序章(1/12) 新選組一番隊隊長沖田総司との出会い
多分序章で12話続きます。もっと巻きたいけど頑張ります。
目を覚ますと日が照らす草原に立っていた。青臭さが鼻を突く中ふと一キロ程度先にお城が見えた。
「中世ヨーロッパ? まあ転生するなら定番かな」
とりあえずお城に向かいながら持ち物を確認する。何も持っていない。
「そう言えば、飛び降りる前に整理整頓しちゃったんだった」
死人に必要なかったし、そもそも携帯とか必要なかった。誰からもかかって来ないし、誰にもかけない。
「何か鬱になってきた」
死んだ世界のことを考えるのは止めよう。考えるのが嫌だからしたんだし。
「しかし、彼女は神様と言って、僕は異世界に転生したと言うけど本当かな?」
体に傷は無い。学生服にも傷は無い。靴も汚れ一つない。
「そう言えば、靴脱ぎ忘れちゃった」
遺書を書かなかったせいだろう。あの風の中、遺書を残そうとするなら靴で止めるしかない。
「太陽はとっても暑いし、死んだとも妄想とも思えないけど、何だか変な気分」
神様が現れて世界を救ってくれ。たまに妄想したけど、それが現実になった。
ひょっとして僕は飛び降りた直後の夢を見ているんじゃないか? そう考えると納得できる。
まあすごく悲しくなるから考えたくないけどね。
「ここが夢でも妄想でも事実でもどっちでもいいや。死にたくなったらまた死ねばいいだけだし」
考えるのなんてめんどくさい。僕は風に流される埃のような存在。流されるだけ流される。何時もと同じだ。
「止まれ!」
物思いにふけていると鎧姿で槍を持つ憲兵に止められた。二人がかりで槍をクロスさせて止める。映画観たい、マジで中世、コスプレとかそんなレベルじゃない。何せ彼らは汗だくで、それでも重苦しい鎧を着こんでいた。
「通行許可書を見せろ」
ポケットに手を突っ込んでみる。
「無い」
「ならば通せん!」
「そっか。じゃあどうすれば通してくれるの?」
「通行許可書を見せろ!」
「持ってない」
「ならば通せん!」
「どうやったらそれ貰えるの?」
「俺を舐めてんのか! とっとと失せろ!」
「ハーイ」
ちょっとからかってみたけど意外と良い奴。あんなことされたら大抵の奴が殴るから。
「待て。お前どこから来た? まさか黒き者どもか!」
草原の木陰に入って昼寝でもしようと思っていた矢先、憲兵に止められる。
「黒き者ども?」
「黙れ! 今確かめてやる!」
憲兵は僕の顎を掴んで口を開かせたり、ポケットをまさぐったりした。その手つきは中々に乱暴だけど優しかった。調べるなら僕を殴り倒してからやればいいのに。
「違ったようだ。済まなかった」
謝るとはすごく優しい人だ。謝る必要があったの? そんな心配をしたほどだ。
「だが、無礼を重ねてしまうが、君はどこから来た? まさか沖田総司のように異世界から来たのか?」
「沖田総司! 新選組の!」
「やはり異世界人か」
「ちょっと待って! あの新選組の沖田総司がここに居るの!」
「新選組とか知らんが、沖田総司と名乗っていた。お前の様に奇妙な服を着ながらな!」
憲兵に槍を向けられると後ずさるか困った。とりあえず両手を上げる。
「お前たち異世界人は何の役にも立たない!」
彼は怒り狂っていた。何も言えない。言えば殺される。何より、彼にかける言葉が見つからない。
「アウグストゥスと名乗る異世界人も! ハンニバルと名乗る異世界人も! ジャンヌと名乗る異世界人も! 誰も黒き者どもを倒せない! 俺たちがどれだけお前らに尽くしていると思う! 俺の母はお前たちが食べる分を残しなさいと言った! お前たちが英雄だと信じたから! だから自分の食いものを食わないでお前たちに寄付した! そして母は死んだ! なのにてめえらは何もしねえ! 英雄なんかじゃねえ!」
僕は何も言えなかった。
少しだけ考えたが、神である彼が僕だけを生き返される意味は無い。僕よりもすごい人たちを頼るのが必然だ。それなのに僕はここに居る。
「ごめんなさい」
口を開くと勝手に言葉が飛び出た。彼はギョッとしたような表情をして吐き捨てた。
「お前ら異世界人は役立たずだ! それを忘れるな!」
忘れないよ。僕はここに来る前から役立たずだったのだから。
「英雄が居る。なのに僕が居る。沖田総司、アウグストゥス、ハンニバル、ジャンヌ。皆僕よりも凄い英雄偉人。全く、これなら僕が居る理由なんてないじゃないか!」
木陰に寝っ転がってふて腐れる。何で神様の彼は僕なんか呼んだ?
「崖とか縄とか転がってない? さっさと死んでミジンコになってやる!」
腹立たしさで眠気など蹴飛ばされているが無理やり目を瞑る。
目を瞑るとそこは学校だった。誰も僕に声をかけない。教師も目を向けない。目を向ける奴は!
「ダメダメダメ! 寝る寝る寝る!」
頬を叩いて再度横になる。バカげた話だ! 何で異世界に来て前世の記憶を思い出す!
「前世って言えば、僕の身なりは自殺したときのままだし、これってどっちかっていうと転移?」
なら生まれ変わって赤子に生まれたかった? 答えは嫌だ。
「親が居ない。ならどっちでもいい。僕が自殺した時のままだろうと、転生した赤子の姿だとしても、未来は変わらない」
言っていると思考が混濁する。さっさと死にたい。目が覚めたらとりあえず死に場所を探そう。僕が死んでも、彼女は困らない。僕よりもはるかに、雲の上よりも遠い英雄が居るのだから。
「ハンニバル様と沖田様のお帰りだ! 皆! 起立! 敬礼!」
英雄の名前を聞いて飛び起きる。そして制服にこびり付く草木や虫を払い落とす!
「ハンニバルに沖田総司! 最高の英雄じゃないか!」
僕は一心不乱にその声に誘われた。
「ご帰還ありがとうございます!」
憲兵たちが、門に立つ衛兵たちだけでなく城内に居る憲兵たちが、一斉に頭を下げて、馬に乗って手を振る男性と、その傍で手を振る男性に手を振る。
「ハンニバルに沖田総司だ!」
直感で分かったのは二人とも美男子だったからだ!
不敵に馬上で笑うハンニバルは、背が高く目頭も力強く、何より金髪で馬上から見下ろす姿が似合っていた。まさしく美青年!
端整な黒髪で歯切れよく皆の声援を受ける日本刀を背負う美少年。背は低いが皆に尊敬されるほどに皆の声援を受け、微笑む姿! それを見て感謝する人々! まさに美少年! 誠の衣装が良く似合う!
「やっぱし僕必要ないじゃん」
二人が連れる兵士たちの後ろに無言で付いて行く。
「まあ死んでもいいし、何も考えないで行動しよう」
僕は埃のような存在。学生服でも目立たぬ存在。
あれは何時だったかな? 僕がインフルエンザで一週間くらい休んでいたら机に花瓶にヒマワリが差してあった。何でヒマワリ? 菊の花じゃないのかと首を捻ったけど、学校の花壇でヒマワリが一本積まれていたからそれを差したのだろう。そもそも、僕を虐めるために金を出す必要があるのか? もちろん無い。だから、一週間ぶりに登校した時の皆の言葉には頷けた。
「あれお前死んでないの! 死んだって聞いたけど!」
皆が言った。
それ以上に嫌だったのは差したヒマワリがしわくちゃに枯れていたことだった。
「どうでもいいどうでもいい」
とりあえず城内に入る。皆英雄たちに夢中で誰も僕に気付かなかった。
「お前いったい誰だ!」
突然肩を掴まれる。僕に気付くとはとんでもなく仕事熱心な奴だと感心した。
「通行許可書を持っていないな! そしてその服装! 殺してやる!」
「待て!」
諦めていると、新選組一番隊隊長沖田総司が僕の傍に居た!
「そいつは俺のダチだ。そうだろ? 異世界人?」
僕は間髪入れず喋る!
「僕はあなたと同じ日本から来た! あなたは新選組一番隊隊長沖田総司! 何であなたがここに居る!」
沖田総司は端整な顔を美しい笑みで歪ませる。
「やっぱりそいつはダチだ! こっち来い!」
「沖田様!」
憲兵が止めると沖田総司は立ち止まる。
「こいつは黒き者どもかもが知れません! 城内に入れるなど! こいつは通行許可書が無い!」
「俺の紋章とっとけ」
沖田総司がバッチを放り投げると憲兵たちは固まる。
「この国の近衛の証だろ。こいつを入れるなら十分な通行許可書だろ?」
衛兵たちは何も言わず、無言で、僕を睨みながら、去った。
「こっち来いよ坊主。話をしよう」
僕と同じくらい坊主な身なりして!
そう思えるほど、沖田総司はカッコよかった。




