外伝8
忽然と消えた赤竜――。
リオの姿が、瓦礫の陰にあった。
その場で、慈しんだ少女の名を叫ぶ男の声を聞いていた。
それで理解した。
掻き毟りたくなるほどの心の痛みが襲う。将来の伴侶が迎えに来るまで守ると約束した自分がその命を奪ってしまったのだ。
――リオの目から、生気が無くなっていく。ガラス玉のような瞳。
暫くして、リオはふらりと立ち上がった。皆がいる方とは逆方向に歩きだす。目的があるようには見えず、ふらふらと歩いて行く。その足は止まることなく、どこかへと歩いて行く。
気づいた時には、樹々が生い茂る中、ぽっかりと開けた空間に立っていたのだ。
傷だらけのその体が悲鳴を上げている。
傷を癒そうと手を掲げて思い至った。自分は治癒魔法は得意ではなかったことに。この魔法を教えた青髪の少女は難なくこなしていたのにと自嘲する。
そこへ、一人の女性の声がリオの耳に届いた。
「その傷――手当しましょうか?」
リオが振り向くと、そこには紫の髪に金の瞳をした女性が立っていた。
「治癒魔法を少し使えますから、その傷を癒させてください」
そう申し出た女性が近寄ってくるが、リオは静かに立っている。抵抗などせずに、女性のするがままに身を任せている。女性は時間をかけて傷を癒していった。
「――お前の名は?」
「リナリアといいます」
「そうか」
「貴方の名は?」
「――――リオだ」
「私には帰る場所がありません。どうか傍に置いてはいただけませんか?」
リオは長い沈黙の後、静かに頷いた。
傷が癒えるのを待ち、二人は旅立っていった――――。
※ ※ ※
ローゼンベルク国では、仮に設えたテントの中で、モーリスを含む十三人の国の重臣たちが地図を広げた卓を囲んでいる。
「あの土地はしばらくは草も生えぬだろうからな。後々土地が復活した暁には王都の民たちの憩いの場に整備しよう」
「そうですね」
「王宮は、この山の麓に建設する。そして、ここを王都とする」
「切り立った山々が天然の要塞となるわけですな」
「ああ。そして、王宮と共に神殿と学園を建設する」
「ええ。教育は、歴代の御当主の信念ですからね。我々貴族たちだけでなく、民たちにも広く門徒を開くのですね?」
「そうだ。受け継がれた手法を余すことなく取り入れる」
「領地は今までよりさらに細分化する。さすれば目が行き届きやすい。其方たちが推薦した伯爵23家からさらに子爵家、男爵家を設立する。その者たちにも領地を与え、統治させる。その為には、まず法整備が必要だ」
「陛下。その点なら我がルーデンドルフにお任せを」
「ああ。任せた」
「陛下。我がガーレイロは東西の国境警備を任せてほしい。北はハウスドルクが、南はマルムストレムがいるからな」
「ん?我が行こうと思っていたのだがな、ガーレイロよ」
「いいや。お前さんは港の警備が主軸だろうが。我ら国境警備とは味が違う」
「わかった。国境警備はガーレイロに任せる」
「あいよ」
「ならば、もちろん学園は我がシャルンホルストに任せていただこう」
「ああ」
「神殿は我がエリークスに」
「なら、国内警備は我がグランデルが引き受ける」
「我がエヴァンズは魔法研究機関を設置させてもらう。これからは、生活にも必要になってくるからな」
「ならば、我がハインツとマルケスは人選といこうか。我らの目で子爵家らを選別させてもらう。まあ、情報は集めておいたから時間はかからぬ」
「ステファン。其方を宰相とする。ロックウェル、チェンバレン、ヴァッセナーレ、其方らは宰相の右腕となってくれ」
「承知した」「ああ。もとより承知」「任せてもらおう」
「さあ。我らの国を創るぞ。我らが理想としてきた国を」
「お呼びですか?ロックウェル侯爵様」
「ああ。ジョナサン・ランドール。ウィリアム・ヴラヴェ。ダニエル・デュボール。其方らは、伯爵位に叙された」
「は?我々が伯爵、ですか?」
「ああそうだ、ジョナサン。其方らは代々忠義に厚い。其方らの功績が認められたのだ。これからは、其方らが領主となって民を導け」
三人は、深々と頭を垂れていた。
公爵2家、侯爵8家、辺境伯3家、伯爵23家、子爵家43家、男爵90家が設立され、領土を細分化していった。
高率の税に苦しめられていた民たちは、驚きに満ちていた。今までとは全く違った政策に戸惑いつつも、民たちは時間をかけて順応していくだろう。それが、戦のない安寧の時間が訪れたのならば猶更である。
王宮の建設が進む中、その一角に設けられた墓所にエドワードは訪れていた。
あの時残っていた亡国フローラ妃の墓を、この墓所へと移送していた。今では、母と娘が共に埋葬されている。
あの後静かに息を引き取ったアルベルトの亡骸は、マルムストレム領、元ローゼンベルク領に移送され、歴代の当主が弔われている墓所に埋葬された。
「マリー。また来るぞ」
薔薇を一輪、墓前に手向けてエドワードは墓所を後にした。




