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大神ナツメとアンジェリカ(1/8)

まだまだ動乱!

(ナツメ)「ではこれより、新生ローマ帝国の統一者を決めます。立候補者はアウグストゥスさん一人です。賛成の方はご起立ください」

 ブルーネさん含め貴族たち全員が立ち上がる。

(ナツメ)「採決が出ました。アウグストゥスさん、新生ローマ帝国を良くしてください」

 アウグストゥスさんは笑う。

(アウグストゥス)「その言葉、謹んでお受けするよ。ナツメ」

 勝ち誇らず、当然の結果だと自信を持った笑み。

 アウグストゥスさんは貴族たちに根回ししていた。もちろんブルーネさんにも。

(ナツメ)「やられました」

 称賛と皮肉を込めて笑う。

(アウグストゥス)「悔しかったら、もっと勉強して、私を超えて見せろ」

 ぐうの音も出なかった。そしてアウグストゥスさんに頭を撫でられる。

(アウグストゥス)「心配するな。お前は俺よりも優しい。皆、お前についてくる」

 ぐしゃぐしゃと頭を撫でられると、ホッとしてしまう。

(ナツメ)「敵わないな」


 アウグストゥスさんはこの国の情勢をよく見ていた。

 もともと、エーテル国はブルーネさんを中心に置いた絶対君主制だ。だから制限君主制の利点は理解できても納得できない。そもそも絶対君主制でも上手くいっていたのだから、制限君主制に移行する意味も見いだせない。そして僕の汚点として、そのメリットを説明できなかったこと。

 結果、アウグストゥスさんは新生ローマ帝国の初代皇帝となった。

 ブルーネさん含め貴族たちは、僕よりもアウグストゥスさんに力があると思いアウグストゥスさんに賛成した。僕自身、それに反論はない。ただ、アウグストゥスさんが圧政をする可能性を減らしたかった。だから制限君主制に移行し、アウグストゥスさんを止める力を持たせたかった。でも貴族たちはアウグストゥスさんがそんなことする筈ないと思った。だから絶対君主制の君主として、アウグストゥスさんを認めた。

 すべては根回しの力、何より、アウグストゥスさんの力。

 アウグストゥスさんは、絶対君主制のメリットデメリット、制限君主制のメリットデメリット、その他政治制度のメリットデメリットすべてブルーネさんたち貴族に説明していた。そしてその上で、己を皇帝に認めることのメリットを説いた。もちろん、デメリットは話さなかった。すでにすべての政治制度のメリットデメリットを説明した。個人が、己が皇帝に着いた時のデメリットなど、すでに説明している。もちろん相手はメリットしか理解しないけど。

 しかしながら恐るべきは、僕を立候補者に入れられないようにしたことだ。それによって僕の権限を押さえた。

 アウグストゥスさんは僕がアウグストゥスさんよりも上の立場だと表明した。だから僕は立候補できない。上の立場の人間がしゃしゃり出るなどあり得ない。それに漬け込み、僕を黙らせた。言い方は悪いが、あんたの面倒は俺たちが見る、だから黙ってな、ってことだ。昔の日本史で見たことがあった気がする?

 ただそれでも進展はある。

 ブルーネさんたちが僕に言った。

 あなたの味方をする。だからアウグストゥスさんが暴走した時はあなたが止めてくれと。

 僕の力になってくれると。

 議会制の設立は出来なかったけど、僕の味方が出来た。それだけの権力を得た。

 今はそれで喜ぶべきだ。

(アウグストゥス)「頑張れよ。お前なら、私を超えられる」

 何よりアウグストゥスさんにそう微笑んでもらえて、頭を撫でてもらって、すごく嬉しかった。


(アウグストゥス)「お前に必要なのは勉強だ」

 アウグストゥスさんが新生ローマ帝国の皇帝になって翌日、アウグストゥスさんの自室に呼ばれるとそう言われて分厚い書類を手渡された。

(アウグストゥス)「お前は、自分がバカだと思いたがっている」

(ナツメ)「突然なんですか?」

 分厚い書類を前に顔をしかめていると突然言われる。

(アウグストゥス)「怒るな。事実を飲み込め」

(ナツメ)「だから何です?」

(アウグストゥス)「お前のテストの点数が悪かったのは、お前のせいではない。ひとえに、お前の国が悪い。お前の親が、教師が、お前を虐めた奴が悪い」

 ドカリとソファーに座り、ワイングラスを持ったので、すぐに膝を着いてワインを注ぐ。

(ナツメ)「それは僕の頭の問題です。確かに、僕は、不幸でした。小さい声でしか言いたくありませんが不幸でした。でも、それとこれとは話は別です? 僕は学年最下位ですよ?」

(アウグストゥス)「死刑囚と小学生、どちらが頭が良いかな?」

 話が飲み込めない。だから思い付きで言うしかない。

(ナツメ)「さぁ? ただ、死刑囚って、とんでもない大犯罪者でしょ? そんなことをするのはバカです。だから小学生よりも頭は悪いです」

(アウグストゥス)「小学生よりも頭の悪い奴らにお前たちの世界の国は数十人も殺傷された! つまりお前たちの国はそんなバカも捕まえられないほどの大馬鹿者ってことか!」

(ナツメ)「何ですか! 僕をバカにしたいんですか!」

(アウグストゥス)「俺が言っているのは、テストで良い点数を取れるかどうか。つまり、1+1=2が理解できるか、足し算ができるのか、引き算ができるのか、掛け算ができるのか、割り算ができるのか、一という漢数字を理解できるのか、二という漢数字を理解できるのか、モーターに電池をつなぐとモーターが回るか、あとは第二次世界大戦で日本と一緒に連合国軍と戦った二国はどこか? それくらいかな?」

(ナツメ)「そんなの誰にでも分かるでしょ! 人をバカにするのもいい加減にしてください!」

(アウグストゥス)「明日死ぬかもしれないと、看守の足音に耳を尖らせる死刑囚が答案に向き合えるとは思えないが? 解いたところで無罪放免になる訳でも無いテストに身が入るのか? 大概、一分もしないうちに鉛筆を放り投げると思うが? 結果、解けた問題も解かず、小学生と同じかそれ以下の点数になると思うが?」

(ナツメ)「! ……でもそれは屁理屈でしょ?」

(アウグストゥス)「屁理屈。その一言で俺の問いは意味をなさなくなる。その通り、屁理屈だ。ただ、お前にとっては理屈となる」

(ナツメ)「何でです?」

(アウグストゥス)「教科書にいたずら書きされて、小突かれて、殴られて、死にたくて、誰も助けてくれない日常でも、死刑囚に比べればマシだ! だからそこら辺の小学生なんかにテストの点で絶対に負けない! そう言い切れるか?」

 言葉が出なくなる。

(アウグストゥス)「もしも言い切れるならば、ドアはあっちだ。どうぞ出て行ってくれ。また、俺の説明が屁理屈だと感じた時も、遠慮なく出て行ってくれ。お前が、学年最下位のお前がそれほどまでに強いなら、俺の言葉は必要ないからな」

 くそったれと思う。

(ナツメ)「分かりました。聞きます」

 アウグストゥスさんは大きく頷く。

(アウグストゥス)「俺が言いたいのは、お前は真面な環境で勉強できなかった。だから他人のアドバイス、世間のアドバイスなどくその役にも立たない。奴らは、死刑囚に勉強を教えたことなど無いからな」

(ナツメ)「確かに、集中できなかったのは認めます。でも僕は死刑囚じゃない」

(アウグストゥス)「物のたとえだ。万が一、死刑囚と虐められている子供が同列と考えるような輩が居たらバカと言ってやれ。俺が許すから殺してやれ」

 悲し気な表情に、僕はいつもやられる。

(ナツメ)「その、アウグストゥスさんは何が言いたいんですか?」

(アウグストゥス)「お前は頑張ればできるってことだ! だからお前を助けなかった世界のことなど忘れろ!」

 グッと顔を近づけてきた! その迫力にビビってしまう。

(ナツメ)「そんなこと」

(アウグストゥス)「確かに、お前は勉強ができなかった。だけどそれは周りのせいだ。だから自分を卑下しなくていい。そして、怯えなくていい。なぜなら、ここにはもう、虐めるような奴は居ない。居たらトルバノーネと沖田がぶっ殺す。前の世界よりもずっと良い教師も居る。俺にブルーネたちだ。奴らは、腐っても支配者だった。俺の助言と奴らの経験は必ずお前の糧となる。そして、ジャンヌが居る。無償でお前を助けようとする聖少女が居る。あいつはたとえ、お前が失敗し、裸で放り出されても見捨てない。だから、怯えず、その書類と向き合え。分からなくても良い。皆が教える。もう、誰もお前を叱らない」

 耳が痛い。

(アウグストゥス)「唯一叱るときは、お前が、諦めている時だけだ。どうして俺たちが居るのに頼ってくれないの! そう思わないか?」

(ナツメ)「ぐうの音も出ません。ただ、ちょっと回りくどいと思いますよ? 高が僕に書類を読ませるくらいで、数十分も使うなんて」

(アウグストゥス)「それだけ、俺はお前が好きなのさ」

(ナツメ)「ずるすぎるよその言葉」

 書類にもう一度向き合う。

 正直に言う。専門用語が多すぎて分からない。情けない。

 何よりも、これでも優しく書かれている。専門用語もかみ砕いている。

 ブルーネさんたちが、そう言ってアウグストゥスさんに手渡してくれたのを聞いたから。

 恥ずかしくてたまらなかった。ブルーネさんはにこにこと、これなら大神様にも分かってもらえる! と自信たっぷりだった。彼は僕に歩み寄った。

 でも僕は理解できなかった。

 悔しくてたまらない。

(アウグストゥス)「分からなかったら言え。お前の報告書意味が分からねえぞ! もう一回説明しろって感じに。そんぐらいの根性無いと、やっていけないぞ? 何せ、これから先、それよりももっと分かりずらい書類をお前は読むことになる。支離滅裂な文章も。だからそれを言う根性を身に付けておけ」

(ナツメ)「じゃあ、厚かましいですけどこの漢字、なんて読むんですか?」

(アウグストゥス)「その調子だ。どんどん聞け」

(ナツメ)「分かってます」

 僕はにっこりと笑うアウグストゥスさんに甘えて、思いっきり質問して、答えをメモする。

(ナツメ)「何で笑っているんですか?」

(アウグストゥス)「効率の良い勉強方法も教えようと思っていたが、無意味と理解した」

(ナツメ)「僕の勉強方法はパーフェクトってことですか?」

(アウグストゥス)「人には人のやり方があると言うだけだ」

 またまた頭を撫でられる。

(ナツメ)「全く!」

 頑張ろう。せめてアウグストゥスさんに食らいつこう。

 でなければ、アウグストゥスさんに申し訳が立たない。


(アウグストゥス)「日も落ちた。終わりにしよう」

 外を見るといつの間にか夜になっていた。

(ナツメ)「まだ十分の一も終わってないですよ?」

(アウグストゥス)「ならあと十日でクリアだ。じっくり読み込んで、理解して見ろ」

(ナツメ)「そうかもしれないけど、そんなにのんびりしていいのかな? つかダメでしょ」

 ぐったりする。予想通りだけど、僕はバカだった。

(アウグストゥス)「ゆっくり休めと言いたいが、どうしても気になるならブルーネ当たりに聞いてみろ」

(ナツメ)「アウグストゥスさんは?」

(アウグストゥス)「俺は明日からハンニバルと一緒に新生フランス帝国と新生ドイツ帝国、新生ソビエト連邦と外交を行う。早めに手を打たないと取り返しのつかないことになるからな」

(ナツメ)「取り返しのつかない?」

(アウグストゥス)「なぜそうなのか、お前がそれを読み終えて、理解し切った時に説明してやる」

 アウグストゥスさんはトランクを持つとドアを開ける。そして部屋を出る前に振り返る。

(アウグストゥス)「今日の講義で最後のアドバイスをしてやる。失敗しても自分の責任と思うな。ブルーネや私、ハンニバルにトルバノーネたちの責任でもある。なぜなら、俺たちはお前に賛同している。何より、お前が助けてくれと言った。なら、そのために動くのが家臣の役目だ。そして奴らは意外にも使える。だから、自分ひとりで抱え込まず、辛かったら、相談しろ。絶対に助けてもらえるからな」

 バタンと扉が閉まるとため息と涙が出る。

(ナツメ)「明日、ブルーネさんたちに聞いてみよ。分からないままで済ますよりも、ずっとマシさ!」

 グッと力を込めて涙を拭き、書類の束を抱える。

 バタンと扉が開いてアウグストゥスさんが顔を出す。

(アウグストゥス)「言い忘れていたけど、お前明日ブルーネの娘、アンジェリカと結婚するからよろしく」

 再びバタンと扉が閉まると、忙しなく離れていく足音が聞こえた。


(ナツメ)「はっ?」

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