしたの?明日面談でしょう?」
「ああ、うん。大学進学って書いたよ」
「どこの大学?」
「あのね!美大行きたい!」
「あらそうなのね。茉璃乃ちゃん絵書くの好きよね」
「おう!」
「わかったわ。パパにも言っておかないとね」
「らじゃ!」
翌日、大学でいつも通り陽と待ち合わせをしていた。すると、今日はいつもと違う場所に連れていかれ、キャンパス内の比較的人の少ない場所に来ていた。
「里奈。昨日、方法を見つけたよ」
「そうなの?」
「ああ。偶然だった。里奈、小説だ。小説を書くんだ」
「小説?え、どんな繋がりがあるの?」
「未来視の中に、あの子と同じ前世の記憶を持った女の子と出会う未来があったんだ。その子とネット小説という会話をしている未来があったんだ」
「ネット小説」
「ああ。小説を書きたいと言っていただろう?だから、異世界転生を題材にした小説を書くんだ。俺がいきなりこの記憶が湧いて出て戸惑っただろう?だけど、そんなファンタジー小説を読んでおけば、俺ほどまでに戸惑わないはずだ。なにせ、あっちの世界はこっちで言うファンタジーそのものだからね」
「そのネット小説って、出版社に投稿するの?」
「いいや。誰でも自由に書けるサイトだった。かなりの読者がいるみたいだ」
「――でも、異世界転生っていったって、何を書いたらあの子のためになるの」
「それにもいろんな転生ものが出ているよ。何も長編を書く必要はないと思うんだ。ほら。携帯でも読めるから見てみるといい」
手渡された携帯サイトに目を通していると、人気のジャンルのようだ。
「やってみるわ。ええ、面白そう!」
「ああ」
里奈は小説サイトに投稿すべく、勉強の合間を縫って取り組んでいた。そして、いざ投稿してみれば、それなりの反響を得ることができた。それらを茉璃乃に読んでみるように勧めてみると、時間を惜しんで読み漁っていた。
陽の計画は、これだけではなかった。これはあくまでも序章だったのだ。
「里奈。小説書くのに自信がついたかい?」
「自信ってほどじゃないけど」
「実は、これからが本番なんだ」
「どういうこと?」
「前に話した記憶を持つ子が言ってたんだ。『ここはゲームの世界と似てるって』。里奈なら、何のことかわかるだろう?」
「――もしかして、あの子の未来をゲームにするの?」
「その恋愛ゲームってのは『選択肢』を選んでいくんだろう?言ったよね、俺が見る未来視も選択によって変わるって。他者が何を選択するかわからないから、その先の未来が不明のものもある。だから、全部はシナリオにできないんだ」
「ってことは?」
「俺が見た人物たちを使って、別の人間を主人公にすればいい。何も、あの子の未来を限定するものじゃないんだ。未来はあくまでも想像になる。それを組み立ててゲームのシナリオにして持ち込んでみたらどうかと思ってね」
「もしかして、その人達をもうピックアップしてるの?」
「ああ。特に関わりの多い人物たちをね。里奈ならシナリオを作れると思うんだ。だって、それが里奈のできることだからね。記憶を持った子が言うんだ。なら、そのゲームは君が作ったことになる。そうだろう?」
あっ、と口を開いたまま里奈は陽を凝視している。
その表情に喉を震わせながら、陽は何か書かれている紙束を鞄から取り出した。
「ほら。これがその人物たちだよ」
「――陽……この絵?は何……?」
「こほん――その人物たちの顔のつもりだけど?」
「――――言っていい?」
「どうぞ」
「陽……絵、壊滅的……」
「自覚してる」
「んん~。イメージ湧きにくい!」
「だろうね」
「キャラ設定が難しいね。陽から見て、この人物たちの性格とかわからない?」
「そうだね~。立ち居振る舞いとか、喋り方とかから判断するしかないけど」
「いいこと考えたわ。茉璃乃にキャラのイメージを描いてもらえばいいんだわ。そうね。大学の友達から絵を描くの頼まれたとかなんとか言って、陽が見たその人物たちの似顔絵に近いキャラを創るのよ」
「ん?茉璃乃ちゃん、絵得意なのか?」
「うん。美大行きたいって言ってるわ」
「へ~。それはそれは。なら、茉璃乃ちゃんが受験勉強に入る前にやってもらった方がいいね」
「そうね。陽、いつ時間取れる?」
「今週末ならいいよ」
「OK。茉璃乃を捉まえとくわ」
「ああ」
5/1 誤字を修正しました。




