ぐらぐら
柔らかいマシュマロみたい、とは聞いたことがある。
何って、女の子の唇のこと。
目の前にあるそれを見ながら、ぼんやりそんなことを思い返してみる。
可愛いクラスメイトの美祢ちゃん。
私がおやつを買いにいってる間に、どうやら眠くなってしまったらしい。
あどけない顔をして、すやすや眠っている。
しどけなくスカートの裾がめくれて、むっちりした太股が覗いている。
女の私から見ても、ものすごく色っぽい光景。
ごくっと生唾を飲み込んだのは、きっと条件反射だ。
「ねぇ、起きてよ美祢ちゃん」
そっと揺り動かすけれど、一向に反応は見られない。
揺れる度に、少しずつめくれあがるスカート。
時折、そっと漏れる、柔らかな吐息。
ふわりと襟首の辺りから漂う、甘い香り。
彼女の全てに、くらくらする。
本当は彼女を起こすことだけを考えなくちゃいけない。
なのに、身を乗り出しながら、気づけばその色香を感じようと必死な私がいた。
あとちょっと。
ほんのちょこっと近づけば、キスできる。
どれ位柔らかいんだろう。
もしかしたら、マシュマロなんかじゃ比べ物にならない位に、ふわふわなのかもしれない。
それから、チョコレートなんかじゃ比べ物にならない位に、甘いのかも。
「ねぇ美祢ちゃん、起きてよ」
それは、出した自分でもびっくりする位、誰にも聞こえないような声だった。
「起きないなら、ちゅーするよ?」
吐息混じりのその声に、反応する人はいない。
許可はとったもんね。
何故かいきなりそんな強気な気分になる。
とはいえ、やっぱり近づくのは緊張するから、恐る恐るになってしまうけれど。
合わせるだけの口づけは、3秒も立たずに終わった。
「……もう一回、いい?」
甘さも何も分からなかった。
だから、ね。
「…ぅ…ん」
小さな寝息。
タイミングがいい。
「……いいって言ったのは、美祢ちゃんだよ?」
きっと夢の中の美祢ちゃんは知らないだろうけど。
もう一回、美祢ちゃんの唇を塞ぐ。
今度は、ゆっくりと。
美祢ちゃんの唇は思った以上に柔らかい。
それから、リップをしているのか、唇からほんのりと桃の香りもする。
髪の毛からは蜂蜜みたいな匂い。
さっきはどきどきしていたし、すぐに終わってしまったから分からなかったけど。
柔らかさもその甘さも、想像以上だ。
体の下に組み敷いた美祢ちゃんを、私はうっとりと見下ろした。
まろやかな胸に押し上げられた服には、細かな皺ができている。
腕や脚はうっすらと白い。
服から覗く胸の谷間の辺りは雪のように真っ白くて、そのアンバランスな魅力に惹き込まれていく。
「ねぇ、起きてよ美祢ちゃん」
また、彼女の体を揺り動かして反応をみる。
むぅ…と唸って、体をよじった美祢ちゃん。
スカートが思い切り捲れて、これじゃあ下着まで見えてしまう。
さすがにそろそろ起きてほしいな。
そうじゃないと、もう止められなくなりそうなんだから。
綱渡りみたいに、理性がぐらぐらしている。
もっとちゅーしたいとか、胸に触ってみたいとか、首筋にキスマークを残してみたいとか。
どんどん、やりたいことが膨れ上がって、理性がやり込められているんだ。
目が覚めてくれたら、いつもみたいに普通の友達のふりができる。
だって美祢ちゃんにはきっと私の気持ちは重すぎるだろうから。
美祢ちゃんが起きてくれたら、嫌われないように振る舞いたくなるはず。
でも、もしこのままずっと眠っているなら、本当の気持ちに任せて思うように行動してしまいたい。
ぐらぐら。ぐらぐら。
どちらにしようかな、と心が揺れる。
このシーソーがどちらに傾くのか、結末の鍵は美祢ちゃんだけが握っている。