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新生フランス帝国(1/15)

国造りの序章

(ナツメ)「今日もいい天気だね」

 快晴の空を見上げて紅茶を一口。そしてクッキーを一口。美味しい。

(アンジェリカ)「そうね。だけど、ちょっとは雨が降って欲しいわ」

(ナツメ)「何で?」

(アンジェリカ)「少しは雨が降らないと、水が無くなって民が苦しむわ」

 ちょっと凹む。良い気分だったのに、いきなり現実に戻される。

(ナツメ)「大丈夫だよ。井戸も増えてるし、僕の鞄からもたくさん出ているから」

 アンジェリカさんが笑う。

(アンジェリカ)「休みでも常に国を考える。王様なら当然じゃない?」

(ナツメ)「分かってます」

 当然だ。だけどこの後の会議と書類を考えると憂鬱になる。いくら王様でも今まで学生だった僕に内政は難しすぎるよ。おまけにアウグストゥスさんとかできる人がたくさん居るから理解するだけでもあっぷあっぷだ。

(アンジェリカ)「すねないの」

 隣に座っていたアンジェリカさんが突然抱きしめてきて、それから膝枕をしてくれた。

(アンジェリカ)「私はあなたを助ける。あなたの手となり足となり、時には頭脳となってナツメを助ける。だから元気出して」

 元気が出た。やる気が出た。そしてホッとした。

(ナツメ)「愛しています、アンジェリカさん」

(アンジェリカ)「私も愛しているわ、ナツメ」

 そっと、キスをした。

 幸せだ。

(ナツメ)「平和だね」

 小鳥のさえずりと穏やかな風、そして花壇に生けられた花の香りで瞼が重くなる。

(アンジェリカ)「平和ね」

 アンジェリカさんに頭を撫でられるといよいよ、うとうとしてきた。

 アンジェリカさんと結婚して三か月が経った。お城の庭園で、アンジェリカさんと一緒にお茶を飲む。それが今一番の楽しみだった。そして膝枕してもらうのが楽しみだった。

(沖田)「いたいた! ナツメ! アンジェリカ! そろそろ会議だ! 遅れるとアウグストゥスがブチ切れるぞ!」

 沖田さんがお城の窓から大声で呼んだので、しかたなく起き上がる。

(ナツメ)「行きましょうか」

(アンジェリカ)「行きましょう。あなたは王様なんだから」

 苦笑いをしながら会議室へ向かった。


(トルバノーネ最高司令官)「突然だが俺は最高司令官の座を下りる!」

 会議が始まった瞬間トルバノーネさんが叫んだ。

(ハンニバル)「何言ってんだお前?」

(アウグストゥス)「疲れてるんだろ。じゃあさっそく会議を進めるぞ」

(トルバノーネ最高司令官)「待てやお前ら!」

 トルバノーネさんが会議開始そうそうブチ切れて立ち上がる。

 今じゃ見慣れた光景だ。一月前からこの調子だ。

(トルバノーネ最高司令官)「俺の役割は大神ナツメ、引いてはこの世界を守る剣と盾だ! こんな書類を書いたり読んだりすることじゃねえ!」

(ジャンヌ)「私も同感です。私の役割は民の手を取り、民と助け合うこと。机に座ってこんな紙の束に向き合うことでは無いです!」

(沖田)「だいたいこの紙の厚さは何だ? 薪の代役か? 俺は侍だぞ? めんどくさいっての!」

 一月前から見慣れた光景。

(アウグストゥス)「喧しいこのバカ野郎どもが!」

 最後にアウグストゥスさんが切れる。

 いつも通りだ。

(アウグストゥス)「文句が言いてえのはこっちだ! その書類のフォーマットを書いたのは誰だ? チェック項目を考えたのは誰だ? 承認のハンコを押すのは誰だ? てめえらの汚い字を読むのは誰だ! てめえらのいい加減な書類の修正をするのは誰だ! 俺だ!」

 アウグストゥスさんが頭を抱える。

(アウグストゥス)「だいたいお前らはどうしてやること成すこと全部いい加減なんだ? 字が汚いのは許すけど、今日も皆元気ですとか、今日も異常なしとか、皆頑張ってますとか、小学生の感想文よりも酷い報告書をよくも書けるな! 毎回言っているだろ? 目標にどれだけ近づいているか? 計画通りに事が進んでいるのか? それを書けって! 高が数字とそれに沿った文章を書くだけだ! 事実を書くだけだ!」

(沖田)「そんなの俺には無理だよ? 見回って異常がないんだから」

(ジャンヌ)「そうです。皆元気です。それ以外に何を書くのですか?」

(トルバノーネ最高司令官)「皆訓練頑張って家作ったり荷物運んだり道路直したりしてるんだぜ? 頑張ってる以外に何をかけばいいんだ?」

(アウグストゥス)「マジで言ってんの? ナツメ、お前の時代の小学生を読んでくれ。英雄だとか言われてるこいつらよりもよっぽど役に立つ」

(ナツメ)「あの、落ち着きましょう。何回も言っていますが、そろそろ落ち着いてきています。皆さんに余裕が出るはずです」

 会議の場で全員がため息を吐く。アウグストゥスさんやハンニバルさん、トルバノーネさんにジャンヌさんに沖田さんだけでなく、コペルニクスさんにブルーネさん、フィーカスさん、そして貴族たち、皆全員疲れ切っていた。

(アウグストゥス)「とりあえず、今一番の問題は作業量の増加だ。トルバノーネだけじゃなく、ブルーネ含めて俺たち全員一日一時間程度の睡眠しかとっていない。いくら何でも異常だ。末端の兵ですら根を上げている」

(コペルニクス)「フィーカスたちも限界です。市民代表と言ってもこれはさすがに」

 フィーカス改め大神帝国市民副代表フィーカス。

(大神帝国市民副代表フィーカス)「そうだ、コペルニクス、もう勘弁してくれ。疲れた。ハボックはゴロツキに戻りてえって泣いてるし、バルーンは愛妻家で子煩悩なのに一週間以上家に帰ってねえ。俺だって酒も飲んでねえ。ずっと書類とにらめっこだ」

 皆、ため息を吐く。

 ここ三か月の内政と皆の努力で新生ローマ帝国の首都ローマは完全に機能を取り戻した。以前のようにデフレインフレから脱却し、崩れた城壁も修繕した。家や道路はまだまだだけど人が済むだけなら十分なほど回復した。病気や職に悩む人も減った。余裕が出た。だから一月前に疎開を撤回した。結果人口が爆発した。

 現在ローマ首都および城壁外には1000万人近い人が住んでいる。明らかに異常だった。だから皆戸惑った。

 あまりの出来事に再び疎開させるべきだと声も出ている。だけどアウグストゥスさんは認めなかった。疎開を撤回したのにまた実施するなんて皇帝の恥! という理屈だ。また、たとえ疎開させても効果がないと説いた。すでに首都ローマは機能を取り戻している。疎開させてもこれ以上機能を向上させることは出来ない。民の力、人口の力が必要だと。そしてこの発言は皆が賛成だった。皆、民に出て行って欲しいと思っていなかった。何より、こんなに賑わっているのにまた人が居なくなるのは、とても悲しかったから。

 そしてその代償が睡眠時間の減少。書類の承認。書類の作成。おかげで皆ストレスが溜まっている。何せ日々送られる報告書を見るだけでも半日かかる作業だ。そこからさらに送られる書類の確認と承認。膨大な量でまた半日。もう書類を作成する暇も無い。そしてそれはアウグストゥスさんだけではない。コペルニクスさんの部下であるフィーカスさんたち、トルバノーネさんの部下のブラッドさんたちも当てはまる。

 兎にも角にも、書類、ただそれだけで一日が過ぎる。トルバノーネさん、ジャンヌさん、沖田さんがいい加減に書類を書くのも分かる。手が回らないからだ。

(ナツメ)「もっと書類を吟味したらどうです? たぶん、余分な書類や報告書があります。それらは読んでも承認しても時間の無駄です。今一度報告内容の見直しをした方が?」

(ハンニバル)「これでも減らした方だ」

 ハンニバルさんが率直に異を唱える。

(アウグストゥス)「書く書類も読む報告書も承認する書類も十分吟味した。だから書類の種類は少ない。ただ単に、書類の量が異常なだけだ」

 アウグストゥスさんも即座に同意する。やっぱりと思った。そして僕は反論できない。二人の方がずっと僕よりも政治に慣れている。書類の大切さを分かっている。

 特にハンニバルさんは政治家になった後、書類を徹底させることでカルタゴの腐敗、官僚の着服に気付いた。つまり不正を見抜き、国益を守った人だ。

 戦馬鹿とさえ思えるハンニバルさんが全面的に同意していることからも、無駄な書類は無いのだろう。それはアウグストゥスさん、コペルニクスさんだけでなく、ブルーネさんたち貴族、知識人たちが同意していることからも分かる。

 しかし批判するトルバノーネさん、ジャンヌさん、沖田さん、フィーカスさんの気持ちは分かる。むしろ同意する。確かにハンニバルさんたちは知識人だけど、トルバノーネさん、ジャンヌさん、沖田さん、フィーカスさんも知識人だ。だから間違っていない。考え方の違いだ。また、机上の書類と現場の経験で知った経緯の違いだ。

 しかしながら僕が思えるのはここまでだ。口には出さない。出しても場を混乱させる。

 皆、僕以上に悩み、苦しんでいる。だから、喧嘩にならない限り止めない。

 皆、頑張っているのだから。

(アンジェリカ)「あなたのそういうところ、王様らしくないわ。怒鳴るべきだと思うわ」

 隣に座るアンジェリカさんが意地悪な笑みを浮かべる。

(ナツメ)「分かっていて言わないでください。怒鳴って黙らせても、その後どうすればいいのか僕には分かりません。それに、皆頑張っています。なら、僕は何も言えません。そうでしょう? 僕は頑張れとしか言えません。皆ブチ切れますよ」

(アンジェリカ)「この世界の独裁者とは思えない言葉。だけど、良かった」

(ナツメ)「何が良かったんです?」

(アンジェリカ)「結婚して良かったって意味」

(ナツメ)「からかわないでくださいよ」

 にっこりと舌を出すアンジェリカさん。そして手を握ってくる。

 アンジェリカさんも不安なんだ。アウグストゥスさんもハンニバルさんもコペルニクスさんもジャンヌさんも沖田さんもトルバノーネさんもブルーネさんもフィーカスさんもここに居る皆不安なんだ。

 1000万人の期待に応えられるのか。

(ナツメ)「大丈夫です! 皆頑張ってます!」

 手を叩いて皆の注目を集め、笑う。

(ナツメ)「そもそも、皆気負いすぎですって! 民には僕よりも凄く頭の良い人、強い人が居る! この世界の支配者とかいう僕よりもですよ! だったら心配ないです!」

 シーンと場が静まり返る。

(アウグストゥス)「確かに、こんな奴よりも優れた奴はたくさん居るな」

(ハンニバル)「全くだ」

 アウグストゥスさんにハンニバルさんどころか、コペルニクスさん、トルバノーネさん、ジャンヌさん、沖田さん、フィーカスさん、ブルーネさん、そして貴族たちもがくつくつと笑う。

(ナツメ)「えっと? とりあえず会議進めましょう。笑うなら後でいくらでも笑ってください」

(アウグストゥス)「拗ねるな! すぐに会議を進める!」

(ハンニバル)「だから笑い終わるまでちっと待ってくれ! 腹がよじれて死にそうだ!」

 皆がくつくつ笑う。アンジェリカさんさえも。

(ナツメ)「僕部屋に戻ります」

(アンジェリカ)「拗ねないの! ほら、会議を始めるわよ!」

 アンジェリカさんが手を叩くと皆コホンと咳払いする。

(アウグストゥス)「さて、先ほど喚き散らした罵詈雑言は忘れて会議を始めよう。まず現状の確認だ。コペルニクス、経済の推移は予測通りか? 具体的に申すなら、金の巡り具合だ」

(コペルニクス)「比率は予測よりも下がっています。ですがこれは人工が1000万人に増えたことを想定していなかったことによるミスです。比率では下がっていますが、国内に出回っている金の量は想定の十倍以上です」

(アウグストゥス)「なるほど。ならばお前の判断は間違っていなかったのかな?」

(コペルニクス)「改善の余地はいくらでもありますし、順調とはいえませんが、着実に、進んでいます」

(アウグストゥス)「分かった。改善に努めろ。次」

(コペルニクス)「待ってください。私はこの場で申しますが、銀行制度の導入を始めたいと思っています」

(アウグストゥス)「銀行制度? 平たく言えば、金貸しになるのか? 国が?」

(コペルニクス)「そうです。三か月前に急場でこしらえた大神金貨ですが、普及率は凄まじく、もはやこの国の共通紙幣と言ってよろしいでしょう。ならば大規模な金貸しを行うべきです。国がやるべきです」

(ブルーネ)「私たちの世界では考えられないことです。申し訳ないですが、それは、あなた方、言い切りますが異世界人の制度、考えでしょう。この世界の考えにあいますか?」

(コペルニクス)「あいます。というより、やらねば経済が死にます」

(アウグストゥス)「何故だ?」

 コペルニクスさんは書類を読み上げる。

(コペルニクス)「以前、私たちは飯を作る人々、つまり平たく言えば職人に金を払い、材料を運ぶ商人に材料を無料で渡した。職人と商人の売買による経済回復を狙った。ところが材料を渡した商人は金儲けのために他の商人に材料を売った。結果インフレが起きた。そして材料を買った商人たちは民に売ろうとしたが売れず、デフレが起きた。二つのグループに分け、片方には金を、片方には材料を渡す出来レースでしたが、これで経済は立ち直ると思った。結果は惨敗でしたけど」

(ナツメ)「良い考えだと思ったんですけどね」

 それを承認したの僕だし。

 何だかこの話題が出るたびに僕はバカだって言われている気分。落ち込む。

(コペルニクス)「商人たちの心を読めなかった私の責任です。ですから現在は、材料の販売を私たち国で制御している。ナツメの力と私の備蓄、そしてジャンヌの小麦畑、そして貴族たちの畑の力で制御した。結果は上々。インフレに歯止めをかけた。またインフレに歯止めをかけたことで今まで金を配っていた職人たちも動いた。インフレで足踏みしていた人々が動いた」

(アウグストゥス)「それで十分じゃないか?」

(コペルニクス)「言葉ならそうでしょう。ですが、デバックといった私たちに協力してくれた大半の職人が今もなお足踏みしているという現状を考えると」

(アウグストゥス)「足踏み?」

(コペルニクス)「私たちが制度を改める前までデバックたちにひと月十枚の金貨」

 日本円なら75億円! どこの資産家か自治体だよ! ってくらいだけど現在金貨は流通しまくっていて実際のところ日本円なら75万円が良いところだろう。以前の千分の一。ひとえにばら撒きすぎ。国債と同じ。

 しかし大金なのは間違いない。

(コペルニクス)「しかし市場にはばら撒いた金貨の十分の一も流通していない」

(アウグストゥス)「ため込んでいるのか」

(コペルニクス)「その通り。だから吐き出してもらわないといけない。だから銀行が必要だ」

(アウグストゥス)「まだまだ言葉が足りないな」

(コペルニクス)「まず、材料を二次受けのごとく買った商人たちはなぜ破たんしたのか。簡潔に言えば、売る相手が見つからなかったから。だからそれを封じた。それによってデフレを防いだ。そして結果インフレも防いだ。だから結果は良い。しかし、私たちは特定の職人にしか売っていない。それは儲からない。なぜなら、以前の百倍の人口、つまり百倍の商人が居るこの国で! 同じことをしている! 結果不具合が出ている! 今のままでは息詰まる! そこで銀行の登場だ! 名もなき、しかし力のある商人が! 今の百倍の商人が起き上がる! 彼らの問題は結局のところ資金! そして彼らが儲かれば私たちも楽になる! 今は6000万人を超える総人口すべてが!」

(ナツメ)「コペルニクスさん、落ち着いて。色々すっ飛ばして自分の世界に浸らないでください」

 コペルニクスさんがコホンと赤くなりながら咳払いする。

(コペルニクス)「今は人手不足。そして私たちは独裁政治によって人手を制限している。今こそ自由経済に戻すべきだ。そしてそのためには銀行、つまり私たちの力が必要だ。まだまだ力のない商人たちを、私たちの手先とするために」

 最後の言葉は悪いが、コペルニクスさんはこの上なく今の問題点と解決案を一言で言ったと思う。独裁的な経済を止めて民たちに経済を任せる。それで僕たちの負担は減る。良い理屈だと思う。

(アウグストゥス)「端的に言うがそれは反対だ。俺たちが手を離せば餓死者や病死者が増える。貧困の差だ。それによって暴動が起きるかもしれない」

(ハンニバル)「俺も反対だ。物資は軍人、つまり国家の血肉だ。それを国民に任せるとなると、血肉を放置することに他ならない」

(ジャンヌ)「金が絡むと人はいくらでも罪を犯してしまう。それは止めるべきです」

(トルバノーネ最高司令官)「難しい問題だ。俺は何も言えねえ」

(沖田)「俺としちゃ賛成かな? 任せて、ダメだったら首にすればいい」

(ブルーネ)「経済は国が導くべきだと思います。民に任せれば混乱が起きる」

(フィーカス)「俺としても、そんな難しい事できるはずねえって。俺らはまだまだあんたらの足元にも及ばねえんだ」

 アンジェリカさんとトルバノーネさんがピクリと眉を顰めるが何も言わない。

(ナツメ)「トルバノーネさん、アンジェリカさん、何か言いたいことでも?」

(アンジェリカ)「無いわ」

(トルバノーネ最高司令官)「あるっちゃあるけど、難しい問題を民に押し付けるのも問題だ」

 二人は即答する。多分二人の言葉の意味は違う。雰囲気が違う。舐めるな! または責任放棄だ! そう言っている気がする。

(アウグストゥス)「ナツメ。聞きたいことや疑問があるだろうが、後でたっぷり答えてやる。今は現実と向き合うべきだ」

 違和感を感じる。だが確かにそうだ。過半数が賛成しているし、反対者も論理的ではない。

(ナツメ)「分かりました。会議を遮ってすいません」

(アウグストゥス)「謝ることは無い。それで、まずはこの話は現状維持だ。良いな? コペルニクス」

(コペルニクス)「異存は有りません。何せ今でも十分機能していますから」

 コペルニクスさんは不満げだが頷く。

 それ以外にも解決すべき課題はたくさんあるからだ。

(アウグストゥス)「次に犯罪の発生率と内訳だ。沖田。トルバノーネ。犯罪は減ったか?」

(沖田)「増えてるよ。数にして万倍以上ってところだ」

(トルバノーネ最高司令官)「おかげで人手が足りなくて困っている。それに、刑務所もパンクしている。罪人は増えるばかりだ」

(アウグストゥス)「内訳はどうだ? 殺人、強盗、強姦、それに大神帝国を名乗る詐欺師の割合は?」

(トルバノーネ最高司令官)「殺人は百倍、強盗は千倍、強姦は百倍と言ったところだ。詐欺師は一万倍に増えている」

(沖田)「人口増加が原因だが、城壁外の民たちの被害が酷い。城壁内は安定しているから、そろそろ城壁外の民にも顔を向けるべきだ。今にそっぽ向かれて大勢が帰っちまうぞ」

(アウグストゥス)「帰ってもらうなら良いが、そっぽ向かれるのは嫌だな。それだけの被害を食い止められないのは、やはり人手不足か?」

(トルバノーネ最高司令官)「不足も不足。何せどんな犯罪なのか書類を書くだけでも三十分はかかるんだぞ?」

(沖田)「軽犯罪、万引きや引ったくりに食い逃げはそれら合わせてなお数百倍だ。それにもいちいち書類を書いている。無駄だろ?」

(トルバノーネ最高司令官)「人口が増えたから、なんて言ってられねえ。刑務所もパンクして今じゃ民間の建物に閉じ込めている。鉄格子も何もない部屋だ。おかげでそれを見張る手間だけでも無駄が増えている」

(アウグストゥス)「バカ野郎と言いたいが、数百倍か。考える必要がある。しかし書類は書いてもらう。絶対だ。これはお前たちが反対しようと皇帝権限で命じる」

 沖田さんとトルバノーネさんが諦めたように黙る。

(アウグストゥス)「取り締まりの強化を続けろ。内訳はハンニバルと沖田、トルバノーネに任せるが、最低でも見回りを今の十倍の数で処理しろ。場合によっては逮捕せずに処刑してしまってよい。そして話を変えて次に国民の識字率と四則演算能力だ。ジャンヌ。目標の一千万は達成したか?」

(ジャンヌ)「以前は十万でしたよね? 数字を改ざんしないでください!」

(アウグストゥス)「人口が想定の百倍に増えたんだ。当然だろ。それよりも、実際の数字はどうだ?」

(ジャンヌ)「聖書の最初の十ページの読み書き、そして三桁の足し算引き算掛け算割り算。ここ三か月で五十万人の卒業者を出しました」

(アウグストゥス)「とはいえ、二パーセントか。総数だと全然多いんだよな。期待には全く応えられていないが。教育内容を確認するが、精々聖書の序文十ページの写し書きと一万文字の感想文、そして三桁の足し算引き算掛け算割り算しかやっていない。だろ?」

(ジャンヌ)「そうです」

(アウグストゥス)「簡単な内容だ。なぜ成果がでない?」

(ジャンヌ)「私を責めるのですか?」

(アウグストゥス)「ならば私は民を責めるべきか? 民の頭が悪いと?」

 ジャンヌさんがグッと体を強張らせる。

(ジャンヌ)「まだまだ私の力が足りないようです」

(アウグストゥス)「ならばどのように力をつけるんだ?」

(ジャンヌ)「それは!」

 グッとジャンヌさんは歯を食いしばる。

(アウグストゥス)「後で対策会議を開く。次だ。ブルーネ。現在の地方の状況はどうだ?」

 淡々と物事を進めていく。その姿が非常に似合っている。これがカリスマなのかもしれない。

 ジャンヌさんが気の毒なのに、いつの間にかジャンヌさんが悪いと思ってしまう。

 危ない危ない。

 この場合はアウグストゥスさんが悪い。だってジャンヌさんに指示を出したのは他ならないアウグストゥスさんだ。なのに一方的に責めるような態度はダメだと思う。

(ブルーネ)「首都ローマに人が集まったことで労働者が足りません」

(アウグストゥス)「奴隷ではないのか?」

(ブルーネ)「私の国に奴隷は居ません。今はあなたの国ですが、これだけは生意気を言います」

(アウグストゥス)「良くそれでやって来れたな? 正直それが信じられない。奴隷が居なかったら誰がコメや小麦を作る? 誰が野菜を育てる? 誰が家畜を育てる?」

(ブルーネ)「私の政策が良かったのです!」

(ジャンヌ)「私の小麦畑とブドウ園を奪ったエーテル教と結託していて何を言いますか!」

(沖田)「あれが正しいとなると俺は怒るぜ」

 ジャンヌさん、沖田さん、コペルニクスさん、アウグストゥスさん、ハンニバルさんの視線を感じてブルーネさんは咳払いをする。

(ブルーネ)「とにかく、神のアイテムのおかげでやってこれました。それにここまで首都に人口が集中することはありませんでしたから」

(アウグストゥス)「元々奴隷制が無いんだったら強制労働も無理か……状況としては深刻か?」

(ブルーネ)「そうですね。現在はまだまだ猶予があります。神のアイテムのおかげで、畑や家畜の世話もそれほど手間ではありません。ただ、収穫や肉の解体にはどうしても人手が要ります。二週間後には収穫の時期になります。いえある意味神のアイテムのおかげで年中収穫の時期なのですが、とにかく、肉の解体や収穫をする人手が居ないと永遠に飯が増えません。肉や小麦は眺めるために育てているのではない。食うために育てている。なのに今は、眺めるだけの観賞用に成り下がっている」

(アウグストゥス)「なるほどな。場合によっては無理やりやらせる必要があるのか」

(コペルニクス)「銀行を立ち上げることで、そこら辺は解決すると考えます。今回は現状維持となりましたが、来週にもう一度議題に上げさせていただきます」

 アウグストゥスさんはじっとコペルニクスさんを見る。コペルニクスさんも毅然とアウグストゥスを見つめ返す。

(アウグストゥス)「分かった。銀行制度の説明会を設ける。そこでどのように地方の労働者を増加させるのか説明しろ」

 コペルニクスさんがペコリと頭を下げると、次の議題に移った。


 話は変わってしまうが、何度も会議に出ていると自ずと皆の個性が分かってくる。

 アウグストゥスさんはとにかく会議の空気を自分色に染めたがる。独裁者だ。淡々とした態度だけど口数は一番多い。そして発言内容はかなり辛辣。事実だろうけど慰めの言葉もなくただ相手のミスを責める。責めるだけじゃなくて、ちゃんと代案や解決案も言うから、あまり責められないけど、もうちょっと何とかしてほしい。

 ハンニバルさんは寡黙で冷静。ただし冷淡な印象を受ける。皆がもめていても何も言わず静観する。しかし軍事的な面では違う。発言はするし意見も言うけど、反論は絶対に許さない。自分が決めた作戦や計画は絶対に曲げない。その覚悟は凄まじく、十時間以上アウグストゥスさんやジャンヌさん、コペルニクスさんに沖田さん、トルバノーネさん、アンジェリカさんと言い合ったときも曲げず、あまつさえ論破し、説き伏せた。黒き者どもとの大戦の時がそうだった。今も軍事的な面では口をだすけどその姿勢は変わらない。それに伴い、間違っていると思ったことはズバズバと言う。アウグストゥスさんに対してもそうだ。だからある意味アウグストゥスさんよりも怖い。だからこそ、もっと皆のアドバイスやフォローをしてほしい。それをしないのだから、やっぱり冷淡だ。

 コペルニクスさんは書類を重視する。だから書類と異なる発言をしたときは、どんな時でもすぐに撤回する。そして相手が書類と異なる発言をしたときは重箱の隅を突き破るほど厳しく責め立てる。アウグストゥスさんやハンニバルさんも書類を重んじるけどコペルニクスさんには敵わない。何せ彼は書類の矛盾点を見つけると即座に会議を中断させるほど書類中毒なのだ。おかげで三度ほど会議を中断されたところでアウグストゥスさんやハンニバルさん、沖田さんにジャンヌさんにトルバノーネさんさえも書類をキッチリ書くことに同意した。しかし論点は金銭の事ばかりなので、蝙蝠のように意見を変えることも多々ある。最近はそうでもないけど、毅然と手のひらを反す姿勢にはアウグストゥスさんも頭を抱えた。

 ジャンヌさんは正反対におおらかな人だ。民の心を重んじる。その姿勢がアウグストゥスさんたち理論派の逆鱗に触れることもある。今回がそうだったけど、正確なデータを言えなくて睨まれた。あの時ジャンヌさんが正確な数字を言えれば良かったけど、曖昧な表現で済ましてしまったためアウグストゥスさんたちは怒った(ハンニバルさんとコペルニクスさんも怒ってました。正確な情報でないとブチ切れるんです)。しかしジャンヌさんは真実を言う。あの様子からだとあれが精いっぱいなんだ。ジャンヌさんの問題ではない。それなのに押し黙ってしまうのだから、つくづく気の毒だ。とても優しく、相手を思いやる気持ちがあるからこそ、先ほども黙った。アウグストゥスさんたちにも責任があるだろ! って言えば良かったけど、そうではなく、自分の力不足と胸を痛めた。それは会議の場で明らかにダメだ。それを指摘しない僕もアウグストゥスさんたちはもっとダメだ。助け舟を出せる情報を集めよう。皆を論破できるように。

 沖田さんは適当だけど雑ではない。つまりしっかりと仕事をこなす。ただしそれだけ。命じられた仕事しかしない。おまけにそのくせ自分の考えを曲げない。無駄なことはしない。だから書類を雑に済ませる。やる意味が見いだせないから。ある意味、彼は本当に、家臣なのだろう。

 トルバノーネさんも同じだ。権限が沖田さんよりも上なだけ。

 そんな二人も、噛みつくところは噛みつく。つまりアウグストゥスさんたちの落ち度や考えを理解している。ただ単に、やるべきかやらざるべきか、己が心で判断している。それを口に出さないのがダメなんだけど。

 とにもかくにも、アウグストゥスさんは独裁者気質、ハンニバルさんも独裁者気質(しかし軍事にしか興味なし)、ジャンヌさんは責任感が強すぎる、沖田さんは自分の仕事以外に興味ない社員気質とでも言おうか? 皆、生前の経験と時代が反映されていると思う。

 ちなみにずっとコペルニクスさんの鞄に引きこもるダヴィンチさんは芸術家? 協調性無さすぎるんで還元してください。皆許してるからいいけど、あなたの知識も役に立つんですから。

(アウグストゥス)「以上で、定例会議は終了だ。また一週間後に集まる。ジャンヌとブルーネは昼飯食った後集まれ。別途、緊急会議だ」

 思いをはせている間に会議は終わった。


(ナツメ)「何かできないかな? ずっと書類を眺めてたら体にキノコが生えちゃう」

 書類を眺めながら欠伸をする。いつもそうだ。死ぬほど眠くなる。

 ジャンヌさんや沖田さん、トルバノーネさんの気持ちが分かる。

 これにどれほどの価値があるだろうか?

(ナツメ)「でもこれはブルーネさんやフィーカスさんたちが一生懸命纏めてくれたものだし」

 目を通さなくてはならない。それが礼儀だ。

(アンジェリカ)「ナツメ、今良い?」

 ノックと共に僕の奥さんの声が聞こえた。

(ナツメ)「大丈夫ですよ」

 アンジェリカさんが返事と共にすぐに入ってくる。

(アンジェリカ)「これ、アウグストゥスからの宿題」

 どっさりと肘の高さの書類にげんなりする。

(ナツメ)「また? もう良いでしょ? 書類なんて見飽きたよ!」

(アンジェリカ)「過去の書類を見て歴史を学べ、経験を積めですって。感想文百枚の宿題よ。またね」

(ナツメ)「勘弁してよ! もう数千枚書いたんだよ?」

(アンジェリカ)「私に言われても困ります!」

(ナツメ)「アンジェリカさん! たまには僕を助けてよ!」

(アンジェリカ)「無茶言わないの! それに、私もあなたには経験が足りないと思っています。だから、頑張って。期限は三日後だから」

 ニッコリと笑われると何も言えなくなる。

(ナツメ)「分かりました」

 ふて腐れるけど何も言えない。そしてアンジェリカさんも笑いながら出て行く。

(ナツメ)「アンジェリカさん! 僕夫だよ! ちょっとは助けてよ!」

(アンジェリカ)「泣き言言わないの! 私だってこの後ピアノとダンスとマナーのレッスン何だから!」

 きっと睨まれると俯く。確かに、文句は言えない。

(アンジェリカ)「心配しないで。夜、一緒に寝るから」

 グッと力が漲る!

(ナツメ)「ほんと?」

(アンジェリカ)「一昨日も一緒に寝たでしょ! 必死過ぎよ!」

 突然アンジェリカさんの顔色が真っ赤になる。

(ナツメ)「何時も一緒に寝てたのに、昨日は別々だったでしょ! やった! 楽しみだ!」

(アンジェリカ)「ああもう騒がない! とにかく、ちゃんとしてよね! 何時もみたいに抜け出さないで大人しくしなさい! ああもう! どうして私がこんな言葉遣いなのよ!」

 アンジェリカさんがウサギよりも早く部屋から出て行った。

(ナツメ)「ふむ」

 体に力が漲ると、自然と仕事がはかどる!

(ナツメ)「今日の書類の感想文、そして宿題となる数百枚の書類の感想文を書きあげるには!」

 答えは一つ!

(ナツメ)「いつも通り外に遊びに行こう!」

 デバックさんといった町の人々に会いに行こう! バルーンさんの子供と遊ぼう!

 それが一番だ!

(ナツメ)「旅にでます。探さないでください。これで書置きは完璧!」

 さてさて、四次元ポケットみたいな鞄に書類をぶち込んでいざ出発! 何だけど、嫌に警備が厳しい。

(ナツメ)「どうしてブラッドさんまで僕の見張りを?」

 とにかく、窮屈で仕方ない。だから窓から逃げたいけど、窓の外にもベルエルさんといった見張りが居る。明らかに過剰な見張り。まるで!

(ナツメ)「僕が逃げ出さないように監視しているみたいじゃないか!」

 そう感じたらすぐに逃げ出すしかない!

 窓がダメ、ドアがダメ、なら次は屋根裏だ!

(ナツメ)「よいしょっと」

 かさかさと静かに屋根裏に潜り込み、城を抜ける。

(ナツメ)「デバッグさんのお団子食べよ!」

 楽しみだ! 書類を見るよりずっと楽しい!

(アンジェリカ)「ナツメ! どこに行ったの!」

 お城から抜け出たと同時に、アンジェリカさんの怒号がお城に響いた。

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