表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

大神ナツメとアンジェリカ(3/8)

アンジェリカと波乱万丈


2016/10/18

誤字修正

 アンジェリカさんを探すために写真を持って城下を歩く。

(ナツメ)「すいません。この子を知りませんか?」

(女店主)「知らないよ! この悪魔! 異世界人!」

 店に入ると水をぶっかけられる。

(ナツメ)「ごめんなさい。失礼します」

 店から離れて顔を拭く。民の視線が身に染みる。

(沖田)「あんま無茶するなよ。いくら敵対勢力が消えたって言ったって、まだまだ生まれる可能性はあるんだ。何せ、民は俺たちを嫌ってる。頭では納得しているが、こればっかりはどうにもならねえぞ」

(ナツメ)「だからって、アンジェリカさんを見過ごす訳にはいきません。まだまだ情勢は不安定ですから」

(沖田)「そりゃそうだけど、聞き込み位俺に任せたらどうだ? 誘ったのは俺だけど、水をぶっかけられる必要はねえ。お前はただ、アンジェリカを見つけて、尻を叩くだけでいいんだ」

(ナツメ)「それじゃあ僕がお城に居ても一緒でしょ。探すからには! 水を浴びますよ。だいたい、アンジェリカさんは曲がりなりにも僕のお見合い相手ですよ?」

(沖田)「何だ! やっぱり乗り気なのか! 確かにあの女は美しいからな」

(ナツメ)「人として当然の考えを言ったまでです!」

 頭を拭き終わるとすぐ近くの知り合いに声をかける。

(ナツメ)「すいません。この子を知りませんか? アンジェリカさんと言って、エーテル国国王だったブルーネさんの娘さんです」

(商人)「は? 知らねえよこの異世界人が! 調子乗ってんじゃねえ!」

(ナツメ)「い、いえ、調子乗ってるとかじゃなくて、心当たりがあるかどうか?」

(商人)「だから知らねえって言ってるだろ!」

(ナツメ)「そ、そうでしたか。申し訳ありません」

(商人)「だったら失せろ! さもないとぶっ殺すぞ!」

(沖田)「ぶっ殺すとかマジでヤベエな! 逆賊か?」

 沖田さんが商人、マリクさんに詰め寄ると、僕は間に入って沖田さんを止める。

(ナツメ)「や、止めましょう! マリクさんもアウグストゥスさんの洗脳を受けた一人です。苛立つのも無理はありません」

(マリク)「てめえら! やっぱりアウグストゥスの仲間か!」

 ぞろぞろとマリクさんの商売仲間が僕たちを取り囲む。洗脳されたマリクさんは熱い人望を持った人と洗脳されている時に知ったが、洗脳が解けた今はそれをよく実感できる。

 皆、怒りもあると思うが、マリクさんの言葉を聞いて武器を持った。包丁や棒切れだけど、気迫に満ちている。あの時よりも、すごい迫力だ。

(ナツメ)「サンガさん、ブルックさん、ベックさん、フラッグさん、バルスさん、あの時の事は謝ります。だから、許してください」

 僕は頭を下げる。

(マリク)「こいつは俺たちの名前を知っている! こいつは、俺たちを洗脳して! 何かした! 酷いことをした! そうに決まってる!」

 話を聞いてくれない! 取り囲まれる!

(沖田)「こいつを殺すと、アウグストゥスが怒るぜ?」

 マリクさんたちは顔を引きつらせて止まる。

(マリク)「俺たちがあんな奴の言いなりになるか!」

(沖田)「なるほど。だが、ブルーネたち貴族たちにも狙われるぞ?」

 沖田さんが大通りのいたるところに張られた僕の肖像画に首をしゃくる。

 マリクさんたちの顔色が変わった。

(商人)「大神様! も、申し訳ありません! 知らぬとはいえ、このようなことを! 何でもします! ですから! せめて家族だけは!」

 マリクさんたちが跪いて額を地面に擦りつける。

(ナツメ)「あ、あの、僕たちは行きますから、顔を上げてください! それじゃ!」

 僕は沖田さんの手を引いてさっさと逃げた。


(沖田)「お前は本当に王様に向かねえな」

(ナツメ)「そりゃ僕は王様なんてなったことありませんから」

(沖田)「そういう問題じゃねえんだ。つか、そんなこと分かってる。俺が言いてえのは、どうしてあいつらを死刑にしないんだ? 正直、心配で堪らねえ」

(ナツメ)「死刑? そんな大げさな?」

(沖田)「お前は一番偉い。神様みたいなもんだ。それなのに民に好き勝手させるなんて。あまつさえ殺されかけても文句を言わないなんて」

(ナツメ)「殺されるなんてそんな大げさな?」

(沖田)「現に! あいつらは武器を手にした! 言葉なら牢屋に叩き込むだけでいいけど、武器を持ったら死罪だ。なのにお前はヘラヘラしていやがる。頼りなくて怖いぞ?」

(ナツメ)「だからそこまで怒らなくても?」

(沖田)「自分の地位が分かってねえんだな? お前の国なら、総理大臣が裸で踊るくらいバカげたことだぞ?」

 む? 何だか僕以外の人を馬鹿にされているようで腹が立つ。

 僕をだしに他の人を馬鹿にされるのは腹が立つ。

(ナツメ)「正直、そこまでバカなこととは思いません。総理大臣もこれくらい許しますよ。何せ、民が怒って当然なんですから」

(沖田)「比喩だ比喩。ただ、てめえの命が危険にさらされてなお平然としてられる総理大臣は居ねえだろうな」

(ナツメ)「命の危険?」

(沖田)「あのな! お前はこの国の支配者! アウグストゥスよりも偉いんだぞ! それで殺されたら世界がひっくり返る! 自分の価値を理解しろ!」

(ナツメ)「だからそんなに怒らないでよ。マリクさんたちは殺す気なんて無かった」

 沖田さんが足を止め、後ずさる。

(沖田)「ナツメ? いくら俺でも度が過ぎるお人よし、いや、臆病者は嫌いだぞ? 民のご機嫌取りにそんなことを思うか?」

(ナツメ)「違います! 僕は、洗脳されていたとはいえ、マリクさんたちに温かいスープを頂きました。コショウと塩味の効いた、舌がピリピリする味でしたが、美味しかったですし、力が出ました。その味は忘れられません」

 沖田さんが首を傾げる。

(沖田)「さっき気になったが、お前はあいつらを知っているんだな?」

(ナツメ)「ええ。洗脳されていた時ですが、マリクさんたちとお昼ご飯を食べて、お子さんと鬼ごっこをしました。正直、暇でしたから。不謹慎ですけど、楽しかったです」

(沖田)「? 洗脳されていたんだろ?」

(ナツメ)「アウグストゥスさんの洗脳は、僕らの想像を超えるほど高度です。マリクさんたちは覚えていないようでしたが、普通の人間と変わらない感じでした。正直、洗脳されていたと言われても信じられないほど自然体でした。だからこそ、ショックなんですけど」

 沖田さんが大きくため息を吐く。

(沖田)「もう分かった。だけど無茶は止めてくれよ」

(ナツメ)「分かりました。聞き込みは沖田さんに頼みます」

(沖田)「あと、二度とその服は着ないでくれよ? 民から異世界人だって反感持たれるし、何より似合ってねえ」

(ナツメ)「似合ってないって言われても、これ僕の服ですよ?」

(沖田)「もっといいドレスを用意するよ」

(ナツメ)「だから僕は男です!」

 沖田さんが突然立ち止まり、路地裏を睨む。

(沖田)「女と男のひそひそ話が聞こえた」

(ナツメ)「ひそひそ話?」

(沖田)「商売女と男の密会だったら良いが、何となく嫌な予感がする」

 沖田さんがするりと路地裏へ走ると僕も後に続く。

(沖田)「止まれ。アンジェリカだ」

 少し進むと曲がり角で沖田さんが止まる。目線の先には、アンジェリカさんと見るからにガラの悪いゴロツキ2人が居た。

(ゴロツキA)「あんた、アンジェリカ王女だろ?」

(アンジェリカ)「だったら何?」

 アンジェリカさんは大柄で武器を持ったゴロツキ2人にも物おじせず睨み付ける。

(ナツメ)「助けないと!」

(沖田)「待て。あいつらには殺気が感じられない。襲うのとは違う目的がある」

 沖田さんに腕1つで押さえられていると、ゴロツキたちは砕けた調子で笑う。

(ゴロツキB)「あんたを助けろって、親分から言われてさ」

(アンジェリカ)「私を助けろ?」

(ゴロツキA)「親分は、異世界人が持ち込んだアイテムを持っている。何でも、悪意を持った人間が分かる物らしい」

(ゴロツキB)「だから、あんたを迎えに来た」

 アンジェリカさんが凛々しい瞳を細める。

(アンジェリカ)「悪意? つまり、私がアウグストゥスに反旗を翻すと分かったの?」

(ゴロツキA)「そうだ! だから親分があんたに会いたいってよ」

(ゴロツキB)「エーテル国の王女が味方なら心強い!」

 アンジェリカさんが頭をがさつに掻く。見た目に似合わず豪快な人だ。綺麗に手入れされた髪がくしゃくしゃだ。

(アンジェリカ)「あんたら、新生ローマ帝国の反乱分子?」

(ゴロツキA)「そうだ」

(ゴロツキB)「だから、あんたの役に立つ。同じ志を持つアンジェリカ王女様なら」

 ゴロツキが舐め切った態度で言うと、アンジェリカさんは再びため息を吐く。

(アンジェリカ)「分かったわ。その親分と会ってやるわ」

 ゴロツキたちが笑いながら顎をしゃくるとアンジェリカさんは後に続く。

(沖田)「不味いな」

 その通りと頷く。

(ナツメ)「騙されてるよね? あんなガラの悪い奴らが国を思って反逆なんてする筈ない」

 沖田さんががっくりと肩を落とす。

(沖田)「あのな? あの発言はお前に対する反逆を示しているんだぞ?」

(ナツメ)「反逆?」

(沖田)「新生ローマ帝国はお前を保護する国、つまり、新生ローマ帝国への反逆はお前に対する反逆だ!」

(ナツメ)「えっと? そうなんですか?」

(沖田)「そうだ! そして奴らは反逆の意思を示した! だから、このままだとアンジェリカも殺さないといけない! それが不味いって言ったんだ!」

(ナツメ)「な、何を言ってるんですか! 反逆も何も苛立つのは当然ですし、アンジェリカさんは騙されているだけですよ!」

(沖田)「良いか! よく聞け!」

 沖田さんに両肩を掴まれて揺さぶられる。

(沖田)「お前はこの世界で一番偉いんだ! だから逆らっちゃいけない! たとえどんな理由があっても! そしてあいつらは逆らう! その意志だけでも死罪なんだ!」

(ナツメ)「だから、大げさですよ!」

(沖田)「そうなっちまったんだ! お前は一番偉い! 逆らっちゃいけない存在なんだ! だから理解しろ! アンジェリカは反逆者に自分の意思で付いて行った! もはや死罪だ!」

 沖田さんが日本刀を抜く。

(ナツメ)「沖田さん!」

(沖田)「奴らを付ける。そして親玉を見つけて、散らばる仲間の居場所を吐かせて殺す。アンジェリカも。お前はもう城に戻れ。こっから先は胸が悪くなる」

 沖田さんが走り出すとその背中を追いかける!

(沖田)「ナツメ! 覚悟があって付いて来ているんだろうな!」

(ナツメ)「覚悟とか知りませんよ! ただ、僕たちはあれだけのことをした! 怒るのは当然! そしてアンジェリカさんは騙されてる! 怒りで道に迷ってる! ただそれだけ! だから説得するんです!」

(沖田)「バカ野郎が! 初めてお前を殴りたくなった!」

(ナツメ)「殴りたかったら殴ってください!」

(沖田)「王様に手を上げるなんてできるかこのバカ!」

 僕と沖田さんは、アンジェリカさんを追った。


(アンジェリカ)「汚い隠れ家ね。虫だらけじゃない」

 一角の倉庫がゴロツキたちのたまり場で、アジトだった。そしてそこに来たアンジェリカさんは壁を這う蜘蛛やゴキブリにヤモリを見て嫌悪感を表す。

(親玉)「気にするな。反逆者は日陰者だろ? 堂々と看板立てるわけにもいかない」

 二メートル近くの親玉が笑う。

(アンジェリカ)「日陰者? やっぱり、あんたら、アウグストゥスたちが怖いんだね!」

 ゴロツキたちの表情に怒りが見える。

(アンジェリカ)「はー! 期待してなかったけど、この程度か。これじゃあ、アウグストゥスを倒すなんて無理。あいつがギロチン台にかけられているところを妄想してオナニーしてた方がずっとマシ」

 ホジホジと鼻くそをほじるアンジェリカさん。

(ナツメ)「何だか、想像していたよりも凄い人ですね」

(沖田)「女として失格だろ? 人前で鼻くそほじるとか脳みそ腐ってんのか?」

 カー! ペッ! と地面に唾を吐く沖田さん。

(ナツメ)「人のこと言えないと思いますけど?」

(沖田)「俺は男だから良いんだ。それより、頭を引っ込めとけ。見張りに見つかる」

 グッと沖田さんに頭を押さえられたので引っ込む。

(アンジェリカ)「まあ良いわ。話を聞いて上げる」

 親分はこめかみに青筋立てながらも微笑む。

(親分)「俺たちはお前さんの仲間だ。だから金をくれ」

 厚かましい物言いだ。ただアンジェリカさんは別の印象を持ったようだ。

(アンジェリカ)「あのさぁ・・・仲間とか金とか言う前に、計画を言うべきでしょ?」

(親分)「計画?」

(アンジェリカ)「計画よ! アウグストゥスを倒すためにいくら必要なの! いつ倒せるの! だいたいどうやってエーテル国を統一するの! 革命を起こすの! それとも民衆を味方につけるの! 言いなさいよ!」

(親分)「女には分からねえよ! それは男の仕事だ!」

(アンジェリカ)「もう勘弁してよ! そんなんでどうやってアウグストゥスを倒すの?」

 アンジェリカさんは木材を持つと苦々しく顔を歪める。

(アンジェリカ)「あの男はね! 恨みを持つ! 恐怖する私とお母様! お父様すらも魅了した!」

 ガツンと木材を地面に叩きつける!

(アンジェリカ)「あの男は! 私とお母様! お父様の前で! 民を操った! 私たちに恐怖を植え付けた! ところが戦況が変わって手のひらを返した! 私たちを殺さないと! 仲良くしようと! 臣下に成れと! ふざけるな!」

 ガツンガツン! 何度もアンジェリカさんは地面を木材でたたく。

(アンジェリカ)「なのに! 今やお父様はアウグストゥスに心酔している! お母様などいつアウグストゥスに股を開くか分からない! あんな男に! あれほど恐怖したのに! あれほど恨みを持っていたのに! いつの間にかあいつはお父様とお母様の心を盗んだ!」

 バキリと木材が折れるとアンジェリカさんは肩で息をしながらも首を振る。

(アンジェリカ)「でも、分ってしまった。あいつは凄い。私たちよりも遥かに凄まじい力を持っている」

 アンジェリカさんは力なく跪き、むき出しの地面に手を付き、泣く。

(アンジェリカ)「最初は怯えていた。お父様もお母様も私も。でも、一週間ほど前、私たちを含めた貴族たちの前であいつは言った。君たちは間違っていなかった。神が与えた武器を集めることも、異世界人を虐げることも間違いでは無かったと! そして! 民もそれは分かっていると!」

 アンジェリカさんが砂を握りしめる。

(アンジェリカ)「私たちはそれが嬉しかった! お父様は、隣国に対抗するために、神の力を集めた! 国民に隣国の脅威を知らせるために異世界人を排除した! それはどれほど国民に圧政を敷いただろうか? 国軍にどれほど恨みを買っただろうか? アウグストゥスたちにどれほどの罪を犯しただろうか? すべては間違いと切って捨てられても仕方のない話。私たちはそれを覚悟した。だけど! アウグストゥスは私たちの心の中にある一筋の良心を認めてくれた! だから仲良くしようと言ってくれた!」

 アンジェリカさんはため息を吐くと、脱力する。

(アンジェリカ)「あいつはその後、色々と、政治のことを話してくれた。未来の政治と過去の政治、そして、この国に合う政治を。私は半分も理解していなかった。ただ、お父様たちがのめり込んで聞き入る姿を見て、感動した。私は! お父様とお母様には未来があると! そしてその興奮は! 期待は! 新生ローマ帝国の皇帝を決める時に頂点に達した! お父様が、貴族たちが! 迷いなくアウグストゥスを認め立ち上がった! 私は! アウグストゥスに恋をしてしまった! お母様も! いつの間にか! あの男の声は詩人の様に甘く、詐欺師の様に巧みで、道化師が語る物語の様に私たちを楽しませる! まさに悪魔の囁き!」

 アンジェリカさんは角材を僕に投げつける!

(ナツメ)「ば、バレてる?」

(沖田)「しっちゃかめっちゃかになってるだけだ。当てもなく放り投げただけだよ」

(ナツメ)「か、かすった。あぶねー」

 ひりひりする頬を撫でながら成り行きを見守る。

 アンジェリカさんがふん鼻を鳴らし、腕を組む。

(アンジェリカ)「だけどすぐに私は目を覚ました! あいつが大神ナツメ様と私を結婚させると言ったときに!」

(ナツメ)「お、大神ナツメ、様?」

(沖田)「お前意外と好感度高いじゃん!」

(アンジェリカ)「私もエーテル国の王女! 真の大陸の支配者を知っている! 肩書だけになってしまったけど私は忠誠を誓っている! 結婚を申し込まれて嬉しいくらいだ! だが! アウグストゥスはそれを悪用した! ただの庶民の女の子を支配者に仕立て上げた! 許されないことだ!」

(ナツメ)「えっ?」

(沖田)「うーん? つまりあいつはお前を偽物って思ってるのか? まあこんなちんちくりんじゃしょうがないな」

(アンジェリカ)「大神ナツメ! 大神! この言葉はまさしく支配者の名! アウグストゥスはそれを悪用した! 生娘を利用した! だから私はアウグストゥスを撃つ! 必ず!」

 ぜえぜえとアンジェリカさんは喘ぐと、ふっと鼻で笑う。

(アンジェリカ)「愚痴を聞いてくれてありがと。だから、御礼ついでに言っておくけど、あんたらじゃ、トルバノーネはもちろん、アウグストゥス、ハンニバル、沖田、ジャンヌにも勝てない。それどころか私にもね」

(親分)「て、てめえ!」

 アンジェリカさんが落ち着いたのとは裏腹に親分たちはいきり立つ。

(親分)「大人しくしていれば良くしてやったが! 俺たちを侮辱するとは! 後悔しやがれ!」

(アンジェリカ)「後悔するのはあんたらだよ!」

 アンジェリカさんの貫き手がきっちりと親分の喉に決まると、親分は体を痙攣させながら倒れる。

(ゴロツキA)「て、てめえ!」

(アンジェリカ)「喋ってると舌噛んで死ぬよ!」

 鋭いハイキックや後ろ回し蹴り、そして手刀に拳が踊る!

(ゴロツキB)「は、早い!」

(アンジェリカ)「あんたらが遅いんだよ!」

 瞬く間にゴロツキたちは地に伏した。

(ナツメ)「つ、強い!」

(沖田)「確かに強い。だが、全員生きている」

 ググッと倒れたゴロツキたちが起き上がる。

(ナツメ)「倒れたのに!」

(沖田)「殺さないように手加減したようだからな。全く、女の体格と体重だと、殺すつもりでやらないと気絶させるなど無理なのに」

 ふうふうとアンジェリカさんは息を切らす。

(アンジェリカ)「こんなもんか! 起き上がれ! ぶっ倒してやるよ!」

 アンジェリカさんが拳法のような構えを取る。

(アンジェリカ)「エーテル国は! 腐っても! 異世界人の圧政を跳ね返すために! 異世界人に勝つためにある国だ! お前らみたいな奴なんて楽勝で勝てなきゃ! 王女なんて名乗れないんだよ!」

(親分)「調子に乗りやがって!」

(アンジェリカ)「来なよ。今度こそ、おねんねさせてあげる」

 ゴロツキたちがアンジェリカさんを取り囲む! 疲れたアンジェリカさんじゃ今度は無理だ!

(ナツメ)「沖田さん!」

(沖田)「お前が行け」

 お願いしたのに沖田さんは腕組したままだった。

(沖田)「良い女だ。だから、男を見せるなら今だぜ?」

(ナツメ)「沖田さん! 今はそんな場合じゃ」

(沖田)「守れないなら諦めろ。あいつはじゃじゃ馬だから乗りこなせない。何より、あいつは理由はどうあれ反逆者だ。守っちゃいけない。どうしても守りたいなら、お前が行け」

 沖田さんは薄笑いを浮かべる。

(ナツメ)「分かりました!」

 僕は石を持つとゴロツキたちに投げる!

(ゴロツキA)「痛!」

(ゴロツキB)「誰だ!」

(ナツメ)「名乗るほどの者じゃないよ! それより、アンジェリカさんから離れろ! じゃないと石を投げる!」

(ゴロツキA)「ぐっ!」

 石がゴロツキの1人にジャストミート! ゴロツキは力なく倒れた!

 石は十分な凶器になる。あの黒き者どもとの戦いを見て実感した!

(ゴロツキB)「この野郎! この女がどうなっても良いのか!」

(アンジェリカ)「それは私を組み伏せてから言いな!」

 アンジェリカさんが連撃でゴロツキたちを攻撃する!

(親分)「て、てめえら!」

 石を投げてこちらに気を引き付ける間にアンジェリカさんの蹴りと拳が急所に叩き込まれる。ゴロツキたちにとっては悪夢だ。

 だからこそ瞬く間にゴロツキたちが倒れていく。

(親分)「調子に乗ってんじゃねえ!」

 だけど親分だけは別格だった! あいつは投石に怯みもせずアンジェリカさんを掴んだ!

(アンジェリカ)「何!」

(親分)「捕まえたぜ王女様!」

 べろべろとしたを出してアンジェリカさんをバカにする!

(アンジェリカ)「ざけてんじゃないよ!」

 アンジェリカさんが膝蹴りを顎に叩き込む! だけど親分はビクともしなかった。腕を掴まれて宙づりの体勢だったからだ。あれじゃあ、威力を発揮できない。

(親分)「さあ、そこの女! 石を放り投げて手を上げな!」

 女って僕! とムカッと来たけど、人質を取られてはどうしようもないので素直に石を捨てる。

(アンジェリカ)「逃げなこのバカ!」

(親分)「うるせえぞ女! おいお前ら! さっさと起きろ!」

 ゴロツキたちが次々と起き上がる! 浅かった!

(ゴロツキA)「くそったれ!」

(ゴロツキB)「やりやがったな!」

 ゴロツキたちが武器を構える!

(アンジェリカ)「逃げろ! 私に構うな!」

(ナツメ)「そういう訳にはいきません! 僕は一応、あなたの婚約者ですから」

 ニッコリと安心させるために笑うと、アンジェリカさんが口をパクパクさせる。

(アンジェリカ)「あなた! まさか! 大神! ナツメ! 様!」

(親分)「大神ナツメ!」

(ゴロツキA)「お、親分! あの大神ナツメですよ!」

(ゴロツキB)「み、身代金をとったら一生遊んで暮らせるぞ!」

(親分)「黙れてめえら!」

 親分が子分たちを黙らせると目前に立つ。

(親分)「まさかこんな弱っちいのが支配者様とは、恐れ入ったぜ」

(ナツメ)「恐れ入ったなら跪いて、アンジェリカさんを放してよ」

(親分)「うるせえ! お前ら! こいつらを牢屋にぶち込んどけ!」

 僕とアンジェリカさんは手錠をかけられて連行される。

(沖田)「すぐにトルバノーネたちを連れてくる! それまで守ってやるけど、できるだけ、頑張れよ!」

 遠くでニヤニヤしながら沖田さんが囁いて、消えた。勝手な人だ。

(アンジェリカ)「安心しなさい。私が付いているから」

 そう思ったけど、手を握られて励まされると、後悔も何もなくなって、アンジェリカさんが生きててよかったとしか思えなかった。

(ナツメ)「ありがとうございます」

(アンジェリカ)「? 何で御礼なんか言うの?」

(ナツメ)「だって、僕を守ってくれるって言ったでしょ?」

(アンジェリカ)「そんなの当たり前! 御礼を言われる筋なんて無いから!」

 ギリギリと歯を食いしばる!

(アンジェリカ)「むしろ! アウグストゥスが許せない!」

(ナツメ)「な、何でですか?」

(アンジェリカ)「アウグストゥスに唆されたんでしょ! 分かるわよ!」

 何だか誤解されてる気がする。というか誤解されてる。どうしよ?

(アンジェリカ)「大丈夫! 私が守る! 幸いあいつらはあなたを殺す気は無い! だから心配するな! 絶対に逃がす!」

(ナツメ)「でも? アンジェリカさんは?」

(アンジェリカ)「私の心配は要らないよ。あんたよりもこいつらよりも強いから」

(親分)「喋ってんじゃねえよ!」

 尻を蹴飛ばされる!

(アンジェリカ)「耐えて! 今は!」

 アンジェリカさんは黙々と歩く。僕もそれに従う。

(アンジェリカ)「悪かったね。赤っ恥かかせて。だから、あんたを生かして返すよ!」

 強気で元気の良い笑み。この逆境でも諦めない瞳。


 僕は、この人と結婚したいと思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ