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序章(4/12)ジャンヌとの出会い(2/3)

英雄紹介が続く。


 僕は店長に連れられて大きな教会に来た。

「すっごいデカくて綺麗な教会。ここに居るの?」

「そうだ。エーテル教の大司教の一人だからな」

「大司教? って何? すごく偉いの?」

「お前ら異世界人は皆そう言うな! 偉いよ! 金で換算すれば、金貨100枚! 俺ら国民が遊んで暮らせるだけの金を管理する一人なんだから!」

「金貨って銀貨の何倍くらいの価値があるの?」

「1000倍だよ1000倍!」

「さっきの話だと銀貨1枚の価値が75万円、それの千倍は7.5億、さらにそれを100倍すると、750億! そんなお金を管理してるの!」

「そうだよ! 特に最近は偉く調子に乗ってるらしい! だいたいあんな小娘が大司教? すげえ力が使えるって聞くが、ローリック大司教の顔を立てるべきだろ!」

「何でそんなに怒ってるの?」

「何が聖少女だ! ローリック様を見殺しにしておいて何で大司教! どうせお前ら異世界人お得意の力で呪いをかけたんだろ!」

 なぜか知らないがとにかく彼は怒り狂っていた。

「あの、ごめんなさい」

「てめえらはすぐにそう言うな! 謝ればバカな俺たちを騙せると思ったか!」

「そんなこと思ってません!」

「うるせえ! さっさと入れ! てめえの顔なんぞ見たくねえ!」

 彼に首根っこ掴まれて豪勢な扉を潜った。


 中に入ると大きな銅像(多分誰かのお母さん)が迎えてくれる。そこは野球が出来そうなほど広大な祈り場、そこを囲む100の銅像、何より、祈り場の中央で神に近きもののシンボルとして立ちはだかるジャンヌダルクの銅像! そして奥へ歩を進めると肖像画で目が点になる。

「これは全部ジャンヌダルク!」

「あの野郎! ローリック様の肖像画を全部自分の物にしやがって! 舐めやがって!」

 店長は苛立つがその理由は分からない。

 しかしただただ英雄ジャンヌダルクの力に口を開けるばかり。彼女の肖像画、それを照らす豪華な燭台、なにより床に敷き詰められたカーペット、何より十人が横に広がっても十分な廊下! すべてが凄い! この教会は彼女のためにできている! そう思うくらいに。

「失礼します、ジャンヌ様にお会いに来ました」

 店長は大きな扉の前に立つと、見張りとしてついてきた(ボディーガードみたいなものだろう。さすがジャンヌダルク。そこら辺の議員よりも偉い!)に会釈すると、見張りは扉を守る兵士に顎で指示する。扉を守る兵士は黙って頷く、扉を開けた。

「ここが、ジャンヌダルクの住処!」

 数十人寝転がっても平気そうな広い部屋。十人囲んでも広いテーブル。多くのドア、そこにあるジャンヌダルク個人の部屋。ジャンヌダルクの肖像画。何より良い香りのする部屋! 香水かお香を焚いている!

「おや? その格好は?」

 入ってそうそう彼女と目が合う。

 瞳は青色、体格はスマート、装飾された軽い胸当て、籠手にすね当て、靴は豪華な軍靴、そして威圧的な装備を仄かに隠す純白のドレス。開いた口が塞がらないほど白く美しい肌、整った顔立ち。

 その姿は微笑めば胸が鼓動し、睨まれれば血は逆流、まさに天使のような存在!

 僕が喉から欲するほど凶悪な英雄の実像がそこにあった。

 ジャンヌさんはふっと軽く笑うと、すぐに僕から目を離して店長に目を向ける。

「おや? ベッヘルさんではありませんか。何か私にご用事で?」

 可憐な女性が冷たく微笑む姿はどんな芸術よりも素晴らしい。背は百六十程度、僕よりちょっと高い。

「いやいや、ようやくあんたの手伝いをしたいって奴を見つけたんで。どうやら異世界人ですし、気に居ると思いますよ?」

「いえいえ。異世界人だとしてもこの世界の人でも関係ありません。さぁ、受け取ってください」

 店長は大きな袋を受け取ると中に手を突っ込んで、金額を数える。そして再度袋の中身を覗き込むといやらしくほくそ笑む。

「まさか前金で三日分貰えるとは! ほれ異世界人、これがお前の取り分だ」

 店長は僕に銀貨三枚を握らせるとそそくさと帰って行った。その後ろ姿を見送るとジャンヌさんは大きくため息を吐く。

「契約は遂行。あとに起きた問題は私たちの問題。何があっても知らないし責任も無い。中々にあざとく、勇ましい精神力なのでしょう」

 ジャンヌさんは紅茶(多分)を立ち飲みすると目を細めて僕に振り向く。

「おかけになってください。そう緊張しないで」

 そんなこと今の僕には無理だった。

「あなたがジャンヌダルク! フランスのために、信仰のために戦い、火刑となった聖少女!」

「ありがとうございます。ですが、あなたはどこまで私を知っていますか?」

 怒っている! ならばすぐに謝る。

「ごめんなさい! あなたが火刑になったこと! 今もなお尊敬される存在としか知りません!」

 ジャンヌさんはすぐに微笑む。

「なぜ謝るのですか? さぁ、お茶にしましょう。ミルクとお菓子もあります。どっちもフランスに比べると癖がありますが、慣れると美味しいですよ」

 ジャンヌさんはその美しい目を弛ませると僕に座ってと手を差し伸べる。

「じゃあ、失礼します」

 僕が座ると僕の隣にジャンヌさんが座る。僕は口から心臓が飛び出すくらい緊張した。

「本題に入る前に、お茶を飲みましょう」

 彼女が紅茶を飲む。

 なんて凄い人なんだ。僕みたいなウジ虫が傍に居ていいのだろうか?

 僕は逃げ出したくて堪らなかった。

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