オープニング
投降初めてですが、完結させます!
見てくれた人が楽しめる様に頑張ります。
2016/07/22:修正
神様の見てくれ修正
「もういっか」
僕はそう言って飛び降りた。
風切音と内臓や脳みそが重力に支配されて持ち上がる恐怖で、痛みを感じる間もなく気絶できた。
心地よい浮遊感でホッとする。
「死んでよかった」
正直、死んだらどうなるか怖かった。
天国にはいけないから地獄に落ちると思った。
でもこんな感覚なら悪くない。
何も考えず、永遠にぼんやりと夢を見ているような気分。
これが死んでも得たいと思っていた安らぎだ。
「いやいやあんたは地獄に落ちるって」
ドシャリ! 床に顔面をぶつける。
「な、なに?」
辺りを見渡すと真っ暗闇だ。やっぱり僕は地獄に落ちた?
「違う。私の部屋が地獄と言ったら本当に地獄に落とすよ?」
顔を上げるとソファーに座るスーツを着た少女が居た。
「君誰? ここはどこ? 僕は死んだんじゃないの?」
辺りを見渡すとそこはプラネタリウムの設置された私室に見えた。
壁はピンクで、ぬいぐるみやパソコンがあり、本棚もテレビも机もあった。ただドアだけは無かった。
「僕は死んだのか? 答えはイエス。あなたは望み通り死んだ。内臓や脳みそを飛び散らして。
ここはどこ? 答えは死と生のはざま。見上げてごらん」
言われたとおりに見上げると、たくさんの人間たちが、川の流れに身を任せる様に眠りながら、どこかへ流されていた。
「あれは何?」
「あんたと同じように、死んでいったものの魂。良く見ると犬やゴキブリもいるわ」
「気持ち悪! ゴキブリ苦手なんだ」
「文句言うな。それが決まりなの。植物も人間も虫も魂を持っているから」
「ふーん。まあどうでもいいや」
「結構ドライね」
「宗教とか興味ないし。持ってるって言われたらハイそうですかと言うしかないって」
「じゃああいつらやあんたがどこに流れていくのか興味ない?」
彼女が指さす方向を見つめると、大きな光の球体に、魂は向かっていた。
「すべての世界共通で、死んだ者は魂となる。そして魂は転生をつかさどる神様に査定され、どこかに転生する」
光の球体を見つめると、そこから光の球が排出される。
「あの人魂みたいのが魂?」
「そういうこと。ちなみにあんたが流れてきた方向が宇宙」
彼の視線を追うと、大きな星々が存在する空間があった。
「あれが宇宙?」
「その通り。そしてそこにたどり着いた魂は、あの宇宙を管理する神様が適当に転生させる。ゴキブリだったり人間だったり。そしてあっちの方向はお前が言う天国。その反対が地獄」
見ると光の空間と闇の空間が広がっていた。
「あれが天国と地獄? 実際に見るとしょぼくてがっかりだ」
「あんた毒舌ね。私から見るとあの三つの世界の神様は土下座するほどすげえのに」
「どうでもいいよ。神様は僕を助けても殺してもくれないし」
「ハハハ! 自殺した奴にしては勇気がある!」
「勇気? 僕は勇気が無いから死んだんだよ?」
少し悲しくなったので睨むと彼女は優しく笑う。
「お前の死の動機を知っている。だから勇気があると言える」
僕の過去を知っていると言われると、嫌な気持ちで何も言えなかった。
「話がズレた。君は誰? その答えは神様。ただしあんたが居た世界や天国、地獄、転生を管理する最上位神じゃない。もっとちんけな世界を管理する下級神だ」
途端に意味が分からなくなった。
「えーと? 神様ってたくさんいるの? てか世界?」
「意味分からなくなったな? じゃあ説明してやる。つっても転生物語とか読んでるお前なら少しは分かるだろ」
「あー、つまり君は僕が居た世界とは違う世界の神様なの?」
「そうそう」
「でも下級神は意味が分からない」
「見た方が良いな。転生した魂が宇宙や天国、地獄以外にも行ってるだろ。すごい少ないけど」
よく見ると確かにチョロチョロと宇宙とか天国とか地獄以外の方向に流れている。宇宙や天国や地獄に比べると全然少ないけど、それでもそこそこの数だ。そしてそこを見ると宇宙や天国や地獄に比べると凄まじく小さい空間が無数にあった。
「あれが異世界?」
「その通り。もっとも、異世界で死んだ奴が宇宙に転生したら立派な異世界と思うだろうけど」
「夢の無い話だ」
「そんであれが私が管理する異世界」
顎で指す方向を見ると雄大な宇宙が見えた。
「綺麗だ……あれで下級なの?」
「まあどっちかっつうと最上位神4人が凄すぎるだけで、私の世界だってそこそこだとは思うわよ!」
「凄いよ! 綺麗だ!」
彼女は苦笑いする。
「あんたの居た宇宙の方がずっと綺麗で、大きいぜ」
チラリと見て苦笑い。
「そうかもね。でもあそこは僕を必要としていない」
彼女が同情するような顔をしたのですぐに話題を変える。
「何で君が下級なの? 大きさと綺麗さなら神様だ!」
「神様なのに神様だって言われるとはな! あんた中々にジョークが上手いよ!」
彼女は苦々しくため息を吐く。
「あんたが居た宇宙を管理する神様の手法をパクっちまったのがケチの付き始めだ」
「パクった?」
「神様ってのは、右往左往しながら世界を作る。生命体を作るのに真面にやれば1兆年はかかる。ところがあんたの神様、宇宙の神様はたった数十億年で作った。すげえぜ! だからそれをパクった。パクったらその半分で人間を作れた。でもそれは反則技みたいなもん。だから認められない」
「良く分からないよ! だって真似しただけでも僕の世界の半分の時間で人間を作ったんだろ!」
彼女は少し照れたように笑う。
「まぁ、しゃあないことよ。神様ってのは手続きにうるさいからな。だから皆止めちまうんだが」
「どういう意味?」
「忘れろ。それよりまあ、最後に君は誰って答えは簡単。私は神様。あの世界を管理する神様だ」
「そっか。君は神様なんだ」
「理解が早いな。大抵信じないのに」
「別に君が神様でも何でもいいしね。そんなことより次の質問。何で僕はここに居る? 僕はあの光の球体に吸い込まれて人魂になるんじゃないの?」
「なぜここに居る? 答えは私があれに吸い込まれる前にあんたを捕まえた」
虫取りでもするかのように彼はパッと虫取り網を出す。
「僕は虫?」
「違う。これは魂掬いだ」
「救いと掬いをかけてるの?」
「降参だ。理由を話すから口を収めてくれ」
彼女はため息を吐くと彼女の世界を指さす。
「私の世界に行って、私の世界を救ってほしい」
「どういうこと?」
「私の世界の隣を見てくれ」
見ると漆黒の空間が嫌らしく接触していた。
「あの世界は、私が地球を模して世界を作ったように、地獄を模して造られた。そしてあのくそみたいな暗闇の世界を支配する奴が、私に喧嘩を売ってきた。私の世界を食らってやると」
「世界を食らう? どういう意味? 何でそんなこと?」
「地獄の世界を見てみな。すぐに分かる」
地獄に目を凝らすと、地獄は近隣の光輝く世界を飲み込みながら大きくなっていた。
「天国も見てみろ」
天国に目を凝らすと、近隣の世界が光り輝く天国に飛び込んでいった。
「世界をデカくする方法は2つ。一つは宇宙の様に世界を見守る。もう一つは、天国や地獄の様に異世界を食らうことだ」
「世界を食らう?」
「自分の世界が大きくなればその分偉くなれる。あいつは地獄のやり方を模倣した。私が君の世界を模倣した様に」
「でもそれは、罰せられるんじゃないか?」
「神が神を罰することはない。階級はあるがそれだけだ」
「……何とも言えないな」
「言う必要は無い。神の問題は神が解決する。あんたはただ、あんたの問題を解決するだけだ」
彼女は僕を彼の隣に無理やり肩を押さえて座らせる。
「とにかく、私は私が作った世界を滅茶苦茶にされちゃ堪らねえ。だから、救ってくれ」
僕は考えると彼女に首を横に振る。
「君の問題は理解し切れない。ただ、僕に期待するなら止めてくれ。他を当たってくれ」
彼女は残念そうにため息を吐く。
「君が私の世界に来たら、一つだけ願い事を叶えてやる。例えば、百万長者で転生したいならそうする。しかも記憶はそのまま! あんたが好き勝手に暴れていいんだ!」
「そんなこと言っていいの? 無敵になるって願ったらバカみたいな王様ができるのに?」
「いいよ。あのバカ野郎に世界を乗っ取られるよりマシだ」
「良く分からないけど、救いたいなら君があの不気味な世界の神様を倒せばいいじゃない?」
「それはできない。色々あるのさ」
「まぁ、どうでもいいけど」
「ひでぇな!」
「そんなことより、どうやったら世界を飲み込める? どうやって君とあの世界の神と蹴りが付く?」
「魂が一つも無くなれば世界は壊れる。そうすれば私は神失格となって私の世界はあいつに管理される。まあ、神と神による人間たちの代理戦争みたいなもんよ」
「はた迷惑な話だね」
「全くだ! だから助けてくれ!」
「だからダメだって」
「何でだ!」
「僕は自殺した。そんな弱虫を転生させるより、他の強い奴を転生させた方が良いよ」
「まああんたの意見なんて聞かねえからどうでもいいや」
「じゃあ何で僕に説明したんだよ!」
「いきなりじゃ混乱してしまう。すると仕事に支障が出る」
「もう嫌だ! さっさと死なせて!」
「死んでいる。そして私の世界に転生する。さあ願いを言え。どんな願いも一つだけ叶える」
涙を拭くとからかってやる。
「じゃあ願い事を百個にしろって言ったら?」
彼女は平然と笑う。
「聞いてやる。ただし、それであの漆黒の世界に勝てると思うな。あいつは私より遥かに強い。たとえ無敵にしろと言われても、あいつに勝てる無敵は無理だ」
迫真の表示に戦慄が走る。
「じゃあ僕はどうやって君の世界を救えばいいんだ!」
「あの漆黒の軍団、黒き悪魔たちを止めろ。それだけでいい。そうすれば、時間を稼げば、最後は私が何とかする。時計仕掛けの神の様に!」
真剣な表情に僕は思わずソファーを立って後ずさる。
「それで勝てるの? いったい何時勝てるの?」
彼女は首を横に振って項垂れる。
「分からない。だが必ず、いつか必ず勝つ。それまで、私の世界が滅ぶのを止めてくれ」
彼女はとても真剣だった。だから説得する。
「君が神様で、この世界の魂のロジックも分かった。だからこそ言う。僕に期待しないでくれ。もっと他の奴を頼ってくれ。僕なんて、精々ミジンコが良いところなんだ。人間に生まれたのが奇跡みたい。次に転生するのは、精々ミジンコか雑草か。そんな僕に期待しないでくれ!」
「どうでもいいこと!」
彼女は立ち上がると僕に真っ直ぐに目を向ける。
「分かった。願いはなし。それでも良い。そもそも私が叶える願い全てが、あの漆黒に通用しないのだから」
突如真後ろに扉が出現し、彼女に突き飛ばされる。
彼女の世界へ落ちていく。
「自分を卑下しないで。あんたは私が目指す宇宙の神が作り出した魂。確かに自殺した。でもその理由は、決して責められることじゃない。あんたは悪くない。だから、自信を持って。そして生きて。たとえ私の世界を救えなくても、自信もって、今度こそ幸せになれ」
意識が遠のき、あの恍惚の浮遊感に飲み込まれる直前に、彼女は無念そうに言った。




