大神ナツメとアンジェリカ(2/8)
結婚は難しいと思います!
(ジャンヌ)「衣装はこれが良いでしょうか?」
(トルバノーネ最高司令官)「違う違うこっちの方が可愛いって」
(ジャンヌ)「そうでしょうか? 何というか不埒な感じがします。やはり白を中心としたウェディングドレスが似合います!」
(トルバノーネ最高司令官)「男心が分かってねえな。黒が良い! ちょいと妖しい光が出て、威厳が出るったもんだ」
(沖田)「黒は喪服だろ? 赤が良いって! こう、俺たちを燃やす様な情熱を掻き立ててくれる!」
(ジャンヌ)「いいえ白です! 赤も黒も不埒です! 処女の証たる白こそナツメには似合います!」
(トルバノーネ最高司令官)「だから黒だって! 潔癖よりも、汚れを目立たせない黒だ! そうしないとこいつの包容力を表せないだろ?」
(沖田)「情熱の赤だ! 燃え滾らせるんだよ!」
(ナツメ)「ちょっと皆さん!」
ジャンヌさんにトルバノーネさん、沖田さんがびっくりする。
(ジャンヌ)「申し訳ありません。あなたの気持ちを無視してしまい。どのドレスが良いですか?」
(トルバノーネ最高司令官)「分かった分かった! これよりもっといいドレスを買ってやるよ! ただし、俺の給料の範囲にしてくれよな?」
(沖田)「やっぱ和服だよな? ウエディングなんて浮ついた服なんかよりも」
(ナツメ)「あのですね? いつもいつもの事ですが、今日という今日は怒りますよ!」
(ダヴィンチ)「そうだよ! 髪飾りの無い花嫁なんて居ないだろ!」
ダヴィンチさんが僕にリボンを付ける。
(ダヴィンチ)「まずは定番の大きなリボンだ! 和服とは合わないけど可愛さが引き立つからドレスには最適だ!」
ほうっと皆が感心する。
(沖田)「そうかもしれねえな! ちょっと赤の服を着せてみてくれ」
(ナツメ)「僕は嫌ですからね!」
(ダヴィンチ)「我儘言わないの! しかし、それにしても君たちが持ってきた服はどれもこれもセンスがないね? そんなものどれを着せたってナツメが喜ぶわけないだろ?」
シャッシャッとダヴィンチさんがキャンバスに描くと、服がポンと変わった。
(沖田)「こいつはすげえや!」
(ジャンヌ)「派手ですが華やか! 何より、誠実に見えます! 不思議です!」
(トルバノーネ最高司令官)「こいつはすげえな。赤は派手すぎると思っていたがずい分と女の子らしい」
(ダヴィンチ)「注目してもらいたいのは赤と肌のコントラスト! 黒と白がくっきり分かるように、肌と布の境目はしっかりするべきだ! 例えば、顔、そして手の先。そこで肌色と布の赤色を明確にしている! つまり! ナツメがそこに居ることを表している!」
(沖田)「難しいことは分からねえけど、十分似合ってる!」
(ジャンヌ)「ダヴィンチさん! 次は白のウェディングドレスをお願いします!」
(ダヴィンチ)「白! 難しい注文だ。白が派手なのは肌の色が生地で覆い隠されてしまうからだ。白より眩しいものは無いからね。だから白で塗ると周りから浮いてしまう。僕もさんざん悩んだ。だけど今の僕なら白ほど最高の色は無い!」
また、ポンと服が変わる。
(ダヴィンチ)「白を描くときは周囲との境目が大事! そうすることで服と背景をくっきりと分ける! それによって! 背景からナツメの輪郭が浮かび上がる! しかしそのためには完璧な白が必要だ! ああ! 僕がこの力を手に入れたのはナツメ! 君を描くためだ!」
(ジャンヌ)「小さな白いリボンがとても印象的です。それがナツメの顔の輪郭を後光を刺すがごとく表し、ナツメの清らかさを際立たせる。手首や首にスカートについたフリルも美しい」
(ダヴィンチ)「僕は芸術家のダヴィンチだ! あらゆる分野の天才とか言われていたようだけど違う! ただ単に! 僕は神の言葉を描いているだけなんだから!」
(トルバノーネ最高司令官)「黒のドレスはどうだ? 着せてみてくれ!」
(ダヴィンチ)「黒! 黒は白と同じくらい難しい。黒は白と違い、ナツメを覆い隠す。微妙なニュアンスだけど、白は背景から浮いてしまうのに対して、黒は背景に溶け込んでしまう。結果、肌と服のコントラストの差が明確になってしまい、あたかも宙に浮かんだ手と顔を思い浮かべてしまう。さながら出来の悪い透明人間だ。だけど僕は黒も支配した!」
ポンと服が変わる。
(ダヴィンチ)「黒は極めれば相手を際立たせる最良の色だ! なぜなら着るものの美しさを際立たせる色だ! 黒にも負けない肌! そして歩き方や立ち位置! ポーズ! 輪郭! すべてを際立たせる! しかしそれは諸刃の剣。黒で強調された自分を表せる美しさが必要だ!」
(トルバノーネ最高司令官)「能書きは良い! しかしながら、良い感じだ! 少し深く見せる胸! 腕! 足! すべてがナツメの可愛らしさを表している! これだ! 俺が言いたかったのはこれなんだよ!」
(ダヴィンチ)「そうだろ! しかし困った! 僕は最良の答えを三つも出してしまった! どれが本当に正しいと思う?」
(沖田)「赤だろ?」
(ジャンヌ)「白です!」
(トルバノーネ最高司令官)「黒だろ?」
(ダヴィンチ)「全く! 僕は最良の答えをいくつも導き出す! だから天才と呼ばれる!」
(ナツメ)「話を聞いてください! 僕は男です! 男物の服をください!」
(ダヴィンチ)「ふざけるな。僕を侮辱する気か?」
何で怒られてるの?
(ダヴィンチ)「君を見て女ものの服しか思い浮かばなかった。なのにそんなふざけたことを言うだなんて許さないよ!」
(ナツメ)「どうして僕が怒られているんでしょうか?」
(沖田)「そもそも男物を無理に着ても似合わないぜ?」
(トルバノーネ最高司令官)「いつも女ものの服を着ていただろ? どうして今日になって男物を着る?」
(ナツメ)「だって女ものの服しかないないんですよ!」
(ダヴィンチ)「それでも平然と生活してたんだからいまさらって気がするけどね」
(ナツメ)「とにかく! 僕は男物の服を着ます! ドレスは着ません!」
(ダヴィンチ)「似合わないと思うけどねぇ」
ダヴィンチさんがキャンパスを持って立ち去る。
(ナツメ)「ダヴィンチさん? 男物の服を作ってくださいよ?」
(ダヴィンチ)「それは芸術にくそを塗るのと同じだ!」
ダヴィンチさんは怒って出て行ってしまった。何で?
(ナツメ)「もう! 自分で選びます!」
とりあえず、アウグストゥスさんが用意したスーツを着てみる。サイズが合わない。
(沖田)「それは笑えるから他の奴にしてくれよ?」
沖田さんにジャンヌさんにトルバノーネさんまでもクスクスと笑う。
(ナツメ)「違うのにしますよ!」
とにかくサイズの合う男物の服を探し回る。
だけどどれも大きすぎて似合わない。
(トルバノーネ最高司令官)「もう諦めろ。お前は女の子並みに小さいんだ。だから女の子の格好をした方が良い」
(ジャンヌ)「私もそう思います。無理をすると服に着られてしまいます」
(ナツメ)「皆さん! 今日は結婚するかもしれないアンジェリカさんとの初対面ですよ! 女もので会ったら失礼です!」
(沖田)「これが僕の正装ですって言いきればいいんじゃないか?」
(ジャンヌ)「というか、ナツメが男物の服を着る姿を想像できません」
(トルバノーネ最高司令官)「ちんちくりんがもっとちんちくりんになるぞ?」
(ナツメ)「ああもう! うるさいうるさい! 僕が選びます!」
とにかくサイズの合う服を探す! 条件は女ものではないこと!
有った!
(ナツメ)「これでどうです!」
学生服を着る!
(沖田)「どう思う?」
(トルバノーネ最高司令官)「弱そうだ」
(ジャンヌ)「ナツメの魅力を殺していますね」
不評の嵐。
(ナツメ)「とにかく! 僕はこれを着ます!」
ふん! そう言い切る!
(沖田)「初めに会った時よりかは似合ってるな」
沖田さんが笑うとジャンヌさんも微笑む。
(ジャンヌ)「以前よりも逞しい男の子です」
(トルバノーネ最高司令官)「何笑ってんだ? こんな服ピエロだって着させないぞ?」
(ナツメ)「トルバノーネさん……その言葉、すごく傷つきます」
兎にも角にも服は決まった。あとは顔合わせに行くだけだ!
その前に気持ちを落ち着かせるためにトイレに行こう。
(ナツメ)「じゃあ、顔合わせする前にトイレに行ってきます」
(沖田)「ちょっと待てや! さっきも行っただろ!」
沖田さんに首根っこ掴まれる!
(ナツメ)「さっきも行きましたけど! お花摘みに行きたくなったんです!」
(沖田)「行き過ぎだ。それじゃあお花畑も更地になっちまう」
ズルズルと沖田さんに引きづられる。
(ナツメ)「離してください! まずは落ち着くためにお花摘みが必要なんです!」
(沖田)「お前はこの大陸の王様だろ! それ以外の花束を用意したって時間の無駄だ!」
(ナツメ)「今のは比喩でして」
(沖田)「つまり、ビビってる暇はないんだよ!」
(ナツメ)「僕は恋人もできたこと無いんですよ! なのにいきなり結婚とか無茶です! 相手に失礼です!」
(沖田)「お前は王様! そして話はほぼ決まってる! これで手のひら返すと取り返しのつかないほどの大失態だぞ!」
(ナツメ)「何で僕怒られてるの?」
なぜかアンジェリカさんの自室へついてしまったぞ!
(ナツメ)「うんこしたい」
(沖田)「じゃあアンジェリカの前で糞しろ」
(ナツメ)「嘘です。本当はお腹がねじ切れるほど痛い」
(沖田)「じゃあ、行くぞ!」
(ナツメ)「話聞いてください! 僕は結婚なんてしたくないです! そんな資格無いです!」
(沖田)「さあ、行くぞ!」
バタンと沖田さんがドアを蹴飛ばしてアンジェリカさんの自室へ入る。
誰も居なかった。
(沖田)「便所にでも行ったか?」
(トルバノーネ最高司令官)「何だ、つまらん」
(ジャンヌ)「アンジェリカさんの鼻っ柱を折ってやりたかったのですが、居ないのなら仕方ありません」
(ナツメ)「どうしてそんな攻撃的なんですか?」
(ジャンヌ)「個人的な感想ですが、あの女、自分が偉いと勘違いしているような気がしまして」
(トルバノーネ最高司令官)「教育のためには尻を叩くしかない時もある」
言い終わるとトルバノーネさんとジャンヌさんの腕時計がアラームを上げる。
(ジャンヌ)「すぐに大聖堂へ行かなくては!」
(トルバノーネ最高司令官)「やべぇ! もうこんな時間か! 会議が始まっちまう!」
トルバノーネさんとジャンヌさんが頭を下げる。笑いながら。
(ジャンヌ)「大変でしょうが、よろしくお願いします」
(トルバノーネ最高司令官)「頑張れ!」
そして2人は去った。
(沖田)「じゃあ、お転婆お姫様に会いに行こうか!」
(ナツメ)「マジっすか! ほら! 窓に紐が垂れている! 明らかに僕が嫌いだから逃げたんだ!」
(沖田)「じゃあ、取り戻しに、行くぞ!」
(ナツメ)「マジっすか!」
僕と沖田さんはアンジェリカさんを探しに城を出た。




